世界同時株安について、別の視点で語りたい。それは90年代末に起こったアジア危機との比較においての共通点だ。今回中国市場は立ち直り、日米市場のほうが脆弱だった。一見真逆のことが起こったように見える。だが表面的な見方を捨て本質を地質学的に考えてみるとどうだろう。
個人的な体験から始める。中国上海市場暴落から始まった世界同時株安のニュースを2月27日初めて聞いたとき、97年7月のアジア通貨危機を思い出した。その日、部下のマネージャが私の部屋に興奮して飛び込んできて香港市場が暴落していると報告に来た。
彼はアジア市場に投資し仕事中も市場動向をチェックしていたらしい。とんでもないが、当時はそれを禁止する会社のルールなどまだ無かった時代だ。それに購買活動に必要な情報といわれれば反論できない。見方を変えると90年代半ばに立ち上がったインターネットを既にフルに活用していたことになる。
アジア危機は海外からの直接(短期)投資を短期間に引き上げられた為アジア通貨が暴落し、アジア企業がドル建ての借金を返せなくなって起こった危機だ。当時の各国政府は自国通貨防衛に使う為の外貨準備を殆ど持ってなかった。アジア市場には巨大なマグマが蓄積されていた。
タイから始まった通貨危機はアジア全域に広がりあっという間に南米に飛び火した。一旦危機が発生するとファンドはより安全な国の安全な商品、つまり米国債、に戻る。今回もグローバルマネーの多くは米国に戻った。(今回ユーロの比率が倍増していたがそれは別の機会に。)
それでは、何故アジア企業は当時自国通貨の投資ではなく海外からの直接投資を受けたのだろうか。理由は簡単、自国通貨で借りると景気過熱を抑制する為に設定された高金利を適用されるのに対し、当時は海外からドル資金を低金利で借りることが出来たからだ。これは現在の我国の超低金利と欧米の高金利と裏腹の関係にある。
今回の世界同時株安の一因は、低金利の円を借りて高金利のドルで運用する円キャリートレードを巻き戻し高リスクの株式市場から資金が引き上げたからだ。金利差があるとヘッジファンドを初めとする「先進金融機関」はそのハザマをついてくる。
ある専門家はこの金利差を地殻の歪みに例え、その歪みが作るエネルギーが一定レベルを越えて蓄積されると周期的に地震が起こると解説している。Fタイムスなどの業界紙は円キャリートレードの危険性を前から指摘しており、今回起こるべくして起こったと見ているようだ。
アジア危機の教訓としてアジア各国は投資資金の自国通貨比率を高め、通貨防衛の為の外貨準備高を十分積んだと報告されている。又、いざという時は短期資金移動の制約とアジア国家間の通貨スワップ協定で対応する仕組みを作った。実際実体経済への影響は無かったようだ。
しかし今回の世界同時株安を見ると、それ(規制)だけではどうも応用問題の解としては十分でない恐れがあると私は思う。例えて言うとそれは鉄筋の量を倍にしたビルを建てたが、一方で見えない基礎の部分が傾いて耐震力がそのままになっているようなものに見える。
あえてこの言葉を使うと「ハゲタカ」はあらゆる歪みを見つけて形を変えて攻めてくるからだ。それは彼らのDNAであり、決して悪いことばかりではない。通常の金融機関がためらう高リスク領域に投資するスキームを作り新しいビジネスに油を注ぎ経済を活性化するのも彼らなのだ。(先月米国はその理解の下ヘッジファンド規制の法制化を見送る判断をした。)
世界同時株安のもう一つの教訓は「歪みを人工的に作りそれを強引に維持すると一時凌ぎにはなるがマグマが蓄積され何れツケを払う」という至極当たり前のことだ。歪みといえば米国の貿易赤字、中国の貿易黒字と人民元、日本の財政赤字と超低金利、原油高など心配事は山ほどあり、今回の揺さぶりでも何一つ改善されてない。■