菅総理が民主党代表選で再選された翌日、政府・日銀は東京外為市場で2003年以来の円売り介入を実施、続けてロンドン・ニューヨーク市場でも介入した。介入に慎重と見られていた菅政権の再選直後だけにサプライズと受取られ、今朝方もドル85円台半ばで推移し効果があったといえる。
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出に依存する経済界はこぞってこの為替介入を歓迎していると報じられたが、効果は一時的で今後の見通しは不透明と内外の識者は見ている。中国の為替操作を非難してきた米国の反応は微妙、議会は非難しても政府は菅政権との関係を配慮して静観する姿勢を保つと私は予測する。
これまで円高が進行すると政・財とメディアはあげて危機感をあおり、可及的速やかに円高対策をと迫る。だが、私は円の価値が上がるのが何故一方的に問題なのかいつも疑問に思う。勿論、輸出産業にとって円高は死活的だ。今後、更なる海外シフトの展開は避けられないだろう。
私自身2000年のITバブル崩壊時と同時に円高のダブルパンチで担当事業がひどい損失を出した経験がある。95年に米国に赴任したのも円が歴史的最高値(ドル79円台)になったからに他ならない。だが、物事には光と影がある。輸出があれば輸入がある。売りがあれば買がある。
具体的には日本は内需の国だということだ。各国の輸出依存度は米国12.6%、日本18.2%だが、韓国54.8%、独47.9%、中国36.6%であり世界平均は32.3%(朝日新聞9/15)である。勿論、我国には間接的に輸出に依存する産業も多く、輸出に無関係の競争力の無い産業にまで輸出で得た資金が還流して成り立つ、輸出が支える産業構造の現実もある。
だが、一方で1500兆円といわれる個人資産はドルベースに換算すると、何もしないで150兆円相当の価値が増えたことになる。同じように、リーマンショック後投資を控え急増した企業保有の現金(5800億ドル9/14NYタイムズ)を金庫に眠らせている間に、1割増えた。「これって、凄くない!?」
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高は絶好の投資機会である。この円高で自動的に増えたいわば「つかみ金」は、円以外の通貨で使わなければ効果が無い。となれば思いつくのは海外旅行や外貨預金でもしなければ円高の恩恵を受けられないのだろうか。実はそうではないことを14日付のNYタイムズは、日本企業が強い円を背景に海外で買収攻勢をかけていると伝えている。
同紙の記事はNTTの南アのネットワーク企業買収、7-11親会社の米国ケーシー買収提案、楽天の米国ネット販売企業の買収を紹介し、年初来買収額合計270億ドルに達し既に昨年実績を超えたと紹介している。更にソフトバンクのシリコンバレー企業への増資や、三井物産の海外資源への巨額な投資を伝えている。
強い円を利用して買収する日本のバーゲニングパワーを警戒するニュアンスを感じた。このトレンドをシステム的にもっと強めれば、円高を嫌がる国が増えそうだなという印象を受けた。換言すると、今までの円高対策が円売り介入や弱い国内産業の補助だけでは何も解決しないと。
円高以外にも世界的なトレンドで何かその時の我国の仕組上都合の悪いことが起こると、その国内の仕組から利便を受けられないことへの危機と対策(支援)の声ばかりが聞かれる気がする。変化を嫌う気質、悪く言えば被害者根性だ。
今回政府が説明するように急激な円高は短期対策として痛み止めの対応が必要だ。だが、変化を受け止めそこからビジネスチャンスを嗅ぎ取り新しい産業を作り出していかない限り、円高危機は何度も繰り返す。もうそろそろ円高危機は卒業すべきだとつくづく思う。■