hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

綿矢りさ『ウォーク・イン・クローゼット』を読む

2016年05月30日 | 読書2

 

 

綿矢りさ著『ウォーク・イン・クローゼット』(2015年10月28日講談社発行)を読んだ。

 

 デビューから10年、まだ子供と思っていた綿矢さんも、はや31歳。いつの間にか結婚をしたらしい。

 新進陶芸家が女ストーカーの影に悩む「いなか、の、すとーかー」と、男性の好みに合わせて服を選ぶOLの「ウォーク・イン・クローゼット」の中篇2作。

 

「いなか、の、すとーかー」

 主人公の石居透は、東京の美大卒業後、師匠のもとで若くして賞を取った陶芸家。郷里・小椚(こくぬぎ)村に戻り、工房をかまえる。村には幼馴染みの、同い年の農家の息子すうすけと、石居をお兄ちゃんと呼ぶ果穂がいる。

 砂原美塑乃はいつも石居の個展にやってきて意味不明で一方的な愛を語るストーカーだ。テレビ出演した彼の居所を突き止めた砂原は勝手に工房に侵入し、ろくろを回していた。そして、事態はどんどん不穏な方向へ走っていく。しかし、実は・・・。

 

 

「ウォーク・イン・クローゼット」

 主人公・早希は、28歳、彼氏なしのOL。大失恋を経験し、男性受けの良い清楚なモテ系ファッションを着る。デート先や男性に合わせて、あれこれと半日費やしてクローゼットに並ぶ服を選ぶ。

純粋に“好き”を一番にして選んでいたころと違い、現在の私のワードローブは“対男用”の洋服しか並んでいない。・・・セットをさらに世界観ごとにグループ分けするころには、どこに着ていくか、誰に会うための服かがすでに決まってる。すると、服が男に見えてくる。

 

 一方、幼なじみの売り出し中のタレント“だりあ”のマンションには、早希には夢のような服がぎっしりつまったウォーク・イン・クローゼット部屋がある。

 そんなふたりのままならぬ恋愛と複雑な友情、事件。

 

初出:「群像」2013年11月号、2015年8月号

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 評判の若き陶芸家を撮影するTVカメラのもとで、要求される演技に対し、石居が芸術家らしく見えるようにあれこれ考える様が見事に描かれる。やはり綿矢さんは細かな描写が上手く、始まり方も相変わらず工夫されている。

 TVで取り上げられて、本人のつもりとは全く別の、良くも悪くも思いもよらぬ反響を受ける。10代で注目の作家デビューした綿矢さん自身の経験が感じられる。

 無理して意外な展開に持っていったために、最後の方はバタバタでわざとらしさが目立つ。やはり綿矢さんにはダイナミックな話ではなく、静かで小さな世界の微妙な描写を期待したい。

 

 2編目の作品は、平凡な女性と有名人の美人の幼馴染の良くある話で、恋愛話も結末が予想できる。洋服にかける女性の執念がたっぷり描かれているが、細部描写も私には興味がわかない。

 

 綿矢さんには、平凡だが穏やかな結婚生活を経ての夫婦の日常描写を期待したい。

 

 

綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える
2010年、『 勝手にふるえてろ

2011年『かわいそうだね?』 で大江健三郎賞受賞

2012年、『しょうがの味は熱い』、『ひらいて
2013年、『大地のゲーム』、『憤死

 

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断られてスイジガイへ、これで3度目の

2016年05月27日 | 食べ物

2014年9月と2015年10月井の頭通りの吉祥寺南町病院の向いにある「Public Kitchen」へ行っが入れずに、すぐ近くの「スイジガイ」へ行った。

今回も予約で満員と断られたが、出てきたオーナーの女性は赤ん坊を抱っこしていた。昨年10月に「産休で休み」と書いてあったので、無事生まれたらしい。まずは「メデタシめでたし!」

「スイジガイ」(貝の名前)もなかなかご機嫌な店だ。

セットメニューの前菜やデザートの果物の品数が多く、楽しみだ。

まずは前菜(飲み物は左上のグレープフルーツを注文)。

相方はペスカトーレ・ドリアのセット 1100円

私は、ギリシャの家庭料理ムスカ(パン付き)。

「野菜とミートソースをミルフィーユ状に重ね、上にホワイトソースをかけてオーブンへ」とメニューにある。

デザートの果物も一杯。

この店も12時過ぎるとほぼ満員になった。


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花のある生活(4)

