見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

東京大学ホームカミングデイを覗きに行く

2012-10-24 23:20:10 | 行ったもの2(講演・公演)
○東京大学 第11回ホームカミングデイ(2012年10月20日)

 最近は、どこの大学でも「ホームカミングデイ」と称して、卒業生を呼び込む行事が盛んである。私は東大の卒業生ではないのだが、面白そうな展示や講演がいくつもあるので、覗きに行ってみることにした。校門ではプログラムを配っているが、別に記帳を求められるわけでもなく、ふらりと中に入ることができる。

特別フォーラム『グローバル化する世界で学ぶ、働く、生きる』(12:30~14:00、於:安田講堂、講師:ロバート・キャンベル、村山斉)

 開始時間に少し遅れてしまったので、檀上では濱田純一総長が、最近の東大の動きについて話していた。それから赤門学友会副会長(会長に代わり)の挨拶があり、両講師と、モデレーターの江川雅子理事・卒業生室長が登壇した。日本の大学で日本文学を教えるアメリカ国籍のキャンベル氏と、アメリカを中心に活躍する宇宙科学者の村山氏に、グローバルな働き方をするようになったきっかけを聴く。

 どちらの先生の話も面白かったが、まずはキャンベル先生から。最初の来日先は九州大学だった。そこで中野三敏先生に師事し(そうだったのか!)九州各地の大名家や旧家に残された古本の調査に参加する。そのとき、大学の図書館や研究室で学んできた日本文学史というものが音を立てて崩れ去る体験をし、フィールド・ワークの必要を痛感して、日本に残ることを選択した。

 キャンベル先生によれば、アメリカの日本文学研究は「世界文学」の中で、○○文学や××文学との相関性を考えることに主眼を置いているという。日本の大学で行われているような、一つの作品(あるいは資料)を徹底して読み解くような研究は、研究以前の「作業」と看做されている。しかし、お互いが、その違いから学ぶことは多い。なるほど。キャンベル先生の「日本文学論」というより「日本文学研究論」、もっと聞いてみたいと思った。

 村山先生は、自分が異文化に飛びこんでいった体験談も面白かったが、江川理事から「東大に優秀な研究者を招聘するためのアドバイス」を求められての答えがさらに興味深かった。まだまだ日本の社会は、外国人が生活するにはハードルが高いという。銀行、保険、住宅など…。そこで、村山先生は大学事務に任せておかず(おけず?)自分の所属する研究機構のホームページに、来日した外国人研究者が直面するであろう困難と、その乗り切り方を掲載しているという。

 モデレーターが、事前に準備してきた質問から離れない紋切り型の進行だったのが残念だった。お二人とも、自由に暴走させたら、もっと面白い話が聞けたと思う。

■社会科学研究所 講演会 坂野潤治名誉教授(社会科学研究所元所長)『西郷隆盛と明治維新』(15:00~17:00、赤門総合研究棟5階センター会議室)

 当ブログ「読んだもの」に、たびたびご登場いただいているとおり、私は坂野潤治先生の愛読者である。お姿を拝するのは、坂野先生が所長だった当時(1995年頃)以来、およそ15年ぶりで、よろよろと覚束ない足取りで登場されたときは、ああ、お歳を召されたなあ、と思った。いまどき珍しい手書きのレジュメ4枚が配られたが、「これ以上書くと、翌日腕が上がらないんだよ」と嘆いていらした。

 しかし、話し始めると、著書さながらに明晰。西郷隆盛は「議会主義者」「開国・攘夷棚上げ論者」「中央集権国家論者」であったという、近著『日本近代史』(ちくま新書)でも展開されていた、ユニークな西郷像を語り、征韓論や西南戦争における西郷しか論じない日本近代史は「的外れ」であると批判する。

 「ユニークな」と評したが、これは著者の独創ではなく、勝田孫弥著『西郷隆盛伝』(明治27-28年)がタネ本だそうで、「最近の学者は新しい文献ばかり読んで、さかのぼって古い文献を読もうとしない」というのは、含蓄あるお言葉だった。この日のお話は、また新書(?)出版の予定があるらしい。楽しみ!

