チュニジアの民衆が立ち上がり独裁政権を倒し、大統領が海外逃亡した時は驚いた。アフリカの民度の低い国(失礼、私の偏見でした)でこんなことが起こるとは、というのが私の正直な印象だった。興味があったのは、チュニジアの民衆がツィッターやフェースブックを使って情報交換して団結し国を動かしたと伝えられたことだった。
反政府デモは瞬く間に中東各国に飛び火し、遂に中東の大国エジプトのムバラク政権を倒すとは考えもしなかった。今朝のニュースでは安定した政権基盤と思われていた最高指導者カダフィ大佐が統治するリビアでデモが発生、バーレーンや南イエメンでも反政府デモが続いていると報じられている。
私は普段特別に中東情勢をウォッチしていないし、IT最先端動向の一つSNS(ソーシャル・ネットワーキング)には疎く、刻々と変化する中東革命について追いかけるのが精一杯だった。しかし、ニュースを見て色々な疑問が湧き、内外の報道のされ方を見るととても興味ある差が感じられ、記事を読んで私なりの解釈を紹介してみたくなった。
ネットの役割
初期の報道では、ツィッターやフェースブックの果たした役割が極めて大きかったと報じられた。IT技術が重要な役割を果たしたのは今回が初めてではない。2004年中国で開催されたアジアカップで、中国人が日本サッカーの優勝を機に反日デモが展開された時人々を駆り立てたツールは携帯電話だった。理由は稚拙だが道具立ては当時の先端IT機器だった。
今回はもっと強力だった。2000年以降、個人間の双方向通信における情報伝播速度とバンド幅が爆発的に向上した。私はツィッターの経験がないのだが、報道によれば「明日何処其処でデモをやる」というメッセージを100人に伝えると、1分後に夫々が100人に伝え、更に1分後100人に伝えられると、たった3分で100万人にメッセージが届くという物凄い伝播力があるという。
反政府の火種を大火に
エジプトの民衆は初めからこの伝播力の強さを意識していたわけではないという。雑誌Time(2/14)の記事によればその経緯は意図せざるものだった。昨夏警官に殴打されて亡くなった若者を1/25に追悼する呼びかけをした。当初200人の参加者を見込んでいたが、その前にチュニジアの政変に触発された活動家がフェースブックにアップし、ツィッターやYouTubeに投稿して上記のようなプロセスで一気に広がった。
デモを呼びかけた若者(Shadi Taha、32)は、反応の大きさを感じて5千人くらいは集まると期待したが、実際には1万人が参加した。戒厳令下にあり密告者を恐れるエジプトではこれでも大成功といえる数字であり、ムバラク政権を驚愕させた。政府は27日にインターネットを閉鎖したが、一旦草の根に火がつくと最早手遅れ、デモ隊は何百倍にも膨れ上がり警察力では止められない事態に発展した。以後の展開は承知されている通りである。
主役は若者
エジプトは総人口8400万人のうち24歳以下人口が52%という若者の国である。他の中東諸国も同様の人口構成であると報じられている。これら若者が反政府運動の主役だった。若者に厳しい失業率と物価上昇による生活苦、一方で、長期独裁政権下で腐敗が蔓延り政権に近い一部だけが栄え貧富の格差が広がっていた。きっかけがあれば不満が爆発する状況だった。
今までのところ、エジプトでは反政府運動が暴動、更に内戦に発展する事態にはならなかった。エジプト国民の民度が成熟しており、軍が冷静に反応しているからのようだ。(ここでもイスラムといえばすぐ過激派を連想する私の偏見があった。)彼等はもっと責任ある大人の態度をとった。
雑誌Timeによれば、反政府運動の典型的な主役は30代の失業者であり、頭でっかちで20代の大学生ではないという。エジプト博物館侵入され被害を受けた後、ボランティアの自警団を作って略奪や破壊を防ぎ軍が介入してくる余地をなくしたという。中国の反日デモを思い出した。
キーワードは腐敗と失業・物価
今回の中東革命のキーワードは、「長期独裁政権下での腐敗、若者の高失業率と物価上昇」が火種(必要条件)で、「ツィッターとフェースブック」が反政府運動を一気に燃え上がらせるターボチャージャーエンジンだったと私は要約する。この単純な構図で中東全てを説明できないだろう。王政か軍政か、宗派の対立、原理主義と世俗主義等々、国によって事情は異なる。
私はこの先不安の方が大きい。今回の革命のもう一つの特徴は反政府運動が一人のリーダーによるものでなく、草の根が立ち上がったことだ。この違いは革命後の権力闘争を予感させる。独裁者を倒せば明るい未来が保障されているわけではない。まだ第一幕の途中だ。宗派対立に向えばイスラム原理主義が実権を握る可能性もある。そうなれば鍵はイランと米国の影響力がどう反映されるか注目される。
もう一つの関心は、この反政府運動が上記の要件を満たす中東以外の国にも飛び火するだろうかだが、私は分からない。イスラム系の旧ソ連衛星国は可能性がある。北朝鮮はIT環境が無い。中国はまだいつか豊かになれる夢がある。日本は?若者が少なくエネルギーが全く無い。
実は私もフェースブックのユーザーです
数年前米国大統領選の動向を調べていてNYシラキュース市の私と同年輩の看護婦と偶然メル友になった。米国の友人は何故か全員民主党支持だ。彼女も熱烈な民主党支持で、政治を語る時は人が変わった様に感じたものだ。
暫らくして彼女から招待を受けてフェースブックに登録した。そこでは普通のメールと違い、彼女のボーイフレンドや子供たちの飛び交うメッセージが見え、突然他人の家の居間に入ったような気恥ずかしい思いをした。私はたまに挨拶で消息を知らせ、居間に入らず玄関で失礼するだけの消極的ユーザーのままで、これが革命を起した凄いIT技術という実感は湧かない。■