2016年05月23日 | 老後

2014年6月30日のこのブログ「花のある生活」、2016年3月5日の「花のある生活 (2)」、「花のある生活(3)

に続き、今回は2015年後半の分。


2015年6月13日

6月15日になると、

拡大すると(18日)、

6月27日

拡大し、

夏はお休みして、9月11日

9月25日

11月14日

11月29日

12月11日




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ドナ・タート『ひそやかな復讐』を読む

2016年05月20日 | 読書2

 

 

ドナ・タート Donna Tartt著、岡真知子訳『ひそやかな復讐(上)(下) THE LITTLE FRIEND』(扶桑社ミステリー、2007年5月30日発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

みんなから愛されていた少年ロビンが変わり果てた姿で発見されたのは、ある母の日のことだ。家族が目を離したわずかな隙に、木の枝から首をくくられ、ぶら下げられていたのだ…それから12年。ロビンの死はいまもなお暗い影を落とし、家族は徐々に崩壊への道を歩んでいた。事件当時、まだ赤ん坊だった末妹ハリエットは、頭の切れる少女に成長し、自分たちの不幸の原因へ目を向けた。すなわち、ロビンの死の真実を探り、犯人に裁きを下すのだ。こうして、ハリエットの危険な夏がはじまった―。

 

 物語の舞台は、ミシシッピー州の架空の町アレクサンドリア。主人公は12歳のハリエット・グリーヴ・デュフレーヌ。早熟、大胆不敵、才気煥発で、母親、祖母、大人にたてつき、罰を受けても意に介さない。おっちょこちょいの子分ヒーリーを伴い、とんでもない冒険に挑戦する。
 12歳の少女の自転車を駆った子供時代の最後の夏の、南部の匂いたっぷりの冒険譚。


 ハリエットが赤ん坊だった9年前、9歳の兄のロビンが木の枝に吊り下げられ殺され、母は廃人のようになり、父親は家を出て別居し、姉は内向して閉じこもり、大おばたちは何かにつけてロビンを懐かしむ。

12歳になった彼女は犯人探しに立ちあがり、奮闘が開始される。

没落した名家デュフレーヌ家、根にあるどうしようもない黒人差別、逆に黒人軽蔑される貧乏白人(レッドネック)が集う玉突き場、狂信的な伝道者、いかにも、70年代のアメリカ深南部といった光景が描かれる。

ハリエットが批判的に見た母親、大おば達の心の動き、彼女が慕う祖母イーディスとの行き違い、母とも言える黒人家政婦アイダ・ルーの哀しみ。トレーラーハウスに住む麻薬がらみのレッドネックの悪人一家も個性的で、グロテスクで不完全な人物造形も面白く、読ませる。

 南部と言えばM・ミッチェルも約10年かけて『風と共に去りぬ』を出した。一方『アラバマ物語』のH・リーは燃え尽きて隠遁作家に。南部という素材はそれほど手強い!?米国版女手の新・南部小説。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

ミステリーとして読むと、冗長過ぎるし、結論もぱっとしない。しかし、頭脳明快、感受性豊かで、強気、活発で、滅茶苦茶突貫する女の子が魅力的で、子どもから見た大人たちの矛盾もはっきりと描かれている。ディープな南部の情景、色濃い雰囲気の中で、周辺の個性的な人たちも巧みに描かれている。

上下合わせて文庫本1200ページと、確かに長すぎる。記述が詳細過ぎる箇所が多く、本筋に関係ない脱線も多い。しかし、それでも、文章は明快で解りやすく、話も面白いので、どんどん読み進めてしまう。

 

 

ドナ・タート Donna Tartt
1963年、ミシシッピー州生まれ。ミシシッピー大学在学中に才能を見いだされ、92年に発表した『シークレット・ヒストリー』で全世界にセンセーションを巻き起こした。その後、10年の沈黙を経て、第2作である本書『ひそやかな復讐』を発表した。 

タートはこの執筆期間について訊ねられると、「駄作を十冊書くよりも、傑作を一冊書きたいから」と答えたという。

さらにその後、11年ぶりの大作『黄金の足枷(仮題)』(原題「The Gold Finch」)が、2014年ピューリッツァー賞(フィクション部門)を受賞した。(河出書房新社より発売予定)

