hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

川上未映子訊く、村上春樹語る『みみずくは黄昏に飛びたつ』を読む

2017年06月29日 | 読書2

 

 川上未映子訊く、村上春樹語る『みみずくは黄昏に飛びたつ』(2017年4月25日新潮社発行)を読んだ。

 

 村上春樹を完読している川上未映子が鋭く、無遠慮とも思えるほど執拗に質問し、村上春樹もオープンに、丁寧に答えている。結果として、川上未映子の村上春樹論となり、村上主義のかなり深いところまで掘り下げられている。

 村上の小説の書き方は、これまでもいくつか本人自身により明らかにされているが、今回は同業の作家である川上の執拗な質問により、はるかに具体的に小説作法が提示されている。

 

第1章は、『職業としての小説家』刊行記念で2015年に文芸誌“MONKEY”に掲載されたもの。

第2章~4章は、2016年秋『騎士団長殺し』を中心にして、2日に渡るインタビューをまとめたもの。

 

村上の小説の書き方

 小説を書かない期間を取る。自発的にじわっと熱が出てくるのを待つ。締切りのある仕事はだめ。何も湧き上がるものがないのに捻り出すようになってしまう。したがって、書下ろししかない。

 

 さまざまことを記憶のキャビネット(抽斗)に詰め込んでおく。小説を書いていると、必要な時に必要な抽斗がぽっと勝手に開いてくれる。経験を積むと、どこに何が入っているかわかり素早く引き出せる。

 

 比喩も自然に出てくる。必要に応じて向こうからやってくる。比喩に関してはチャンドラーに学んだ。比喩は意味性を浮き彫りにするための落差だから、あるべき落差の幅を自分で設定すれば、読者ははっとして目をさます。

 

 書く前に人物スケッチは作らない。どんな人かなと想像しながら書いているうちに、自然に肉付けができる。

 

 第一稿を書くときは、多少荒っぽくても、とにかくどんどん前に進んでいく。例えばここは工程上二枚半と頭の中に入っていれば、何でもいいから二枚半書いてしまう。細かい描写や難しい記述は適当に書き飛ばす。矛盾はあとで調整する。全面書き直しは10稿以上。文体こそが小説の命と考えている。

 

 何はともあれ、ともかく一日10枚は書く。朝一番、十五分か二十分、前日の十枚分を読み直して、荒っぽいところを少し均す。

 

 小説を書くことを一軒の家に喩える。一階はみんながいる団らんの場所で、楽しくて社会的で共通の言葉でしゃべっている。二階はプライベートなスペース。地下一階は暗いのだが、わりに誰でも降りて行ける。近代的自我、日本の私小説が扱っている。地下二階が、村上が小説の中で行こうとしているところ。

 

 できるだけわかりやすい言葉で、できるだけわかりにくいことを話そうする。スルメみたいに何度も何度も噛みしめるような物語を。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 内容的には五つ星だが、私が『騎士団長殺し』を読んでいないため、話についていけない箇所が多かったので四つ星にした。私は、『騎士団長殺し』の詳細に係わる部分は読み飛ばした。

 

 それにしても、川上未映子が村上作品を完全に読み切って、細部まで覚えているのに驚く。それに比べて村上は自分の作品を覚えていないことが多い。いくら出版済の自分の作品は読まないといっても。記憶力の差?

 川上さんは、詳細なノートを付けて、まったく役に立たなかったとぼやいているが、準備して、さらに恐れることなく鋭い質問を真正面から連発した。見事だ。

 

 

目次

はじめに 川上未映子

第一章 優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない
第二章 地下二階で起きていること
第三章 眠れない夜は、太った郵便配達人と同じくらい珍しい
第四章 たとえ紙がなくなっても、人は語り継ぐ

インタビューを終えて 村上春樹

 

 

