○東京芸術劇場 湖北省京劇院訪日公演『擂鼓戦金山・秋江・西遊記~天蓬元帥猪八戒』(2010年9月25日)
京劇を見に行った。『擂鼓戦金山(らいこせんきんざん)』は、南宋の女将軍・梁紅玉の物語。梅蘭芳が伝統劇を改編した新劇で、1933年『抗金兵』の題名で上演されたという。本来はもっと長い物語なんじゃないかと思うが、今回の上演は、梁紅玉が太鼓を叩いて味方の士気を高め、自ら兵を率いて、金の軍勢に捉われた夫を救い出す一段のみ。歌もセリフもほとんどなくて、華麗な衣装をまとった女主人公の立ちまわりが見もの。京劇初心者には、分かりやすくてよろしい。京劇のキャラクター分類では、梁紅玉みたいな役柄を「刀馬旦(dao ma dan)」というのだそうだ。日本語Wikiは「アクションを専門とする女性」と説明しているが、別のサイトにあった「文武両道にたけた女の将軍」というのが正しいと思う。アクションだけじゃダメなのよ。
今回は当日券をねらって開演直前に行ったら、思いのほか、最前列のいちばん端が残っていた。見にくいかと思ったら、そうでもなかった。私は目が悪いので、舞台に近いのは、非常にお得感がある。衣装の美しさ、隈取・化粧の美しさ、そして梁紅玉を演じた劉純浄さんの手指の美しさを堪能した。いやー理想だわ。爪を伸ばさなくても塗らなくても、あんなに表情豊かな指になれるものか。
『秋江(しゅうこう)』は「崑曲の演目だったものを、京劇が、川劇という四川省の地方劇を経由して輸入したもの」だそうだ(加藤徹氏:京劇城)。旅立った恋人を追いかけるため、船に乗せてほしいと頼む尼僧の陳妙常と、世間知らずの尼僧をからかいながら、頼みを聴き入れる老船頭のやりとりがユーモラス。むかし、中国の観光客用のシアターで(?)見た記憶があるのだが、それほど印象に残らなかった。今回は面白かったなあ。老船頭役の談元さん(実は若い!)巧いなあ。潘金欣さんの陳妙常は、世間知らずだけど、芯の強い一途さが感じられて二重に愛らしかった。文楽のヒロインにもありそうなキャラクターだけど、悲劇性がなくて、あくまで明朗なのがいい。たった2人の登場人物だが、息のあったパントマイムで、何もない舞台に川岸の風景や船の姿が浮かび上がってくるようだった。
前半の2作品で、やっぱり定評のある古典(というほど古くはないが)は面白いなあ、と感じたので、新作書き下ろしだという『西遊記~天蓬元帥猪八戒』にはあまり期待しなかった。どちらかというと、アクロバティックな立ちまわりや雑技が見どころ。大家の令嬢に婿入りした猪八戒をからかうため、孫悟空は一計を案じて新婦の姿に化ける。舞台上では、新婦役の女優さんが「孫悟空の化けた新婦」を演じるため、美しい女優さんが、ときどきサルっぽい表情を見せるのがお茶目で可笑しい。そして、見事に寝室から叩き出される猪八戒。
強い女性は可愛い。強くて可愛い女性に翻弄されたい。どうもそういう傾向は、日本の男性より中国の男性のほうが強いのではあるまいか。そんなことを勘ぐってしまった3演目であった。
ところで、プログラムによれば、1986年に始まった京劇の招聘シリーズが25年目を迎え、本公演から「特定非営利法人京劇中心」としての活動が始まったとのこと。私は、随分むかしから日本国内でも京劇を見たいと思っていたが、いつどこで公演が行われているのか分からず、なかなかチケットが取れなかった。近年はネットのおかげで、情報収集が容易になってありがたい。できるだけ質の高い舞台を、今後もたくさん見たいものだ。
京劇を見に行った。『擂鼓戦金山(らいこせんきんざん)』は、南宋の女将軍・梁紅玉の物語。梅蘭芳が伝統劇を改編した新劇で、1933年『抗金兵』の題名で上演されたという。本来はもっと長い物語なんじゃないかと思うが、今回の上演は、梁紅玉が太鼓を叩いて味方の士気を高め、自ら兵を率いて、金の軍勢に捉われた夫を救い出す一段のみ。歌もセリフもほとんどなくて、華麗な衣装をまとった女主人公の立ちまわりが見もの。京劇初心者には、分かりやすくてよろしい。京劇のキャラクター分類では、梁紅玉みたいな役柄を「刀馬旦(dao ma dan)」というのだそうだ。日本語Wikiは「アクションを専門とする女性」と説明しているが、別のサイトにあった「文武両道にたけた女の将軍」というのが正しいと思う。アクションだけじゃダメなのよ。
今回は当日券をねらって開演直前に行ったら、思いのほか、最前列のいちばん端が残っていた。見にくいかと思ったら、そうでもなかった。私は目が悪いので、舞台に近いのは、非常にお得感がある。衣装の美しさ、隈取・化粧の美しさ、そして梁紅玉を演じた劉純浄さんの手指の美しさを堪能した。いやー理想だわ。爪を伸ばさなくても塗らなくても、あんなに表情豊かな指になれるものか。
『秋江(しゅうこう)』は「崑曲の演目だったものを、京劇が、川劇という四川省の地方劇を経由して輸入したもの」だそうだ(加藤徹氏:京劇城)。旅立った恋人を追いかけるため、船に乗せてほしいと頼む尼僧の陳妙常と、世間知らずの尼僧をからかいながら、頼みを聴き入れる老船頭のやりとりがユーモラス。むかし、中国の観光客用のシアターで(?)見た記憶があるのだが、それほど印象に残らなかった。今回は面白かったなあ。老船頭役の談元さん(実は若い!)巧いなあ。潘金欣さんの陳妙常は、世間知らずだけど、芯の強い一途さが感じられて二重に愛らしかった。文楽のヒロインにもありそうなキャラクターだけど、悲劇性がなくて、あくまで明朗なのがいい。たった2人の登場人物だが、息のあったパントマイムで、何もない舞台に川岸の風景や船の姿が浮かび上がってくるようだった。
前半の2作品で、やっぱり定評のある古典(というほど古くはないが)は面白いなあ、と感じたので、新作書き下ろしだという『西遊記~天蓬元帥猪八戒』にはあまり期待しなかった。どちらかというと、アクロバティックな立ちまわりや雑技が見どころ。大家の令嬢に婿入りした猪八戒をからかうため、孫悟空は一計を案じて新婦の姿に化ける。舞台上では、新婦役の女優さんが「孫悟空の化けた新婦」を演じるため、美しい女優さんが、ときどきサルっぽい表情を見せるのがお茶目で可笑しい。そして、見事に寝室から叩き出される猪八戒。
強い女性は可愛い。強くて可愛い女性に翻弄されたい。どうもそういう傾向は、日本の男性より中国の男性のほうが強いのではあるまいか。そんなことを勘ぐってしまった3演目であった。
ところで、プログラムによれば、1986年に始まった京劇の招聘シリーズが25年目を迎え、本公演から「特定非営利法人京劇中心」としての活動が始まったとのこと。私は、随分むかしから日本国内でも京劇を見たいと思っていたが、いつどこで公演が行われているのか分からず、なかなかチケットが取れなかった。近年はネットのおかげで、情報収集が容易になってありがたい。できるだけ質の高い舞台を、今後もたくさん見たいものだ。