美濃の内戦を聞いて信長も兵をあげた、名目は舅道三への援軍だが、もしチャンスがあれば美濃を奪おうとする魂胆も持っている
しかし甲斐もなく信長が美濃を超えたところで道三が討たれたとの知らせが入った、しかも信長軍に対して勝ちに乗じた義龍軍が攻め寄せるという
信長は自ら主力を殿に置いて引き戦を行った、敵は信長の倍の人数で攻め寄せる、信長の左右にも矢が飛んでくる
その時、前田利家が「御屋形様、ここは拙者が引き受けますからお立ち退き下され」
信長は危急故、四の五の言わず「頼むぞ、生きて帰れ」と励まして退却した
勢いずく敵に、左右の草むらに潜んだ前田利家の鉄砲隊が五段の陣を引き、迫りくる敵に次々と銃弾を浴びせると敵は崩れて退却した。
もちろん鉄砲隊の足軽頭は藤吉郎であった。
藤吉郎は三蔵を自分の配下として呼び寄せた。
信長は清州に戻り、しばし戦の疲れを癒していた
ところが夏になると弟の信勝軍が柴田勝家を先鋒に2000の兵で攻め寄せてきた、信長も手持ちの兵700を引き連れて討って出た
先鋒は森長可と前田利家、藤吉郎ら鉄砲隊は城を守っている
利家は敵陣に真っ先に駆け込み、自慢の槍で敵をねじ伏せる
敵方も名のある将が出てきて一騎打ちになった、そして利家は一番首を取った
味方は意気上がった、しかし敵は3倍、先頭は鬼柴田という異名をとる歴戦の強者柴田権六勝家だ、味方の兵を次々と打ち取って信長本陣に攻め寄せた
信長を護るのは佐久間兄弟とわずかな近習のみとなった

前田利家も丹羽長秀も前線で必死の働きをしていて、信長の救援ができない
信長危うし、10mもないところまで来ている柴田勝家と目が合った、と、その時信長が吼えた
「権六か! 老いぼれて血迷うたか」
「老いぼれてなどおりませぬは、ご覚悟を」
「たわけ! 信長が顔を見忘れたか」
「忘れましょうや、あなたさまこそ信長様に相違ない、ご覚悟召され」
「ははは、まことに忠義の者よのう権六は、父上が信勝に与えた故仕方ないが、うぬはでくの坊か」
「・・・・」
「長幼の順がわからぬ権六ではあるまい、信勝と儂とどちらが尾張の主としてふさわしいか考えて見よ、
親父殿は死んだ、後を継いだ儂が柴田権六に命ずる、『信長が下に帰参して働くを許すなり』
一門の長である兄を襲うような弟になんの義理を果たす必要があるか、そもそも信勝は儂の家来である
それが儂を倒すために美濃と通じていることを知っているのか」
「そんなバカな」
「ばかなことではないわ、お前も美濃に尾張を売り渡す気があるなら同罪じゃ、成敗して呉れよう、
だが今なら許そう、信勝も一度だけは許す、権六よ、すぐに戻って信勝を説得せよ
このような愚かしい真似をするものではないと、母者に権六まで居ながら信勝に愚行をさせるとは
よいか家老の仕事は戦ばかりでないぞ、主の過ちを戒めるのも真のしごとなり、早々に兵を引け!」
勝家はうろたえた、信長が憎いわけではない、先代信秀の命令で信勝の付け家老に任命されて従ったのだ
だが信長は従うだけでなく間違いを諌めるのも家老の仕事だという、考えればその通りだ、しかも曲がったことが嫌いな自分が、美濃の間者みたいに言われては立つ瀬がない。
最近は信長の実力を認めて尊敬の念さえ抱いている、どう見ても主の信勝より風格も重みも統率力も信長の方が一枚上手に思える
勝家は命じた「退散じゃ、みな兵を引き末森に戻るのじゃ」
信長の迫力と神のようなカリスマ性になすすべがなかった、帰った勝家は信勝とともにいる土田御前に言った
「信長様は本当に恐ろしいお方でございます、信勝様心改めて兄弟仲直りせねば、東の今川。北の斎藤に攻め滅ぼされます
信長様は詫びをいれればすべてを水に流すと言っておられます、どうかお袋様から信長様に信勝様の非を許すよう言ってもらえば丸く収まるでしょう」
土田御前は自分の実の息子である信長に信勝を許すように言った、信長もこれを快く受けた。
こうして尾張国内の風は収まった。