見もの・読みもの日記

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美の冒険/江戸の琳派芸術(出光美術館)

2017-10-06 22:46:58 | 行ったもの(美術館・見仏)
出光美術館 『江戸の琳派芸術』(2017年9月16日~11月5日)

 江戸琳派、すなわち江戸時代後期に活躍した絵師・酒井抱一(1761-1828)と、抱一門きっての俊才・鈴木其一(1796-1858)の絵画に注目した展覧会。だいぶ前に行ったので、思い出しながら書く。出光美術館の展示室は、いつも薄暗くて落ち着いた空間なのだが、さすが江戸琳派の作品が揃うと、足を踏み入れた瞬間から、まばゆいほどの華やかさに包まれる感じがする。

 いきなり冒頭に酒井抱一の『夏秋草図屏風草稿』と『風神雷神図屏風』。前者は、光琳の『風神雷神図屏風』の裏面に描かれた『夏秋草図』の原寸大(たぶん)の草稿を屏風仕立てにしたもの。銀地の完成品よりも、精密でしかも躍動的な描線がはっきり分かる。この夏秋草図を裏返して風神雷神図にあてはめる(透かしてみる)と、両者の構図がぴたりと収まると言われている。展示室の角を挟んで隣りの『風神雷神図屏風』を眺めながら、頭の中で試行してみるが。夏秋草図を裏返す一手間がなかなか難しかった。『風神雷神図屏風』は、私は宗達がいちばん好きで、次は光琳より抱一だな。

 伝・光琳筆『紅白梅図屏風』は、久しぶりに左右揃いでの出品ではないか。紅梅のほうが単独でも主役になれる華やかさを持っているが、金地の広い余白の中に長い枝を伸ばした白梅図も私は好き。そして、背景の池とか石の描き方が抽象画になりかかっていて面白い。その隣りに抱一の銀地の『紅白梅図屏風』。どちらも水平に大きく張り出した枝ぶりで、視点を変えると、屏風の折り目に一部が隠れて印象が変わるのが面白い。向かいに抱一の『八ツ橋図屏風』という、むちゃくちゃ豪華な空間。

 第2室は抱一と其一の、小粒だが贅沢で芳醇な作品の数々。抱一の『藤花図』いいなあ。其一の『三十六歌仙図』大好きだし、『蔬菜群虫図』はちょっと若冲みたい。抱一が浮世絵を描いているのも珍しかった。

 琳派を結ぶ花「立葵(タチアオイ)」に注目したコーナーも面白かった。伝・光琳筆『芙蓉図屏風』は、黒(紺)、黄、緑という非現実的な配色がシックで素敵。この配色、乾山の焼きものにあった気がする。いや、そもそも三彩の配色か。乾山筆『立葵図』の単純化された紅白の花もかわいい。光琳忌(旧暦6月2日)の頃に見ごろを迎える花のひとつでもある。

 抱一の『十二ヵ月花鳥図貼付屏風』は、むかしは平凡に思えたが、一周まわって、やっぱり好きと思うようになった。この色、このかたち。そばにおいて、毎日愛でたいのはこういう絵画だ。その一方、抱一は『青楓朱楓図屏風』のような冒険的・革新的な作品も描いている。これこそ「奇想」だと思う。あまり見た記憶のない作品で、調べたら、2012年に根津美術館の『KORIN展』で見ているのだが、「光琳作品を抱一が模写したもの」という解説に引きずられて、光琳すごい!と感嘆している。いやいや、そこは抱一すごい!だろう、とあらためて思う。

 同じ金地の花木図屏風で師匠に挑戦したのが其一の『四季花木図屏風』。これはまた、つくづく前衛の方向に行っちゃっていると思う。また正面ではなく別方向からパンチを繰り出すような挑戦のしかたが『桜・楓図屏風』。其一の小品集『月次風俗画』(もとは屏風に貼り付けられていた)も面白い。私は「葛と蹴鞠」「鬼灯(ホオズキ)と麦藁蛇」の図が、いかにも江戸情緒を感じさせて好き。

 図録は写真の発色がとてもいい。特に金屏風が美しくて、眺めているだけで幸せにひたれる。
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