見もの・読みもの日記

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〈複製〉動植綵絵30幅を堪能/伊藤若冲展(承天閣美術館)

2016-07-19 23:00:57 | 行ったもの(美術館・見仏)
承天閣美術館 生誕300年記念『伊藤若冲展』(2016年7月1日~12月4日)

 関西旅行2日目は近江八幡のホテルで目覚めた。朝から祇園祭の山鉾巡行を観に行くつもりが、うっかり寝過ごしてしまったので、最初に美術館に行くことにする。承天閣美術館でも若冲展をやっているというのは、京都に来て初めて知った。観光案内所で入手したチラシに、地味に「相国寺観音懺法を荘厳する 動植綵絵30幅(コロタイプ印刷による複製品)を一堂に展示」という説明があって、え、どういうこと?と思って訪ねたら、そのまんまだった。第1展示室(2007年に釈迦三尊像+本物の動植綵絵30幅が展示された部屋)に入ると、あのときの展示が再現されていた。ただし室の中央に茶室「夕佳亭」の模型があるので、一目で全貌は見渡せない。

 コロタイプというのは美術品の複製に適した印刷技術である(※詳しくは、便利堂のホームページで)。若冲描くニワトリの複雑華麗な羽根の色と質感も見事に再現されていた。複製であることは、ほぼ意識にのぼらない。そして、東京都美術館の『若冲展』と違って、作品の正面に飽きるまでたたずんでいても誰にも怒られないから、「蓮池遊魚図」の蓮のピンク色がきれいだなあとか、「桃花小禽図」の白い鳩(?)の足の踏ん張り方が鶴亭に似ているとか、「雪中錦鶏図」の落款は「錦街若冲製」(錦小路のことか)であるなど、いろいろなことに気づく。「群魚図」を見ていたおじさんが「あれメバルや。あれはサヨリや」と迷いなく言い当てているのも面白かった。

 第2展示室では、鹿苑寺大書院旧障壁画がなんと全部(たぶん)見られる。常設の「葡萄小禽図床貼付」「月夜芭蕉図貼付」のほか、「竹図」「芭蕉叭々鳥図」「葡萄小禽図(襖絵)」「松鶴図」「菊鶏図」「秋海棠図」「双鶏図」。展示ケースの中ではあるけれど、襖を嵌め込む柱や欄間をしつらえて、部屋の一部らしく見せる展示方法が心憎い。ほかにも中国絵画の『鳳凰図』(明・林良筆)とそれを写した若冲の『鳳凰図』、力強い『玉熨斗図』、ちょっと鶴亭を思わせる『芭蕉小禽図』など。

 面白かったのは久保田米僊(1852-1906)の描いた『伊藤若冲像』。明治18年(1885)相国寺で若冲の八十五回忌法要と作品の展観が行われた際、古老の追憶話をもとに生前の若冲の風貌を推定して描かれたものと伝えられている。若草色の衣、ほぼ禿頭、鼻の下と顎に黒い髭あり。けっこう目付きが鋭い。まあ八十五回忌では、生前の若冲を記憶している人が本当にいたかどうかねえ。なお第1展示室に出ていた『参暇寮日記』(相国寺の寺務日記)によれば、釈迦三尊像+動植綵絵は相国寺の公的な法要だけでなく、若冲自身の年忌法要にも掛けられたようだ(文政7年、二十五回忌)。なんだか、うらやましい。

 明治になって窮乏した相国寺は、動植綵絵30幅を皇室に献上し、金1万円を下賜されることで、寺域を保ったというのは(若冲ファンには)有名な話だが、今回の展示に「宮内大臣子爵土方久元」と大書した封筒と、宮内庁の罫紙に記された文書が出ており、伊藤若冲筆「花鳥画幅」が「今般御用相成候」(偉そう!)「依テ寺門保存費トシテ金壱萬圓下賜候事」とある(明治22年3月15日 宮内省)。

 そのあとに30幅の目録があったので、参考までにメモしておいた。蘆雁図/雪中錦鶏図/鵞図/牡丹図/松白鸚鵡図/月梅図/群鶏図/松白鶏図/紫陽花鶏図/南天鶏図/芙蓉鶏図/棕櫚鶏図/大鶏雌雄図/梅花図/紅楓図/大菊図/薔薇図/雪柳鴛鴦図/鶴図/芍薬蝶図/蓮図/桃花図/禾雀図/諸魚図/諸虫図/貝甲図/群魚図/白鳳図/松孔雀図/鶏日車図。…現在の標準的な名称と若干異なるが、どの作品を差すかはだいたい推定できる。しかし「諸魚図」と「群魚図」はどっちがどっちか、分からないなあ。

 なお、今回の展示での30幅の掛け方は以下のとおり。東京都美樹館の『若冲展』と比較できるように『釈迦三尊像』の隣から遠ざかる方向へ記録してある。

右(上手)/左(下手)
1 老松孔雀図/老松白鳳図
2 芍薬群蝶図/牡丹小禽図
3 梅花皓月図/梅花小禽図
4 南天雄鶏図/向日葵群鶏図
5 蓮池遊魚図/秋塘群雀図
6 老松白鶏図/棕櫚雄鶏図
7 雪中鴛鴦図/雪中錦鶏図
8 紫陽花双鶏図/芙蓉双鶏図
9 老松鸚鵡図/梅花群鶴図
10 芦鵞図/芦雁図
11 薔薇小禽図/桃花小禽図
12 群鶏図/大鶏雌雄図
13 池辺群虫図/貝甲図
14 菊花流水図/紅葉小禽図
15 群魚図(蛸)/群魚図(鯛)

 部屋を一周しながら歩いていると気が付きにくいのだが、実は左右の対比に気をつかっていることが分かる。このコロタイプ複製展示、12月までやっているのかしら。春の東京都美術館の大行列&大混雑にうんざりした若冲ファンはぜひ行くべき。
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