岡真知子
神戸大学文学部英米文学科卒業。

主な訳書、フォークス『シャーロット・グレイ』、ロゴウ『降霊会殺人事件』、ホフマン『七番目の天国』他

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酒井順子『そんなに、変わった?』を読む

2016年05月18日 | 読書2

 

 

酒井順子著『そんなに、変わった?』(講談社文庫、さ66-14、2015年11月13日講談社発行)を読んだ。

 実は、この本、二度目なのに気づかずに読んで、ご丁寧に感想文まで書いて、どどめにアップしてしまった。著者紹介の本のリストをクリックして初めて同じ本を読んで、書いて、アップしてしまったと気がついた。

暇な人は、以下の前回の感想文と比較して欲しい。


裏表紙にはこうある。

“負け犬”ブームから早や十年。晩婚や晩産が当たり前の今、もはや贅沢となった看取られ死、企業化するEXILE、旧外観そのままの新歌舞伎座etc. キョンキョンの役柄が、独身中年から母親に変わるほどに、はたして自分は変わったのか? あおられる激変ムードに棹さして書き継いだ「週刊現代」人気連載第8弾。

 

「週刊現代」に連載した46編ほどのエッセイが並ぶ。

 

年をとってもキャラクター好き、という性質は極めて子供っぽいわけですが、しかしこれは、男性がいくつになってもベビースターラーメンとか魚肉ソーセージを愛好するのと、似ています。子供の頃に愛した対象は、そう簡単に手放すことはできない。大人になってもこっそり子供っぽいものを楽しむ背徳感がまた、いいのです。(「だって好きなんだもの」)

 

美しい文字を書く人を見ると、私は「この人は絶対に、賢くて良い人に違いない」と思います。・・・

しかし、そんな私の「美しい文字信仰」を崩したのは、あの木嶋佳苗被告でした。(「字ギレイ顔の女」)

 

嫁力が最高値まで鍛えられた時に、嫁という生き物は姑と化すのだと思います。嫁は、自分の息子が結婚した時に姑になるのではなく、嫁力を鍛えていくうちに、じわじわと姑化していくのではないか。(「嫁力と姑力」)

 

酒井順子さんの母親のママ友達の間では、〇〇園(浴風園)に申し込むのが流行っているという。

「何年か前に申し込んだ時は、何と十六年待ちですって言われたわ。『その時まで、お元気で!』ですって。老人ホームに入るのも、健康第一なのよ」(「高齢者は金次第、若者は顔次第))

 

「仕事大好き中年」みたいな人のFB上の発言の中で特に背筋がゾクッとする言葉は、「学び」と「気づき」だ。

「自分の能力に自分で限界を作らないこと、それが今日の学び」

とか、

「今日も大切な気づきをもらった」

みたいな言葉は、善き事がポイントのように貯めることができるという思い込みがあって落ち着かない。(「学び」と「気づき」)

 

 

初出:「週刊現代」2012年5月5日・12日合併号~2013年4月20日号に連載され、2013年6月単行本で刊行。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 一つ一つは短いエッセイだが、言いたいことがシャープで、大げさに言えば社会学の論文にもなると思える。相変わらず、日常の経験するなかで「そうそう!」とうなずき、微笑んでしまうことがあぶり出されていて楽しい読物になっている。

 

 歳のせいか、毒が薄れ、口の悪さがマイルドになってはいるが、エッセイの中の一分野の達人と思う。特に素晴らしいと思う作品はないが、70点をコンスタントに獲得しているのは立派。

 

 

酒井順子(さかい・じゅんこ)
1966年東京生まれ。立教女学院在学中から雑誌にコラムを執筆。
立教大学社会学部観光学科卒。博報堂入社。3年で退社。

2003年『 負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞・講談社エッセイ賞受賞。
女も、不況?』『儒教と負け犬』『もう、忘れたの? 』『 先達の御意見』『ズルい言葉』『泡沫日記 』『ほのエロ日記 』、『そんなに、変わった?』(前回分)、『中年だって生きている』他

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山岡ヒロアキ『九番目の雲』を読む

2016年05月16日 | 読書2

 

 

