13歳になった二月の事、鷹狩に水辺を訪れ各々鷹を思いのままに飛ばせていたが、利口な水鳥たちは水辺から離れず一塊になっていた。
鷹というものは飛ぶ鳥だけを襲い、水辺に泳いだり地面にいる小鳥は襲わぬ習性がある、是では狩りにならぬと足軽たちが石つぶてを投げて水鳥を飛び立たせようとしたが、ちょうどよい小石はこのあたりには全く見つからず、傍に近づこうにも池が深くて近寄ることもできない。
そこで大声を出して驚かそうとしたが、かえって鷹の方が驚いてすくみ上っている。
どうしたものかと皆、思案していたところ勝千代が言うには、あの向こうに農家が五、六軒見える、そこへ行けばタニシを皆貯えてあるはず、それを求めてくるようにと命じた。
足軽らが粗末な農家を訪ねていくと、勝千代が言ったとおり、どの家にも山のようにタニシが蓄えられていた
それを求めて戻ってくると、たちまち山のようにタニシが集まり「それ、これをつぶてとして水鳥に投げよ」と言う
水鳥は驚いて飛び立つところへ鷹が次々と襲い掛かって、たちまち獲物でいっぱいになった。
家来たちは勝千代の知恵のあることに驚き、「いったいなにゆえに農家にタニシがあることを知っているのでしょうか」と聞くと
勝千代は「それは驚くに当たらぬ、以前小幡入道日浄と共に農家の辺りを歩いたとき、家の傍らに何やら積み上げてあったので是は何かと聞いたところ
小幡が言うには『これはタニシと申して貝の一種であります、田や池などに生息して、農民らはこれを取り集めて家に持ち帰り、茹でて食べるのです
粗末なものといえども、空腹を満たすことができるので重宝しております
しかるに農民という者は、このように粗末な食事をして生きておりますので日頃より苦しみの暮らしなのです、上に立つものはこれらの民を慈しみ、暮らしを助けてやらねばなりませぬ』こう申したのだ、今は二月、まさに農民がタニシを集めている真っ盛りであることを思い出したのじゃ」
家臣たちは「われらも知らぬ農民の暮らしや食糧事情まで知っているとは、まさにわが君は優れたお方である、またそれを活用する臨機応変な才も素晴らしき事」と感心した。
勝千代はさらに続けて「乱世の今、何より重要なのは兵糧である、田畑周りの草の葉や茎、木の実、あるいは山中の草木も日頃より食用となるものを知っておかねばならぬ」
勝千代の深い思慮に家臣たちは感じ入って、それを肝に命じたのであった。
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