 講演会のあとの懇親会で、少しお話をさせていただき、社研および近隣の研究所(社情研=現・情報学環、明治文庫)の蔵書の豊かさ、研究環境の素晴らしさについて「あれだけ資料が揃っていて本が書けないのは、よほどの怠け者だ」とおっしゃっていた。しかし、東大をリタイアした現在、「昭和10年代の研究を続けるには身近に資料がなくなっちゃったから、じゃあ幕末期の資料なら自宅にあるから、幕末研究を始めたんだ」と意外な内幕も…。

※当日のレジュメの一部

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2012秋、デパートの展覧会(東京)

2012-10-24 21:34:55 | 行ったもの(美術館・見仏)
デパートのイベントスペースで開催される展覧会にも面白いものがある。この秋、行ったものメモ。

■松屋銀座店 『ベルサイユのばら展』(2012年9月13日~24日)

 1972年から73年にかけて「週刊マーガレット」に連載された池田理代子作「ベルサイユのばら」の連載開始40周年を記念する展覧会である。第1章・コミック、第2章・舞台(宝塚)、第3章・映像(アニメ)、第4章「そして今」では、朝日新聞土曜日別冊朝刊に連載中の4コマ漫画「ベルばらKids」(へ~知らなかった)が取り上げられていた。私は、雑誌連載当時、小学6年生から中学1年生で、ジャスト・ベルばら世代だと思っている。もっとも高校生の先輩もコミックを読んでいたし、ずっと下の後輩も宝塚にハマっていたなあ。観客は、自分と同世代が多いかと思ったら、もっと上の白髪のおばあさまもいらっしゃったし、学生ふうの若い女子も熱心に見ていた。男性の姿もけっこうあって「あなたとベルばらのつながりは?」って聞いてみたくて仕方なかった。

 宝塚のコーナーは、衣装、ポスターなど品評しながら見ている人が多く、コミック原画はセリフを読みながら、じっと見入っている人が多かった(私も)。思えば、名場面・名セリフの連続だったし、当時の少女マンガの常識を超えるようなキャラクターもたくさん登場していた。→公式サイト

■新宿タカシマヤ 『辻村寿三郎 人形展 平家物語縁起~清盛、その絆と夢~』(2012年10月4日~15日)

 むかしから「平家物語」好きの私は、今年の大河ドラマ『平清盛』を面白く見ている。各地で開かれる関連イベントも楽しませてもらっている。春に目黒雅叙園で開催された『人形師 辻村寿三郎×平清盛』展も見に行った。寿三郎が5年の歳月を費やした「平家物語縁起」全80作品が集結、というコピーに釣られたのである。しかし、第1部(2012年3月16日~4月22日)を見に行ったら、その半数程度しか展示されていなくて、第2部も見ないと全貌が明らかにならない(その代わり、全くテーマの異なる人形作品が、かなりの数、展示されている)という、ムゴイ構成で、がっかりした。

 その点では、今回の展覧会のほうがずっといい。「平家物語」の思いつく場面・主要登場人物は、ほぼ網羅されているように感じたし、「付録」の展示も不動明王や仏像シリーズで、きちんと平仄が合っている。熱病の清盛は、着物の前を大きくはだけ、裸の胸に大きな数珠を垂らし、右手には剣のようなもの(法具か)を握っている。水分を失い、黒ずんだ顔に、らんらんと光る眼(まなこ)。私は今年の大河ドラマの「汚い」と言われ続けた清盛は、この寿三郎の清盛像に、かなり影響されているのではないかと思うのだが、どうだろう。→NHKプロモーション。図録も購入。

■日本橋タカシマヤ 『山本高樹 昭和幻風景 ジオラマ展』(2012年10月18日~30日)

 連続テレビ小説「梅ちゃん先生」のオープニングに作品が使われたことで、一躍、人気を博したジオラマ作家・山本高樹氏の展覧会。私は、雑誌「荷風!」の表紙写真で覚えた作家さんである。会場にも、四角ばった風貌の荷風先生が登場する、エロな昭和の街角ジオラマがいくつも並べられていた。小学生くらいの女の子が、連れ込み宿の前でアンニュイに客引きをする娼婦のお姉さんを興味深げに眺めているかと思えば、一方でおじいちゃんが、お祭りや駄菓子屋の店先を食い入るように眺めていた。「そうよ、むかしは縁日の夜店といえばさ…」みたいな昔がたりに熱が入るおばさんたち。ジオラマって、楽しいんだよなあ。
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