山岡ヒロアキ著『九番目の雲』(2015年10月29日講談社発行)を読んだ。

 

講談社の宣伝は以下。

中堅メーカーの営業マン、吾郎、37歳。
パワハラの嵐が吹き荒れるオフィスでは、ターゲットにされた同期の大江が失踪したとの噂が……。
また、近くに住む老いた母にはアルツハイマーを疑わせる兆候が現れ、それをきっかけに妻子との間には微妙なすきま風が吹き始める。
若き日に夢破れ、人を傷つけることも傷つけられることも避けて、ただただ日々を消費するように生きてきた吾郎が、この二つの出来事をきっかけに、自分らしく生きるとはなにか、自分にとって大切なことはなにか、自分にとって大切なのは誰なのかに向き合い、つまずきながら、答えを探していく。
ちなみに、クラウド・ナインとは英語で入道雲のこと。冒頭、一緒に風呂に入った息子が発したひと言から、主人公・吾郎の心に、この入道雲という言葉がひっかかり続ける。英語では、七階層ある天国のその二段階上ということから、「最高に幸せ」という意味もある。テンプテーションズ、ジョージ・ハリスンらが同名の曲、アルバムを発表している。

 

 

「ねぇ、パパはさ、入道雲がぐんぐん迫ってくるのを見たことある?」

8歳の息子、和也から、主人公の吾郎は尋ねられ、「そりゃ、あるさ」と答えた。さらに「えっ、ホント? あのさ、空が暗く――」と話しかけようとした和也を、吾郎は途中で遮ってしまい、息子と向き合おうとはしなかった。

冒頭部分のこの話が一つのテーマになって話は進む。

次に、主人公が勤める会社の部長の部員いじめが続き、母親の認知症による家庭のバタバタが同時進行する。

 

 

高梨吾郎:若いときのやんちゃがなくなりかけている。カヅミ精機の営業、8歳の和也の父親。

高梨理恵子:吾郎の妻。理想的な妻だがごく自然。

奈央子:吾郎の妹。

北川:カヅミ精機の営業本部長。何人かの部員の言葉尻を歪曲して怒鳴り散らす。

大江:カヅミ精機の営業で、繊細で優秀だが、北川にいびられる。

野風増(のふぞ):「おまえが20才になったら 酒場でふたりで飲みたいものだ」と河島英五が唄う歌。岡山県の方言で生意気とかやんちゃ坊主の意味。

 

初出:アプリマガジン「小説マガジンエイジ」で2014年7月から12月まで連載。

 

 

山岡ヒロアキ(やまおか・ひろあき)

1961年、東京都新宿区生まれ。東京都立大学附属高等学校(現桜修館中等教育学校)卒業後、イタリアン・レストラン等で調理師の修行を積み、巨匠といわれるバーテンダーの元で技術を磨いたのち、26歳で麻布十番にバーを開業。

2007年、自分の在り方に疑問を感じ、ここが潮時とそのバーの20周年を跨ぐ寸前で引退。周りを裏切り続けてきた自分に対する禊として、バーで垣間見てきた幾多の人生模様を物語として世に残せないかと作家を目指す。この『クラウド9~九番めの雲』がデビュー作となる。

 

 

私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

 

面白く読めるのだが、デビュー作で粗削りな点が目立つ。

 

家族の静かな愛情(男親が息子に感じる愛おしさ、母の認知症など)、会社内の厳しい争い、かってのやんちゃ仲間の友情などが入り混じり、底流にあるメインテーマがはっきりしない。

 

内容にも、説明不足でわかりにくい表現も散見される。殺人になろうとする暴力シーンも全体のトーンから大きく外れていて、枝葉が多すぎる。

 

吾郎が本来の男気を失おうとしていたとき、家族、会社で困難が生じて、立ち直るという大きな流れをもっとくっきりさせていたら、いい作品になっていただろう。

 

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上野正彦『死体は語る』を読む

2016年05月14日 | 読書2

 

上野正彦著『死体は語る』(文春文庫、う12-1、2001年10月10日文藝春秋発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

偽装殺人、他殺を装った自殺…。どんなに誤魔化そうとしても、もの言わぬ死体は、背後に潜む人間の憎しみや苦悩を雄弁に語りだす。浅沼稲次郎刺殺事件、日航機羽田沖墜落事故等の現場に立会い、変死体を扱って三十余年の元監察医が綴る、ミステリアスな事件の数数。ドラマ化もされた法医学入門の大ベストセラー。解説・夏樹静子

