見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

黄金週2011関西遊(5/6):三室戸~宇治、釈尊と親鸞(龍谷ミュージアム)

2011-05-08 19:54:16 | 行ったもの(美術館・見仏)
 関西ツアー最終日(5/6)。今日は職場に呼び戻されてもやむを得ず、と思っていたが、メールチェックをして、何も起きていないので、このまま休暇を楽しむことにする。

■西国第十番 明星山三室戸寺(京都府宇治市)

 西国巡礼2巡目は、これでようやく11ヶ所目。三室戸寺の観音様は、昔の看護婦さんんみたいな高い帽子をかぶった愛らしいお姿である。秘仏ご本尊は、ふだん拝することができないが、お前立ちもよく似ている。二臂の聖観音なのに「千手」と呼ばれているわけは、前回の拝観のとき(※記事)判明した。境内には、親鸞の父・日野有範の墓の上に建てたと伝えられる阿弥陀堂が残る。大遠忌つながりで来てみたが、関心を示す参拝客はいなかった。ぶらぶら歩いて宇治へ。

平等院(京都府宇治市)

 本日の目的は、山門を入って左手の藤棚。すごい! 満開である。平等院のサイトにも「藤の開花状況」が掲載されているが「今年の藤は一つ一つの花も大きく、房も長いもので140cmとよく伸びています」とのこと。年によって花つきが違うんだな。昨年のゴールデンウィークに見に行った春日大社の「砂ずりの藤」は全く期待外れだったが、これには大満足。花の姿もいいが、風が通ると得も言われぬ芳香が立ちこめる。



 次いで、平等院ミュージアムへ。京博の『法然』展と連動して『法然とその聖なる民俗』を開催中(2011年3月19日~7月8日)。江戸ものが多いが、近世の上人信仰の有り様が分かって、面白かった。御遠忌に頒布された法然上人御影の版木は、顔と手の周囲が嵌め込みになっていて、別人の御影の使い回しではないか、とか。

 鳳凰堂内部は参拝しなかったが、ミュージアムでデジタル復元された扉絵を見ることができた。くの字型にカーブを切りながら来迎する仏たちは、スピード感あるなあ。九品往生それぞれ、お迎えが違うという説明を読み、ひそかに下品上生くらいを目指そうと思う。阿弥陀様は来てくれないんだけど、まあいいやと。

龍谷ミュージアム 開館記念および親鸞聖人750回大遠忌法要記念展『釈尊と親鸞』(第1期:2011年4月5日~5月22日)

 2階と3階が展示室になっており、3階が「親鸞」特集。見応えあり。友人が「(京都市立美の親鸞展より)こっちのほうがおすすめ」と言っていた気持ちは分かる。所蔵者情報を見ていくと「龍谷大学」とあるのは経巻や江戸の書籍など、ごく一部だけ。あとは借りものなのだが、この出陳者が全国にまたがっている。福井、富山はもちろん、茨城、神奈川、東京など関東にも及ぶ。さすが龍谷大学&真宗寺院のネットワーク。茨城・円福寺の阿弥陀三尊像は、どことなく土臭い、東国らしい仏像だと思ったが、まさか京都でこんなものに出会うなんて。

 2階「釈尊」には、ガンダーラ仏など。また、中国・トルファン郊外にあるベゼクリク石窟寺院の壁画回廊の復元展示が行われている。ベゼクリク、現地に行ったな~。懐かしくて、感慨深かった。こういう体験展示は、どんどんやってほしい。
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黄金週2011関西遊(5/5):賀茂の競馬(上賀茂神社)

2011-05-08 12:37:23 | 行ったもの(美術館・見仏)
 上賀茂神社で行われる「賀茂の競馬(くらべうま)」を見に行った。競馳(きょうち)は14:00開始という情報を得ていたが、私は少し遅れて到着。それでも、まだ第一の番(つがい)が馬場に入って、三遅(さんち)という足馴らしが行われているところだった。せっかくの機会なので、有料観覧席(500円)に入って見物。ただし、いちばん見やすい席は神職やその関係者でないと入れない。

