見もの・読みもの日記

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死者は誰のものか/靖国の戦後史(田中伸尚)

2009-05-15 00:10:39 | 読んだもの(書籍)
○田中伸尚『靖国の戦後史』(岩波新書) 岩波書店 2002.6

 タイトルのとおり、終戦から本書刊行当時までの歴史が時系列順に整理されており、「靖国問題」の基礎文献として役立つ。ただし、本文中に記述されているのは、2001年8月13日、小泉純一郎が敢行した「現職首相公式参拝」(1996年の橋本龍太郎以来、5年ぶり)と、その直後の影響まで。「あとがき」が、本書執筆中の2002年4月におこなわれた小泉首相2度目の公式参拝にわずかに触れているのみ。その後の日中・日韓関係の冷え込み、特に中国における2005年春の大規模な反日デモなど、多くの日本人の目をあらためて「靖国」に向けさせた国際的な動きは、残念ながら本書の範疇に入っていない。

 あのとき――というのは、2004年頃から(かな?)「靖国問題」に関して中国・韓国が態度を硬化させるにつれ、一般の日本人の間には、反発と戸惑いが広まった。しかし、本書を読んでみると、戦後の「靖国」は、政教の癒着、少数者の権利に対する抑圧など、重大な国内問題であったことが分かる。本書には、僧侶、キリスト者、あるいはそのどちらでもない一般市民からの「靖国合祀」「公式参拝」に対する多数の異議申し立て、訴訟とその結末が詳しく語られている。にもかかわらず、多くの日本人の下してきた態度、「大した問題じゃない」という放置が、グローバル化の時代(1999年~)に至って、周辺諸国との軋轢を生んだのだと思う。

 「靖国問題」は、「死者は誰のものか」という問いに集約されると思う。国家のものであるよりは、肉親のものであるだろう。けれども、「死」は個人のものであり、「死者」は近親者だけのものである、という答えも、どこか近代主義に毒されているような気がする。今後、急速に少子化が進む中で、死者の祭祀に関する期待や禁忌のかたちは、大きく変わっていくのではないか。

 本書を読んで獲得した視点は、「合祀事務強力」の名のもと、国家(厚生省)から靖国神社に多くの個人情報が、当然のように提供されていたことだ。今後は、むしろこっちのほうが問題になるように思う。
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