以下、メモ

p245

川上:では、村上さんの小説における「女性」についてお聞きしたいんですけれど、村上さんの小説の話をするときに、けっこう話題になるのが、女の人の書かれ方、女の人が帯びている役割についてなんですね。
 例えば女友だちには、「あなたは村上春樹作品をすごく好きだけど、そこんとこ、どういうふうに折り合いをつけているの?」と聞かれることがよくあります。村上さんの小説に出てくる女性について、足がちょっと止まってしまうところがあると。それは男女関係なく、抵抗感を感じる人がいるんです。

・・・

川上:・・・いつも女性は、そういう形で「女性であることの性的な役割を担わされ過ぎている」と感じる読者もけっこういるんです。

・・・

村上:でも、こう言ってしまったらなんだけど、僕は登場人物のことも、そんなに深くは書き込んでいないようなきがするんです。男性であれ女性であれ、その人物がどのように世界と関わっているかということ、つまりそのインターフェイス(接面)みたいなものが主に問題になってくるのであった、その存在自体の意味とか、重みとか、方向性とか、そういうことはみしろ描き過ぎないように意識しています、前にも言ったけど、自我的なものとはできるだけ関わらないようにしている。男性であれ女性であれ。

 

川上未映子の略歴と既読本リスト 

 

 

 

村上春樹の略歴と既読本リスト

 

 

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東野圭吾『祈りの幕が下りる時』を読む

2017年06月26日 | 読書2

 

 

 東野圭吾著『祈りの幕が下りる時』(2013年9月13日講談社発行)を読んだ。

 

 宣伝文句は以下。

極限まで追いつめられた時、人は何を思うのか。夢見た舞台を実現させた女性演出家。彼女を訪ねた幼なじみが、数日後、遺体となって発見された。数々の人生が絡み合う謎に、捜査は混迷を極めるが――
第48回吉川英治文学賞受賞作品! 1000万人が感動した加賀シリーズ10作目にして、加賀恭一郎の最後の謎が解き明かされる。

 

 ハウスクリーニングの会社で働く押谷直子の絞殺死体が東京都葛飾区小菅のアパートで発見される。住人・越川睦夫も行方不明だ。

 警視庁捜査一課の松宮たちの捜査は難航する。やがて、押谷は、地元滋賀の老人ホームで浅居博美の母親らしき人を見つけ、それを知らせようと学生時代の同級生で演出家の博美に会うために東京に来たとわかる。しかし、越川睦夫との接点は分からなかった。

 松宮刑事は、従兄の加賀刑事に会い、ヒントをもらって、近くのホームレスの焼死体が越川睦夫であることが分かる。越川のアパートにあったカレンダーに、加賀の属する日本橋署の管轄内にある12箇所の橋の名前が書かれていたのだが、行方を探していた加賀の母親の遺品にも全く同じ12箇所の橋の名前が書かれていた。

 

本書は書下ろし

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 加賀シリーズは『赤い指』一冊しかよんでいないが、それでも容易に物語に入り込める。人の相関が複雑で、おまけに偽名を使う人物がいるので混乱しそうになる。

 他人に成り切るなど多少無理がある筋書なのだが、最後の謎解きを読めば納得できる。

 

 円熟のミステリー作家、東野圭吾の代表作の一つか?

 

 

東野圭吾の履歴&既読本リスト

 

 

登場人物

 

宮本康代  仙台のスナック「セブン」と小料理屋を経営。田島百合子の遺体の第一発見者。東日本大震災後に2つの店を閉じる。

田島百合子  加賀の失踪した母親。スナック「セブン」で働いていた。体調を崩してスナックを長く休み、やがてアパートで変死。スナックの客の綿部俊一と恋人となる。

綿部俊一  「セブン」の客で田島百合子の恋人。「ワタベ」さんと呼ばれる。宮本康代から田島百合子の訃報を聞き、加賀の住所を教えて連絡を絶つ。

 

加賀恭一郎 日本橋署刑事課の刑事。

松宮脩平  捜査一課刑事。加賀の従弟。

富井  捜査一課の管理官

小林  捜査一課

石垣  捜査一課の係長

坂上  捜査一課で松宮の先輩。

大槻  捜査一課

茂木和重  加賀の警察学校の同期。警察庁広報課勤務。

 

