見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

目で見るグローバルヒストリー/大英博物館展(東京都美術館)

2015-06-01 23:29:15 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京都美術館 特別展『大英博物館展-100のモノが語る世界の歴史』(2015年4月18日~6月28日)

 ふだんの自分の関心からは遠かったので、あまり期待せずに見に行ったら、面白かった。100の作品、というより「モノ」を通じて「200万年前から現代に至る人類の創造の歴史を読み解こうとする試みだ」という。入場してすぐ「プロローグ」で目に入るのは古代エジプトの人型の棺桶。なるほど、大英博物館といえば、エジプトのミイラである。歩み寄りかけて、ぎょっとなったのは、隣りに並んでいる、四足を踏ん張った、少し胴長の大きな木製のライオン。背中の蓋が開くらしい。「参考展示」の注釈がついていて、実は日本のみんぱく(国立民族学博物館)が所蔵する、現代ガーナのライオン型棺桶だと分かった。ガラスケースの中に展示された木彫りのビール瓶とナマズも、棺桶の小型レプリカだと分かって、さらにびっくりした。ガーナには、故人にゆかりの品物や動物のかたちの棺桶を造る習慣があるそうだ。

 これで、エジプトのミイラの棺とか、ギリシャ彫刻とか、メソポタミアの粘土板とか、古代文明の遺物と向き合う厳粛な気分が軽く脱臼してしまった。確かに今の私たちにとって、それらは貴重な文化財かもしれないが、当時の人々にとっては「日用品」の一部だったものもあるのだ。

 本編の最初の展示は、200万~180万年前の作といわれる礫石器である。この頃、人類は、自然界にあるものとは異なる何かを自ら創り始めた。生活を高めるための道具。見て楽しい(?)動物の姿を模した芸術品。各室には、年表と世界地図が掲げられ、展示品が「いつ」「どこで」作られたものかを示す。ただし面白いのは、1万年以上前の槍先と紀元前5000年頃の縄文土器と19~20世紀に採集されたアボリジニの編み籠が一緒に並んでいることだ。

 別の部屋でも紀元前のアメリカ先住民のパイプ、100-500年頃のマヤ文明の儀式用ベルト、100-300年頃のガンダーラ石仏、700年頃のウマイヤ朝カリフの金貨などが並んでいる。壁の年表と世界地図によって、類似する品物が、異なる地域で異なる年代に制作されていることや、ある大陸に有名な古代文明が存在した頃、別の地域では何が起きていたかを確かめる。今まで習ったことのない、全く新しい「世界史」像が目の前に開けていくような感じだった。縄文土器や柿右衛門の陶器、木版画など「日本」の創作物を、世界の歴史の中に位置づけて眺める経験も新鮮だった。本展に選ばれた100の創作物は、どれも異なる価値を持っており、「Aの文明はBの文明より優れている」という優劣論の馬鹿馬鹿しさが実感できる。

 展示は、単線的ではないにしろ、少しずつ歩みを進めて、ついに現代に至る。クレジットカードにソーラーランプ。そして、ロシア革命の絵皿、アフガニスタンの戦争柄の絨毯、銃器の部品で作られたアート作品「母」像。人類の歴史が、明るく希望に満ちた面ばかりでなかったことに、本展はきちんと言及している。

 100の「モノ」によって語り進められてきた人類の歴史。「エピローグ」では、本展の担当学芸員が選んだ101番目の「モノ」として、紙管を用いた避難所用の間仕切りが取り上げられていた。この選択はとてもいい。「プロローグ」と「エピローグ」で放映されている大英博物館館長のビデオメッセージも感銘深くて、大英博物館に行きたくなってしまった。

[追記]このあと、西洋美術館で『グエルチーノ展 よみがえるバロックの画家』(2015年3月3日~5月31日)を見てきたことを付け加えておく。たぶん単独でレポートを書いているヒマがないので。嗜虐的な美形のアポロが魅力的だった。
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アイスショー"Fantasy on Ice 2015 幕張"

2015-06-01 01:23:06 | 行ったもの2(講演・公演)
Fantasy on Ice 2015 in 幕張(2015年5月30日16:00~、5月31日13:00~)

 2010年に初めて見に行ったアイスショーがこのファンタジー・オン・アイス。海外男子スケーターに贔屓が多い私には、いつも大満足の出演者で、以来、2011年、2014年と新潟へ見に行った。今年は新潟公演がないので、どうしよう、いちばん近い幕張に行くか、と考えていたら、4月末に羽生結弦選手の参加が決まったとたん、あらかたチケットがなくなってしまった。慌てて二日目は最安のB席をなんとか購入できたが、千秋楽もあきらめきれず、チケット売買サイトでSS席を手に入れた。

 まず二日目(土曜日)。開場の少し前に到着すると恐ろしい人数が並んでいる。圧倒的に女性で、40~50代くらいが多い(他人のことは言えないが)。聞くともなしに会話を聞いていると、羽生くんのファン多いなあ。新潟や札幌などの地方公演だと、もう少し男性や地元のおじいちゃんおばあちゃんもいたんだけど、首都圏は客層が違う。