 乗尻(のりじり=乗り手)の装束は、昨年の葵祭と同じ。顔ぶれにもなんとなく見覚えがある。オレンジ系の装束をつけた左方(さかた)、緑系の装束の右方(うかた)に分かれ、六番勝負を行う。出走前に「○○の国、○○の庄」というアナウンスがあるのは、馬の産地を言っているのかと思ったが、調べたら「社人が荘園の馬で勝負を争ったことから、馬に荘園名をつけるならわしとなっている」と説明されていた。

 第一の番は、左方の馬が走り出してから、かなり時間を置いて右方が走り出す。第一番だけは左方の倭文庄(しどりのしょう)の勝ちと決められているためだ。このへんが神事らしい。真剣勝負は第二番から。



速い! 中央競馬で走った経験もある馬だという。↓神馬(白馬)も本気で走る。



↓右方の念人幄(世話役席)は馬場に面しているのだが、左方は観客席の後ろにあって見えないため、その隣りに左方後見高台が設けられ、勝負の結果を報告する(たぶん)。



↓こちらは右方念人幄。2種類の扇の開きかたで結果を左方後見高台に知らせているところ(たぶん)。これは第六番で、左方のベテラン乗尻に対し、右方の最も若い乗尻(中学三年生!)が挑んだ勝負。結果は「持」だった。



↓勝者には念人から白絹が与えられ、乗尻はこれを鞭で受け取る。「持」のときは、双方に白絹が与えられる。今年は左方3勝、右方1勝、持2番。左方が勝つとその年は「五穀豊穣」だそうだ。逆はどうなんだろう?



↓午後3時過ぎ、競馳が終わると境内隅の庁幄と呼ばれる建物に移動して直会(なおらい)の儀。見ていた若者が「飲み会やん」とツッこんでいたが、そのとおり。勝ち栗もふるまわれる。



 神事が全て終わると、世話人のおじさんが「はい、ここからフリータイムです!どうぞ~」と観客に声をかける。ええ~。乗尻や神職もやれやれといった表情で、家族や近所の人々、観光客との写真撮影にも応じてくれる。おもしろかった。

※参考:賀茂別雷神社(上賀茂神社)社家生まれの山本宗尚氏のサイト

※参考:ブログ:ノルマ!! 京都のイベントや社寺を主とした写真日記的ブログ
2010年の写真記事が中心。
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黄金週2011関西遊(5/5):親鸞(京都市美)、書斎の美術(泉屋博古館)、若冲(承天閣)

2011-05-08 10:05:28 | 行ったもの(美術館・見仏)
 京都泊2日目(5/5)は市内の見どころを周遊。市バス1日乗車券を大活用。

京都市美術館 親鸞聖人750回忌 真宗教団連合40周年記念『親鸞展 生涯とゆかりの名宝』(2011年3月17日~5月29日)

 朝イチは9:00開館のここから。京都の友人に「文書ばかりでつまらなかった」と聞いていたので、その気持ちで入る。確かに、親鸞そのひとに興味がないと、あまり面白くないかもしれない。あと真宗って、外国(中国)との関連が薄いから、その点でも地味に感じるんだなあ。後半の聖徳太子信仰や善光寺信仰のセクションで少し持ち直すが、会場が広いので、スカスカ感あり。

 これで終わりか…と出ようとした最後のホールで、竹内栖鳳の『飛天舞楽図草稿』3幅を、文字どおり仰ぎ見る。これは! 前の展示室に同じ飛天図の色つきの小品(散華)があって、以前、この京都市美の『画室の栖鳳』で見たことは思い出していた。東本願寺の御影堂門楼の天井画として構想されたが、実現しなかったものだという。そのとき、会場で「原寸大で描かれた下絵もあるんですが、7メートルくらいあるので、簡単に展示ができなくて」という会話を聞いた…ような気がする。無言の大画面から推敲の末に生まれ出た飛天の裸体が美しい。

泉屋博古館 『書斎の美術-明清の玉・硝子・金工を中心に』(2011年3月12日~6月26日)

