このところ気なって仕方がないことがある。こうなるはずだと思っている事が全く逆の方向に進み、その理由も釈然としない。長い人生だからそんなことは山ほどあるのだが、最新の気がかりは米国株式市場が活況で6年ぶりに最高値をつけたことだ。
世 |
界同時株安をきっかけにしたリスク・バランス調整後の世界がどうなるか注目していたが、主要な証券市場は2月の底値以降順調に回復し史上最高値を打つまでになった。欧州・中国はまだしも、米国ダウ平均が史上最高値13,000ドルを更新するほどに回復するとは予想もしなかった。
主な理由は好調な米企業決算の公表が続き、先行き大幅な利益を見込んだ株価高だという。しかし、なんかおかしいと思う人もいるようだ。
モルガン・スタンレー社は高エネルギー価格、住宅不況の悪化、設備投資の減速を織り込んでGDP成長率予測を1.5%に下方修正した。又、IMFは2007年の米国成長率予測を昨年9月の2.9%から2.2%に下方修正した。その理由として住宅不況、設備投資鈍化をあげている。
失業率は4.4%と6年ぶりの低水準に留まっており、過激な「景気後退」より「成長停滞」の可能性が高いというのが大方の見方だ。モルガン・スタンレー社は、現在は95年の「景気中だるみ」と同じ状況にあり、これが不況の引き金になると警告している。
私は考えすぎだろうか。しかし、もっと不吉なデータがある。
米 |
国家庭の貯蓄[1]が1947年以来初めてマイナスになったと、2年前に書き込んだ記事「稼ぎより使う米国消費者」(2005/02/27)の中で報告した。ところがその後も比率は一貫して悪化し2006年が111.5%、2007年1月では112.4%になったという。つまり12.4%は借金で買い物をしていることになる。
米国GDPは2002年には世界経済の33%を占めていたが、2005年には28%にまで低下した。そのうち7割が家計なので世界経済の約20%を占める。つまり世界経済の20%のその又12.4%は借金で賄われているという構図だ。
住宅価格上昇による資産効果が剥落し、株価上昇が止まると全米GDPの7割を占める個人消費に悪影響が出るのは必至である。世界同時株安の真犯人は実はグリーンスパン前連銀議長だという説がある。彼の深い理解に基づき現状の「行き過ぎた楽観論を憂う」発言が暴落の引き金を引いたという説だ。
米国が何とか「景気中だるみ」のまま推移してもとの成長路線に戻ることを是非とも望みたい。しかし、2月末の上海株式市場暴落が引き金を引いたような事態が再度起こる可能性は非常に高いという説を私は支持する。
それはグローバル・マネーが世界のあちこちにバブルを生み出しているからだ。米国の世界経済に占める比率が3割を切ったといってもお金の流れはNYを経由する。マグマは知らない間に蓄積され、ある日突然暴発する。「しっかりシートベルトを締めておけ」という声が聞こえてくる。■
[1] 可処分所得に対する個人消費の比率