 

解剖5千体、検死2万体以上を行った元東京都監察医務院院長の上野さんが初めて書いた本。この本が65万部とベストセラーとなり、上野さんは同様な本を数冊出版し、TVにも多く出演した。 

 

著者はよく「死体を検死したり、解剖して気持ち悪くないですか」と聞かれるが、即座に「生きている人の方が恐ろしい」と答えるという。

生きている人の言葉には嘘がある。

しかし、もの言わぬ死体は決して嘘を言わない、

丹念に研死をし、解剖することによって、なぜ死に至ったかを、死体は自らが語ってくれる。

死体は嘘をつかない。その声をしっかり聴くのが監察医だという。

 

 

東京23区の年間死亡数は6万人ほど。(1999年)

内17%(約1万人)が医師にかからず急病死、自殺、他殺、事故死した不自然死で監察医の検死対象。内、行政解剖が必要だったのはそのうちの24.7%(2500人)。

 

老衰死、病死は「民間医師」が「死亡診断書」を発行。

医師が変死体と判断した場合は、警察の「検視官」あるいは「監察医」が検案し、特定できなければ「行政解剖」

他殺判定の場合は、裁判所の許可により「法医学者」が「司法解剖」

ただし、監察医制度が正常に機能している地域は、東京、大阪、神戸のみ。

著者は、もの言わず死んだ人に人権を守るためにも監察医制度を全国的制度にすべきと訴える。

 

初出:1989年9月時事通信社刊

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

検死・解剖の重要性を説くことがこの本の主な目的のようで、いろいろな事件が引用されているが、事件そのものについてはほんの概要にとどまっている。この後の本のように、事件を調査していく過程での驚きの展開といった面白みは少ない。

 

単行本が1989年発行であり、技術が古く、例えば血液型判定で親子鑑定が行われていて、DNAの話はまったく出てこない。

 

 

上野正彦(うえの・まさひこ)
1929年、茨城県生まれ。医学博士。元東京都監察医務院院長。
1954年、東邦医科大学卒業後、日本大学医学部法医学教室に入る。
1959年、東京都監察医務院監察医
1984年、同院長、30年間で2万件以上の研死、5千体以上の解剖、300件以上の再鑑定を行った。
1989年、退官後法医学評論家、本書『死体は語る』が65万部のベストセラー

その他、『監察医の涙』『神がいない死体 平成と昭和の切ない違い

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フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』を読む

2016年05月05日 | 読書2

 

 

フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳『犯罪』(創元推理文庫2015年4月3日東京創元社発行)を読んだ。

 

表紙の次ページにはこうある。

一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の末っ子。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。──魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。高名な刑事剣専門の弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描き上げた珠玉の連作短篇集。2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位に輝いた傑作。単行本より改訂増補された最新決定版!

 

著者のデビュー作がドイツで45万部を突破し、32か国で翻訳。文学賞3冠獲得し、欧米読書界を驚嘆させた

11の短編。

 

「フェーナー氏」

医師フェーナーは新婚旅行から帰宅したとき、「あたしを捨てないと誓って!」と叫ぶ妻イングリットに、「誓うよ」と告げた。しかし、彼女は無断で彼のレコードを捨て、徐々に小言が増え、数年後には罵声を飛ばすようになった。実直な彼はなるべき一緒にいないようにして、離婚することはなかった。しかし、72歳になったある日、妻の罵声を聞いた瞬間、

「心の奥底で、なにかが固く鋭く光りはじめました。その光のなかで、すべてが驚くほど鮮明に見えたんです。まぶしかった」



「タナタ氏の茶盌」
  乱暴者のサミールとトルコ系の大柄なオズジャンは、銃弾が頭に残っておかしくなっているマノリスと組んで、日本人実業家タナタの家に盗みに入る。現金と高級腕時計と家宝の茶碗を盗み出したが、情報を得た街の顔役トルコ系のポコルにその大半を奪われる。ポコルに命じられた詐欺師ヴァーグナーはタナタ氏に買い戻すように連絡をつけるが、2人とも惨殺される。そして、3人は・・・。

