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下氏が10日ブラジルで開かれた世界柔道連盟(IJF)総会の理事選に敗れ、日本が1952年にIJFに加盟以来始めて日本人理事がゼロになったと報じられた。その後気になって関連する記事を調べたが、大方の論調は今後の日本柔道界の影響力低下を憂慮する内容であった。
調べていくうちに、これは特別のことではない、スポーツ以外の分野で日本が何度も苦い思いをしてきた「いつか来た道」を日本柔道が辿っている、というのが私の印象だ。スポーツ以外の分野を含めると世界で優位に立った次の瞬間、戦うルールが変わりトップから引き摺り下ろされるパターンを何度も見てきた。
山下氏は世界的に著名で尊敬された柔道家だが、日本のようにそれでもって担ぎ上げられる事を期待しても酷だ。スポーツの世界でも実業家や弁護士が丁々発止の権力闘争をする。山下氏の書簡というものを読んだが、スポーツマンとしては立派でも多数派工作もジャパンマネーを背景にした駆け引きもナシでは勝負にならない。
大方の報道は、ビゼール会長はカジノ事業で成功した大富豪で、金の力で反対派の朴前会長を追い落とし、朴氏を支持した山下氏の再選を阻んだ、これで競技発祥地としての威信・発言力の低下、具体的には情報の遅れやルール変更等で日本選手が不利になるというもの。
これら日本メディアの報道はまさに視野狭窄の極みというか、本当に情けなく悲しい。報道ではビゼール会長は金に物を言わせて柔道連盟を乗っ取った極悪人のように描かれているが果たしてそうなのか。どういう背景があって彼らは何をしようとしているのだろうか。
柔 |
道の人気は世界では低落傾向にあり、オリンピックの種目から外されるという不安が欧州柔道界にあるのが背景のようだ。人気低下はアテネで日本が大勝ちしたのも一因という。対策として世界選手権の毎年開催、テニスのうように世界各地を転戦するグランプリの開催と選手のプロ化・ポイント制のようなものを計画しているという。
当然、観客に分り易い規則の変更等も予想され、それが日本人選手に不利になるだろうという報道だ。どの報道にも柔道を世界に普及させる為に日本は何をすべきかと言う視点が微塵もない。悲しいばかりに身勝手な被害者的発想である。これもまた日本人のDNAとは思わないが。
格差問題などを語るとき「弱者もまた腐敗する」というのは私の口癖だが、この報道は弱者に逃げ込むという発想のように私は思う。門外漢の私だが、日本柔道(報道)は常に改革に反対し敗れ続ける歴史だったように思う。だが、改革は今日の柔道の隆盛をもたらした。
東京オリンピックの頃の体重別階級導入から始まって一本勝ちから時間制と判定勝ちなど積極性とスピード感を持ち込んだルール改正、観客が見やすくなったカラー柔道着など日本柔道界は全て反対した。今日の柔道の普及振りを見ると、これらの改正は正しかったことは間違いない。
日本の報道も柔道界と同じ立場に立って被害者的発想を伝えるだけで、見識の無さは変わらなかった。しかし、日本だけではない。代表的な例では、サッカーは英国で生まれたが、大陸が変えたルールはサッカーじゃないといって、英国は長らくワールドカップに参加せずその間に世界のサッカーの中心は他国に移った。多少慰めにはなる。
もう一つ心配なことがある。日本人選手はアマチアであっても強くなると手取り足取り全て面倒を見てもらい、独立して普通の生活をする訓練がされてないという。言葉が通じない世界を一人で転戦していく逞しさがあるだろうか。プロ化で一気に日本柔道が弱くならないことを祈る。■