○東京国立博物館 日中国交正常化40周年 東京国立博物館140周年 特別展『北京故宮博物院200選』(2012年1月2日~2012年2月19日)
第2部会場の入口は、第1部会場からの流れと、特別展示『清明上河図』を見終わった流れが合流するので、激混み。冒頭には、清朝皇帝の『明黄色彩雲金龍文緙絲朝袍』(いわゆる龍袍)が飾られていて、第1会場とはガラリと時代が変わることを示している。うーん、宋→元→清か。明代の割愛は、やむを得ないところだろう。皇帝の龍袍には、12の美徳のしるしが表されており、中には「虎と猿を描いた一対の壺」なんていうのもあって、探してしまった(裾にあり)。
この部屋は、工芸や服飾・宝飾が中心なので、軽く流すことにした。もっとも、紀元前16世紀の玉製品とか、よく考えると、気が遠くなるような品もあった。汝窯の天青釉の青磁盤、風船のように丸々した、めずらしい形の耀州窯の唐草文瓶など(ともに宋代)に混じり、堆朱・存星・琺瑯などの工芸品が、わずかに明代の文華を主張していた。むかし年賀状の図案に使ったことのある豆彩鶏文杯(景徳鎮窯)を見つけたが、これも明・成化年間の品。
次の部屋に移ると、壁面に沿ったケースに『康煕帝南巡図巻』11、12巻が! これはよく見たかったので、列に並び、ケースに張り付いてじっくり鑑賞。そろそろ疲れた観客は、脇を流れていくのがありがたい。図録の解説によれば、全12巻のうち9巻が現存し、北京故宮博物院は、1、9、10、11、12巻を所蔵。2、4巻がギメ美術館、3、7巻がメトロポリタン美術館に所蔵されているそうだ。返してほしいだろうなー、中国。いつか買い戻してしまうのかしら。ストーリー性のある日本の絵巻と違って、異時同図法とか使わないのだな。当たり前だが、皇帝は1巻に1回しか出てこない。皇帝を一般人より「少し大きめ」に描くのは、宗教画の感覚に近いように思う。
それから、無茶苦茶たのしみにしていた『雍正帝行楽図像冊』。その前に『雍正帝耕織図画冊』というのもあって、宋代の「耕織図」に感銘を受けた康煕帝が新たな「耕織図」を作らせ、息子の雍正帝が、その作中人物に自分と后妃らを当てはめて作成したのが本作である。46枚が現存しており、中国語サイトで検索すると、ほぼ全図の画像を見ることができるようだ。本展には1枚だけの出品だが、痩せた手足をあらわにして水を汲み上げる半裸の老人が大中華皇帝のコスプレ(アイコラ)って…。似合いすぎる。薄い髪は髷に結い、足元には、ご丁寧に団扇と麦わら帽子のアイテムまで。もうちょっとましな図像もあるのだが、この1枚を選んだセンスが素晴らしい。
『行楽図像冊』は8枚を展示。No.113~117は一連の図冊で、モンゴル族、ラマ僧など、かなりぶっ飛んだ扮装を楽しんでいる。写真パネルしかなかったけれど、西洋風の服装でルイ14世ふうの鬘をかぶり、槍を片手に虎を追いつめる姿も、この図冊のもの。No.118~120は主に室内で、伝統的な漢民族の文人を気取る。妙に神経の行きとどいた視線や所作が、逆に「ヤラセ」っぽくて、じわじわと可笑しい。火鉢の縁に足を上げて暖を取る「じじむさい」仕草とか、大好きだ。そして、どう見てもいちばん似合うのは、最下層の農夫や漁夫の姿なのだが、雍正帝本人は、どう思っていたのだろう。
続いて登場は乾隆帝。『乾隆帝是一是二図軸』の裏に回ると、画中に描かれた玉器や青銅器が集められて、再現されている。円卓もあるのがすごい。そして、この円卓、回るんだな…。さらに三希堂の再現展示。これは、前日に本館1階でVR(バーチャルリアリティ)プログラム『紫禁城・天子の宮殿』を見ておいてよかった。これ、ほんとに全部持ってきちゃったのか。それから『乾隆帝紫光閣遊宴画巻』を見ては、あの紫光閣だ!(280幅の功臣像が掲げられた)と心浮き立ち、ド派手な『乾隆帝文殊菩薩画像』にときめき(もとは承徳の普寧寺に伝来したのか)、『乾隆帝大閲像軸』を見上げて、放心する。感無量だ。よくよく見ると、馬の胴が長すぎて、縮尺が少しおかしい。小柄な蒙古馬だったとしても、である。しかし、十分に近寄って見ると、皇帝の威厳に圧倒されて、馬のデッサンはまるで気にならない。それより、手綱と鞭を持つ指先の描写が、驚くほど繊細で巧い。顔とともに、イタリア人画家、郎世寧の筆なのかもしれない。
最後は「掻き集め」的なのだが、新疆の青玉とか、日本ふうな花鳥文の漆器箱とか、天文儀器と置時計とか、『万国来朝図軸』にさりげなく描かれた琉球の使節団とか、ひとつひとつ豊かな物語を感じさせる品が集められている。200選の最後を飾るのは『乾隆帝生春詩意北京図軸』。紫禁城の瑠璃瓦も城下の民家の屋根も白い雪に覆われた、北京の初春を描く。季節もぴったり、祝意に満ちた、いい〆めの作品である。ふと「あらたしき としのはじめの はつはるの 今日ふるゆきの いやしけよごと」を思い出した。