 展示室に入り、入口右列の展示品のフォルムを遠目に一瞥したとき、ん?今回は古代の工芸品が特集だったかしら、と思う。近寄って解説を読んで納得。全て明清の「倣古品」なのである。古代の青銅器によくある「爵」や「鼎」「方鼎」の形そのまま、白玉や紫檀でつくっている。要するにレプリカだが、品があって愛らしい。中には、古代の獣文を忠実に写し、金色の地金に緑青で古色をつけた(わざと?)ものもある。出光、静嘉堂、東博などからの出陳品も多くて、物珍しかった。ほか、いかにも明清らしい玉製品、鼻煙壺など。併設の特集陳列『内藤湖南博士旧蔵の中国書跡』は「中国書籍」かと思ったら「書跡」で、前期は乾隆帝、左宗棠など。後期(5/8~)は康熙帝、曽国藩などに変わる。

承天閣美術館 特別展示『若冲水墨画の世界』(2011年3月19日~5月10日)

 若冲が描いた鹿苑寺(金閣寺)大書院障壁画(※詳細図/全画像あり)の修理完成記念。同館では、これまでも「葡萄小禽図」と「月夜芭蕉図」を見ることができたが、50面全部を一挙に見る機会はなかなかないので行ってみた。書院の障壁画って、もとは走獣→花鳥→人物→山水みたいなルールがあったはずだが、こんなに自由に描いていいのかな。若冲の自由に任せたスポンサーの梅荘顕常(大典禅師)も偉い。私は四之間の「秋海棠図」と「菊鶴図」が好きだ。後者は菊の立ち姿が若冲らしい。

 他にも館蔵の若冲水墨画をまとめて見ることができる。朝鮮絵画の模写の例としてよく出る『竹虎図』に大典の賛(画と同じ大きさで、別表装されている)がついていること、相国寺に伝わる明・林良の水墨画『鳳凰石竹図』とこれを模写した若冲作品の対比なども面白かった。

 このあと、昼食抜きで上賀茂神社(賀茂の競馬)に移動。以下は別項で。
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黄金週2011関西遊(5/4):西国第二十九番・松尾寺

2011-05-07 23:31:24 | 行ったもの(美術館・見仏)
■西国第二十九番 青葉山松尾寺(京都府舞鶴市)

 朝(5/4)大阪のホテルをチェックアウトし、京都へ向かう。京都駅で荷物をコインロッカーに放り込み、山陰本線のホームへ。今日は西国札所のひとつ、松尾寺(まつのおでら)に参拝することに決めた。前回の参拝は2009年8月のことで、秘仏ご本尊を拝することはできたが、宝物殿を見られなかったのが心残りだったのだ。今はちょうど、第六回春季展観(2011年3月20日~5月23日)を開催中である。

 松尾寺駅着。道標を頼りに同寺へ向かう。記憶によれば、途中、舗装道路と山道の分岐点に行き当たる。正規の松尾寺ルートは舗装道路を示しているのだが、山道にも「松尾寺古道」のような手書き看板が立っていた。前回の参拝は夏の盛りで、古道は夏草に埋もれ、足元も軽装(サンダル)だったので、正規ルートを選んだのだが、あとで巡礼仲間の友人に聞いたら「あの道は趣きがあっていいですよ」とのこと。今回は、ぜひ古道ルートを選ぼうと決めていた。



 上がその古道の入口で、短い若草がいい感じだが、前回あったはずの「松尾寺古道」の看板がない。わずかに赤い丸が見えるのが「NPO西国古道ウォーキングルート」という看板。確かここだったよな~と記憶を信じて山道に入る。15分くらい歩くと、結局、舗装道路に合流するのだが、山道のほうが距離も短く、坂もなだらかで、歩きやすいと思った。

 さて松尾寺に到着。本堂をのぞくと、鎖されたお厨子の前に黒光りする馬頭観世音がいらっしゃる。記憶は定かでないが、前回は、あのお厨子が開いていたはずだ。ご朱印をいただきながら「宝物館を拝見したいんですが」と申し出ると、「宝物館のお客さんだよ」「はい」というリレーがあって、ひとりのお坊さんが立っていくのが見えた。

