見もの・読みもの日記

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黒田観音の風格/観音の里の祈りとくらし展II(東京芸大)

2016-07-12 21:50:57 | 読んだもの(書籍)
東京芸術大学大学美術館 『観音の里の祈りとくらし展II-びわ湖・長浜のホトケたち-』(2016年7月5日~8月7日)

 芸大と長浜市が主催する展覧会。長浜市に伝えられた仏像40点余りを展示する。「長浜市」という行政区画がいまだにしっくりこないのだが、余呉町、木之本町、高月町など、かつて「湖北」と呼ばれた地域のことである。かなり高い期待を抱いて出かけたのだが、会場(3階)を入口からチラと覗いて、期待以上の壮観に声が出そうになった。広いホールに数十体の仏像。ちょうど同じくらいの人数の観客が散らばっていた。会場内の配置図を記録に残しておく。

 右下の入口からしばらくは観音像が並ぶ。(5)十一面観音立像(善隆寺)はしゅっとした鋭角的な顔立ち。(7)聖観音菩薩立像(長浜城歴史博物館)は板彫を思わせる平面的な体躯、素朴でやさしい微笑み。(11)千手観音立像(総持寺)は夢見るような童子の顔。脇手の持物がよく揃っている。続いて、薬師如来。湖北に伝わる古仏は観音だけではないのだ。(25)薬師如来坐像(舎那院)は足首のフリルがかわいい。

 大好きな石道寺からは、赤銅のような肌を持つ(でも木造の)(6)十一面観音立像と、(35)巨大な持国天・多聞天立像が来ていた。さすがにご本尊はいらっしゃらないか。大日如来、阿弥陀如来などに続いて、馬頭観音のエリア。(21)馬頭観音立像(徳円寺)は長い腕のつくる角度がシャープで力強い。踵だけを地につけ、両足のあしのうらを見せているのも面白い。その隣りは(20)馬頭観音立像(横山神社)。高月の観音まつりでも拝観している。歯をむき出していた頭上の馬頭が印象的。黒々とした(19)馬頭観音坐像(西浅井町山門自治会)は、平安時代でも最古級の違例(11世紀前半)。頭上の馬頭がやたら大きいと思ったら、頭だけでなく上半身(肩から上)全体をのぞかせている。馬頭観音は、若狭~奥丹後とのかかわりも気になり、興味がつきない。

 (15)観音菩薩立像(洞寿院)は地元仏師の作と思われる。滑らかな木肌の中で目と唇だけ、はっきり彩色が施されていて、ちょっと怖い。33年ごとに御開帳される秘仏で、展覧会にも初出展だそうだ。ここで振り向くと、いきなり(22)千手千足観音立像(正妙寺)の姿があって、たじろいでしまった。360度四方から拝見できる、またとない機会。背面から見ると、上半身・下半身とも金色の甲羅をかついでいるようだ。側面から見ると、手は三列、足は二列であることが分かる。顔は非常に精巧で、唇や歯の表現に全く手抜きがない。さすが江戸時代の技術力の高さ。(37)愛染明王坐像(舎那院)は明王の顔と頭上の獅子の顔がほぼ同じ大きさで、その上に大きな三鈷杵の先が突っ立てている。お茶目な造形に思わず笑ってしまった。顔は怒りの表現が極まって、ちょっと動物っぽい。なのに背中が美しい。

 この部屋の見ものは、まず中央に立つ(4)聖観音立像(来現寺)。眼鼻立ちが明確で、横幅のある堂々としたお顔。大きな耳、長い(長すぎる)腕。右足を少し外に踏み出して立つ。あたりを払う威厳。これと向き合うのが(3)十一面観音立像(医王寺)。薄めのお体で、ほぼまっすぐに立つ。簡素ですっきりしたお姿、彫りの浅い曖昧な表情が、ただただ美しくて見とれた。化仏の顔まで美しかった。入口でもらったクリアファイルには、この十一面観音の写真が使われていたが、ふだんは華やかな宝冠と瓔珞で飾られているらしい。雰囲気が違うので、はじめ気が付かなかった。解説を読んで驚いたのは、明治20年頃、ときの医王寺の僧侶が長浜の古物商から求めて寺に安置したという由来。「大切に守られてきた」仏様ばかりではないんだなあ、というのが妙にリアルだった。

 展示はさらに奥に続くらしいので、石道寺の諸仏が並ぶ壁の向こうにまわる。このエリアには、びわ湖・長浜の四季やいくつかの寺院の写真パネルが飾られていた。そのうちの一枚に、黒田観音寺の千手観音とそれを拝む人々の写真があった。ああ、一度お会いしたいと長年願いながら、まだ叶っていない観音さま。あれ?この展覧会にいらしているんじゃなかったかしら? そう思ったとき、短い通路の先に、その黒田観音のお姿があった。

 (2)伝千手観音立像(木之元町黒田・観音寺)は、電撃に打たれた気分だった。今まで見たどの写真よりも実物がいい。眉・目・髭などは墨線ではっきり描かれている。これは後補だというけれど、とても美しい。彫刻の眉と墨描の眉の線が一致していないところなど、はっきりした美意識を感じる。左右各九本の腕は、左右対称のようで、指の曲げ方、手の反り方など、微妙に非対称でリズミカルである。太い脇手を支える胸は厚く、腹は少し出ている。前に傾けた二本の錫杖とあわせて、上に向かって大輪の花が開いたような形をつくっている。まさに王者の風格。この観音像も、ふだんは大きな身体を窮屈そうにお厨子の中に収めているから、360度から鑑賞できるこの展覧会は貴重である。

 (49)安念寺の如来形立像(いも観音)にお会いできたのも嬉しかった。(48)善隆寺の大きな仏頭には驚いた。地下2階では、びわ湖・長浜の仏を紹介するビデオ上映と『平櫛󠄁田中コレクション展』(2016年7月5日~8月7日)を開催中。実は『観音の里の祈りとくらし展』「I」を見た記憶が全くなかったのだが、調べたら2014年3月に見ていた。でも「全18件」だから、今回の半分以下の規模だった。記事を読み直したら、善隆寺の十一面観音とか総持寺の十一面観音とか、自分が同じ仏像に反応しているのが可笑しい。もうひとつ、「滋賀県長浜市ふるさと寄附のご案内」(観音文化振興事業の応援)のパンフレットを入れてくれるのはいいのだが、それなら特典に「特製ご朱印帖」や「秘仏ご開帳ご招待(寄附者限定)」があるといいのになあ。
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