加賀隆正 恭一郎の父親。警察官

加賀克子 独身の恭一郎と同居している母親

 

浅居博美  舞台演出家、脚本家、女優。芸名は「角倉博美」。両親の離婚後、父が自殺したため養護施設で育ち、高校卒業後劇団「バラライカ」に入団し、「バラライカ」代表の諏訪建夫と3年間結婚したが離婚。芝居のため子役達に剣道の指導を頼み、少年剣道教室で講師の加賀と知り合う。

押谷道子  浅居博美の中学の同級生。清掃会社「メロディエア」で働いていたが、上京時に越川睦夫のアパートで殺された。

浅居忠雄  浅居博美の父親。洋品店を経営していたが、妻の厚子が借金をつくって失踪し、ヤクザに追われた末に自殺。

浅居厚子  浅居博美の母親。現在老人ホームに居座る。

苗村誠三  浅居博美や押谷道子の中学時代の担任教師。やがて教師を辞め離婚し、所在不明。

今村加代子  苗村誠三の元義妹

 

金森登紀子 加賀の父・隆正を看取った担当看護師。出版社のカメラマン佑輔は弟。

岡本恵美子  旧姓梶原。元、劇団「バラライカ」の女優で、芸名「月村ルミ」

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黒田涼『江戸・東京の事件現場を歩く』を読む

2017年06月24日 | 読書2

 

 黒田涼著『江戸・東京の事件現場を歩く 世界最大都市、350年間の重大な「出来事」と「歴史散歩」案内』(2017年5月1日マイナビ出版発行)を読んだ。

 

 徳川家康の江戸入府(天正18 (1590) 年)江戸入城から敗戦(昭和20(1945)年)まで、江戸・東京で起きた354の事件を概説し、そのよすがとなる物のある現場250箇所ほどを、各数点の写真と共に紹介している。 
 第二部では、第一部で紹介した事件現場を巡る散策コースを地図つきで11設定、提案している。 

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 本書を読むと、あらためて東京にも時代を象徴する多くの事件現場があることが分かる。そして、目立たないところにけっこう記念碑があることに驚かされる。あなたがいつも通っているすぐ近くも何かの事件跡があるかもしれません。

 

 掲載されている写真の場所がどこになるのか、わかりにくい場所は地図などで明示してほしかった。

 事件の概要の説明、場所の説明など駆け足で通り過ぎていく。数を減らしても、1事件あたりの説明をもっと深くした方が本として読むに堪える。辞書的に使うことはイメージできないので。

 

 ことがらの性質上、どうしても都心や下町に限られ、私に身近な山の手はほとんど登場しない。

 

 

黒田涼(くろだ・りょう)

1961年生れ。神奈川県出身。作家・江戸歩き案内人。

1985年早稲田大学政経学部卒

新聞社で記者など編集に16年携わる

2011年作家として独立。江戸・東京の有形無形の歴史痕跡紹介。

著書、『江戸城を歩く』『江戸の大名屋敷を歩く』など。

 

 

 

 

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5月の散歩

2017年06月22日 | 散歩

 


久我山の神田川沿いの公園で見かけた、
大きな石をスパッと4つに切った吸い殻入れ。


民家で見かけた花1

私のブログへのコメントで、ぽんたさんから「柏葉アジサイ」だと教えていただきました。もう5年前になります。


民家で見かけた花2(名前不明)。「ぽんた」さんからのコメントで「ジキタリス」を教えていただきました。


コメント (1)
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ゴミ捨てで 5年の懲役or罰金1000万円?

2017年06月20日 | 散歩

 

ゴミ捨て場のあった警告

 


5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金! 怖ゎ!


「ここに ごみ を捨てないでください。

 協力して町をきれいにしましょう!」

位で良いのでは?