 宝物館に入ると、待っていたお坊さんから、いろいろ詳しい説明をいただいた。山門の金剛力士立像(仁王像)は解体修理を終えて久しぶりに戻ってきたこと。墨書の発見を期待したが出なかったこと。絵画『愛染明王像』は同寺に伝来したのではなく、明治10年代に住職が京都で購入したものであること。『普賢延命菩薩像』(国宝)は、年60日程度の公開が目安とされているが、この宝物館で春秋各1ヵ月公開することになったので、もう他にはあまり貸出できないこと。『孔雀明王像』(旧国宝・重文)はトーハクに貸し出したきり、一向に返ってこないこと、等々。宝物館に出ていた絵画は3点だけだったが、ほかにも優品をお持ちなので「展示替えをなさるんですか?」とお尋ねしたら「うーん、だいたい決まってきちゃいましたね」とのこと。『松尾寺参詣曼荼羅』は大きいので、ひとりで巻くのが大変なのだそうだ。

 再び古道を下って松尾寺駅へ。前回参拝のとき(※記事)、駅舎で見かけたにゃんこの写真を掲載しておいたら、あるとき、Yahoo!トピックスで「松尾寺駅の猫」が取り上げられ、私のブログに空前のアクセスをいただいた。今日は姿が見えないなあと思ったら、外の自転車置き場でおひるね中だった。元気で何より。



 また来るからね!
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黄金週2011関西遊(5/3):長沢芦雪(MIHO)、中国書画(黒川古文化研)

2011-05-07 21:38:24 | 行ったもの(美術館・見仏)
 大阪のホテルを起点に、いろいろ考えた結果、今日(5/3)は東西に広域移動することに決めた。交通費はかかるが、意外と時間は有効活用できる案なのである。

MIHOミュージアム 春季特別展『長沢芦雪 奇は新なり』(2011年3月12日~6月5日)

 冒頭で、あれ?と思ったのは、応挙門下の蘆雪(芦雪)と源が共作した『唐美人図』対幅。蘆雪は落ち着いた年増美人を、源は年若い清楚な美人を描いているのだが、その源筆の図様に見覚えがある。府中市美術館の『江戸の人物画』に蘆雪筆『唐美人図』として出陳されていたものとそっくりだったのだ。いま、図録を並べて確認したが、同一の粉本を写していることは間違いない(蘆雪展26頁、人物画51頁)。ただし、美人の表情は微妙に異なる。なるほど、画家の育成って、こうして行われたんだなあと実感。

 私は蘆雪も昔から好きで、よく見ているので、それほど目新しい作品はなかった。あえて言うと『唐獅子図屏風』(佐賀県立博物館)。狩野永徳みたいな唐獅子を描いてください、って頼まれたのかな。ワカメを頭に載せたネコがすごんでいるみたいで、笑ってしまった。それから『群龍図』(大原美術館)。はじめ数匹かと思ったら、雲の中にうじゃうじゃといる。蘆雪は、鶴でも亀でも童子でも、群れているところを描くのがわりと好きだと思う。

 出陳リストを見ると100件以上が掲載されているが、展示替えがあるため、実際に見ることができたのは、この3分の2ほどか。展示図録を見ると、まだまだ私の知らない蘆雪作品があることが分かった。虎図は、有名な無量寺のものに限らず、たくさん描いているんだなあ。本間美術館の『四睡図』とか個人蔵(?)の『蹲る虎図』とか好きだー。いつか見てみたい。月を描いた作品を集めた「光への関心」の着眼点はすごく面白いと思ったが、この時期は展示が少なかった。残念ながら、図録で確かめるのみ。

黒川古文化研究所 春季展観(第105回展観)名品展『中国書画-受け継がれる伝統美-』(2011年4月16日~5月15日)

 続いては、再び関西中国書画コレクション展の一。黒川古文化研究所へは初訪問である。阪急夙川駅から1時間に1~2本のバスがあることは事前チェックしていた。20分ほど待ってバスに乗ると、どんどん坂を上がっていく。バスを下りたあとも、さらに徒歩で坂を上る。別に山の中ではなくて、普通の住宅街なのだが、ふだん平地で暮らし慣れている東京人には驚異の風景である。

