○板橋区立美術館 江戸文化シリーズNo.26『諸国畸人伝』(2010年9月4日~10月11日)
18世紀後半から19世紀前半、既存の流派にとらわれず、個性的な絵を描いた画家10人を紹介。中央で紹介される機会が少なく、あまり知られていない絵師もいることから、展覧会のタイトルは「諸国畸人伝」。巧いなあ、伴蒿蹊の随筆『近世畸人伝』および石川淳の『諸国畸人伝』にトリビュートすることで、取り上げられた画家の範型(畸人)が、だいたいどういう人々か、想像がつくようになっている。「絵師10人、驚愕の不協和音」というキャッチコピーも上出来々々々。
さて、その10人についてコメント。
■菅井梅関(すがいばいかん、1784-1844、仙台)
『鵞鳥図』だけは見た記憶がある。府中市美術館の『動物絵画の100年』(2007年)に出ているので、そのときではないかと思う。2点の『虎図』がどちらも気に入ってしまった。1点は大きな口をあけて、にやりと笑っているように見える。もう1点、天を仰ぐ横顔の虎はどこか悲しげ。カタログの解説によれば、画家の晩年は不遇だったそうで、61歳のとき、自ら井戸に身を投じたという。「仙台地方では、目出たい席では梅関の絵を掛けないといわれている」と読んで粛然とした。
■林十江(はやしじっこう、1777-1813、水戸)
ここ、板橋区立美術館で覚えた画家のひとり。絵は独創的で面白いけど、ぎすぎすした苛立ちを感じさせる『龍図』を見ていると、あまり画家本人とは会いたくない感じがする。『十二支図巻』は、ほのぼのしていてよい。図録には全十二図、写真ありで嬉しい!! 私の好みは羊図。
■佐竹蓬平(さたけほうへい、1750-1807、伊那)
このひとも板橋区立美術館で覚えた画家。巧く描こうという作為には無頓着な感じで、人柄が慕わしい。このひとには会ってみたい。
■加藤信清(かとうのぶきよ、1734-1810、江戸)
文字絵(経文で描く仏画)という特異なジャンルに特化した画家。その高度な技術は、部分拡大写真で。拡大写真がないと文字絵だと気づかないくらい、絵画としての完成度が高いのがすごい。私は藤沢の遊行寺で作品を見た記憶があるが、あれも文字絵だったんだろうな。京都の相国寺にも作品があるんだな。
■狩野一信(かのうかずのぶ、1816-1863、江戸)
あ、やっぱり来ましたね、狩野一信。今回は、増上寺の五百羅漢図(全100幅)から、選りすぐりの優品3点を展示。気がつけば、江戸東京博物館の『五百羅漢-増上寺秘蔵の仏画』展(2011年3月15日~5月29日)も近づいてきた。ふふふ、楽しみ。
■白隠(はくいん、1685-1768、駿河)
白隠は、本展で取り上げずとも、もう全国区と考えていいんじゃないかなあ。『蓮池観音図』のアンニュイな観音さんがうるわしかったが、画中に「誰道度生願海深/人縁絶処来愉閑」とあるのは「こんな人里離れたところで骨休めしているんじゃない、もっと人間界に降りていって人を救え」と叱咤する意味だ、と解説されていて面白かった(誰か道(い)う、度生(としょう)の願、海のごとく深しと/人縁絶ゆる処に来たりて閑を愉しむ?)。白隠は観音さまを叱咤するとともに、一般の僧侶たち、もしくは自分自身を叱咤しているのかも。
■曽我蕭白(そがしょうはく、1730-1781、京都)
いや蕭白も全国区でしょう。「畸人」であることは間違いないにしても。
■祇園井特(ぎおんせいとく、1755-没年不詳、京都)
文化の爛熟を感じさせる「デロリ」系。春画を描いていたという噂もあるそうだが、この画家の春画は怖そうだ。
■中村芳中(なかむらほうちゅう、不詳-1819、大坂)
こちらは、植物も動物もまんまるくデザインしてしまう「癒し系」。
■絵金(えきん、1812-1876、土佐)
おおお、「土佐の絵金」の作品が東京で見られるなんて、思ってもみなかった! 展覧会サイトで知ったときは、思わず息が荒くなった。会場には『播州皿屋敷 鉄山下屋敷』『伊達競阿国戯場 累』『浮世柄比翼稲妻 鈴ヶ森』『銘木先代萩 御殿』の4点が出品されている。これもいいセレクションだ。個人的には「絵金が見られる!」って、もうちょっとアピールしてほしいと思うのが、血みどろ絵では、そうはいかないのかしら(美術館サイトにも作品写真なし)。会場のパネルによれば、NHK『龍馬伝』に出てきた河田小龍は、絵金の弟分である由。10人の絵師の中で、絵金だけは作品に落款も署名もないんだなあ、と思った(芝居絵だから)。しかし絵金は、やっぱり祭りの夜に野外で見るのがいちばん。また赤岡に行きたい。涙が出るほど行きたい。
※絵金まつりの夜:その1~絵金蔵(2007/7/23)
※絵金まつりの夜:その2(2007/7/24)
余談。この美術館周辺は食事をするところが何もない、と思っていたが、最近、南側に蕎麦の「ひびき庵」を見つけた。こだわりの蕎麦屋なので、時間がかかるし、値段も張るが、それなりに美味しい。時間に余裕のあるときはおすすめ。
