見もの・読みもの日記

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中国の近代始まる/中国絵画 住友コレクションの白眉(泉屋博古館分館)

2012-10-16 00:17:00 | 行ったもの(美術館・見仏)
泉屋博古館分館 開館10周年記念展 PART IV 特別展『中国絵画-住友コレクションの白眉-』(2012年10月13日~12月16日)

 展覧会のタイトルとは別に「八大山人・石濤-君はその名画を見たか-」というキャッチコピーが付いていて、思わず、うふふと笑ってしまった。ずいぶん大仰なコピーだな、と思う気持ちと、いやそのくらいの価値はあるよな、とうなずく気持ちが入り混じって。

 京都の泉屋博古館には、足繁く通っている。日本の書画、茶道具、金銅仏など、さまざまな企画展を見てきたが、群を抜いて好きなのは、やっぱり中国絵画コレクションだ。チラシには「東京では開館以来まとまった公開の機会のなかった当館の中国絵画を一堂に展観」とある。そうか、言われてみれば、まだ東京の分館で、中国絵画展を見たことはなかったっけ。

 同館はエントランスホールを挟んで、左右に展示室が分かれる。右の第1室に入ると、正面の小さなケースに単独展示の画冊。八大山人の『安晩帖』だ!と気づいて、いそいそと駆け寄る。第1図の「水仙図」が開いていた。先端に蕾をつけた細い茎と、四、五枚の葉が、土臭く身をよじっている。おや?と思ったのは、全体に薄い水色の彩色が施されていたこと。私は、これで同画帖の6面を実見したことになるが、今までずっと全面モノクロだと思っていた。ホールに置かれていた図録見本を確かめたら、「水仙図」と「菊鶉図」「芙蓉図」は、一部に淡彩が使われていた。へえ、めずらしい画面を見ることができてよかった。

 私が初めて『安晩帖』を知ったのは、2007年の『文人の世界』展である。文房四宝を中心とした展覧会で、絵画は幾分、添えもの的だった。そこで『安晩帖』を見出した感激は、今も忘れられない。その点では、最近、この作品の名声が高くなって、チラシやポスターになるわ、全ページをめくり替えて展示してくれるわの特別扱いは、嬉しいような残念なような気持である。

 ふと左の壁際を見ると、八大山人がもう1品『書画合壁巻』。これは久しぶりではないかしら。書と画(しかも愛らしい鳥図+遠景に山水図)を同時に楽しめる。

 奥の壁には、石濤筆『廬山観瀑図』。これもおなじみの作品だが、今回の対面は、ひときわ味わい深い。何しろこの夏は私も廬山に行って、滝(三畳泉)を見てきたのだから! しかし現地の記憶と照らし合わせると、この作品は写実に基づいたものではなく、記憶に残る印象を自由に楽しく再構成したもの、いわばシャガールの「幻想絵画」みたいなものだと感じた。遠景にかすむ小さな五つの峯は五老峯なのかな? 石濤の『黄山八勝画冊』『山精品冊』も全図めくり替えあり。ええ~「友の会」割引とか作ってほしい…。それでも連日午後4時30分閉館って、許せないなあ。

 図巻は原則として一気に全面公開。これは嬉しかった! 京都では、龔賢『山水長巻』、漸江『竹岸蘆浦図巻』など、少なくとも毎回全面展示ではなかったように思う。この第1室「明末清初」の透明な空気を呼吸していると、肺腑の中から俗世間の塵が抜けて、細胞から生き返るような気がした。

 第2室は、人物画・山水画・花鳥画のパートに分けて、名品を公開。後期(11/14~)から一部展示替え。おなじみの作品が多いが、入れもの(展示室)が違い、壁に吊るす高さや順序が違うと、なんとなく印象が違って見える。あまり記憶にない作品もあって、面白かった。さて、これで東京にも明清絵画ファンが一気に増殖するのだろうか。
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