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ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番&第31番&第32番 内田光子 ユニバーサル ミュージック クラシック
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おはようございます。ヒューマン・ギルドの岩井俊憲です。
「愛と勇気づけの親子関係セミナー(SMILE)」をやるために仙台に来ています。
さて、「器官劣等性の克服―ベートーヴェン編」の第4回目。今回が最後です。
私は、ベートーヴェンの作品では、交響曲第7番(作品92番)とピアノ・ソナタ第31番(作品110)がとりわけ好きです。
9月に開催される、話題の西本智美指揮のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の演奏は、マーラーでなくベートーヴェンの交響曲第7番の方を聴きにカミさんと行くことにしました(9月22日)。
ところで、ピアノ・ソナタ第31番。ベートーヴェンの全生涯が奏でられているように感じられます。
「嘆きの歌」からフーガに至り、勝利感のうちに締まる構成を聴くと、「悲愴(第8番)」「月光(第14番)」「熱情(第23番)」のピアノ・ソナタとは違って、晩年が近づきつつあるベートーヴェンの境地がわかります。
そのベートーヴェン、1770年(アルフレッド・アドラーの誕生から100年前)12月16日、ケルン市に近いボン市で、貧しい家のみすぼらしい屋根裏部屋で生まれました。
彼の父は、聡明さのない、いつも酒に酔っているテノール歌手。母は、料理人の娘で、女中をしていたのですが、最初は給仕と結婚していて、その夫に先立たれていました。
彼が4歳になると、父は彼を数時間もクラブサン(注:ピアノの前形)の前に釘付けにしたり、ヴァイオリンを持たせて一室に閉じ込めたりして、無茶苦茶に鍛えました。暴力も用いていたようです。
ここまででおわかりでしょう。ベートーヴェンは、機能不全家族の育ちなのです。
17歳で母を喪うとともに、酒飲みの父に代わって彼は一家の主となり、2人の弟の教育まで背負わされました。
心気症、うつ病の傾向も持っていたようです。
ベートーヴェンには向学心もありました。
1789年5月14日、ボン大学に聴講届を出し、ドイツ文学などの講義を聴き、当時の社会思想の影響を受けていて、《革命》が彼の心を捕らえていたのです。
しかし、1796年と1800年の間に聴覚が次第に弱って、耳鳴りは夜昼やまず、腸の病気にも悩まされていました。
だんだん聴覚を失って行く過程で、ベートーヴェンは、友人のヴェーゲラーに宛てて次の文を含む手紙を書いています。
「もしもできることなら、ぼくはこの宿命に挑みたい。だが、時として、自分は神の造りたもうたもののうちで一番惨めだと思われることがあるのだ」
生涯独身だったベートーヴェンは、甥(弟の息子)のカルルを自分の息子のようにかわいがり―というより甘やかし―、悩まされ、異常と言えるほどの偏愛ぶりを示してもいます。
1927年1月、彼は最愛の甥を遺産全部の相続者に指定し、数度の手術にも耐え、嵐の中で―荒れ狂う吹雪の最中に―雷鳴のとどろき渡る中でこの世を去りました。
以上は、『苦悩の英雄ベートーヴェンの生涯』 (ロマン ロラン著、新庄 嘉章訳、角川文庫)によるものですが、ロマン ロランは、この本の終わりが近い部分で次のように書いています。
親愛なるベートーヴェン! すでに十分に多くの人々が彼の芸術的な偉大さをほめたたえた。だが彼は、はるかに音楽の第一人者以上の者である。
彼は、近代芸術の最も雄々しい力である。彼は、苦しみ闘っている者の最大、最善の友である。
われわれがこの世の悲惨に嘆き悲しんでいるとき、彼はわれわれのそばに来てくれる。愛児を失った母親のピアノの前に座って、何も言わずに、諦めた嘆きの歌を弾いて、泣いているその婦人を慰めてやったように。
また、われわれが、悪徳にも道徳にもある凡俗さに対する無益な、果てしない闘いに疲れたとき、このベートーヴェンの意志と信念との大海に身をひたすことは、なんとも言いようのない幸福である。すると、彼から、勇気と、闘うことの幸福と、自分の中に神を感じている意識の陶酔とが感染して来るのである。
私がベートーヴェンの生涯から学んだことは、次の点です。
どんな障害や苦悩があったとしても、ベートーヴェンが生き、遺したことを思えば、どんなことでも耐えられる。勇気がありさえすれば
<お目休めコーナー> 新潮社の庭の木
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