18世紀後半から19世紀前半、既存の流派にとらわれず、個性的な絵を描いた画家10人を紹介。中央で紹介される機会が少なく、あまり知られていない絵師もいることから、展覧会のタイトルは「諸国畸人伝」。巧いなあ、伴蒿蹊の随筆『近世畸人伝』および石川淳の『諸国畸人伝』にトリビュートすることで、取り上げられた画家の範型(畸人)が、だいたいどういう人々か、想像がつくようになっている。「絵師10人、驚愕の不協和音」というキャッチコピーも上出来々々々。
さて、その10人についてコメント。
■菅井梅関(すがいばいかん、1784-1844、仙台)
『鵞鳥図』だけは見た記憶がある。府中市美術館の『動物絵画の100年』(2007年)に出ているので、そのときではないかと思う。2点の『虎図』がどちらも気に入ってしまった。1点は大きな口をあけて、にやりと笑っているように見える。もう1点、天を仰ぐ横顔の虎はどこか悲しげ。カタログの解説によれば、画家の晩年は不遇だったそうで、61歳のとき、自ら井戸に身を投じたという。「仙台地方では、目出たい席では梅関の絵を掛けないといわれている」と読んで粛然とした。
■林十江(はやしじっこう、1777-1813、水戸)
ここ、板橋区立美術館で覚えた画家のひとり。絵は独創的で面白いけど、ぎすぎすした苛立ちを感じさせる『龍図』を見ていると、あまり画家本人とは会いたくない感じがする。『十二支図巻』は、ほのぼのしていてよい。図録には全十二図、写真ありで嬉しい!! 私の好みは羊図。
■佐竹蓬平(さたけほうへい、1750-1807、伊那)
このひとも板橋区立美術館で覚えた画家。巧く描こうという作為には無頓着な感じで、人柄が慕わしい。このひとには会ってみたい。
■加藤信清(かとうのぶきよ、1734-1810、江戸)
文字絵(経文で描く仏画)という特異なジャンルに特化した画家。その高度な技術は、部分拡大写真で。拡大写真がないと文字絵だと気づかないくらい、絵画としての完成度が高いのがすごい。私は藤沢の遊行寺で作品を見た記憶があるが、あれも文字絵だったんだろうな。京都の相国寺にも作品があるんだな。
■狩野一信(かのうかずのぶ、1816-1863、江戸)
あ、やっぱり来ましたね、狩野一信。今回は、増上寺の五百羅漢図(全100幅)から、選りすぐりの優品3点を展示。気がつけば、江戸東京博物館の『五百羅漢-増上寺秘蔵の仏画』展(2011年3月15日~5月29日)も近づいてきた。ふふふ、楽しみ。
■白隠(はくいん、1685-1768、駿河)
白隠は、本展で取り上げずとも、もう全国区と考えていいんじゃないかなあ。『蓮池観音図』のアンニュイな観音さんがうるわしかったが、画中に「誰道度生願海深/人縁絶処来愉閑」とあるのは「こんな人里離れたところで骨休めしているんじゃない、もっと人間界に降りていって人を救え」と叱咤する意味だ、と解説されていて面白かった(誰か道(い)う、度生(としょう)の願、海のごとく深しと/人縁絶ゆる処に来たりて閑を愉しむ?)。白隠は観音さまを叱咤するとともに、一般の僧侶たち、もしくは自分自身を叱咤しているのかも。
■曽我蕭白(そがしょうはく、1730-1781、京都)
いや蕭白も全国区でしょう。「畸人」であることは間違いないにしても。
■祇園井特(ぎおんせいとく、1755-没年不詳、京都)
文化の爛熟を感じさせる「デロリ」系。春画を描いていたという噂もあるそうだが、この画家の春画は怖そうだ。
■中村芳中(なかむらほうちゅう、不詳-1819、大坂)
こちらは、植物も動物もまんまるくデザインしてしまう「癒し系」。
■絵金(えきん、1812-1876、土佐)
おおお、「土佐の絵金」の作品が東京で見られるなんて、思ってもみなかった! 展覧会サイトで知ったときは、思わず息が荒くなった。会場には『播州皿屋敷 鉄山下屋敷』『伊達競阿国戯場 累』『浮世柄比翼稲妻 鈴ヶ森』『銘木先代萩 御殿』の4点が出品されている。これもいいセレクションだ。個人的には「絵金が見られる!」って、もうちょっとアピールしてほしいと思うのが、血みどろ絵では、そうはいかないのかしら(美術館サイトにも作品写真なし)。会場のパネルによれば、NHK『龍馬伝』に出てきた河田小龍は、絵金の弟分である由。10人の絵師の中で、絵金だけは作品に落款も署名もないんだなあ、と思った(芝居絵だから)。しかし絵金は、やっぱり祭りの夜に野外で見るのがいちばん。また赤岡に行きたい。涙が出るほど行きたい。
※絵金まつりの夜:その1~絵金蔵(2007/7/23)
※絵金まつりの夜:その2(2007/7/24)
余談。この美術館周辺は食事をするところが何もない、と思っていたが、最近、南側に蕎麦の「ひびき庵」を見つけた。こだわりの蕎麦屋なので、時間がかかるし、値段も張るが、それなりに美味しい。時間に余裕のあるときはおすすめ。