見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2014年4月@東京:平成26年 新指定 国宝・重要文化財など(東京国立博物館)

2014-05-08 22:14:43 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館・東洋館8室(中国の絵画/中国の書跡)『文人たちの肖像』『漢時代の書』(2014年4月1日~5月11日)

 4月28日に特別展『キトラ古墳壁画』を見たレポートは書いたとおりだが、この日は終日、東京国立博物館で過ごした。まず東洋館。

 『文人たちの肖像』は、中国絵画の鑑賞者であり、制作者でもあった文人たちが、理想の自己イメージを表現したもの、という説明がついていたが、その中に愛らしい「美人図」も混じっている。ううむ、文人たちが表向きの書斎に掛けたのは隠逸・清雅な文人図や高士図だったのかな。それじゃ「美人図」はどこで楽しんだろう?などと考えてみる。清・王素筆『棚荳閑話図』(19世紀)は、ヘチマ(?)の棚下に椅子を並べて夕涼みする人々の姿を描いていて、久隅守景の『納涼図屏風』を思い出した。上半身裸のおやじは、今の中国の街角でもよく見る。

 金箋紙というのだろうか、鈍く輝く扇面にやわらかな色彩で描かれた扇面図がいくつか出ていて、どれも美しかった。同じ扇面でも、日本の、たとえば琳派などとは異なる美意識。でもどちらも捨てがたい。

 書は全て拓本。隷書きれいだな~と思って端から見始めたら、新しいもの→古いものを見て行く順路になった。次第に隷書と篆書が入り混じり、特異で奇怪な書体があらわれる。行きついた先にあったのは「開通褒斜道刻石」。8行ずつ2面の拓本に取られている。じっと見ていると、奇怪な文様の中から、見慣れた文字が現れるのが不思議。

■本館 8室・11室 『平成26年 新指定 国宝・重要文化財』(2014年4月22日~5月11日)

 前日会った友人から「今年は点数が多い」ことと「いつもの特別1室・2室ではなく、平常陳列の中で展示している」という情報を聞いていなかったら、かなり戸惑ったかもしれない。11室(彫刻)は、京都・蓮華王院(三十三間堂)の千手観音像3体を除き、彫刻・伎楽面など新指定文化財の10件を展示していた。

 奈良・当麻寺の木造十一面観音立像は口元の微笑が印象的。頭上面が大きくて、1つ1つに表情がある。髪は肩に垂らす。側面から見たスカート(裳)の細かい立襞が美しかった。滋賀・九品寺(甲賀市?)の木造観音菩薩立像は「近江らしい観音様だな~」と思ってしまった。膝を軽く曲げ、流れるような動きを表現する。丸顔、小柄だが、筒型の冠によって高さが強調されている。大分・羅漢寺の石仏も指定になったらしいが、これは写真パネルだけだった。

 14室の特集『舞楽面と行道面』やら、16室から15室に移った記録資料(歴史の記録)やら、18室(めずらしく上村松園筆『焔』公開)やらを覗き、2階の7室(屏風と襖絵)で尾形光琳筆『風神雷神図屏風』を見て、8室へ。新指定の後半はこの部屋。『六百番歌合』(最古写本)『遊仙窟残巻』(最古写本、なぜか天野山金剛寺所蔵)『慈鎮和尚夢想記』『慈鎮和尚伝』など興味深い文献資料が並ぶ中で、やっぱり関心を引いたのは『後白河院庁下文』(永暦元年/1160)。「太宰大弐平朝臣」の文字の下に平清盛が花押を据えている。平頼盛、平時忠の名前も見える。

 ほかに、考古資料の「一括」指定や『武雄鍋島家洋学関係資料』一括、北海道の『開拓使文書』や東京の『東京府・東京市行政文書』は、いちおう数量が明示されているとはいえ、一括指定に近く、今年は例年より分量が多いように感じた。急にどうしたんだろう? 正当な理由があるのなら、もちろん喜ぶべきことなんだけど。

 とりあえず一休止。
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2014年4月@東京:春の江戸絵画まつり(府中市美)+のぞいてびっくり江戸絵画(サントリー)ほか

2014-05-08 20:58:15 | 行ったもの(美術館・見仏)
府中市美術館 企画展『春の江戸絵画まつり-江戸絵画の19世紀』(2014年3月21日~5月6日)