※特別展示『清明上河図』観覧の記に続く。
第2部会場の入口は、第1部会場からの流れと、特別展示『清明上河図』を見終わった流れが合流するので、激混み。冒頭には、清朝皇帝の『明黄色彩雲金龍文緙絲朝袍』(いわゆる龍袍)が飾られていて、第1会場とはガラリと時代が変わることを示している。うーん、宋→元→清か。明代の割愛は、やむを得ないところだろう。皇帝の龍袍には、12の美徳のしるしが表されており、中には「虎と猿を描いた一対の壺」なんていうのもあって、探してしまった(裾にあり)。
この部屋は、工芸や服飾・宝飾が中心なので、軽く流すことにした。もっとも、紀元前16世紀の玉製品とか、よく考えると、気が遠くなるような品もあった。汝窯の天青釉の青磁盤、風船のように丸々した、めずらしい形の耀州窯の唐草文瓶など(ともに宋代)に混じり、堆朱・存星・琺瑯などの工芸品が、わずかに明代の文華を主張していた。むかし年賀状の図案に使ったことのある豆彩鶏文杯(景徳鎮窯)を見つけたが、これも明・成化年間の品。
次の部屋に移ると、壁面に沿ったケースに『康煕帝南巡図巻』11、12巻が! これはよく見たかったので、列に並び、ケースに張り付いてじっくり鑑賞。そろそろ疲れた観客は、脇を流れていくのがありがたい。図録の解説によれば、全12巻のうち9巻が現存し、北京故宮博物院は、1、9、10、11、12巻を所蔵。2、4巻がギメ美術館、3、7巻がメトロポリタン美術館に所蔵されているそうだ。返してほしいだろうなー、中国。いつか買い戻してしまうのかしら。ストーリー性のある日本の絵巻と違って、異時同図法とか使わないのだな。当たり前だが、皇帝は1巻に1回しか出てこない。皇帝を一般人より「少し大きめ」に描くのは、宗教画の感覚に近いように思う。
それから、無茶苦茶たのしみにしていた『雍正帝行楽図像冊』。その前に『雍正帝耕織図画冊』というのもあって、宋代の「耕織図」に感銘を受けた康煕帝が新たな「耕織図」を作らせ、息子の雍正帝が、その作中人物に自分と后妃らを当てはめて作成したのが本作である。46枚が現存しており、中国語サイトで検索すると、ほぼ全図の画像を見ることができるようだ。本展には1枚だけの出品だが、痩せた手足をあらわにして水を汲み上げる半裸の老人が大中華皇帝のコスプレ(アイコラ)って…。似合いすぎる。薄い髪は髷に結い、足元には、ご丁寧に団扇と麦わら帽子のアイテムまで。もうちょっとましな図像もあるのだが、この1枚を選んだセンスが素晴らしい。
『行楽図像冊』は8枚を展示。No.113~117は一連の図冊で、モンゴル族、ラマ僧など、かなりぶっ飛んだ扮装を楽しんでいる。写真パネルしかなかったけれど、西洋風の服装でルイ14世ふうの鬘をかぶり、槍を片手に虎を追いつめる姿も、この図冊のもの。No.118~120は主に室内で、伝統的な漢民族の文人を気取る。妙に神経の行きとどいた視線や所作が、逆に「ヤラセ」っぽくて、じわじわと可笑しい。火鉢の縁に足を上げて暖を取る「じじむさい」仕草とか、大好きだ。そして、どう見てもいちばん似合うのは、最下層の農夫や漁夫の姿なのだが、雍正帝本人は、どう思っていたのだろう。
続いて登場は乾隆帝。『乾隆帝是一是二図軸』の裏に回ると、画中に描かれた玉器や青銅器が集められて、再現されている。円卓もあるのがすごい。そして、この円卓、回るんだな…。さらに三希堂の再現展示。これは、前日に本館1階でVR(バーチャルリアリティ)プログラム『紫禁城・天子の宮殿』を見ておいてよかった。これ、ほんとに全部持ってきちゃったのか。それから『乾隆帝紫光閣遊宴画巻』を見ては、あの紫光閣だ!(280幅の功臣像が掲げられた)と心浮き立ち、ド派手な『乾隆帝文殊菩薩画像』にときめき(もとは承徳の普寧寺に伝来したのか)、『乾隆帝大閲像軸』を見上げて、放心する。感無量だ。よくよく見ると、馬の胴が長すぎて、縮尺が少しおかしい。小柄な蒙古馬だったとしても、である。しかし、十分に近寄って見ると、皇帝の威厳に圧倒されて、馬のデッサンはまるで気にならない。それより、手綱と鞭を持つ指先の描写が、驚くほど繊細で巧い。顔とともに、イタリア人画家、郎世寧の筆なのかもしれない。
最後は「掻き集め」的なのだが、新疆の青玉とか、日本ふうな花鳥文の漆器箱とか、天文儀器と置時計とか、『万国来朝図軸』にさりげなく描かれた琉球の使節団とか、ひとつひとつ豊かな物語を感じさせる品が集められている。200選の最後を飾るのは『乾隆帝生春詩意北京図軸』。紫禁城の瑠璃瓦も城下の民家の屋根も白い雪に覆われた、北京の初春を描く。季節もぴったり、祝意に満ちた、いい〆めの作品である。ふと「あらたしき としのはじめの はつはるの 今日ふるゆきの いやしけよごと」を思い出した。
※特別展示『清明上河図』観覧の記に続く。