○根津美術館 特別展『宋元の美 ―伝来の漆器を中心に―』
http://www.nezu-muse.or.jp/
中国の漆器? そうなのだ。陶器と同様、漆器をつくる技術も、もともと日本は大陸から学んだはずだ。しかし、中国にはずいぶん行っているが、向こうの博物館で漆器を見た記憶はあまりない(長江流域の考古資料の中には、ときどき見かける)。
不思議なことに中国では、漆器に対する興味が、どこかで途切れてしまったらしいのだ。一方、日本には、鎌倉時代以降に請来された宋元時代の唐物漆器が大切に伝えられてきたのである。今回、出品されているものはほぼ全て国内の所蔵品で、しかも個人蔵が圧倒的に多い。
雰囲気は鎌倉彫によく似ている(所蔵者としても鎌倉の寺社の名前をいくつか見た)。漆黒と暗朱が基本色で、時に木地の薄茶が加わる。また、光線の具合で漆黒がグレーに見えることがある。いずれにしてもわずかな色数を使って、明晰で精緻な文様を刻む。幾何学文様の繰り返しだったり、具体的な花鳥や山水楼閣のこともある。いわゆる成金的中華「悪」趣味とは異なる、シックな大人の中華趣味である。
こんな器が手元にあったら、どれだけ生活が豊かになるだろう、と思うと、実際に欲しくてしかたがなかった。でも、これって、大福や月餅を盛ったら、文様の窪みにくずが残ってしまって掃除が大変だろうなあ、水洗いできるのかしら...などと、つい貧乏性なことを考えてしまうのが悲しい。
それから、螺鈿(らでん)もいくつかあった。螺鈿というものは、正倉院展や法隆寺献物で見たことがあるが、これほど美しいと思ったのは初めてである。文様を構成する1つ1つの粒が細かい。見る位置によって、微妙に、ではなく、明らかに色が変わる。龍の体が、本当に七色に変わるのである。1人の職人が、ほとんど一生をかけて1つの作品を造ったのではないかと思う。螺鈿は贅沢すぎるという理由で、たびたび禁令が出たのも分かる気がする。
とにかく眼福のひとときであった。
http://www.nezu-muse.or.jp/
中国の漆器? そうなのだ。陶器と同様、漆器をつくる技術も、もともと日本は大陸から学んだはずだ。しかし、中国にはずいぶん行っているが、向こうの博物館で漆器を見た記憶はあまりない(長江流域の考古資料の中には、ときどき見かける)。
不思議なことに中国では、漆器に対する興味が、どこかで途切れてしまったらしいのだ。一方、日本には、鎌倉時代以降に請来された宋元時代の唐物漆器が大切に伝えられてきたのである。今回、出品されているものはほぼ全て国内の所蔵品で、しかも個人蔵が圧倒的に多い。
雰囲気は鎌倉彫によく似ている(所蔵者としても鎌倉の寺社の名前をいくつか見た)。漆黒と暗朱が基本色で、時に木地の薄茶が加わる。また、光線の具合で漆黒がグレーに見えることがある。いずれにしてもわずかな色数を使って、明晰で精緻な文様を刻む。幾何学文様の繰り返しだったり、具体的な花鳥や山水楼閣のこともある。いわゆる成金的中華「悪」趣味とは異なる、シックな大人の中華趣味である。
こんな器が手元にあったら、どれだけ生活が豊かになるだろう、と思うと、実際に欲しくてしかたがなかった。でも、これって、大福や月餅を盛ったら、文様の窪みにくずが残ってしまって掃除が大変だろうなあ、水洗いできるのかしら...などと、つい貧乏性なことを考えてしまうのが悲しい。
それから、螺鈿(らでん)もいくつかあった。螺鈿というものは、正倉院展や法隆寺献物で見たことがあるが、これほど美しいと思ったのは初めてである。文様を構成する1つ1つの粒が細かい。見る位置によって、微妙に、ではなく、明らかに色が変わる。龍の体が、本当に七色に変わるのである。1人の職人が、ほとんど一生をかけて1つの作品を造ったのではないかと思う。螺鈿は贅沢すぎるという理由で、たびたび禁令が出たのも分かる気がする。
とにかく眼福のひとときであった。