 

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高田郁『あきない世傳 金と銀 三 奔流篇』を読む

2017年06月18日 | 読書2

 

 高田郁(かおる)著『あきない世傳(せいでん) 金と銀 三 奔流篇』(時代小説文庫2017年2月18日角川春樹事務所発行)を読んだ。

 

 裏表紙にはこうある。

大坂天満の呉服商「五鈴屋(いすずや)」の女衆だった幸(さち)は、その聡明さを買われ、店主・四代目徳兵衛の後添いに迎えられるものの、夫を不慮の事故で失い、十七歳で寡婦となる。四代目の弟の惣次は「幸を娶ることを条件に、五代目を継ぐ」と宣言。果たして幸は如何なる決断を下し、どのように商いとかかわっていくのか。また、商い戦国時代とも評される困難な時代にあって、五鈴屋はどのような手立てで商いを広げていくのか。奔流に呑み込まれたかのような幸、そして五鈴屋の運命は?大好評シリーズ、待望の第三弾!

 

 「源流篇」「早瀬篇」に続く第三弾。 

 

 惣次が、幸が嫁になるなら「五鈴屋」の五代目になると宣言。 幸は、商い戦国時代の戦国武将になるために、惣次の嫁になると決心する。


 さっそく、惣次は強引に、師走に年1回だった売掛金の回収を5回にし、手代に販売ノルマを課した。さらに幸の提案を受けて、貸本の草紙本の空きスペースに広告を打ち、布の新しい仕入先開拓に乗り出す。

 惣次は、5年後にはなんといっても規模が違う江戸にも店を出したいと、野望に燃え、そのために幸にも知恵を出して欲しいという。幸も勉強しながら知恵を出して惣次に協力していく。

 しかし、やがて、惣次はあまりにも賢い幸に圧倒されて、幸には子供をつくることを考えて、商売は任せて欲しいという。亭主を立てながらも商いに燃える幸との間にすれ違い、亀裂が生じて、次作を待ち遠しくさせて、終わる。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)

 

 「みをつくし料理帖」の高田郁がじっくり設定した舞台で、十分練り上げた人物を、手のうちで思いのままに動かして話を進めていく。

 

 幸が少女から美しい女性へ成長し、そして書を読むことしか知らなかった少女が、商の戦国武将になると決意し、男性社会の商売の場で知恵を武器に大きくなっていく成長物語だ。読者も、男性で年寄りの私でさえ、一緒になって、ハラハラと慈しみ、一緒に成長していっている気になってしまう。

 

 

五鈴屋(いすずや):伊勢出身の初代徳兵衛が「古手」(古着)を天秤棒で担いで商いを始め、大阪天満の裏店に暖簾を掲げて創業。伊勢の五十鈴川から恐れ多いと「十」をとって「五鈴屋」と名付けた。

二代目が富久と共に古手商から呉服商に。三代目は男児3人を遺し急逝。富久が番頭治兵衛の後見を得て、五鈴屋を切り盛りし、20歳の長男を四代目徳兵衛としたが、放蕩者で、あげく事故死。

 

幸(さち):摂津国武庫郡津門村の学者・重辰と母・房の娘に生まれ、妹は結で、秀才だった兄・雅由は亡くなった。父の死後、大阪の呉服屋「五鈴屋」に女衆として奉公。20歳で寡婦となったが、美人になった。

 

富久(ふく):「五鈴屋」の二代目徳兵衛の嫁。息子の三代目徳兵衛の没後は、三人の孫と店を守る。「お家(え)さん」と呼ばれる。

四代目徳兵衛:富久の初孫で、放蕩者。店主だったが、不慮の事故で死去。

惣次(そうじ):四代目徳兵衛の次弟。商才に富むが、店の者に厳しい。不細工な顔。

智蔵:四代目徳兵衛の末弟。2年前に家を出て一人暮らしし、売れない浮世草子を書いている。

 

治兵衛:「五鈴屋」の元番頭で、「五鈴屋の要石」と称された知恵者で、幸の商才を見抜いた。。脳梗塞で半身不随。妻はお染。息子は賢吉として五鈴屋の丁稚。

 

「五鈴屋」の女衆: お竹(年長)、お梅

「五鈴屋」の番頭:鉄助

「五鈴屋」の奉公人:手代(佐七・末七・広七)、丁稚(安吉・辰吉・賢吉)。

 

