見もの・読みもの日記

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小泉純一郎:血脈の王朝

2004-11-27 21:52:23 | 読んだもの(書籍)
○佐野眞一『小泉純一郎:血脈の王朝』文藝春秋社 2004.11

 小泉純一郎論。ただし、小泉自身を正面から取り上げた第4章は、比較的短い文章で、掘り下げ方も浅い。圧倒的なボリュームを占めるのは、小泉政権の進路に大きな影響を与え続けている、飯島勲、田中真紀子、小泉信子という3人の実像に迫るルポルタージュである。

 著者は、3人に共通するキーワードとして「血脈」への執着を挙げる。

 飯島勲は、小泉の政策担当秘書官。相撲取りのような巨体、アクの強い、ふてぶてしい言動で知られ、よからぬ噂にも事欠かない。彼は極貧の中に生まれ、現在の地位まで成り上がった。姉妹と弟は知的障害者である。彼の権力欲の裏にあるものは「自分が死んだら姉弟たちはどうなるのか」という恐怖と不安なのではないか、「教会の牧師のような」小泉純一郎と姉・信子の濃密な姉弟関係に、飯島は、自分が求めてやまない「理想の家族愛」を見ているのではないか、と著者は読み解く。

 田中真紀子について、著者の取材に応じた人々は、「言うことがコロコロ変わる」「強烈な身分意識」「永田町にいられる人じゃない」等々、口を揃えて切り捨てており、著者もこれに無言の同意を与えている。政治家・田中真紀子の評価はさておき、著者は、彼女の破滅衝動の根底にあるものに興味を感じている。それは、父・角栄に対する復讐心ではないか。分かる。田中真紀子の姿には、どこかに(私と同じ)「父親に愛されなかった娘」の哀れを感じることがあるのだ。しかし、残念ながら、この点、本書の考察は不十分である。「東電OL事件」など、女性の破滅衝動を追った経験のある著者には、稿を改めて、より詳しい田中真紀子論を望みたい。

 そして、小泉の実姉・信子。小泉事務所の金庫番と言われ、小泉総理のただひとりの相談相手とも称されているが、決してマスコミには登場しようとしない。扉につかわれている写真は40歳頃のものというが、美しい。本稿では、結局、信子の実像というのは、あまり浮かび上がってこない。しかし、祖父・又次郎に始まる小泉家の歴史を丹念に追った部分は読ませる(3代続く政治家の家系だとは聞いていたが、父・純也が婿養子だということは初めて知った)。歌舞音曲に親しい放蕩の血、美形好きの血、そして女系の強さ。濃いなあ。横溝正史の世界に近い。

 やはり、いちばん面白かったのは、本人とのインタビューを伴う飯島勲の章。あとはちょっと物足りない。田中真紀子の章では、角栄の介護を手伝った元力士の証言が興味深かった。
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