見もの・読みもの日記

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JMOOCで五十の手習い・日本中世の自由と平等(本郷和人)

2014-05-28 22:24:06 | 見たもの(Webサイト・TV)
gacco The Japan MOOC/無料オンライン大学講座『日本中世の自由と平等』(講師:本郷和人)

 「オープンエデュケーション」と呼ばれる学習のしくみが注目されている。教育機関の立場から言えば「講義や教材などインターネットを使って配信し、社会に大学で生まれた知を還元する教育活動」のことであり、学習者の立場から言えば「世界のどこにいようとインターネットさえあれば、さまざまな講義ビデオや教材から学ぶことができる仕組み」のことである。成績に応じて履修証明証のもらえる大学の講義配信サービスは、「MOOCs(ムークス):Massive Open Online Courses」と呼ばれることが多い。代表的なサービスにはCoursera(コーセラ)とedX(エデックス)がある。

 東京大学は、昨年9月に村山斉特任教授の講義「ビッグバンからダークエネルギーまで(From the Big Bang to Dark Energy)」を、翌10月に藤原帰一教授の講義「戦争と平和の条件(Conditions of War and Peace)」を、Courseraプラットホーム上に配信した。特に後者には興味があったが「英語による大学講義」に恐れを感じて、結局受講できなかった。

 そうしたら、11月に日本オープンオンライン教育推進協議会(略称:JMOOC)の設立が報じられ、この春から配信が始まった。これは日本語の講義なので、かなりハードルが低い。しかも第1弾は、本郷和人先生の「日本中世の自由と平等」だなんて、嬉しすぎる。さっそく登録して、受講してみることにした。講義は全4回。4/14(月)から、毎週月曜日に講義と課題(選択式の理解度テスト)が公開され、2週間以内(翌々週の日曜まで)に課題を提出しなければならない。

 社会人の身では、月~金にまとまった時間が取れず、どうしても週末受講が中心となる。旅行や帰省で週末が1回つぶれると、次の週末には必ず課題を提出しなければならないので、スケジュール管理に神経をつかった。忙しければ、1回(1週)分の講義を10~15分ずつ細切れでも受講できるが、まとめて視聴したほうが内容を理解しやすく、課題にも回答しやすい。完全なオンデマンドではなく、ある程度の進捗管理が課せられるのは重要なことだと思う。

 受講生の掲示板に「ノートは取った方がいい」という書き込みがあり、これに従ったことは、非常によかった。ノートがないので、チラシの裏や無地の紙袋を使っていたけど、私の場合、むかしから筆記することで、要点が整理され、記憶が定着するのだ。最終レポート(800字)は、提出時刻を間違え(日本時間と世界時刻を混同した)、無意味にあせって2時間弱で書き上げたが、チラ裏「ノート」のおかげで満点をいただけた。

 興味深かったのは、日本の中世は、ひとつの絶対的な頂点を持たずに多くの主従関係が錯綜する「リゾーム」形の社会構造であったという指摘。鎌倉新仏教には、この社会構造と親和する面があった。だからこそ、天下統一を目指した織田信長が絶対に許容できなかったのが、こうした宗教集団であり、激しい闘争の結果、宗教集団は壊滅させられる。厳格な「ツリー」型の近世社会では、失われた「自由」や「平等」と引き換えに「安定」と「平和」が実現する。ここはとっても納得。

 一方で、網野善彦が重視した「アジール」の「自由」を講師は疑問視する。絶対的な強者(主権者)が存在しないということは、権利の源泉が不明確で、正義や権利の主張を誰も担保してくれない状態のことである。それって国際法の世界だ!と思った。力の強い者が何でも奪い取れるという状態は、弱者にとって、実質的な自由のない社会だったのではないか、と講師。私はこれには少し疑問があって、所有権が保護されない状態を「危機」と捉えるのは、すでに財産を持っている者に限られるので、全く失うもののない最底辺の弱者にとっては、「所有権の未成熟」な社会のほうが、生きていく隙間が多くて、暮らしやすかったんじゃないかなあ、という想像を捨てきれない。まあ、社会の総和としては、近世型の社会構造のほうが多くの人口を養えたのだから、反論の余地はないけど。

 講師と同世代である私は、今でも基本的に網野善彦が好きなので、久しぶりに網野史学について考えることができて楽しかった。このオンライン講義を通じて、中学生や高校生など、若い世代が網野善彦の名前を覚え、著書に興味を持ってくれたらとても嬉しいな。
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