菊栄(きくえ):船場の紅屋の末娘。徳兵衛へ嫁いでご寮さんとなるが、寡婦となり実家へ戻る。

 

 

 

高田郁(たかだ・かおる)

1959年、兵庫県宝塚市生れ。中央大学法学部卒。
1993年、川富士立夏の名前で漫画原作者としてデビュー。高田郁は本名。
2006年、短編「志乃の桜」
2007年、短編「出世花」(『出世花 新版』、『出世花 蓮花の契り』)

2009年~2010年、『みをつくし料理帖』シリーズ『第1弾「八朔の雪」、第2弾「花散らしの雨」、第3弾「想い雲」

2010年『 第4弾「今朝の春」

2011年『 第5弾「小夜しぐれ」

『 第6弾「心星ひとつ」』

2012年『 第7弾「夏天の虹」』

みをつくし献立帖

2013年『 第8弾「残月」』

2014年『第9弾「美雪晴れ』『第10弾「天の梯」

2016年『あきない世傳 金と銀 源流篇』、『あきない世傳 金と銀 二 早瀬篇』、本書『あきない世傳 金と銀 三 奔流篇』

 

その他、『 ふるさと銀河線 軌道春秋』『銀二貫』『あい 永遠に在り

エッセイ、『晴れときどき涙雨

 


 

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加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』を読む

2017年06月15日 | 読書2

 

加藤陽子著『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫か-77-1、2016年7月1日発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

膨大な犠牲と反省を重ねながら、明治以来、四つの対外戦争を戦った日本。指導者、軍人、官僚、そして一般市民はそれぞれに国家の未来を思い、なお参戦やむなしの判断を下した。その論理を支えたものは何だったのか。鋭い質疑応答と縦横無尽に繰り出す史料が行き交う中高生への5日間の集中講義を通して、過去の戦争を現実の緊張感のなかで生き、考える日本近現代史。小林秀雄賞受賞。

 

 初出:2009年朝日出版社より刊行。

2007年の年末から翌年のお正月にかけて五日間にわたって、私立・栄光学園で行った講義をもとに構成した。

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)

 

 正直、読みやすい本ではなく、文庫本とはいえ約500ページと大部だ。

 

 なんであんな馬鹿な戦争を始めたんだ。まけるに決まってるじゃん。国民がだまされたのは分かるが、国の指導者は何考えてたんだ。300万人も死なせて、当然死刑だ、と私は思っていた。

 

 日清、日露、日中戦争への流れを概観すると、あきらかに無謀な太平洋戦争と進んでいく雰囲気は理解できた。

 アメリカの底力は圧倒的だったが、当時のアメリカ軍備は桁外れではなく、日独伊の合計では英米に勝っていた項目もあった。しかし、それでも国の指導者たる者たちは、冷静に世界を見渡す頭脳を持ち、初戦に勝った後のことをしっかり考えるべきだった。

 

 各国の外交交渉の、権謀術数、丁々発止なやりとりが面白い。

 

 

加藤陽子(かとう・ようこ)

1960(昭和35)年埼玉県生れ。桜陰高校から東京大学文学部へ。東京大学大学院博士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科教授。

専攻は日本近現代史、なかでも1930年代の外交と軍事。

「安倍政権を特に危険だ」とみなしている。

著書に『模索する一九三〇年代』『満州事変から日中戦争へ』『昭和史裁判』(半藤一利氏と共著)等がある。2010年本書『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』で小林秀雄賞受賞。

 

 

メモ

はじめに

 1937年の日中戦争の頃まで、当時の国民は、あっくまで政党政治を通じた国内の社会民主主義的な改革を求めていた。しかし、既成政党、貴族院などの壁に阻まれて実現できなかったため、疑似的な改革推進者としても軍部への国民の人気が高まっていった。

(強い指導者を求める現在の日本の状況が似ているので恐ろしい)

 

1章 日清戦争 (「侵略・被侵略」では見えてこないもの)

