見もの・読みもの日記

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金銅とクスノキ/ほほえみの御仏(東京国立博物館)

2016-07-05 20:06:39 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立博物館・本館特別5室 日韓国交正常化50周年記念 特別展『ほほえみの御仏-二つの半跏思惟像-』(2016年6月21日~7月10日)

 韓国の国宝78号・半跏思惟像(三国時代・6世紀、韓国国立中央博物館蔵)と日本の国宝・半跏思惟像(飛鳥時代・7世紀、奈良・中宮寺門跡蔵)を展示する特別展が始まっている。何しろ会期が短いので、急いで見に行った。門を入ると手荷物検査が行われている。前回来館時(5月)は伊勢志摩サミットの影響かと思ったのだが、もう恒常的に検査をすることにしたのだろうか。してもいいのだが、担当職員が慣れてないのか、誘導の手際がよくないのが気になった。

 特別展の会場は、大階段の裏の特別5室。正門の前には「ほほえみの御仏展は混雑しています」という掲示が出ていたが、入ってみると、さほどでもない。すぐ目に入るのは、ガラスケースに入った中宮寺像。振り返ると、真向かいに韓国の国宝78号像の姿があった(同じくケース入り)。もう少し関連品が会場内にあるのかと思ったら、実にいさぎよく、展示品はこの二体のみだった。はじめに感じた違和感は、二体の大きさである。ポスターやチラシでは、二体をほぼ同じ大きさで掲載し、類似性を強調しているが、実際は中宮寺像が126.1cm、韓国の国宝78号像が83.2cm(像高)だから、全然「別物」なのだ。

 小さいほうの国宝78号像から見ていく。左右の耳元にリボンの垂れた宝冠。肩にかかる天衣の幅が広く、裃(かみしも)の肩衣のように見える。細い腕に比べて、手が大きく、指の一本一本がしっかり造ってある。右手は小指と薬指を深く曲げ、人差指と中指は伸ばして軽く頬に当てる。右足を折って左膝の上に上げているが、足の裏のふくらみがやや不自然。全体に鷹揚で大胆で、金銅仏らしい造形。これは中宮寺像よりは広隆寺の弥勒菩薩像、あるいは泣き弥勒像に似てるんじゃないかな、と思った。

 ガラスケースは全方位から鑑賞できるようになっているので、少しずつ視点を変えてみる。正面から見るとふっくらした面立ちだが、横にまわると頭部が薄くて面長に見える。ちょっと百済観音を思い出す。体部もお腹が大きくへこんでいて、正面から見たときよりも猫背な印象になる。背面にまわると、菩薩の腰掛けている台が、ヨーグルトの瓶みたいな、くびれのあるスツール状であることが分かった。正面は掛け布に覆われて分からない。私は向かって右側面から見たときの表情が好き。「少し下から見上げたほうがいいんだよ」という会話が聞こえてきたので、私も少し腰を落として左前方から見上げてみると、崇高さが増す感じで、これもよかった。

 次に中宮寺の半跏思惟像。私が仏像に興味を持ったころは、如意輪観音像と呼ばれていた。いまは「木造菩薩半跏像」か「弥勒菩薩半跏像」と呼ばれることが多いと思う。この展覧会では「半跏思惟像」と呼ばれているが、なんとなく落ち着かない。最近お会いしたのはいつだったか、調べてみたら、2005年、東博の特別公開『中宮寺国宝弥勒菩薩半跏像』が最後らしい。なんとご無沙汰していました。

 韓国の像を見たあとで思ったのは、何よりも頬に当てた右手の指先の、次第に開く花弁のような自然さ。左膝に乗せた右足の指の曲げ方・反り方もこまやかで、生身の肉体を感じさせる。腰布の皺、台座を覆う布の皺も、単純化はされているけれど、画一化され切ってはいない。これが、韓国と日本の文化の違いなのかはよく分からないけど、金銅と木材(クスノキ)という素材の違いは強く感じた。ただ、肩に沿って流れる垂髪の小さなアクセントなどは、完全に写実を離れてデザイン化されている。この像は、向かって左側面から、曲げた腕~肘~指先の美しさを味わう視点が好き。ただ、今回の展示は、上からの照明が強すぎると思う。正面から見ると、微妙なデコボコの陰影が強調されすぎて、お顔の肌が汚く見えてしまっている。むかしの中宮寺の本堂のように、薄暗がりに漆黒の体を潜めているような状態のほうが(たとえ表情がよく見えなくても)私は好きだ。

 このあと、本館の常設展と東洋館の特集『市河米庵旧蔵の中国絵画・書跡』(中国の絵画・書跡、2016年5月31日~年7月18日)を見て、法隆寺宝物館に寄った。金銅仏がたくさん並んだ部屋で、顔立ちやポーズの違いを興味深く眺めた。最前列右端の三体は、体の正面に宝珠を捧げ持つポーズで、このタイプがとても好き。展示室の奥の壁際には「菩薩半跏像」が10体ほど並んでいたが、顔立ちやスタイルはいろいろである。こわもて過ぎる半跏像一対(N-163、164)もあった。それから、有名な『摩耶夫人及び天人像』の登場人物たちは、みんな中宮寺像と同じ髪型で、二つの髷が頭の上に並んでいる。中国語の「Y頭(やーとう)」が思い浮かんだ。
コメント
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