 最後の胸突き坂を登り切って、入館したのは午後3時近くで、こわごわ「何時までですか?」と確かめたら「4時です。まだ十分時間はありますよー」と受付の女性に微笑んでいただいた。展示室は1室だけで、1時間なら(十分ではないが)ちょうどいいくらいではあった。

 私の好みは、武丹『山水図』。画面の奥へ奥へと連なる稜線が大気の中に消えていく。近代的というか西洋画っぽくて、水墨画という感じがしない。顧大申『渓山詩興図巻』は、葉の落ちた山を薄い色彩で描き、この時代(清・康煕3年)特有の寂寥感があらわれていると解説にいう。ほか、画には「倣○○」、書には「臨○○」と題する作品が多くて、明清の人々の古きを尊ぶ気持ちを感じさせた。趙左の『倣古山水図巻』は、米南宮(米フツ)、小米(米友仁)、馬遠、郭熙など諸家の画風を描き分けた小画巻。特定の画の模写なのかもしれないが、いかにも「それらしい」ところがパロディみたいで、ちょっと笑えてしまった。羅振玉旧蔵だという。その羅振玉が清朝官人の服を身につけて、日本の写真館で撮った写真もあった。

 帰りもバス停でバスを待つこと30分ほど。中国書画以外にも、古瓦・古鏡など優れたコレクションを有する研究所なのは承知なのだが、また来ることができるかなー。

 夜は、東京から出てきた友人となんばで会食。
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黄金週2011関西遊(5/2):憧憬(正木美術館)、朝鮮時代の美(東洋陶磁美術館)

2011-05-07 10:51:16 | 行ったもの(美術館・見仏)
 大阪泊。前日は京都で友人と遅くまで飲んでしまったので、早起きできず。今日(5/2)は月曜なので、西国札所めぐりにしようと思っていたが、予定を変更。

正木美術館 2011年春季展『憧憬 室町の風流』(2011年4月2日~5月29日)

 正木美術館は初訪問。ただし南海電鉄忠岡駅からの道順には覚えがある。水曜休館なのを知らずに無駄足を運んでしまったことがあるのだ。警備員の立つ正面玄関の扉が開くと、ロビーも何もなく、正面がチケットブース(映画館みたい)。さらにすぐ脇の視野の範囲から展示が始まっている。簡素といえば簡素。一歩踏み入れば別世界というところが茶の精神に通じるのかな。

 展示室は本当に別天地だった。冒頭の墨蹟は滅翁文礼の『春遊詩』。右肩上がりというより左側にだらしなく流れるような細身の字で、春風駘蕩という言葉が似つかわしい。解説に杭州の春を読んだものという。中ほどの「春愁」の文字に目が留る。禅僧って宗教者である以上にセレブな文化人だったんだなあ、と思う(昨日の『法然』展を思い出し、こういうところが、宗教の純粋性を求める法然から指弾されたんだなあ、とも)。ふわふわと魂の抜けていきそうな文字をきゅっと締めているのが、下に置かれた青磁碗と黒漆天目台。

 あらためて展示室を見渡す。チケットブースの左右それぞれ、10畳間くらい。モルタル(?)づくりのベージュの壁は土の手触りを感じさせ、展示ケースも心やすまる木枠。ふかふかした浅黄色の床は畳の色なのか。肩の力の抜けた展示室で、作品の端正さと気品が際立つ。展示ケースの中の、濃いブルーのビロード張りの展示台は、青磁の青みを引き立てている。青磁袴腰香炉(南宋・龍泉窯)の発色ときたら、翡翠にしか見えない。釉薬(うわぐすり)だなんて、とても信じられない! あと米色青磁の下蕪形瓶に惚れてしまった。なるほど、伝統家屋の壁の色にぴったり合うんだ。以上2件の青磁は常盤山文庫蔵。

 能阿弥筆『蓮図』は久しぶりの再会。同じく能阿弥の『瀟湘八景図』ニ幅は「20年以上公開されていなかったもの」と解説にあった。やわらかな山水は、空気の中に溶け出してしまいそう。子どもがクレパスで描いたような木々。旅人を乗せた驢馬の造型もヘン。でも好きだ。2階は江戸絵画に受け継がれた「室町」を探る。展覧会チラシに紹介されている伊川院(栄信)晴川院(養信)『唐画写画帖』の「桃鳩図」は、もちろん徽宗の桃鳩である。