 日清戦争は1894(明治27)年に始まって翌年に終わる、9カ月の短い戦争。朝鮮に出兵した清に対して日本も出兵したとき、清の後ろ盾のあるロシアに対抗するためイギリスは日英通商航海条約を締結して日本を応援する。

 勝利の結果、国家予算の3倍もの賠償金を得たが、ロシア、ドイツ、フランスによる三国干渉を受け遼東半島を失った。

 

2章 日露戦争 (朝鮮か満州か、それが問題)

 日本の戦死者84千人、戦傷者143千人、ロシアの戦死者50千人、戦傷者220千人。

 この結果、満州事変の前後に、日本は、「20億の資財と20万の生霊によって獲得された満州を守れ」と言って、日中戦争を煽る。

 日露交渉において、日本は韓国における日本の優越権を持つ一方、満州での鉄道沿線はロシアの勢力圏と認めると主張する。ロシアはそれならさらにロシアに朝鮮海峡の自由航行権を認めろと主張し、まとまらなかった。日本はアメリカに満州の各国への門戸開放を提案して味方につける。

 結果として、満州は諸外国に開放され、江戸末期以来の日本の不平等条約は解消された。一方で賠償金は取れず、厳しい増税となった。その結果として、選挙権者が戦前の1.6倍、150万人になり政治家の質も変わった。

 

3章 第一次世界大戦 (日本が抱いた主観的な挫折)

 第一次大戦後のパリの講和会議の最中、1919年3月1日朝鮮独立を求める「三・一運動」が勃発する。日本の過酷な朝鮮統治が世界に知られる。

 

4章 満州事変と日中戦争 (日本切腹、中国介錯論)

 満州事変:関東軍参謀・石原莞爾が計画し、1931(昭和6)年満州鉄道を爆破し、中国側の仕業だとして、張学良の軍事拠点を占領した。さらに、問題児陸軍は、天皇の裁可を得て、満州国熱河地方に軍を進めた。これを国際連盟が重大問題と捉えると気づいた斎藤実首相は天皇に裁可撤回を願い出たが、陸軍などの反乱を恐れた侍従武官や西園寺など元老に阻まれる。天皇も自分の命令で止められないのかと侍従武官に強く求めたがならなかった。

 

 陸軍統制派は、第一次大戦のドイツは武力戦では最後まで勝っていたが、経済封鎖で窮乏した国民の戦意喪失で内部自壊したと分析していた。そして、貧しさに苦しむ日本国民に耳障りの良い政治改革を宣伝し、国民の期待を集めた。

 

5章 太平洋戦争 戦死者の死に場所を教えられなかった国

 聴講する生徒の二つの疑問

●日本とアメリカには圧倒的な戦力差があったのに、なぜ日本は戦争に踏み切ったのか? どれだけの人がこのことを知っていたのか?

●日本が初戦に勝利したとしても、戦争をどんなふうに終わらせようと考えていたのか?

 

 一般の人はもちろん、知識人も全体の流れに流された。正しい知識を持ち、反対したのは極一部の知識人。天皇も「英米相手の武力戦は可能なのか?」と繰り返し確認しているのだが。

 アメリカは飛行機を年間2141機しか作れなかった(日本は4467機)。しかし、総動員体制に入った1941年ではアメリカは19,433機で、日本は5088機製造と大差になった。

 アメリカの底力を見通せなかった。(アメリカは多民族国家だから危機になれば分裂するなどと考えていた指導者もいたと何かの本で読んだ)

 陸軍は特別会計で日中戦争に3割しか使わず、太平洋戦争に備えて7割(現在換算20兆円)をため込んでいて、これを使えば、少なくとも初戦は勝利できると考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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東野圭吾『マスカレード・イブ』を読む

2017年06月10日 | 読書2

 

 

 東野圭吾著『マスカレード・イブ』(集英社文庫ひ-15-11、2014年8月25日発行)を読んだ。

 