「チェロ」
  建設会社の二代目で資産家のタックラーは独裁的だった。娘のテレーザは細身の美人でチェロの才能があった。弟のレインハルトは事故で重い障害を負った。父を嫌っていた二人は父親から離れ、二人だけで孤立して住むようになる。手術を繰り返しても弟はどんどん重体になり、・・・。

「ハリネズミ」
  レバノン系の犯罪者一家アブ・ファタリスには9人の息子がいた。窃盗事件でワりドが捕まり、裁判に架けられた。馬鹿だと思わせていた末っ子のワリムは天才で、兄を助けるために嘘をついて、法廷を操る。 

「幸運」
  内戦で家族を殺され、レイプされたイリーナはドイツに密入国した。売春の行為中、相手が心臓麻痺で死んで、イリーナは強制送還を恐れ、同棲していたカレ処置を相談しようと外へ出るが、カレと行き違いになり・・・。
 
「サマータイム」
  パレスチナ難民のアッバスは麻薬密売人だったが、ギャンブル中毒で大きな借金を抱え、既に右手の小指を失っていた。同棲相手のシュテファニーは彼を救おうと売春する。著名な実業家ボーハイムは2か月ほど彼女を買ったが、そろそろ潮時と考えていた。ホテルでシュテファニーの死体が発見され、ボーハイムが逮捕される。彼のアリバイは・・・。
 
「正当防衛」
  駅で二人の乱暴者に絡まれ、命の危険にさらされた男は、瞬時に二人を殺してしまった。完全黙秘し、身分証明書はおろか着物のタグまで取り去っているこの男の身元がまったく解らない。この男に刑事は不審を抱くが、正当防衛であることは覆しにくい。

「緑」
  羊を殺し、眼球を繰り抜いた伯爵の息子。近所の少女が行方不明になり……

「棘」
  彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれてしまった博物館警備員。

「愛情」
  パトリックは愛する彼女ニコルの余りにも美しい背中を突然ナイフで切ってしまう。
 (文中にサガワ・イッセイの話が出てくる)

「エチオピアの男」
  ミハルカは酒におぼれ、銀行強盗をしてエチオピアへ逃れた。自殺するため草原を歩き始め、倒れ、地元民に助けられた。この村でコーヒー豆を直接販売に切り替えるなどして寒村を豊かにした。しかし、旧悪がばれて逮捕されたミハルカは・・・

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

普通のミステリーのようにいくつかのトリックがあり、驚きの展開が期待できるわけでもない。
犯罪そのもの、つまり犯罪者とその心、そのものを描いていると思える。

 

文書は簡潔で読みやすいのに、雰囲気を漂わせ、想像を膨らませる。

 

 

 

 

フェルディナント・フォン・シーラッハ(Ferdinand von Schirach)

1964年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ナチ党全国青少年指導者(ヒットラー・ユーゲント)の全国指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫。

1994年からベルリンで刑事事件弁護士として活躍。

2011年デビュー作『犯罪』(本書)がドイツ・クライスト賞、2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位受賞。

2010年『罪悪』

2011年初長篇『コリーニ事件』

2013年『禁忌』 

 

酒寄進一(さかより・しんいち)

1958年生まれ。ドイツ文学翻訳家。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新潟大学講師を経て和光大学教授。

主な訳書に、イーザウ《ネシャン・サーガ》シリーズ、コルドン『ベルリン 1919』『ベルリン 1933』『ベルリン 1945』、ブレヒト『三文オペラ』、フォンシーラッハ『罪悪』『コリーニ事件』『禁忌』ほか多数。

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フェルディナント・フォン・シーラッハ『禁忌』を読む

2016年05月02日 | 読書2

 

フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳『禁忌』(2015年1月9日東京創元社発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

ドイツ名家の御曹司ゼバスティアン・フォン・エッシュブルク。彼は万物に人が知覚する以上の色彩を認識し、文字のひとつひとつにも色を感じる共感覚の持ち主だった。ベルリンにアトリエを構え写真家として大成功をおさめるが、ある日、若い女性を誘拐したとして緊急逮捕されてしまう。被害者の居場所を吐かせようとする捜査官に強要され、彼は殺害を自供する。殺人容疑で起訴されたエッシュブルクを弁護するため、敏腕弁護士ビーグラーが法廷に立つ。はたして、彼は有罪か無罪か――。刑事事件専門の弁護士として活躍する著者が暴きだした、芸術と人間の本質、そして法律の陥穽(かんせい)。ドイツのみならずヨーロッパ読書界に衝撃をもたらした新たなる傑作。

