○阿部彩『子どもの貧困:日本の不公平を考える』(岩波新書) 岩波書店 2008.11
いま「貧困」をテーマにした本はブームの感がある。けれども、その中にあって、昨年11月に出た本書は、やや影が薄いように感じられる。これは、日本の社会が、大人の(あるいは、高齢者や女性の)貧困問題に比べて、子どもの貧困に冷淡な証ではないかと思う。
なぜ子どもの貧困が問題なのか。それは、子ども時代の貧困は、さまざまな不利となって、成長期以降に継続した影響を及ぼすからである。アメリカでは、0~15歳の子どもを対象に、単純な現金給付、現金給付に加えた親の就労支援、就労支援だけ、など、さまざまなタイプのプログラムを提供する比較実験が行われている。その結果は、潤沢な現金給付は0~5歳児の成長に好影響を与えるが、現金給付がなかったり、不十分なプログラムは効果が見られなかったことが報告されている。実に身もフタもない話だが、これが現実なのだ。
それでは、貧困なのはどのような子どもか。日本の政府の対策は適切であるのか。著者は、母子世帯に育つ子どもの貧困率が高いことに注意を喚起する。日本の母子家庭は(失業率の高い欧米諸国と異なり)典型的なワーキング・プアである。にもかかわらず、政府の対策は母親の「就労支援」に重点が置かれている。むしろ、母親が子どものケアに十分な時間を費やせるような支援(よりよい就労)を増やすべきである、と著者は提言する。ここまでは、型どおりのデータ分析と提言だな、と思って読んだ。
私が最も興味深く思ったのは、「子どもにとっての『必需品』を考える」の一段である。貧困研究には「相対的剥奪」という概念がある。「この社会で、ふつうの人がふつうに暮らすのに○○は必要ですか」と問い、「必需品」として合意形成がされている項目から遠ざけられている人々を「剥奪状態=貧困」と見なす手法である。
日本で「子どもの必需品」を調査してみると「人々の支持は筆者が想定したよりもはるかに低かった」という。イギリス人の70%は「お古でない洋服」を「子どもの必需品」と考えるのに、日本では「少なくとも1組の新しい洋服」を33.7%の人たちしか支持しない。イギリス人の89%(高率!)が「自分の本」を支持するのに対して、日本人は「絵本や子ども用の本」を51.2%しか支持しない。これは、文化の違いなのか、生活水準の違いなのか。著者は、原因探究をひとまず棚上げして、「イギリスの子どもは、幸せである」と嘆息する。これは社会学者というより、一個人としての本音だろう。
まあ、イギリス人の「新鮮なフルーツまたは野菜」94%、「自分用のベッドと毛布」93%、「1週間以上の旅行(1年に1回)」71%なんてのは、そのまま同意できる日本人は少ないと思うんだが…。貧困問題の解決を阻むものとして、「私たちは、まず、この貧相な貧困観を改善させることから始めなければならない」という提言には同意したいと思う。
いま「貧困」をテーマにした本はブームの感がある。けれども、その中にあって、昨年11月に出た本書は、やや影が薄いように感じられる。これは、日本の社会が、大人の(あるいは、高齢者や女性の)貧困問題に比べて、子どもの貧困に冷淡な証ではないかと思う。
なぜ子どもの貧困が問題なのか。それは、子ども時代の貧困は、さまざまな不利となって、成長期以降に継続した影響を及ぼすからである。アメリカでは、0~15歳の子どもを対象に、単純な現金給付、現金給付に加えた親の就労支援、就労支援だけ、など、さまざまなタイプのプログラムを提供する比較実験が行われている。その結果は、潤沢な現金給付は0~5歳児の成長に好影響を与えるが、現金給付がなかったり、不十分なプログラムは効果が見られなかったことが報告されている。実に身もフタもない話だが、これが現実なのだ。
それでは、貧困なのはどのような子どもか。日本の政府の対策は適切であるのか。著者は、母子世帯に育つ子どもの貧困率が高いことに注意を喚起する。日本の母子家庭は(失業率の高い欧米諸国と異なり)典型的なワーキング・プアである。にもかかわらず、政府の対策は母親の「就労支援」に重点が置かれている。むしろ、母親が子どものケアに十分な時間を費やせるような支援(よりよい就労)を増やすべきである、と著者は提言する。ここまでは、型どおりのデータ分析と提言だな、と思って読んだ。
私が最も興味深く思ったのは、「子どもにとっての『必需品』を考える」の一段である。貧困研究には「相対的剥奪」という概念がある。「この社会で、ふつうの人がふつうに暮らすのに○○は必要ですか」と問い、「必需品」として合意形成がされている項目から遠ざけられている人々を「剥奪状態=貧困」と見なす手法である。
日本で「子どもの必需品」を調査してみると「人々の支持は筆者が想定したよりもはるかに低かった」という。イギリス人の70%は「お古でない洋服」を「子どもの必需品」と考えるのに、日本では「少なくとも1組の新しい洋服」を33.7%の人たちしか支持しない。イギリス人の89%(高率!)が「自分の本」を支持するのに対して、日本人は「絵本や子ども用の本」を51.2%しか支持しない。これは、文化の違いなのか、生活水準の違いなのか。著者は、原因探究をひとまず棚上げして、「イギリスの子どもは、幸せである」と嘆息する。これは社会学者というより、一個人としての本音だろう。
まあ、イギリス人の「新鮮なフルーツまたは野菜」94%、「自分用のベッドと毛布」93%、「1週間以上の旅行(1年に1回)」71%なんてのは、そのまま同意できる日本人は少ないと思うんだが…。貧困問題の解決を阻むものとして、「私たちは、まず、この貧相な貧困観を改善させることから始めなければならない」という提言には同意したいと思う。