 裏表紙にはこうある。

ホテル・コルテシア大阪で働く山岸尚美は、ある客たちの仮面に気づく。一方、東京で発生した殺人事件の捜査に当たる新田浩介は、一人の男に目をつけた。事件の夜、男は大阪にいたと主張するが、なぜかホテル名を言わない。殺人の疑いをかけられてでも守りたい秘密とは何なのか。お客さまの仮面を守り抜くのが彼女の仕事なら、犯人の仮面を暴くのが彼の職務。二人が出会う前の、それぞれの物語。

 

「マスカレード」シリーズ。『マスカレード・ホテル』に続く第2弾、ただし、第1弾の前日憚。

「マスカレード」とは仮面舞踏会。

 

「それぞれの仮面」

 コルテシア東京に就職4年目の新米フロントクラーク・山岸尚美の前に、元プロ野球選手でタレントの大山将弘のマネージャーとして、元カレ・宮原隆司がやって来る。尚美が夜10時の帰宅前、宮原から助けを求める電話があった。大山が密会していた愛人が失踪してしまい、内密で調べて欲しいという依頼だった。

 

「ルーキー登場」

 警視庁捜査一課の新人刑事・新田浩介は、夜中のジョギング中に殺害された実業家・田所昇一の殺害事件捜査に参加する。現場付近には犯人が待ち伏せていたと思われる煙草の吸殻5本が残されていた。料理教室を開いている昇一の妻・美千代には強い好意を持っている横森仁志がいた。

 

「仮面と覆面」

 コルテシア東京にオタクファン5人組がチェックインする。ホテルで執筆する謎の美人女流作家・タチバナサクラを見つけることだった。尚美は担当編集者・望月和郎に連絡しトラブルを防止しようとするのだが、・・・。

 

「マスカレード・イブ」

 泰鵬大学理工学部教授・岡島孝雄が刺殺される。捜査一課の新田浩介は、八王子南署生活安全課から応援の穂積理沙と共に捜査に当り、准教授の南原定之に着目する。南原は大阪のホテルで密会していた不倫相手の名前を頑なに明かさない。ホテルはホテル・コルテシア大阪と明らかになるが、そこはオープンしたばかりの系列店で、山岸尚美が応援・勤務していた。

「一度、顔を見ておきたかったな。その聡明な女性フロントクラークとやらの」
「美人ですよ。いつか会えるといいですね」
新田は口元を曲げ、遠くに目を向けた。東京の空が赤く染まり始めていた。事件が解決したばかりだというのに、何かが始まる前触れのような気がした。

 このように『マスカレード・ホテル』」へと続いていくのだ。

 

 

初出:「それぞれの仮面」小説すばる2019年2月号、「ルーキー登場」小説すばる2013年7月号、「仮面と覆面」小説すばる2014年2月号、「マスカレード・イブ」書下ろし

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

 ホテルの特徴を巧みにとらえて謎を作り出しているが、人間模様のドロドロ具合が少なく多少物足りない。

 ストーリー上やむを得ないとはいえ、尚美が客の事情に立ち入りすぎていて、現実感を損なっている。

 

 

 

東野圭吾の履歴&既読本リスト

 

 

 

登場人物


山岸尚美(なおみ):ホテル・コルテシア東京のフロントクラーク。就職4年目。 

久我 :山岸の先輩のフロントクラーク。 
田倉 :ホテル・コルテシア東京の宿泊部長。尚美の直接の上司。

新田浩介:警視庁捜査一課。警部補。父親は日系企業の顧問弁護士。帰国子女。

本宮 :警視庁捜査一課。新田の先輩。ヤクザ顔負けの強面。 
穂積理沙:八王子南署生活安全課勤務だが、応援で新田と組む。

それぞれの仮面

西村美枝子:1105室の宿泊客。20代後半、整った顔立ち、スタイル良し。本名は横田園子で、ホステス。

大山将広(まさひろ):元プロ野球スター選手、タレント・野球解説者。
宮原隆司:大山のマネージャー。尚美の元カレ。
嶋田:急遽申し込みしたので一泊18万円のプレジデンシャル・スイートにされる。

