見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

札幌の本屋 くすみ書房「閉店」の衝撃

2015-06-12 23:47:15 | 街の本屋さん
くすみ書房「閉店のお知らせ」

 今日、ツイッターでくすみ書房のアカウントが6月10日に閉店を宣言していたことを知った。札幌の本屋「くすみ書房」といえば、本と本屋好きの間では有名なお店である。私は2013年の春に札幌に引っ越すまで、詳しいことは知らなかったが、「本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読め!」とか「なぜだ?売れない文庫フェア」など、アイディアあふれる棚づくりに挑戦しており、店主の久住邦晴さんは、全国ネットのマスコミにもたびたび登場している。

 あらためてホームページの「くすみ書房について」を読んでみたら、戦後間もなく琴似(札幌市西区)にて創業。しかし、1999年ごろから地下鉄の延長の影響や大型書店の出店によって売上げが落ち、2009年、琴似の店舗を閉めて大谷地(札幌市厚別区)のショッピングモール内に移転。2013年には経営危機をクラウドファンディングで乗り切った。その後、最近は「琴似に新発想の本屋を作ります」という新プロジェクトが始まっていたので、まあまあ経営は順調なんだろうなと思っていた。その矢先の悲報でびっくりした。何か想定外の事態が起きたのだろうか…。

 私の札幌暮らしは2年で終わってしまった。その間、大谷地のくすみ書房を訪ねたのは、3、4回かな。宿舎の徒歩圏に紀伊国屋や丸善&ジュンク堂があったので、そんなに頻繁に通ってはいない。しかし、個性的な書店のある街に住むのはいいことだ。琴似の「ソクラテスのカフェ」のトークイベントに参加したのもいい思い出である。

 そして、実は2013年のクラウドファンディングに、私もわずかであるが資金を提供した。100冊以内で私のおすすめ本の棚を作り、2ヶ月展示してもらう権利を買ったのである。権利を行使しないうちに札幌を離れてしまう結果となり、さらにこういう事態になってしまったが、まだ希望は捨てずにおきたい。良心的な書店のない街に住むなんて、悲しい人生だと思うから。
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かわいい戦場・おどろきの屏風/雑誌・芸術新潮「謎解き大合戦図」

2015-06-12 22:36:58 | 読んだもの(書籍)
○雑誌『芸術新潮』2015年6月号「関ヶ原&大坂の陣 謎解き大合戦図」 新潮社 2015.6

 徳川家康没後400年を記念して、東京・京都・福岡を巡回中の『大関ヶ原展』。江戸東京博物館で見はしたものの、あまりの混雑に辟易して、まともな感想を書いていなかった。本書は、同展に出品されている大阪歴史博物館所蔵の『関ヶ原合戦図屏風』(津軽屏風)と、大阪城天守閣所蔵の『大阪夏の陣屏風』(黒田屏風)を中心に特集を組んでいる。

 「津軽屏風」は、家康の養女満天姫(まてひめ)の嫁ぎ先である津軽藩に伝来したため、このように呼ばれる。確かに江戸博で見たが、私はそれ以前に、三井記念美術館の特別展『江戸を開いた天下人 徳川家康の遺愛品』で初めて見たときの印象が強い。近代の児童書の挿し絵みたいに、可愛らしくて美しい屏風なのである。本書には部分拡大図版がたくさん載っていて、死地に赴く武士たちが、みんな天使のようにニコニコ顔なのを確認できる。右手の刀を背後にかつぎ、揃っで同じポーズで急流を渡る人々。色取り取りの衣が美しくて、群舞のように見える。その急流に飲み込まれ、流される人物や、無残な首なし死体も同じ場面に描かれているのだが。本書では、金雲に彩られた山と川を、これが伊吹山でこれが揖斐川というように地理を特定し、福島正則勢や徳川家康の存在などを示す。お伽の世界のように見えて、きちんと戦場のリアルを踏まえているらしいことが分かって興味深い。

