付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「ほうかごのロケッティア」 大樹連司

2009-12-31 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「ここでやめたらオレたちゃなんだ、ただの馬鹿じゃないか」
 王立宇宙軍シロツグ・ラーダット大佐の言葉……それ、作品違うって。

 表紙イラストは残念。下手な人ではないけれど、どうも何かが気にいらなくて、ずーっとずーっと理由を考えていて(というのは内容の感想は「面白い!」のひとことで決まりだったから)、ハタと気がついたのは「主人公2人が空を見ていない」ということ。
 いつのどんなシーンなのか?なんてのはどうでもいい。ただ、あそこまで頑張って紆余曲折して人を殺しかけたり死にかけたり人生を棒に振る覚悟までして目差したロケットの打ち上げを、たとえ試作品の何本めかにしても最後まで見送らずに振り向かせたらいかんだろ?……という感想をいだいてしまうくらい熱い思いが詰め込まれた1冊。

 中学時代はイジメを受けながら電波の飛びまくったハガキをラジオ番組に投稿し続けていた褐葉貴人も、遙か太平洋上の孤島で高校デビュー。大財閥・那須霞グループ創始者の孫娘である翠の手下となり、クラスの安定と進学率の向上をめざして陰からクラスを動かしている。
 ところが、時季外れの転校生としてやって来た美少女・久遠かぐやが、何故か褐葉の過去を知っていたことから、衛星軌道に届くロケットを開発しなければいけなくなり……。

 とにかく冒頭で予想した以上のテンポで話が進み、期待した以上に話が二転三転し、それでも登場人物にはきっちり存在する意味が与えられ、迷走しながらもお約束の結末に持っていき、そこで「良い思い出」で終わらせたら単なる青春小説、なにもかもあからさまに説明してしまったら「それなんていうケータイ捜査官?」という安易な展開になるところをあえて踏みとどまり、終わった終わったでエピローグを向かえたところでさらにくるくる1回転半くらいするストーリー運び。『魔竜院光牙最後の闘い』かと思えばそうならず、ならば『ロケット・ボーイズ』かと思えば『なつのロケット』(あさりよしとお)のテイストも漂いだし……。

「なんでもかんでも自分のせいだ、なんて思いたがるのは、ただの自己愛よ!」
 久遠かぐやの言葉。

 でも、確かに「雑用係」というと単なる下働きだけれど、その役割の本質は「総務」であり、それをテーマに合わせて言い換えると「プロジェクト・マネージャー」になるんだよなと『星虫年代記』を思い起こしながら頷きました。読んでいて良いように転がされましたが、今年を締めくくるのにふさわしい作品でした。
 あの最後の6月からの50頁をへたにいじらず、そのままの勢いで映像化してくれるなら、あのヒロインかぐやのオヤジ感性の口の悪いセリフをそのまま喋ってくれるなら、邦画だろうとOVAだろうと観てみたいよ。

【ほうかごのロケッティア】【大樹連司】【しずまよしのり】【ミッション・スペシャリスト】【南の島】【スクール・カーストごっこ】【ケータイ】【ロケット部】【オタク】【高校デビュー】【王立宇宙軍】【龍勢】【プラネテス】【ブラジル国債】【ネネカ隊】【ツンデレ】【太平洋戦争】【ロケットとはシグルイなり】【トトロ】【黒人霊歌】
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「宇宙船<仰天号>の冒険」 梶尾真治

2009-12-17 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 ノスタルジーを味わうロマンチックSFともいえるような作品で一気にメジャー化した梶尾真治ですが、もともとユーモアでも怪奇でもハチャハチャでもSFならなんでも書く人なので短編集を読むと次に何が出てくるか分からない面白さがあります。
 この短編集も『ムーンライト・ラブコール』にも収録されている「ムーンライト・ラブコール」「ヴェールマンの末裔たち」の他に、超宇宙怪獣と戦う一騎当千の地球戦士たちの活躍を描いた「宇宙船<仰天号>の冒険」、不条理な愛憎の結末を描いた「チーズ・オムレット虜囚」、タイトルからどういう話か予想できる「もう1人のチャーリー・ゴードン」は妻が酷すぎるという話。不条理ギャグっぽい「ちゃんこ寿司の恐慌」、科学者と作者のどちらがよりマッドかという破滅的「奔馬性熱暴走」、幻想的な小品「愛の鼓動」、これも一種の愛の形という「ランシブル・ホールの伝説」、不条理な悲喜劇「サンタクロース症候群」、追いつめられた男が金木犀の香りに向けて足を踏み出す幻想譚「金木犀の午後」を収録。人間性の不条理とか暗黒面、あるいはスラップスティックとかドタバタとか、ブラックであったりシュールであったり、多種多様な梶尾真治が愉しめる短編集でした。

