○五島美術館 『館蔵 夏の優品展-動物襲来-』(2016年6月25日~7月31日)
夏休みが近づくと、子どもや家族連れのお客さんに向けた展示を企画する美術館・博物館が増える。たぶん「動物」と「妖怪」が二大テーマじゃないかと思う。何も五島美術館までが、そんなトレンドに乗らなくても、と思ったが、とりあえず行ってみたら、いろいろ珍しい作品にも出会えて面白かった。
展示品の並び順は、だいたい動物の種類でまとめられているようだった。入口近くには、まずサル。雪村周継の『猿図』は一行書の左右に、長~い腕を伸ばすテナガザル。白隠慧鶴の『猿図』も片手でぶらさがったテナガザルだが、無邪気な子猿っぽくて、思わず口元が緩む。橋本雅邦の『秋山秋水図』は、深い渓谷の底を流れる急流の秋の景を描いたもの。どこに動物が?と思ったら、画面を横切る松の枝に小さく猿の姿がある。解説に「松樹に数頭の猿が集う」とあったけど、私は2頭しか見つけられなかった。見逃していないかな?
それから牛と馬。橋本関雪の『藤と馬』は、金地の六曲一双屏風。右隻は白馬と黒斑馬が仲良く体を寄せ合っていて、左隻は白い子馬がたたずんでいる。画面全体を華やかに彩る藤の花は、写実的に複雑な色調を用いず、赤味の強い明るい紫色で統一されている。続いて、なぜかリス。伝・小栗宗湛筆『葡萄栗鼠図屏風』は桃山~江戸時代・16~17世紀の作品。樹上で群れ遊ぶ白いリスと茶色いリス。払子(ほっす)のようなふさふさした尻尾が目につく。白いリスは、九尾の狐みたいにも見える(どことなく顔つきも獰猛)。奥村土牛の『木鼡(りす)』は、石榴とリスを描いた、愛らしい小品。大橋翠石のリアルなライオンの図『猛獅虎図』を挟んで、小林古径の『柳桜』もよかった。『桜』は古民家の列を覆う桜の根元に、小さなブチ犬がちんまり座っている。『柳』は緑陰の下の白鷺。
これで展示室の右列を終わって、突き当たりには尾形乾山の『四季花鳥図屏風』が飾られていた。最晩年の大作で、乾山81歳の署名がある。少ない色数を効果的に使っている点、隣接する区画と色が混ざらないよう、隙間を開けて塗り分けている点(例:菖蒲の花)などが、焼きものの色付けを思わせる。描かれている動物(鳥)はシラサギ一種で、間抜けな顔、賢そうな顔、意地悪そうな顔など、さまざまな表情を見せるのが可愛い。
展示室左列へも鳥類が続く。伝・徽宗皇帝筆『鴨図』や伝・馬麟筆『梅花小禽図』などは、いつも緊張しながら眺める南宋絵画の優品だが、このように並ぶと、鴨だ~小鳥だ~(メジロ?)と思って、子供の視線で眺めることができる。平福百穂や小杉放庵、小茂田青樹など、20世紀の画家の作品もいいなあ。跡見花蹊の作品を持っていることも初めて知った。
中央列は、書籍、工芸などが中心。「雀の発心」(大東急記念文庫にもあるのか)、赤本「ねずみ文七」(ねずみなのにマッチョ)などが面白かった。飯室庄左衛門著『虫譜図説』には、カエルや河童の図もあり(国会図書館デジタルコレクションに同本の画像あり)。象牙彫『鼠と羽箒』(寿雄作)は明治~昭和の超絶工芸。ネズミのはげちょろけた毛並みの再現に唸る。萩焼の狸香合は、色合いがぽんぽこまんじゅうを思い出させた。
展示室を出る際に、小茂田青樹の『緑雨』を少し離れた位置から見直してはっとした。煙るような雨の中に葉を広げて立つ棕櫚の樹。画面左下の地面に小さな青蛙がいるのは分かっていたが、実は画面の右上(棕櫚の樹の上)にも、いっそう小さな二匹目の蛙が描かれていたのである。この作品、何度か見たことがあるはずなのに、一度も気づいていなかったかもしれない。
展示室2に進んでみると、水禽形の埴輪、魚形の水滴など(胸びれで這って歩きそうなのもいた)。どうやら水にゆかりの生物を集めているらしい。斉白石の『群蝦図』は、ヘンなほめかただが美味しそう。このひとは「海老を描かせたら右に出るものはない」画家だったのか。知らなかった。『蟹譜七十五品図』は、冊子本を絵巻状にしたもの。タカアシガニやらカブトガニやら、10枚近い図版(手彩色)を公開の上、全図を写真パネルで掲示してくれる念の入れよう。しかし、ネットで調べても書誌事項が何も分からなくて、もっと解説をメモしてくるんだった、と後悔している。
今回の展覧会は、五島美術館のコレクションだけでなく、大東急記念文庫の典籍がたくさん見られる点でも価値がある。また、拓本・印材・文具などは、リストに「宇野雪村コレクション」と注記のあるものが多かった。書家・宇野雪村(1912-1995)の旧蔵品である。
夏休みが近づくと、子どもや家族連れのお客さんに向けた展示を企画する美術館・博物館が増える。たぶん「動物」と「妖怪」が二大テーマじゃないかと思う。何も五島美術館までが、そんなトレンドに乗らなくても、と思ったが、とりあえず行ってみたら、いろいろ珍しい作品にも出会えて面白かった。
展示品の並び順は、だいたい動物の種類でまとめられているようだった。入口近くには、まずサル。雪村周継の『猿図』は一行書の左右に、長~い腕を伸ばすテナガザル。白隠慧鶴の『猿図』も片手でぶらさがったテナガザルだが、無邪気な子猿っぽくて、思わず口元が緩む。橋本雅邦の『秋山秋水図』は、深い渓谷の底を流れる急流の秋の景を描いたもの。どこに動物が?と思ったら、画面を横切る松の枝に小さく猿の姿がある。解説に「松樹に数頭の猿が集う」とあったけど、私は2頭しか見つけられなかった。見逃していないかな?