■千利休屋敷跡~南宗寺~住吉大社

 次の目的地まで時間に余裕があったので、堺で途中下車して、千利休屋敷跡と南宗寺に寄る。さらに住吉大社にも寄り道してご朱印をいただく。これらはまた別項で。

大阪市立東洋陶磁美術館 特別展 浅川巧生誕百二十年記念『浅川伯教(のりたか)・巧(たくみ)兄弟の心と眼-朝鮮時代の美-』(2011年4月9日~7月24日)

 近年再評価の気運が高まる浅川兄弟の事跡を体系的に紹介。展示解説を見ていくと、浅川巧が整理した朝鮮陶磁の写真や原稿は東洋陶磁美術館に入り、旧蔵の陶磁器そのものは、多く日本民藝館に入っているらしい。今回、これを突き合わせて見ることができて面白かった。なお特別展示エリアが、いつもの「企画展示室」以外にもバラけているので、1室だけ見て「これで終わり?」と思わないように。

 浅川伯教の朝鮮陶磁写生図を見ると、伯教には朝鮮陶磁がこんなふうに見えていたんだなあ、と思う。描線が力強い。伯教愛用の粉青茶碗(銘・ミタン洞)は釉の懸け残しがちょっとモダン。巧愛用の平たい粉青刷毛目茶碗は、白釉に布を貼り付けたような文様がある。うーん、どちらも生活の温かみはあるけど、白米ご飯は似合わない感じがする。後半に展示されている広州官窯の白磁は、同じ朝鮮陶磁でも全然雰囲気が違う。白色が違う。

 柳宗悦が河井寛次郎宛てに、巧の葬儀の様子を書き送った手紙、朝鮮民族美術館(景福宮内の緝敬堂にあった)の写真なども興味深く眺めた。後年の伯教が「数寄者」小林一三、益田孝らと交流し、日本文化にも造詣を深めたというのは初めて知った。朝鮮との結びつきが強調されすぎて、あまり語られていなかったことではないかと思う。

 日本民藝館の名品(魚形の水滴も!)や安宅コレクションの名品(青花窓絵草花文面取壺)は何度見てもうれしい。最後は時間が足りず、閉館チャイムに追い立てられる。
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黄金週2011関西遊(5/1):法然(京博)、藤井有鄰館

2011-05-06 23:25:05 | 行ったもの(美術館・見仏)
京都国立博物館 特別展覧会『法然-生涯と美術-』(2011年3月26日~5月8日)

 『法然上人絵伝』を軸に、法然の生涯と思想、また法然をめぐる人々の事跡を展望する。 展示の中心は、国宝『法然上人絵伝』四十八巻(知恩院蔵)及び、各地に散らばるその模本、伝本、断簡等。『絵伝』は、物語としての魅力はあまり感じないのだが、さまざまな社会階層や職能が描き分けられていて、興味深かった。建築、調度、造船、服飾、風俗などの資料として一級品であるとともに、登場人物の仕草や表情の表現が細やかで、人間の「個性」や「感情」を意識している感じがする。民家の床下にイノシシが集まっている図とか、どうでもいい箇所も面白かったけど。

 「ゆかりの美術」では、知恩院の『阿弥陀二十五菩薩来迎図』(早来迎)をはじめとする数々の来迎図を堪能。彫刻(仏像)はちょっと物足りなかった。→※公式サイト

藤井有鄰館 『指定文化財等 中国書画特別展』(2011年5月1日)

 ないと思っていた『関西中国書画コレクション展』のサイトが2/28に立ち上がり、だんだん情報が充実してきた。ありがたいことである。

 藤井有鄰館は、滋賀県出身の実業家・藤井善助氏(1873-1943)が創設した私立美術館。秘仏並みに開館日が限られていて、指定文化財書画は「5月と11月の第1、第3日曜日の正午~午後3時半」しか公開しないという「難所」なので、さすがの私も一度も訪ねたことがなかった。しかし今回は、ここの参観を目的に5/1からの旅行スケジュールを組んできたのだ。獅子の石像に護られた正面玄関には「西門へお回り下さい」の看板。



