○諸星大二郎『西遊妖猿伝・西域篇』6 講談社 2015.4
第5巻から1年ぶり。相変わらずの刊行ペースなので、これまでのあらすじを振り返り、思い出してからでないと、新たな展開についていけない。突厥の勢力圏をのがれ、西の草原に移住しようとするキルク族。家畜を従え、全ての家財道具を持って進む彼らの安全を確保するため、悟空、イリク、イリューシカの三人は、迫りくる突厥の精鋭部隊二百騎を足止めすることを企てる。
この「絶対多数」対「少数」の対決というのは、大唐編でも時々あったように思うが、かなり好きなシチュエーションだ。敵は「絶対多数」であるけど、普通の兵士たちなので、リアルな戦闘を描いて読者を納得させなければならない。魔術や妖術をつかう強敵との対決よりも、少年マンガの基本にもどって、血わき肉躍る興奮がある。
夜に入り、戦いが佳境に入ったところで現れたのは、イリューシカの弟のカマルトゥブ。悪霊ドゥルジ・ナスと一体化したその姿に、恐れをなした突厥たちは我先に逃げ出す。そして、カマルトゥブは斉天大聖の名を呼び、助けを請う。しかし、もはやカマルトゥブをドゥルジ・ナスから引き剥すことはできず、イリューシカは魔除けの矢で弟を射殺す。「この国へ来てから大聖がほとんど表面に現れなかったのは/大聖を呼ぶ者がいなかったからだ/この国のしきたりは唐と違いすぎて/恨みを飲んで死んだ者たちがいても/たぶん大聖の存在に気づいていない」という悟空の独白が興味深い。それじゃあ、悟空がそのことに気づいたことで、今後は斉天大聖の活躍(?)が見られるのかな。
悟空の同時代に生きる西域の人びととは別に、同じ場所に、すでに滅びた古代の狩猟民が暮らしてことを悟空は感知している。こういう重層的な歴史のとらえ方は作者の得意とするところで、面白いと思った。そして、古代の狩猟民の念を集めて悟空(斉天大聖)に対抗しようとした鹿力大仙は、イリューシカの遠矢に結界を破られ、あっけなく滅ぶ。
まずは一件落着して先を急ぐ悟空。しかしイリューシカは、弟の仇を討つために、羊力大仙と謎の少女アマルカが悟空に接近してくるのを待つ様子。果たして次の巻では、華々しい戦闘が待っているのだろうか。原作に基づくなら、まだ「虎力大仙」が現れていないのも気になるところ。
なお、本巻には「大唐篇」の番外編である『逆旅奇談』を収める。ある雨の日、たまたま旅籠で一緒になった旅客たち。近くには恐ろしい化け物が出るという。その化け物は人に化けることができる。次々に起こる殺人事件。果たして犯人は?というミステリー仕立ての短編作品。実は旅籠の客の中には、金目当ての強盗犯や復讐相手を探す幽鬼も混じっていた。化け物も正体を暴かれ、成敗されて一件落着と思いきや、最後に残った謎の美女は、恐ろしい蛇蠱の使い手だった。その名は陳一升金。蛇蠱の名は小青。「大唐篇」で悟空と死闘を繰り広げた蛇蠱使いの少女の成長した姿だった。
うわーうれしい!やっぱり作者の描く中国もの、好きだ。「大唐篇」で悟空とかかわった人々が登場するスピンオフ作品(後日談でも前日談でも)、こんなふうにときどき書いてもらいたい。
第5巻から1年ぶり。相変わらずの刊行ペースなので、これまでのあらすじを振り返り、思い出してからでないと、新たな展開についていけない。突厥の勢力圏をのがれ、西の草原に移住しようとするキルク族。家畜を従え、全ての家財道具を持って進む彼らの安全を確保するため、悟空、イリク、イリューシカの三人は、迫りくる突厥の精鋭部隊二百騎を足止めすることを企てる。
この「絶対多数」対「少数」の対決というのは、大唐編でも時々あったように思うが、かなり好きなシチュエーションだ。敵は「絶対多数」であるけど、普通の兵士たちなので、リアルな戦闘を描いて読者を納得させなければならない。魔術や妖術をつかう強敵との対決よりも、少年マンガの基本にもどって、血わき肉躍る興奮がある。
夜に入り、戦いが佳境に入ったところで現れたのは、イリューシカの弟のカマルトゥブ。悪霊ドゥルジ・ナスと一体化したその姿に、恐れをなした突厥たちは我先に逃げ出す。そして、カマルトゥブは斉天大聖の名を呼び、助けを請う。しかし、もはやカマルトゥブをドゥルジ・ナスから引き剥すことはできず、イリューシカは魔除けの矢で弟を射殺す。「この国へ来てから大聖がほとんど表面に現れなかったのは/大聖を呼ぶ者がいなかったからだ/この国のしきたりは唐と違いすぎて/恨みを飲んで死んだ者たちがいても/たぶん大聖の存在に気づいていない」という悟空の独白が興味深い。それじゃあ、悟空がそのことに気づいたことで、今後は斉天大聖の活躍(?)が見られるのかな。
悟空の同時代に生きる西域の人びととは別に、同じ場所に、すでに滅びた古代の狩猟民が暮らしてことを悟空は感知している。こういう重層的な歴史のとらえ方は作者の得意とするところで、面白いと思った。そして、古代の狩猟民の念を集めて悟空(斉天大聖)に対抗しようとした鹿力大仙は、イリューシカの遠矢に結界を破られ、あっけなく滅ぶ。
まずは一件落着して先を急ぐ悟空。しかしイリューシカは、弟の仇を討つために、羊力大仙と謎の少女アマルカが悟空に接近してくるのを待つ様子。果たして次の巻では、華々しい戦闘が待っているのだろうか。原作に基づくなら、まだ「虎力大仙」が現れていないのも気になるところ。
なお、本巻には「大唐篇」の番外編である『逆旅奇談』を収める。ある雨の日、たまたま旅籠で一緒になった旅客たち。近くには恐ろしい化け物が出るという。その化け物は人に化けることができる。次々に起こる殺人事件。果たして犯人は?というミステリー仕立ての短編作品。実は旅籠の客の中には、金目当ての強盗犯や復讐相手を探す幽鬼も混じっていた。化け物も正体を暴かれ、成敗されて一件落着と思いきや、最後に残った謎の美女は、恐ろしい蛇蠱の使い手だった。その名は陳一升金。蛇蠱の名は小青。「大唐篇」で悟空と死闘を繰り広げた蛇蠱使いの少女の成長した姿だった。
うわーうれしい!やっぱり作者の描く中国もの、好きだ。「大唐篇」で悟空とかかわった人々が登場するスピンオフ作品(後日談でも前日談でも)、こんなふうにときどき書いてもらいたい。