2020年元旦。台北の天気は、どんよりした曇り空だが、幸い雨は落ちていない。台湾は旧暦で新年を祝うが1月1日だけは国定の休日。ただしこれは新暦の元旦を祝っているのではなくて「中華民国開国記念日」であることは、ネットで調べて初めて知った。
ホテルで朝食をとり、今日の目的地、総統府へ向かう。実は今年の台湾旅行を年末ではなく正月にあわせたのは、元旦の総統府見学会に参加するためなのだ。見学時間は9時からとあったので、20分前くらいに到着すると、建物の裏側(西側)の博愛路に北から南へ長い列ができていた。
「憲兵」の黄色いジャンパーを来た職員が手際よく見学者を誘導する。日本人は少なかったと思う。入場時に日本のパスポートを見せると「コンニチワ~ヨウコソ~」と応じてくれた。和気藹々としたムードだが、銃を構えて警備にあたる職員もいた。
本来の見学ルートは来賓用の正面玄関から建物に入るらしいのだが、混んでいる時間だったので脇の入口から中に入れてくれた。まずは総督府の正面中央のエントランスホールと大階段。正面には孫文の胸像。ドーム型の天井、白亜の壁が清潔で美しい。職員の方が見学者ひとりひとりに赤い巻紙を手渡す。蔡英文総統と陳健仁副総統による「春聯」である(→画像)。
階段を上がって3階へ。通りすがりの部屋の入口に「恭賀新禧」の春聯が貼ってあり、小さく「蔡英文、陳健仁」の署名が添えてあった。
3階のメインはこの「大礼堂」。正面には国旗と孫文の肖像。白い壁とふかふかの赤い絨毯の対比が印象的。政府の主要行事や国賓をもてなすパーティに使われるホールだが、置いてある椅子に勝手に座っても全く怒られないのが太っ腹。
なお、翌日1月2日の朝、台湾では軍用ヘリのブラックホーク(黒鷹)が墜落し、参謀総長ら8人が死亡するという大事故があった。そのニュースで、参謀総長の沈一鳴氏が蔡総統から任命を受けたときの映像が何度も流れていたのが、まさにこの礼堂でのセレモニーだった。
隣りの「台湾虹庁」は政府主催の宴や報道陣とのインタビューが行われる部屋。ここまでは月1回の休日見学会(元旦に限らない)でのみ入れるエリア。
続いて1階へ。1階は平日見学(月~金)でいつでも入れる展示エリア。建築の特色・沿革や総統府の日常、写真や絵画など、多様な側面から総統府を紹介する。畏れ多くも勲章や玉璽も。「中華民国之璽」は緑玉(ヒスイ?)に刻まれているのだな(展示は複製)。
一方で「総統府にはさまざまな職員が働いています」という観点から、制服、自動車修理工具、植木バサミ、食器なども展示されていて面白かった。カリグラファー(書道家)も雇用されていて、重要な社会的イベントにおいて総統や副総統の代筆をつとめるのだという。右筆だなあ。
また「人民の声を聴く」と題したセクションでは、デモや政治運動の数々が写真パネルで紹介されていた。1990年の野百合学生運動、2014年のひまわり学生運動、そのほか、動物愛護、女性運動、LGBTパレードなども。いまの民進党政権だからできることだと思うが、これには本当に驚いた。展示導入部のキャプションを(正確に訳せないので)書き留めておく。
「人民聚集在総統府前広場/透過集体的力量表達訴求/参与公共事務、推動社会改変/這些喧嘩而多元的声音/表現了台湾的民主/也体現了人民的力量」
たとえば日本の政府官邸が安保法制の反対運動をこのように紹介することは考えられないものなあ。
中庭の回廊の壁には、総統府をモチーフにしたアート作品の数々。この蔡英文総統執務の図は、いくらなんでも萌化しすぎだと思うが、ファンアートなので許して。
総統府公式では、総統も副総統もこんなドット絵になっている。これは総統就任時の記念切手をそのままタイルにしたもの。
見学出口にはこんな大型パネルがあって、片手を上げて執務室から身を乗り出す蔡総統、窓枠に座る陳副総統と写真が撮れる。愛されているなあ。
総統府は、約20年前の初・台湾旅行でも見学した記憶があるが、何を見たかはあまり覚えていない。民進党の陳水扁氏が総統になったばかりの頃だったが、まだこんな開放的な雰囲気はなかったと思う。英語で案内してくれたボランティア(?)の方が「私は李登輝さんが大好き」と言っていたことだけ覚えている。
次は台北賓館へ。(1/5記)