それから牛と馬。橋本関雪の『藤と馬』は、金地の六曲一双屏風。右隻は白馬と黒斑馬が仲良く体を寄せ合っていて、左隻は白い子馬がたたずんでいる。画面全体を華やかに彩る藤の花は、写実的に複雑な色調を用いず、赤味の強い明るい紫色で統一されている。続いて、なぜかリス。伝・小栗宗湛筆『葡萄栗鼠図屏風』は桃山~江戸時代・16~17世紀の作品。樹上で群れ遊ぶ白いリスと茶色いリス。払子(ほっす)のようなふさふさした尻尾が目につく。白いリスは、九尾の狐みたいにも見える(どことなく顔つきも獰猛)。奥村土牛の『木鼡(りす)』は、石榴とリスを描いた、愛らしい小品。大橋翠石のリアルなライオンの図『猛獅虎図』を挟んで、小林古径の『柳桜』もよかった。『桜』は古民家の列を覆う桜の根元に、小さなブチ犬がちんまり座っている。『柳』は緑陰の下の白鷺。
これで展示室の右列を終わって、突き当たりには尾形乾山の『四季花鳥図屏風』が飾られていた。最晩年の大作で、乾山81歳の署名がある。少ない色数を効果的に使っている点、隣接する区画と色が混ざらないよう、隙間を開けて塗り分けている点(例:菖蒲の花)などが、焼きものの色付けを思わせる。描かれている動物(鳥)はシラサギ一種で、間抜けな顔、賢そうな顔、意地悪そうな顔など、さまざまな表情を見せるのが可愛い。
展示室左列へも鳥類が続く。伝・徽宗皇帝筆『鴨図』や伝・馬麟筆『梅花小禽図』などは、いつも緊張しながら眺める南宋絵画の優品だが、このように並ぶと、鴨だ~小鳥だ~(メジロ?)と思って、子供の視線で眺めることができる。平福百穂や小杉放庵、小茂田青樹など、20世紀の画家の作品もいいなあ。跡見花蹊の作品を持っていることも初めて知った。
中央列は、書籍、工芸などが中心。「雀の発心」(大東急記念文庫にもあるのか)、赤本「ねずみ文七」(ねずみなのにマッチョ)などが面白かった。飯室庄左衛門著『虫譜図説』には、カエルや河童の図もあり(国会図書館デジタルコレクションに同本の画像あり)。象牙彫『鼠と羽箒』(寿雄作)は明治~昭和の超絶工芸。ネズミのはげちょろけた毛並みの再現に唸る。萩焼の狸香合は、色合いがぽんぽこまんじゅうを思い出させた。
展示室を出る際に、小茂田青樹の『緑雨』を少し離れた位置から見直してはっとした。煙るような雨の中に葉を広げて立つ棕櫚の樹。画面左下の地面に小さな青蛙がいるのは分かっていたが、実は画面の右上(棕櫚の樹の上)にも、いっそう小さな二匹目の蛙が描かれていたのである。この作品、何度か見たことがあるはずなのに、一度も気づいていなかったかもしれない。
展示室2に進んでみると、水禽形の埴輪、魚形の水滴など(胸びれで這って歩きそうなのもいた)。どうやら水にゆかりの生物を集めているらしい。斉白石の『群蝦図』は、ヘンなほめかただが美味しそう。このひとは「海老を描かせたら右に出るものはない」画家だったのか。知らなかった。『蟹譜七十五品図』は、冊子本を絵巻状にしたもの。タカアシガニやらカブトガニやら、10枚近い図版(手彩色)を公開の上、全図を写真パネルで掲示してくれる念の入れよう。しかし、ネットで調べても書誌事項が何も分からなくて、もっと解説をメモしてくるんだった、と後悔している。
今回の展覧会は、五島美術館のコレクションだけでなく、大東急記念文庫の典籍がたくさん見られる点でも価値がある。また、拓本・印材・文具などは、リストに「宇野雪村コレクション」と注記のあるものが多かった。書家・宇野雪村(1912-1995)の旧蔵品である。