○三の丸尚蔵館 特別展覧会『皇室の文庫(ふみくら) 書陵部の名品』(2010年9月18日~10月17日)
本展は、宮内庁書陵部が所蔵する図書、公文書、考古品等の名品を「初めてまとまった形で一般に紹介する」ものだ(入場無料)。書陵部は、これまでも毎年秋に展示会を実施してきたのだが、招待状がないと入れない「半クローズド」のイベントだった。私は幸運にも2回だけ、関係者のツテがあって参観したことがあるが、あとは指をくわえて傍観していた。だから、今回の催しはとてもうれしい。
冒頭「古典と絵巻」のセクションでは、『日本書記』(鎌倉時代書写)などを紹介。最近、お会いした書陵部関係者の方が「一般の方にも楽しんでいただけるよう、誰でも知っているタイトルを選んだので、研究者にはちょっと…なんですけどね」とおっしゃっていた。なるほど、『竹取翁ならびにかぐや姫絵巻物』(江戸時代)とか『伊勢物語』(江戸時代、奈良絵本)とか、別に書陵部の展示会でこれを出さなくてもいいだろう、と思うものが並ぶ。しかし、最後に『とはずがたり』(天下の孤本)が出ていたのは嬉しかった。
むしろ、次の「古写経と漢籍」のほうが、いずれも国宝級(たぶん)を揃えていて、すごかった。遣唐使が持ち帰ったことが確実な唐代の古写経とか、中国本土では失われた北宋の皇帝御注孝経とか。後者は版本だが、世界に現存する唯一のものだという。ところで、漢籍の「宮内省図書印」には見覚えがあるが、和古書の『伊勢物語』や『狭衣物語』には、これとは別の「図書寮印」という、やや丸みのある角印が押されていた。由来が違うのだろうか。
「明治維新期の文書」は、アーカイブズ(記録)資料群である。いちばん人だかりが多かったのは『薩長同盟裏書』。先日、NHK大河ドラマ『龍馬伝』で、福山龍馬がお龍に支えられながらこの裏書を記す場面を、まさに放映したばかりだものなー。でも、ドラマよりも紙の縦幅が短いように感じた。キャプションによると「木戸家文書」なのに、木戸孝允が記した表書は、まるで無視して表装されているみたいで(読めるんだろうか?)苦笑してしまった。文中、龍馬が孝允を「老兄」と呼んでいるのも面白かった。
隣りにあったのが床次正精による『憲法発布式図』。2004年の書陵部展示会でも見た絵であることをすぐに思い出した。私は当時よりもいくぶん幕末維新史に詳しくなったので、豆粒みたいな人物の顔を見ながら、これは山県有朋かなあ、これは井上馨かも、などと当て推量を楽しんだ。憲法発布式を描いた絵画はいくつかあるが、明治天皇から憲法を下賜される黒田清隆首相が、これほど卑屈に腰をかがめているものはないようだ。
絵画資料ではもう1点、慶応4年に行われた明治天皇『御即位図』(明治25年『帝室例規類纂』の付録として作成)。紫宸殿の庭に「大地国形(地球儀!)」が設置されているのにびっくりした。事実はフィクションの上を行くみたいだ。面白いなあ、この混沌の時代。ほか、天皇の宸筆、貴族の日記、絵図(九条家の所領として知られる日根野村絵図→日根野駅には下りたことがある)なども。書陵部には、まだまだ面白い資料があるはず。今後も「オープン」展示会を時々はやってほしい。
※宮内庁書陵部資料
いつの間にか、「主な所蔵資料(書陵部の主な収蔵資料を紹介します)」なんていうメニューができていて、わずかだが写真画像も閲覧することができる。うれしい。
※9/27追記:刑部芳則『洋服・散髪・脱刀:服制の明治維新』(講談社選書メチエ、2010)の表紙が、床次正精の『憲法発布式図』である。あとで気づいた。
本展は、宮内庁書陵部が所蔵する図書、公文書、考古品等の名品を「初めてまとまった形で一般に紹介する」ものだ(入場無料)。書陵部は、これまでも毎年秋に展示会を実施してきたのだが、招待状がないと入れない「半クローズド」のイベントだった。私は幸運にも2回だけ、関係者のツテがあって参観したことがあるが、あとは指をくわえて傍観していた。だから、今回の催しはとてもうれしい。
冒頭「古典と絵巻」のセクションでは、『日本書記』(鎌倉時代書写)などを紹介。最近、お会いした書陵部関係者の方が「一般の方にも楽しんでいただけるよう、誰でも知っているタイトルを選んだので、研究者にはちょっと…なんですけどね」とおっしゃっていた。なるほど、『竹取翁ならびにかぐや姫絵巻物』(江戸時代)とか『伊勢物語』(江戸時代、奈良絵本)とか、別に書陵部の展示会でこれを出さなくてもいいだろう、と思うものが並ぶ。しかし、最後に『とはずがたり』(天下の孤本)が出ていたのは嬉しかった。
むしろ、次の「古写経と漢籍」のほうが、いずれも国宝級(たぶん)を揃えていて、すごかった。遣唐使が持ち帰ったことが確実な唐代の古写経とか、中国本土では失われた北宋の皇帝御注孝経とか。後者は版本だが、世界に現存する唯一のものだという。ところで、漢籍の「宮内省図書印」には見覚えがあるが、和古書の『伊勢物語』や『狭衣物語』には、これとは別の「図書寮印」という、やや丸みのある角印が押されていた。由来が違うのだろうか。
「明治維新期の文書」は、アーカイブズ(記録)資料群である。いちばん人だかりが多かったのは『薩長同盟裏書』。先日、NHK大河ドラマ『龍馬伝』で、福山龍馬がお龍に支えられながらこの裏書を記す場面を、まさに放映したばかりだものなー。でも、ドラマよりも紙の縦幅が短いように感じた。キャプションによると「木戸家文書」なのに、木戸孝允が記した表書は、まるで無視して表装されているみたいで(読めるんだろうか?)苦笑してしまった。文中、龍馬が孝允を「老兄」と呼んでいるのも面白かった。
隣りにあったのが床次正精による『憲法発布式図』。2004年の書陵部展示会でも見た絵であることをすぐに思い出した。私は当時よりもいくぶん幕末維新史に詳しくなったので、豆粒みたいな人物の顔を見ながら、これは山県有朋かなあ、これは井上馨かも、などと当て推量を楽しんだ。憲法発布式を描いた絵画はいくつかあるが、明治天皇から憲法を下賜される黒田清隆首相が、これほど卑屈に腰をかがめているものはないようだ。
絵画資料ではもう1点、慶応4年に行われた明治天皇『御即位図』(明治25年『帝室例規類纂』の付録として作成)。紫宸殿の庭に「大地国形(地球儀!)」が設置されているのにびっくりした。事実はフィクションの上を行くみたいだ。面白いなあ、この混沌の時代。ほか、天皇の宸筆、貴族の日記、絵図(九条家の所領として知られる日根野村絵図→日根野駅には下りたことがある)なども。書陵部には、まだまだ面白い資料があるはず。今後も「オープン」展示会を時々はやってほしい。
※宮内庁書陵部資料
いつの間にか、「主な所蔵資料(書陵部の主な収蔵資料を紹介します)」なんていうメニューができていて、わずかだが写真画像も閲覧することができる。うれしい。
※9/27追記:刑部芳則『洋服・散髪・脱刀:服制の明治維新』(講談社選書メチエ、2010)の表紙が、床次正精の『憲法発布式図』である。あとで気づいた。