見もの・読みもの日記

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万博、サティアン、アキバ/趣都の誕生(森川嘉一郎)

2005-10-10 00:27:25 | 読んだもの(書籍)
○森川嘉一郎『趣都の誕生:萌える都市アキハバラ』幻冬舎 2003.2

 著者の名前を知ったのは、今年の春、東京都写真美術館で開かれた『グローバルメディア2005/おたく:人格=空間=都市』による。2004年、第9回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展、日本館展示の帰国展でもあった。結局、展覧会を見に行くことはできなかったが(社会人の年度末は忙しいのだ)、NHKの『新日曜美術館』が、かなり詳しい紹介をしてくれた。

 本書は、上述の展覧会のコンセプトのもとになった論考を集めたものである。著者は、都市の景観の変化を以下のように記述する。第1フェーズは、「官」主体の、これといった趣味を持たない、大規模で無機質な高層建築群。第2フェーズは、没個性的な近代様式に対する反動から、歴史的な装飾を引用したり、ポップな造形を施して、祝祭的な消費空間を作り出す「ポストモダン」建築群。渋谷、池袋など、「民」の大企業が主導した開発がこの型である。こうした商業開発は、消費衝動を煽るため、”上位”として刷り込まれた欧米文化を模倣し、志向する。

 第3フェーズに相当するアキハバラは、いわば「個室の偏在化」であり、文化的権威に対する防衛的・内向的態度が基調をなしている。第1フェーズが男性的人格、第2フェーズが女性的人格で表象されるとすれば、第3フェーズは「<未来>を喪失した男性、あるいはオタクという第三のジェンダーが統べている」。なるほど、「第三のジェンダー」って、いいね。

 この都市風景の「官」→「民」→「個」交代理論を補完するものとして、大阪万博からサティアン(オウム真理教の聖堂)に至る、建築表現の「意味の喪失」と「未来の喪失」、同様の事態が起きている航空機デザインの考現学、アニメーションの先駆者ディズニーが、注意深く排した「性」と「暴力」が日本で復活したのはなぜか(手塚治虫の重大な関与)、など、いずれも興味深い論考が収められている。

 ところで、先月、秋葉原には、家電量販店のヨドバシカメラが開店した。その結果、客層が変わったとか変わらないとか、いろいろなレポートを散見する。これは「個」の街アキバに対する、「民」の逆襲と言えるのだろうか。また、本書によれば、旧国鉄跡地と旧神田青果市場跡地(かすかに覚えてる~!)には、2006年の完成を目指し、IT産業の拠点となる多機能高層ビルが建設されているという。これはアキバの心臓に楔を打つような「官」の介入ではないか。果たして「個」の街アキバは、今後も命脈を保つことができるのか? もしかしたら、幻のように、はかなく消えてしまうのではないかしら。

 なお、本書とは関係がないが、秋葉原って、明治初期までさかのぼってみると、非常に興味深い開発の歴史を持っているらしい。このへんは、もう少し、調べがついたら書いてみたい。
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