 

 

「緑」

主人公セバスティアン・フォン・エッシュブルクは、ドイツの名家であるが、経済的に没落したエッシュブルク家に生まれた。彼は物心ついてときから、文字に色を感じる共感覚を持っていた。

12歳のとき、父が散弾銃で自死する。彼は写真家のもとで働きだし、徐々に評価を得て、写真集を出し、写真で高額のギャラを得る様になった。

PR会社社長で30代半ばの女性ソフィアから宣伝用写真の依頼を受ける。

・・・彼女なら、いつかわかってくれるだろう。霧のことも、空虚さも、感覚が麻痺していることも。だがそれでいて、彼はまたひとりになりたいという衝動に駆られ、物事が秩序だてられ、静まるのを待った。・・・
 いつか彼女を傷つけそうだ。それだけはわかった。

 

「赤」

 重大犯罪課の検察官モニカ・ランダウは、誘拐されていると思われる女性からの電話で動き出した。駆けつけた警察官が中庭のゴミコンテナから引き裂かれ、血だらけの服を見つけ、男のベッド前に血痕、拷問道具が見つかった。被疑者エッシュブルクは刑事に強要されて殺人を自供する。

 

「青」

拘置所でエッシュブルクは刑事事件専門の弁護士コンラート・ビーグラーに言った。「わたしが殺人犯ではないという前提で、あなたに弁護してもらいたいのです」

法廷闘争が始まる。

 

「白」

「ソフィアのこと、そして息子のことを思った。」

 

「注記」

この本に描かれた出来事は本当に起こったことに基づいている。

「本当かね?」ビーグラーは懐疑的だった。

(本当にこんな事件が起こったのだろうか?)

 

日本文化好きな著者は、「日本の読者のみなさんへ」の冒頭、良寛が死の床で介抱する尼僧に残した句、


   「うらを見せおもてを見せて散るもみじ」


を挙げて、良寛は「悪とはなんですか?」という問いに答えはないということを知っていたという。

 

 

 

フェルディナント・フォン・シーラッハ(Ferdinand von Schirach)

1964年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ナチ党全国青少年指導者(ヒットラー・ユーゲント)の全国指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫。

1994年からベルリンで刑事事件弁護士として活躍。

2011年デビュー作『犯罪』が本国でクライスト賞、日本で2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位を受賞。

2010年『罪悪』

2011年初長篇『コリーニ事件』

2013年『禁忌』 

 

酒寄進一(さかより・しんいち)

1958年生まれ。ドイツ文学翻訳家。上智大学、ケルン大学、ミュンスター大学に学び、新潟大学講師を経て和光大学教授。

主な訳書に、イーザウ《ネシャン・サーガ》シリーズ、コルドン『ベルリン 1919』『ベルリン 1933』『ベルリン 1945』、ブレヒト『三文オペラ』、ほか多数。

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

短い文章を淡々と重ねるので、話としては分かりやすいのだが、主人公ゼバスティアンの考え方に付いて行けない。彼はなぜこんなことをしたのか、2度読んだが、結局判然としなかった。ドイツでも評価は二分され、分からないという書評家もいたらしい。
 また、字をみると色が見えるという共感覚の持ち主という設定がなされているが、その後、ほとんど関連する部分が出てこないと思うのだが。

 

訳者の酒寄さんは、“理解するのでなく、感じろ“というようなことを語っている。「Blog: マライ・de・ミステリ

 

ドイツ文学は一般的に観念の隙間を文章で埋めようとする傾向が強い、シーラッハはその逆で、「間」を大事にし、「描かない」ことで大事なモノを逆に浮き彫りにしていく手際がスゴい。

 

 

表紙の女性の顔写真

翻訳出版にあたり、著者から原著の写真を使うという条件が付けられた。

写真は右横からスポットライトが当てられた明暗がはっきりした女性のポートレートだが、左右の目つき、眉毛が微妙に異なる。どうも合成写真のようで、この作品はこのカバー写真から始まっているという。(訳者あとがきより)

 

 

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