見もの・読みもの日記

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禅宗の世界を多角的に/大般若経と禅宗(五島美術館)

2017-10-01 22:30:24 | 行ったもの(美術館・見仏)
五島美術館 秋の優品展『大般若経と禅宗』(2017年8月26日~10月15日)

 ポスターのビジュアルが経文なので、なんとなく古写経とか墨蹟とか、文字ばかりが並ぶ展覧会を想像して行ったら、意外と絵画資料が多くて、華やかな展覧会だった。入ってすぐ目につくのは、北魏の小さな金銅仏坐像。光背の唐草文、内衣の装飾的な格子文、台座に浮彫にされた天女や供養人らしき者の姿など、細工が精密である。調べたら、これまでも時々、優品展などに出ているらしいのだが、あまり意識したことがなかった。鍍金がかなり残り、一部は剥落して黒ずんでいる。

 展示室を囲むケースの四分の三くらいは絵画資料だった。はじめは白描で、『曼荼羅集』は勧修寺の僧・興然が「別尊曼荼羅」と呼ばれる図像を編纂したもの(現存最古本)。展示されていた箇所は「持世菩薩(じせぼさつ)」だと思う。丸顔でかわいい菩薩が宙に浮いていて、まわりを天女が舞っていた。判読しにくいが「高山寺」の朱印あり。『白描執金剛神像』も印はないが高山寺旧蔵。『白描四天王図像』4幅も「高山寺」印あり。原本を見て写しているのか、トレースしているのか分からないけど、描線に勢いがあって気持ちいい。

 続いて、墨跡(墨蹟)。大ぶりのゆったりした文字に惹かれる。蘭渓道隆の『風蘭』二字の草書はいいなあ。ラーメン屋の屋号みたいだけど。無学祖元の『開長楽和尚嗣法書上堂語』も、一行四~五文字で余白の広い書。「一」の勢いのなさが好きだ。一山一寧の『園林消暑』は自由で気持ちのいい草書。『寒林』二字は一山一寧の書風だが確証はないそうだ。

 中央列の低い展示ケースと、いちばん奥の壁際は、古写経の展示になっている。藤原教長筆『般若理趣経』は、やや横長で、全くブレのない謹直な筆跡。絵巻の詞書など仮名交じりの筆跡の印象とはだいぶ異なる。展示室の折り返し列は、また絵画。月下に(月は描かず)経巻を開く禅僧を描いた『対月図』(南宋)、牛に乗った禅僧の後ろ姿を描く『政黄牛図』(元代)がよい。どちらも線や形を単純化した自由な表現。後者は、薄い墨で牛を描いているのが面白い。

 『霊昭女像』は、元の顔輝筆と伝えるが、実際は室町時代の作と見られている。伝説では、禅学者の娘ということだが、口元のほうれい線とか髪の毛のほつれとか、生活の苦労が妙にリアル。手には売りものの竹籠とともに銭の束(!)を持っている。奈良博に同一の図像があるそうだ。目の両端に影を入れる白目の描き方は、神護寺の頼朝像と同じだと思った。隣りは下村観山の『臨済』で。横山大観、寺崎広業と、近代画家の作品が並ぶのだが、特に違和感はない。

 中央列の大般若経は、紺紙金字の装飾経も多少あるが、スタンダードな古写経(茶色い料紙に墨書)が圧倒的に多い。好きな人は、微妙な字形の違い(典型的な写経生の文字か、崩れがあるか)が楽しいんだろうな。「法隆寺虫喰経」と称される経切があることを初めて知った。

 第2室は、志野、黄瀬戸、織部など桃山古陶を中心とする陶芸の特集。少し自然光が入る、明るい雰囲気が好ましい。古伊賀水指「破袋」が出ていて、360度周囲から眺めることができ、斜めにへたってつぶれた感じがよく分かる。暗誦に乗り上げた船か、坂の途中で停止した重戦車みたいだ。同様に、鼠志野茶碗「峯紅葉」も360度回りながら鑑賞できる。茶碗の内と外の模様が、ちゃんと見る位置を計算して描かれており、印象がくるりと変わるのが面白い。ぜひお試しを。なお、国宝『紫式部日記絵巻』の展示は、10月7日~10月15日である。
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