 チケットは、第1館・第2館の個別or共通券が選べる。指定文化財の中国書画等を展示しているのは第1館で、第2館は明治期フランス人が設計した建築が見どころだという。せっかくなので共通券を購入。

 第1館1階展示室を覗いて、うわ、タイヘンなところに来てしまった…と感じる。巨大な仏像・仏画が、むき出しのまま、ぎっしり並んでいる。法隆寺の仏像を思わせる東魏(5世紀)の石彫り弥勒三尊があるかと思えば、すぐ隣に元代の壁画、清代の梵鐘など、混乱で頭の中が沸騰しそうだ。いい意味で、一時代前の私設美術館の「濃密さ」が残っている。同行の友人が「秘宝館みたいだ」とささやく。

 確か2階にあったのが、乾隆帝の玉座、龍袍(3種類)、そして玉印2件(乾隆御筆之寶と…康煕帝だったかな)。他人事ながら、ええ~こんなものが日本にあっていいの?とうろたえまくる。科挙のカンニング用にびっしり文字を書き込んだ下着は、確か宮崎市定著『科挙』の図版で見たもの。3階が書画。黄庭堅の『草書李太白憶旧遊詩』は、逸品中の逸品の名に恥じない。やっぱり書はスピードだなあ。佐理の『離洛帖』を思わせ(と言ったら、喩えが不相応か?)、もっと闊達で自由自在。特製の展示ケースのおかげで、左右にたっぷり見ることができ、しかも展示ケース内に照明がないためか、非常に見やすいのが嬉しい。絵画では袁耀の『楼閣山水図』(春景)が印象に残った。郎世寧・唐岱合作の『春郊閲駿図』は、意外と小さい画巻で、あまり「西洋風」の感じがしなかった。

 時刻が3時を過ぎてしまったので、慌てて第2館を見に行く。見どころは建築と、あと「明治大帝」と貼り紙された衣装箱とか伊藤博文の書とか近世の民具とかが、雑然と展示(というより保管)されていた。3階の最後の部屋に先に入った友人が「ほお…」と思わず声を上げる。続いて入って、私も息を呑んだ。藤原時代ふうの端正な阿弥陀像が安置されていたのだ。丸みを帯びた穏やかな相貌は、鳥羽の安楽寿院の阿弥陀如来を思い出させた。部屋の入口に「仏殿」という札が掛っており、これは展示品ではなく、ご主人の礼拝の対象であるらしかった。それにしても優品である。古色を感じる幢幡など、荘厳にも意を用いており、空間全体の居心地がいい。無理なのは分かっていても、ご朱印がいただきたかった!!

 館内の案内をしていた女子学生の話では、展示物(書画)は、時によって変わるらしい。「前回と全く変わってるよ~」という会話が聞こえてきた。それでは、機会があったら、また行ってみたい。なお、ホームページ等では「午後3時半まで」と周知されているが、この日は表の看板が「午前11時~午後4時」に訂正されていた。

※参考:理事長・館長の藤井善嗣氏による藤井有鄰館紹介(PDFファイル)
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関西ちょっとグルメ遊

2011-05-06 19:43:52 | 食べたもの(銘菓・名産)
5/1から関西周遊に出かけて、本日5/6帰宅。

基本的にひとり旅なのだが、初日は京都在住の友人2人につきあってもらい、5/3から昨夜までは、遅れて東京から出てきた友人と一緒に夕食を食べていたので、思いのほか、グルメ遊になってしまった。

5/4 奈良町の酒肆春鹿。コース料理に追加した筍の天麩羅が美味しかった。





5/5 京野菜中華の菜根譚蛸薬師店。写真は、上:前菜盛り合わせ、下:華白菜豚鍋(赤大根がアクセント)。京町家の坪庭に面したお座敷でいただく。





西国巡礼、美術館、博物館、季節の伝統行事等、見てきたものの記事は、これから順次UP。
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