■根津美術館 『江戸のダンディズム-刀から印籠まで-』(2015年5月30日~7月20日)
刀剣の拵(こしらえ)や印籠など、男性の装身具に注目した展覧会。ということになっているが、冒頭には、刀剣の「拵」ではなく、刀剣そのものがずらりと並んでおり、若い女性を中心とした刀剣ブームを絶対意識しているよな、と思わせる。しかし根津美術館のコレクションに、こんなに刀剣があるとは知らなかった。こんなブームが来なければ、見る機会もなかったと思うので、感謝。私は刀剣にはあまり興味がないが、刃文の「乱れ刃」は美しいと思う。刀身には彫刻などない、シンプルなものがよい。今回の展示品では「銘 武蔵大掾藤原忠広/元和十年二月十八日」の脇指がよかった。
それから「銘 月山貞一造之/明治三十六年春」は、平家の重宝「小烏丸(こがらすまる)」を明治時代に写したもの。Wikiによれば「日本の刀剣が直刀から反りのある湾刀へ変化する過渡期の平安時代中期頃の作と推定され、日本刀の変遷を知る上で貴重な資料である。どこまで史実か分からないが、桓武天皇にさかのぼる由来も興味深い。「壇ノ浦の戦い後行方不明になったとされたが、その後天明5年(1785年)になり、平氏一門の流れを汲む伊勢氏で保管されていることが判明し」(中略)「明治維新後に伊勢家より対馬国の宗氏に買い取られた後、明治15年(1882年)に宗家当主の宗重正伯爵より明治天皇に献上された」のだそうだ。刀身は直刀ではなく反りがあるが、Wikiによれば「刀身全体の長さの半分以上が両刃」である。スッと尖った先端の形状が、他の桃山~江戸の刀(鎬造/しのぎづくり)と全く違う。会場の解説パネルを見て「菖蒲造」というのが近いかな、と思ったが、これはまた違うジャンルの刀剣をいう用語らしい。「断ち切ることに適さず、刺突に適した形状」というのは納得できる。刀剣の形状が違うということは、戦い方もずいぶん違っただろうと思う。
思わず「江戸」と関係のない、古い時代の刀剣の姿に深入りしてしまった。印籠では、塩見政誠作「落款印章蒔絵印籠」(江戸・18世紀)が欲しいと思った。画家や文人の落款を全面にあしらったもので、現代のミュージアムグッズにもありそう。牧谿、易元吉、王摩詰の名前を確認した。「伽噺図揃金具」は、刀の鍔など、男性の装いにかかわる小さな金具類が、全ておとぎ話のモチーフで統一されている。雀とハサミとか、流れ下る桃とか、さりげない感じがよかった。
展示室2「唐詩の書」は、そんなにあるのかしらと思ったが、和漢朗詠集の断簡はたくさんあるのだな。伝・藤原佐理筆「白氏詩巻」は整いすぎた感じがする。古筆の模写らしい。野舟道間(やしゅうどうかん)筆「杜詩」が気に入ったが、元時代の人で、これが唯一の遺品。石室善玖の「寒山詩」(南北時代)もよかった。のびやかな一の字が好き。展示室5は「北野天神縁起絵巻」(根津本)の巻4-6。
■太田記念美術館 『江戸の悪』(2015年6月2日~6月26日)
根津美術館から歩いて移動。土曜の午後の美術館は、驚くほど混んでいた。やっぱり「悪」とか「妖怪」とか、みんな好きだなあ。ポスターが「血まみれ芳年」こと月岡芳年の作品だったので、血みどろ作品ばっかりだったらどうしよう、とおそるおそる出かけたのだが、それほどではなかった。芳年が特殊すぎるのだな。
伝説上・架空の人物から当時の江戸を騒がした実在の大盗賊・小悪党まで、江戸の「悪い人」たちが大集合。しかし、芝居のヒーローとして描かれたものは、だいたい小ざっぱりとして男っぷりがいい。作品には星の数で悪人度が示されていて面白かった。四谷怪談の民谷伊右衛門は、もちろん最上級の星五つ。
美人画ばかり描いていたと思っていた楊洲周延に、けっこう「悪」を描いた作品があったのが印象的だった。「盛衰記西八条別館の図」は美女を侍らせる平清盛の図。いやがる白拍子の手を引いて、どこぞに連れ込もうという趣き。「玉藻前」は凄艶で怖い。展示図録はなし。展示リストも「ありません」とつれなかったが、ホームページには掲載されている。