 この日の席は3階の最後列だった。選手には遠いが、視界が広くて、リンク全体が見渡せたのは利点。前日のツイッター情報で、選手の登場順やプログラムが分かってしまうのは、いいんだか悪いんだか。自分は(下調べもできて)ありがたいと思っている。

 華やかなオープニングに続いて、一番手は樋口新葉ちゃん。運動量の多いアップテンポの曲で弾けまくる。村上佳菜子ちゃんが出て来た頃を思い出した。次がジュベールの「TIME」。これ動画で見たときは、奇抜な衣装しか印象に残らなかったんだけど、こんな素敵なプロ(ちょっと前衛的)だったのか。ジュベールは後半では、アーティストのシェネルさんとコラボ。

 個人的にいちばん見応えがあったのは、ジョニー・ウィアーとステファン・ランビエール。ジョニーは前半が「カルメン」で後半の曲は「クリープ」というのか。どちらも黒の衣装だけど、テイストが全然違う。前者は、闘牛士の凛々しさと同時に、ときどき獰猛な牛そのものを思わせた。男と女の闘争劇である「カルメン」の全ストーリーが凝縮されているようで、魂を持っていかれた。後者は、上半身がタンクトップ、腰から下にロングスカートのような布をまとう。逞しく、華麗。考えてみると、フィギュアスケートだけでなく既存のスポーツって、どれも「男」「女」の枠で競われているけど、ジョニーは完全に違う次元にいて、とても素敵だ。

 ランビエールの「Sense」は演劇の舞台のように文学的だった。さっき歌詞の日本語訳を見つけて、氷上の演技を記憶の中で反芻している。後半の「誰も寝てはならぬ」がまた、オペラ「トゥーランドット」を怒濤のようによみがえらせて…リュウの献身とか、愛に目覚めるトゥーランドット姫とか、いろんなことを思い出して、涙がこぼれそうになった。本当に感動的だと拍手も忘れる。プルシェンコの「カルミナブラーナ」は、今の彼にしか表現できない重厚感。ただ、構成はもう少し練ってほしい気がする。進化を楽しみに見守りたい。後半は「ロクサーヌのタンゴ」で、なんだかローマの皇帝が身分を隠していかがわしい娼家に現れたみたいに思った。

 ハビエル・フェルナンデスは、帽子を扱う「黒い罠」とコメディタッチのビゼー「闘牛士」。芸達者だなあ。ピンクのジャケットのジェフリー・バトルは「Uptown funk」。さっき当日のテレビ放映の動画を見たら「32歳」って紹介されていたのが信じられない。アイスダンスはタチアナ・ボロソジャル&マキシム・トランコフとアンナ・カッペリーニ&ルカ・ラノッテ。どちらもよかった~。

 日本人スケーターのことを省略するのは申し訳ないが、たくさん情報は上がっているから、必要なときは他人のブログやツイートで探せるだろう。羽生くんの1プロ目、初日と二日目は「Vertigo(ヴァーティゴ)」で、千秋楽は「Hello, I love you(ハロー・アイ・ラヴ・ユー)」だった。どっちも記憶にあるので探したら、前者は2011年のファンタジー・オン・アイスで、後者は2012年のプリンス・アイス・ワールドで見ているんだな。でも当時は、正直、端正な曲のほうが似合うのになあと思っていた。こんなにカッコよくなるとは…。二日目の腰振り、千秋楽のTシャツ脱いで客席に投げ込みプレゼント、楽しませてもらいました。2プロ目はシェネルさんとのコラボでしっとり「ビリーヴ」。千秋楽のフィナーレのジャンプ大会も面白かったなあ。他のスケーターが見ている前では二度失敗して、さすがに終演の時間もあるので、全員退場になるかと思ったら(このとき、羽生くんの腰のあたりをプルシェンコがポンと叩いて、元気づけているように見えた)ひとりだけリンクに残って、再挑戦して、とうとう四回転を成功させ、そのまま連続ジャンプも決めてみせたこと。退場した選手の何人かは出入口の幕を開けたまま、様子をうかがっていた。

 宇野昌磨くんもフィナーレのジャンプ大会は失敗の連続だったけど、こうして度胸と本番での強さを身につけていくんだろうな(今シーズンのSPはパワフルで男前でとっても楽しみ)。織田くんが意外にも(失礼)ジャンプを決めたり、大人のランビエールが挑戦に加わったり、やっぱり千秋楽のフィナーレは楽しさ倍増だということがよく分かった。

 お客さんもいい雰囲気だったな。感心したのは、羽生くんのTシャツプレゼントで阿鼻叫喚になっても、その直後にアイスダンス(ボロ&トラ?)の演技が始まったら、さっと切り換えて、声援と拍手を送っていたこと。花束やプレゼントの投げ入れを禁止している点で、競技会よりアイスショーのほうが進行が整然としている。

 プログラムはあまり買わないのだけど、今回は昨年のFaOI公演の写真が入っていたり、ランビエールの長文インタビューが興味深い内容。「スノー・キング」のTシャツも買えてうれしかった。そして、いまチケット売買サイトで神戸公演のチケットを探している。オペラ公演並みの金額なら取ってしまいそう…。
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