ルーキー登場

田所昇一:ランニング中に刺殺。数多くの飲食店を経営する実業家。

田所美千代:昇一の妻。料理教室を開いている。美人、37歳。
岩倉:田所昇一の部下
横森仁志(ひとし):美千代の料理教室の生徒

 

仮面と覆面
目黒和則:宿泊客。作家・タチバナサクラのファン一行の代表

犬飼:宿泊客。ファン一行。中年のデブ。

玉村薫:ホテルで缶詰めになる作家
望月和郎:玉村薫の宿泊を予約。一ツ橋出版勤務。
今村祐二:灸英社の編集者

マスカレード・イブ

岡島孝雄:秦鵬(たいほう)大学理工学部教授。殺される。
山本:岡島の助手
鈴木:岡島の助手
南原定之:秦鵬大学理工学部準教授。岡島の共同研究者。
畑山玲子:宿泊客。美容サロン経営。

矢部義之:玲子の夫。美容サロン経営。

畑山輝信:玲子の父親。資産家。

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年老いた美女

2017年06月09日 | リタイヤ生活

5月の花」のシャクヤクは5月30日の撮影。

10日ほど経った今日の”美人”は、

ちょっとほころんだまま、ブリザーブドフラワーになっていました。

花びらがシワシワなのが、哀しい。


10日前には、こんなでした。






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5月の花

2017年06月07日 | リタイヤ生活

昨年5月の花


今年の5月16日の花

カンパニュラ(ホタルブクロ)は同じ。

紅花は和名が末摘花で、染料や油に利用する。

5月30日の花は

さすが美人がたとえられる花、艶やか。


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久しぶりにマンゴスチン

2017年06月04日 | 食べ物

 

スーパーで「マンゴスチン Manngosteen」を見つけ、4個で600円と我が家計には大打撃だが、あのおいしさを思い出し、冥途の土産とご購入。

初めて食べたのは、バリ島だったと思う。こんなうまい物があるのかと、やたらと買って食べた。

ライチなど似たような果物よりはかなり高いが、それほどびっくりするほとの値段ではなかったと思う。


名前は一歩間違うと卑猥だが、ともかく美味。


世界三大美果は、マンゴー、マンゴスチン、チェリモヤ(日本での栽培品種は「アテモヤ」)。
(『フルーツひとつばなし』 より)

ドリアンが「果物の王様」で、マンゴスチンは強い甘みとさわやかな酸味で、上品な味わいから「果物の女王」と呼ばれるとある。
ウィキペディア



ところが、殻を割って口に入れると、甘いことは甘いのだが、新鮮さがなく、グチャグチャしていて、それほど美味しくない。

 

サンマは目黒に限り、マンゴスチンは生に限る(?)。

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久しぶりの富士山

2017年06月03日 | 日記

湿度が低いせいだろうか、この時期には珍しい、くっきりした富士山。

写真はボヤボヤだが。


 

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ドイツパンの店 リンデ”Linde”でランチ

2017年06月01日 | 食べ物

 


サンロードの奥の方、西友の向いあたりにあるドイツパンの店”BACKEREI KAFFE Linde”でランチした。

この私のブログで検索すると、
2013年12月21日「吉祥寺のパン屋さん「リンデ」でランチ」と、
2015年1月11日「吉祥寺でランチ リンデ」         

があった。3回目なのだろうか?


1Fでドイツパンを売っていて、食事するひとは、買ったパンを持って、急な階段を2Fへ登る。
飲み物は2Fで受け取る。店内は木組みが見えるドイツの建物風。

今回注文したのは、以下。

 


店名の由来
”Linde”さんは、宣教師である父・ゴットホルド・ベックと共にキリストの教えを伝える夢を持っていたドイツ生まれ吉祥寺育ちの娘さんでしたが、1980年に20才でガンで亡くなりました。
(「ベッカライカフェ・リンデ」より) 


ゴットホルド・ベックさんが始めた「吉祥寺キリスト集会」は、牧師制度、組織、会則、会員制度、献金制度がないというユニークなもののようです。(キリスト集会のご案内

 

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