見もの・読みもの日記

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普賢十羅刹女/大和文華館

2004-11-21 21:25:50 | 行ったもの(美術館・見仏)
○大和文華館 特別展『普賢菩薩の絵画-美しきほとけへの祈り-』

http://www.kintetsu.co.jp/kouhou/yamato/

 3年くらい前にも大和文華館を訪ねたことがある。やはりこの季節で、国宝「寝覚物語絵巻」を含む特別展が開催されていた。ところが、このとき、「寝覚物語絵巻」以上に印象に残ったのが、「普賢十羅刹女像」の絵画だった。

 釈迦には十六善神、薬師には十二神将というように、仏教の如来や菩薩は、それぞれ一定の「集団」を引き連れていることがある。同様に、普賢菩薩には十羅刹女、という組み合わせがあるのだ。ネット上にある画像の例をあげよう。どちらも今回の展示会に出陳されていた作品である。

■藤田美術館収蔵品
 http://www.city.okayama.okayama.jp/museum/fujita/fugen10rasetunyo.htm

■奈良国立博物館収蔵品
 http://www.narahaku.go.jp/meihin/kaiga/051.html

 奈良博の収蔵品を見てほしい。普賢菩薩を取り巻く10人の女性。これが全て和装なのだ。王朝絵巻でおなじみの女房装束、長い黒髪を後ろに垂らした十二単である。私は、前回、この図様を見て、びっくりしてしまった。

 仏教美術の図様では、菩薩や如来は、インドもしくは西域の遺風に中国的な要素が加わり、どこの地域にも限定されないイメージを作り上げているが、従者に限っていえば、中国風が定番であろう。我々が思い描く四天王、十二神将、閻魔王、吉祥天など、いずれも中国の武人や官人、貴族の装束が基本になっている。

 それが十二単である。この図は平安後期に成立したというから、描いた者にとっても見る者にとっても、同時代の風俗そのままだ。現代の我々にとって言えば、普賢菩薩のまわりに、背広にネクタイ姿のサラリーマンや、制服姿の女子高生を並べるようなものだ。吹き出したくなるようなミスマッチだが、真の宗教絵画とは、こういうものなのかも知れない。敬虔な信仰は、時代性や地域性など簡単に超越して、自分のそばに仏を呼び寄せてしまうものなのだろう。

 経典によれば、十羅刹女には、全て固有の名前があって、持物や役割が決まっているらしい。絵画の上では、9人までは大差ないのだが、ひとり「華齒(けし)」だけは際立って異色である。上記の2例ではよく分からないと思うが、しばしば、巻き毛のボブヘアで登場するのだ。奈良博とは別の、和装十羅刹女図では、十二単に巻き毛のボブヘア(しかも金髪?)である。白地に髪の流れを線描きして、茶髪だか金髪だかを表わすところは、少女マンガの手法そのままだ。

 この展示会、個人的には、十羅刹女イメージのおもしろさだけにハマってしまったが、ほんとはもっと多角的な視点で「普賢菩薩の絵画」を集めたものである。企画者の増記隆介さんごめんなさい。参考文献を貼っておこう。

■増記隆介「我が国における普賢十羅刹女像の成立と展開-「和装本」を中心に-」
 http://www.hmn.bun.kyoto-u.ac.jp/canone/gaiyou.html#n0302
コメント
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