刀剣の拵(こしらえ)や印籠など、男性の装身具に注目した展覧会。ということになっているが、冒頭には、刀剣の「拵」ではなく、刀剣そのものがずらりと並んでおり、若い女性を中心とした刀剣ブームを絶対意識しているよな、と思わせる。しかし根津美術館のコレクションに、こんなに刀剣があるとは知らなかった。こんなブームが来なければ、見る機会もなかったと思うので、感謝。私は刀剣にはあまり興味がないが、刃文の「乱れ刃」は美しいと思う。刀身には彫刻などない、シンプルなものがよい。今回の展示品では「銘 武蔵大掾藤原忠広/元和十年二月十八日」の脇指がよかった。
それから「銘 月山貞一造之/明治三十六年春」は、平家の重宝「小烏丸(こがらすまる)」を明治時代に写したもの。Wikiによれば「日本の刀剣が直刀から反りのある湾刀へ変化する過渡期の平安時代中期頃の作と推定され、日本刀の変遷を知る上で貴重な資料である。どこまで史実か分からないが、桓武天皇にさかのぼる由来も興味深い。「壇ノ浦の戦い後行方不明になったとされたが、その後天明5年(1785年)になり、平氏一門の流れを汲む伊勢氏で保管されていることが判明し」(中略)「明治維新後に伊勢家より対馬国の宗氏に買い取られた後、明治15年(1882年)に宗家当主の宗重正伯爵より明治天皇に献上された」のだそうだ。刀身は直刀ではなく反りがあるが、Wikiによれば「刀身全体の長さの半分以上が両刃」である。スッと尖った先端の形状が、他の桃山~江戸の刀(鎬造/しのぎづくり)と全く違う。会場の解説パネルを見て「菖蒲造」というのが近いかな、と思ったが、これはまた違うジャンルの刀剣をいう用語らしい。「断ち切ることに適さず、刺突に適した形状」というのは納得できる。刀剣の形状が違うということは、戦い方もずいぶん違っただろうと思う。
思わず「江戸」と関係のない、古い時代の刀剣の姿に深入りしてしまった。印籠では、塩見政誠作「落款印章蒔絵印籠」(江戸・18世紀)が欲しいと思った。画家や文人の落款を全面にあしらったもので、現代のミュージアムグッズにもありそう。牧谿、易元吉、王摩詰の名前を確認した。「伽噺図揃金具」は、刀の鍔など、男性の装いにかかわる小さな金具類が、全ておとぎ話のモチーフで統一されている。雀とハサミとか、流れ下る桃とか、さりげない感じがよかった。
展示室2「唐詩の書」は、そんなにあるのかしらと思ったが、和漢朗詠集の断簡はたくさんあるのだな。伝・藤原佐理筆「白氏詩巻」は整いすぎた感じがする。古筆の模写らしい。野舟道間(やしゅうどうかん)筆「杜詩」が気に入ったが、元時代の人で、これが唯一の遺品。石室善玖の「寒山詩」(南北時代)もよかった。のびやかな一の字が好き。展示室5は「北野天神縁起絵巻」(根津本)の巻4-6。
■太田記念美術館 『江戸の悪』(2015年6月2日~6月26日)
根津美術館から歩いて移動。土曜の午後の美術館は、驚くほど混んでいた。やっぱり「悪」とか「妖怪」とか、みんな好きだなあ。ポスターが「血まみれ芳年」こと月岡芳年の作品だったので、血みどろ作品ばっかりだったらどうしよう、とおそるおそる出かけたのだが、それほどではなかった。芳年が特殊すぎるのだな。
伝説上・架空の人物から当時の江戸を騒がした実在の大盗賊・小悪党まで、江戸の「悪い人」たちが大集合。しかし、芝居のヒーローとして描かれたものは、だいたい小ざっぱりとして男っぷりがいい。作品には星の数で悪人度が示されていて面白かった。四谷怪談の民谷伊右衛門は、もちろん最上級の星五つ。
美人画ばかり描いていたと思っていた楊洲周延に、けっこう「悪」を描いた作品があったのが印象的だった。「盛衰記西八条別館の図」は美女を侍らせる平清盛の図。いやがる白拍子の手を引いて、どこぞに連れ込もうという趣き。「玉藻前」は凄艶で怖い。展示図録はなし。展示リストも「ありません」とつれなかったが、ホームページには掲載されている。