○大和文華館 特別展『清雅なる仏画-白描図像が生み出す美の世界-』(2012年10月7日~11月11日)
白描図像が持つ特有の観賞性に注目し、その魅力を紹介するもの。白描図は大好きだ。西洋画のスケッチ(下絵)も好きだが、東洋絵画、特に宗教画(仏画)の場合、対象に強い「規範性」があり、絵師は己を殺して、これを正確に写し取ろうとする。その謹直な線がはらむ緊迫感が、なんともいえず、好きだ。ただし、規範に従う心持ちが強く出ている白描図もあれば、とりあえず全体を把握することを優先した結果、けっこう細部が「ゆるい」白描図もあって、これはこれで魅力的だと思う。
「規範性」の美を感じたのは、たとえば『戒壇院厨子扉絵図像』(奈良博)。1巻1116.0cmつまり10メートルを超える大作で、展示ケースでは2場面しか見られないが、図録に縮小版ながら全場面(たぶん)が収録されているのが嬉しい。この図録「買い」だと思う。散華し、楽を奏する菩薩たち(?)の図が6枚あるが、やわらかな身のこなし、ほのかな胸のふくらみが女性的である。『千手観音二十八部衆図像』(東博)は、大画面をすきまなく埋め尽くした複雑な図像を丁寧に写している。
一方で、思わず、笑いがこぼれてしまうのは、『火頭金剛曼荼羅』(MIHOミュージアム)とか『大威徳明王図像』(東博)とか…尊像自体は謹厳なのだが、脇役たち、眷族や邪鬼や化仏などに注目すると、どこかユーモラスで楽しい。とりわけ気に入ったのが『伽耶城毘沙門天図像』。左上の霊鷲山の図と、その隣に書き添えられた、鳥頭の羽人図がかわいい。個人蔵だというから、次に見る機会は、なかなか無いかもしれないなあ。
いや、そもそも大きな博物館の所蔵品であっても、こうした白描仏画は、美術作品というより、その「資料」として扱われるから、展示機会は少ないのではないかと思う。文化庁の『阿弥陀鉤召図(あみだこうしょうず)』なんて、初めて見た!(※文化財オンライン)
出陳作品は、全てが白描図というわけではなく、集積された図像が、仏画制作にどのように活かされたか、という観点から、彩色仏画や、複数の図像から再構成されたとおぼしき仏画も紹介されている。根津美術館の『十二因縁絵巻』には嬉しい再会。好きなんだ、この作品。金剛峯寺蔵『善女龍王像』のような名品もあれば、大津絵みたいに素朴な可愛さ全開のもの、なんだこれは?的な構成(天台大師・伝教大師・慈覚大師を山水図に配置)もあり、面白かった。ただ、作品の保存に配慮した会場の照明だと、よく見えないものもある。図録がGETできてよかった。『金胎仏画帖』や『華厳五十五所絵』は、現在、各館・個人に分有されているものを集めて通観できる機会となっており、その点でも貴重な展覧会である。
追伸。近鉄の車内で、同館「無料招待デー」(PDFファイル)の広告を見かけた。やるなあ。平日なので、来られる人は限られると思うが、これで「また来てみよう」と思うファンを少しでも獲得できれば、安い広告料かもしれない。
白描図像が持つ特有の観賞性に注目し、その魅力を紹介するもの。白描図は大好きだ。西洋画のスケッチ(下絵)も好きだが、東洋絵画、特に宗教画(仏画)の場合、対象に強い「規範性」があり、絵師は己を殺して、これを正確に写し取ろうとする。その謹直な線がはらむ緊迫感が、なんともいえず、好きだ。ただし、規範に従う心持ちが強く出ている白描図もあれば、とりあえず全体を把握することを優先した結果、けっこう細部が「ゆるい」白描図もあって、これはこれで魅力的だと思う。
「規範性」の美を感じたのは、たとえば『戒壇院厨子扉絵図像』(奈良博)。1巻1116.0cmつまり10メートルを超える大作で、展示ケースでは2場面しか見られないが、図録に縮小版ながら全場面(たぶん)が収録されているのが嬉しい。この図録「買い」だと思う。散華し、楽を奏する菩薩たち(?)の図が6枚あるが、やわらかな身のこなし、ほのかな胸のふくらみが女性的である。『千手観音二十八部衆図像』(東博)は、大画面をすきまなく埋め尽くした複雑な図像を丁寧に写している。
一方で、思わず、笑いがこぼれてしまうのは、『火頭金剛曼荼羅』(MIHOミュージアム)とか『大威徳明王図像』(東博)とか…尊像自体は謹厳なのだが、脇役たち、眷族や邪鬼や化仏などに注目すると、どこかユーモラスで楽しい。とりわけ気に入ったのが『伽耶城毘沙門天図像』。左上の霊鷲山の図と、その隣に書き添えられた、鳥頭の羽人図がかわいい。個人蔵だというから、次に見る機会は、なかなか無いかもしれないなあ。
いや、そもそも大きな博物館の所蔵品であっても、こうした白描仏画は、美術作品というより、その「資料」として扱われるから、展示機会は少ないのではないかと思う。文化庁の『阿弥陀鉤召図(あみだこうしょうず)』なんて、初めて見た!(※文化財オンライン)
出陳作品は、全てが白描図というわけではなく、集積された図像が、仏画制作にどのように活かされたか、という観点から、彩色仏画や、複数の図像から再構成されたとおぼしき仏画も紹介されている。根津美術館の『十二因縁絵巻』には嬉しい再会。好きなんだ、この作品。金剛峯寺蔵『善女龍王像』のような名品もあれば、大津絵みたいに素朴な可愛さ全開のもの、なんだこれは?的な構成(天台大師・伝教大師・慈覚大師を山水図に配置)もあり、面白かった。ただ、作品の保存に配慮した会場の照明だと、よく見えないものもある。図録がGETできてよかった。『金胎仏画帖』や『華厳五十五所絵』は、現在、各館・個人に分有されているものを集めて通観できる機会となっており、その点でも貴重な展覧会である。
追伸。近鉄の車内で、同館「無料招待デー」(PDFファイル)の広告を見かけた。やるなあ。平日なので、来られる人は限られると思うが、これで「また来てみよう」と思うファンを少しでも獲得できれば、安い広告料かもしれない。