○安村敏信『ゆるかわ妖怪絵』(ART BOX) 講談社 2016.6
まだレポートを書いていないのだが、江戸東京博物館の『大妖怪展』(2016年7月5日~8月28日)を見て来た。めちゃくちゃ楽しかった!!! 行く前にチラシやホームページを見たときは、ほう『百鬼夜行絵巻』真珠庵本が出るのか(8/2-28)、国宝・辟邪絵の『神虫』ね(7/5-31)など、いわば定評のある妖怪資料に関心が向いていた。ところが、行ってみたら、見たことも聞いたこともない、面白い資料が続出で、すっかり心を奪われてしまった。いやー展示企画者(学芸員?)の方は、よくこんな面白い資料を見つけたなあ。そして、見つけるだけでなくて、これは絶対みんなが面白がる、と確信をもって「展示」するところがすごい。
いちばん気に入ったのは『姫国山海録』という18世紀の写本(東北大学附属図書館)。諸国に出没した幻獣や妖虫25種の姿を淡彩で描きとめ、漢文でその特徴などが記録されている。信じられないほどゆるい。もちろん展覧会の図録も買ったんだけど、写真が小さくて文章が読みにくかったので、関連グッズ売り場で売っていた本書を買ってしまった。しかし、図録も本書も14種の図版しか載っていないので、クリアファイル(図版25種全部あり!)と一筆箋まで買ってしまいましたよ。
本書は文庫本サイズを横に引き伸ばしたくらいの小型サイズなのだが、収録作品のチョイスが卓抜で、どのページを開いても、可笑しさがこみあげてくる。特に、浮世絵など大判の作品から「ここが可笑しい」という部分を切り取るセンスは抜群である。月岡芳年『源頼光土蜘蛛ヲ切ル図』の、シーツをたたむメイドさんみたいな土蜘蛛、アップにするとあざらしに似ている…。国芳『道外化もの百物がたり』も、画面の端のほうで固まっている化け物の変なポーズが可笑しい。
私がいちばん好きなのは、本書の分類でいうと、『百妖図』(19世紀、大屋書房)などの「ふしぎ系」と、『姫国山海録』を含む「むし系」妖怪である。「むし系」には『針聞書(はりききがき)』(16世紀、九州国立博物館)も含まれる。この資料は、以前から九博が「推し」なのは知っていたけど、いまいち面白さが伝わっていなかった。九博の売り方は、かわいくデフォルメしすぎだと思う。その点、本書は「推し」すぎないで、けっこう冷淡なのが、かえってじわじわくるのである。
「ゆるかわ」を通り過ぎて完全に「キモかわ」なのが、「いきもの系」妖怪を描いた『大石兵六物語絵巻』(18世紀、歴史民俗博物館)。「頬紅太郎」とか「てれめんちっぺい」とか「このつきとっこう」とか、水木しげるも描かなかった妖怪だ(たぶん)。
しかし、何度でもいうが、天下の奇本『姫国山海録』をよく発掘したなあと思ったら、著者の安村敏信先生は東北大学のご出身なのである。もしかしたら、学生時代から、この資料の存在を御存知だったのだろうか。そして、やっぱり狩野文庫(狩野亨吉旧蔵書)なのね。
まだレポートを書いていないのだが、江戸東京博物館の『大妖怪展』(2016年7月5日~8月28日)を見て来た。めちゃくちゃ楽しかった!!! 行く前にチラシやホームページを見たときは、ほう『百鬼夜行絵巻』真珠庵本が出るのか(8/2-28)、国宝・辟邪絵の『神虫』ね(7/5-31)など、いわば定評のある妖怪資料に関心が向いていた。ところが、行ってみたら、見たことも聞いたこともない、面白い資料が続出で、すっかり心を奪われてしまった。いやー展示企画者(学芸員?)の方は、よくこんな面白い資料を見つけたなあ。そして、見つけるだけでなくて、これは絶対みんなが面白がる、と確信をもって「展示」するところがすごい。
いちばん気に入ったのは『姫国山海録』という18世紀の写本(東北大学附属図書館)。諸国に出没した幻獣や妖虫25種の姿を淡彩で描きとめ、漢文でその特徴などが記録されている。信じられないほどゆるい。もちろん展覧会の図録も買ったんだけど、写真が小さくて文章が読みにくかったので、関連グッズ売り場で売っていた本書を買ってしまった。しかし、図録も本書も14種の図版しか載っていないので、クリアファイル(図版25種全部あり!)と一筆箋まで買ってしまいましたよ。
本書は文庫本サイズを横に引き伸ばしたくらいの小型サイズなのだが、収録作品のチョイスが卓抜で、どのページを開いても、可笑しさがこみあげてくる。特に、浮世絵など大判の作品から「ここが可笑しい」という部分を切り取るセンスは抜群である。月岡芳年『源頼光土蜘蛛ヲ切ル図』の、シーツをたたむメイドさんみたいな土蜘蛛、アップにするとあざらしに似ている…。国芳『道外化もの百物がたり』も、画面の端のほうで固まっている化け物の変なポーズが可笑しい。
私がいちばん好きなのは、本書の分類でいうと、『百妖図』(19世紀、大屋書房)などの「ふしぎ系」と、『姫国山海録』を含む「むし系」妖怪である。「むし系」には『針聞書(はりききがき)』(16世紀、九州国立博物館)も含まれる。この資料は、以前から九博が「推し」なのは知っていたけど、いまいち面白さが伝わっていなかった。九博の売り方は、かわいくデフォルメしすぎだと思う。その点、本書は「推し」すぎないで、けっこう冷淡なのが、かえってじわじわくるのである。
「ゆるかわ」を通り過ぎて完全に「キモかわ」なのが、「いきもの系」妖怪を描いた『大石兵六物語絵巻』(18世紀、歴史民俗博物館)。「頬紅太郎」とか「てれめんちっぺい」とか「このつきとっこう」とか、水木しげるも描かなかった妖怪だ(たぶん)。
しかし、何度でもいうが、天下の奇本『姫国山海録』をよく発掘したなあと思ったら、著者の安村敏信先生は東北大学のご出身なのである。もしかしたら、学生時代から、この資料の存在を御存知だったのだろうか。そして、やっぱり狩野文庫(狩野亨吉旧蔵書)なのね。