一昨夜、松田聖子の生き方とそれを支持する女性達を追跡したNHKの特集番組に見入った。彼女のファン層は女性として生きることに疲れこれからどう生きるか悩む同世代と、現役で活躍する同世代から一回り下の世代の支持を得ているという。
彼女はデビュー以来27年間ずっとアイドルを続けてきた史上初の女性だという。私も彼女のファンだったことがある。職場の女友達が彼女のベストCDを餞別にくれ赴任先の米国のアパートの部屋で一人聞いたものだ。彼女の声質は所謂「泣き節」で、どのジャンルでもこの系統の歌唱法に私は弱い。
しかし番組内容は音楽ではなく、松田聖子の生き方とそれに共感する女性ファンの生き方を重ね合わせ、「女性の時代」と形容する新しい女性の生き方を社会現象として伝えるドキュメンタリー番組だった。女性の時代というのは大袈裟で言い過ぎとは思うが。
番組を見て、バブル崩壊後に松田聖子が始めた挑戦を「子育てを放棄し仕事を追及して行く身勝手な生き方」とバッシングを受けたことがあることを知った。彼女は悩んだ末に自分らしくやりたいことに全力で取り組む姿が、働く同性の共感を呼んでいるという。
私は機会均等法で総合職に採用された女性達のことを思い出した。彼女達の多くが結婚・出産や転勤・リストラなどで悩み去って行った時代と重なる。バブルの前頃から毎年一定の比率で一流大学を卒業した総合職の女性が大量に雇用されるようになり、私の職場にも配属されてきた。
この第一世代の総合職の女性は頭がよく真面目な仕事ぶりだったが、男性社会で家庭を犠牲にする職場での働き方に直面して、結婚や出産で退社し少しずつ職場から欠けるように去っていった。99年米国から帰任した頃には第一世代は殆どいなかった。
残った人達もリストラを機会に退職していった。そういう人達の本当の気持ちが分かっていたか私は自信が無い。しかし、番組を見て今の女性ファンには松田聖子の感性や生き方が勇気を与えるとインタビューに答えるのがなんとなく理解できる気がした。
聖子ちゃんのインタビューを聞いて、彼女の言っていることは仕事に賭ける男性なら極普通のことを言っているように思った。それがシングルママのアイドルが言うと新鮮に聞こえる。ということは今もそれほど女性に対するバイアスが変わっていないということだろう。
子育ては女性の役割であるという潜在意識があり、それを一時期放棄したかのごとき彼女の生き方は嫉妬の対象になったのだろう。当時バッシングの主役となった女性週刊誌の編集者が殆ど男性で世の中の変化について行けなかったという側面もあるという。番組に出てきた30-40代の女性はそうは言いながらも元気だった。
蛇足ながら米国で見た女性ビジネスマンを紹介する。彼女達はまるで違っていた。一緒に仕事をして男女の差は感じなかったし、差をつける必要もなかった。しかも、女性の武器はしっかり巧妙に使っていた。誤解を恐れず言うと美人は同じ能力なら例外なく断然昇進が早い。
取引先との打ち合わせに出ると見栄えのいい女性マネージャが男性の部下を従えテキパキと会議を仕切る姿に惚れ惚れしたことがある。実は雇う側もそういう効果を狙ってのことだと後で聞いた。第一世代総合職の生真面目さと比べ海千山千のやり手で、うかうかしていると男が踏み台にされるとふと思ったものだ。第二世代は寧ろ上昇志向がなくなったと聞くがどうなのだろうか。■