 「黒田屏風」は、黒田長政が徳川方の武将として大坂夏の陣の戦勝を記念して作らせたもので、長く黒田家の所蔵だったが、戦後、大阪市が譲り受けたそうだ。たぶん私は未見。右隻、武士団の密度が半端ない。戦闘集団と左端の大阪城以外は、ほぼ全面的に金色の雲に覆われていて、山や田地など自然の風景は申し訳に覗くのみ。そのため、何だか現実離れして、天上の神々の戦さのようにも見える。左隻は落城後の避難民の様子で、もう少し人々の姿がバラけるが、それにしてもこの熱量の高さ。岩佐又兵衛が制作にかかわったという説も、納得できるように思う。

 福岡の『大関ヶ原展』で出品予定の『大坂冬の陣図屏風』も紹介されていた。木挽町狩野家に伝来し、東京国立美術館が所蔵しているそうだが、見たことあるかなー。あまり記憶にない。こういう「美術」というより「史料」的価値の高い作品って、東博では冷遇されているんじゃないかしら。

 さらに面白かったのは、美術史家&歴史学者による「合戦図10選」という企画。美術史家・狩野博幸氏のセレクションは、(1)保元・平治合戦図屏風(メトロポリタン美術館)(2)蕭白筆/宇治川先陣争図屏風(個人蔵)(3)津軽屏風 (4)安徳天皇縁起絵巻(全8幅)(赤間神宮)(5)黒田屏風 (6)後三年合戦絵巻(東博)(7)レパント戦闘図・世界地図屏風(香雪美術館)(8)蒙古襲来絵詞(三の丸尚蔵館)(9)烏天狗黒船を襲う図(個人蔵)(10)河鍋暁斎/風流蛙大合戦之図(暁斎記念美術館)。ひえ~(1)とか(4)とか見たすぎる! (9)は「たぶん国芳ですよ」とおっしゃるとおり、「讃岐院眷属をして為朝をすくう図」の烏天狗たちに似ている。あと番外だが解説で触れられている『島原の乱図屏風』(秋月郷土館)も見たい。

 歴史学者・高橋修氏は、(1)一ノ谷・屋島合戦図屏風(神戸市立博物館)(2)湊川合戦図屏風(和歌山県立博物館)(3)津軽屏風 (4)黒田屏風 (5)大坂冬の陣屏風(東博)(6)川中島合戦図屏風(和歌山県立博物館)(7)賤ヶ岳合戦図屏風(大阪城天守閣)(8)長篠・小牧長久手合戦図屏風(犬山城白帝文庫)(9)朝鮮軍陣図屏風(鍋島報效会)(10)蛤御門合戦図屏風(会津若松市)。歴史学者らしからぬ渋い選択、広汎な目配り…と思ったら、和歌山県立美術館で学芸員をなさっていた経歴の先生だった。(9)の存在は初耳。原本は佐賀の乱で焼失し、明治の写本しか残らないそうだが、見たいわー。

 藤本正行氏による「描かれた戦国武将のうそ・ほんと」も良コラム。戦国合戦図のほとんどは、合戦や武装の実態を知らない江戸時代の絵師によって描かれたため、事実と異なることが多いそうだ。洛中洛外図などの祭礼に供奉する人々の武装のほうがリアルな点がある、というのが興味深い。そのほか今号は、杉浦日向子の特集、『大英博物館展』の紹介、マニ教絵画、岡本太郎記念館、片岡球子展のマンガ展評など、私の琴線に触れる記事が多数。あなうれしや。

※参考:大阪城天守閣
『大阪夏の陣屏風』(黒田屏風)は特別展の時しか見られないようだが、ミニチュアとパノラマビジョンによる「大阪夏の陣屏風の世界」という展示は常設らしい。いつだったか合戦図屏風の企画展があって、すごーく見に行きたかったけど、東京からは行けなかった。次の機会は逃すまい。
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