 連休が終わり、美術館等の連休企画もだいぶ終わってしまったが、見てきたものについて書いておく。この展覧会は、3月に前期を見に行ったのだが、4/27に後期再訪。西洋の学問や絵画技法の影響を受けた作品という視点では、後期のほうが面白かったように思う。

 安田雷洲の『捕鯨図』は、異様な形で屹立する島嶼(鯨の顔にも見える)の前方に帆船と鯨と、鯨に挑むボートの人々を小さく描く。安田田騏(やすだでんき、1784-1827)の『異国風景図』は、異人を乗せた後姿の白象が、波止場から海を眺めている情景。「海を眺めている」と書いたけれど、象の頭部は描かれていない。陰鬱なブルーの海が夢幻的で、シュルレアリスムの絵画みたいである。ふと、若冲の『象と鯨図屏風』の、おおらかで愉快な白象の表情を思い出した。若冲作品のほうが早くて、そんなに時代は離れていないんだな。安田田騏は亜欧堂田善の弟子だという。

 亜欧堂田善の作品をたくさん見ることができたのも嬉しかった。久しぶりに見た『甲州猿橋之眺望』は落ち着いた色合いが好き。『琴士渡橋図』は知らない作品だった。伝統的な主題を伝統的な技法で描いているようで、確かに構図が新しい。渡辺南岳という画家も知らなかったけど、『芸者と若衆図』は現代のマンガ家が描きそうな、ちょっとステキな男女図。

サントリー美術館 『のぞいてびっくり江戸絵画-科学の眼、視覚のふしぎ』(2014年3月29日~5月11日)

 「遠近法」「鳥瞰図」「顕微鏡」「博物学」「影絵・鞘絵・鏡・水面」など、視覚にかかわるキーワードに即して、江戸絵画を見ていく。それほど新しい発見はなかったが、府中市美術館と共通する画家やテーマが多くて楽しめた。小田野直武の『富嶽図』に描かれた橋が、亜欧堂田善の『甲州猿橋之眺望』に似ていることに気付いたりした。司馬江漢の『犬のいる風景図』のわんこ可愛い。

 絵画作品よりも、私は江戸時代の顕微鏡や望遠鏡に興奮した。大阪歴史博物館所蔵の屈折望遠鏡(複数のレンズを組み合わせるタイプ)は「箱書きによれば」オランダから幕府に献上され、幕府から大阪の天文学者・間重新(間重富の息子)に貸与されたものだと解説にあったが、なぜ箱を展示しない! イギリス製の反射望遠鏡も間家に伝来。さらに、彦根城博物館所蔵の、国友一貫斎作の国産反射望遠鏡。これらは天体観測用なので三脚台が付いているが、長筒タイプの望遠鏡も、長大なものからコンパクトタイプまで何本かあった。顕微鏡は1737年頃のイギリス製品(金属製)が伝わり、1800年代には日本製品(木製)が作られている。早い!

 江戸絵画の視覚の問題は、春画をからめると、より面白いんじゃないかと思ったけど、それは展覧会にはできないかな。ショップで、図録とともに「かるかや」図柄の手ぬぐいを購入。新商品らしい。

根津美術館 特別展『燕子花図と藤花図-光琳、応挙 美を競う』(2014年4月19日~5月18日)

 根津美術館には、昨夏以来、行っていなかったので、久しぶりに行ってみたくなった。しかし、この時期は駄目。同館コレクションでも人気随一の光琳筆『燕子花図』が出ているから、というより、むしろ庭園のカキツバタ目当てで訪れるお客さんが多いのではないかと思う。私は、美術館では沈黙を守れとは言わないが、あまりに度を過ぎて館内がざわざわしていると、消耗してしまう。大好きな『藤花図』を、次はいつ見られるか分からないので悲しかったけれど、早々に退散することにした。

五島美術館 『館蔵 春の優品展-歌・詩歌の世界-』(2014年4月5日~5月11日)

 根津美術館を出てもまだ時間があったので、五島美術館へ。人気の高い『源氏物語絵巻』は4/29からの展示なので、まだそんなに混んでいないに違いない、と判断した。正解。古筆、歌仙絵、物語絵など、見慣れたコレクションであるが、何度見てもよいし、落ち着く。高野切の第一種、第二種と無心で向き合う時間の至福。庭園の花木も美しかった。人が押しかける展覧会ばかりにならないよう、こういう空間も守ってほしい。
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