【宇宙船<仰天号>の冒険】【梶尾真治】【横山えいじ】【福祉社会】【中継ステーション】【アルジャーノンに花束を】
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「スター・トレック」 監督:J・J・エイブラムス

2009-11-07 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「なんとかしろ、スコッティ」
「はいよ、船長!」

 この無茶なカークと職人スコッティのかけ合いだけで『宇宙大作戦』を観た気にさせちゃいますね。

 『スター・トレック』の2枚組DVDが発売当日にアマゾンより到着。最初の感想は「劇場で観て良かった!」。
 DVDが悪いわけじゃないけれど、序盤、カークが建造中のエンタープライズを見上げる位置に立つシーンはやはり大スクリーンがベスト。残念ながら我が家のモニターでは寂しすぎます。
 映像特典はメイキングからNG集まで詰め込まれて108分。キャストの選抜から新旧キャラ対比、異星人の特殊メイクの3段階、没シーンなどなど。NG集がわざわざチープな造りにしてあるところが泣かせます。なんかみんな踊ってばかりいる気がします。NG集だけ観ているとミュージカル映画かと思ってしまいますね。スターウォーズが好きな監督とトレッカーな脚本家のスターウォーズ論も面白いです。「屈辱だ」とか。
 それから、18歳のイェルチン(チェコフ)のチェスの腕前について訊かれたグリーンウッド(パイク艦長)の態度には一見の価値あり。なんともいえない、良い表情してるんですよ……。

【スター・トレック】【J・J・エイブラムス】【予算】【特殊メイク】【バルカンサイン】【耳】
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「竜の卵」 ロバート・L・フォワード

2009-11-02 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 2020年、太陽からわずか2300天文単位という近距離に1つの中性子星が発見された。
 竜座のしっぽの先に位置することから「竜の卵」と名付けられた中性子星を調査すべく宇宙船セント・ジョージ号が派遣されることになったのだが、この地表重力は670億Gという天体の表面では知的生命チーラが誕生していた……。

 人類が中性子星を発見し、何十年もかけて調査隊を送り込んでいる間に、生命体が生まれ、進化し、文明を育てていく異星人。人類の100万倍のスピードで生き、平均寿命37分という早さで世代交代していくチーラとの間にコンタクトは成立するのだろうか?という話で、12個の目を持つ直径5mm、高さ0.5mmの円盤状生物チーラがすごく魅力的に描かれています。ハードSFの名作であり、ファースト・コンタクト・テーマの傑作であり、1つの生命体の進化と進歩の物語。集落が発生し、農業が始まり、数学が発見され、宗教が誕生し、科学が発展し……。
 付録の設定資料はほとんど論文であり、序盤は地球を舞台に科学的なデータをつなげながら世代を超えた中性子星発見と遠征隊編成の物語。一方、チーラの世界に話が移れば「恐竜100万年」か「ローマ帝国の興亡」かという怒濤の展開が待っています。
 どう考えたって紙魚みたいなチーラが魅力的なのは間違っている気がしますが、これは彼らの思考が人間に近いから。「姿形は全然違っているくせに、中身は人間」というのはスペースオペラに登場する異星人への悪口ですが、居住環境が特異で、生きる速度が全然違う生物です。これで思考まで完全に異質だったら、読者がついていけませんよね。

【竜の卵】【ロバート・L・フォワード】【ファースト・コンタクト】【放射線治療】【石器時代】
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「ヘキシーの星のライオン~サターン・デッドヒート2」 グラント・キャリン

2009-10-29 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「生きている方が、生まれてこなかったよりおもしろいことはたしかだからね」
 17%の確率で生まれた土星研究ステーション出身の天才少年ジュニア・バディルの言葉。ただ出版社のあらすじには「少年」と書いてあるけれど、1作目の初登場時点で20歳。本作では20代後半。もう青年と言って良いと思うよ?

 異星人が太陽系に残したメッセージは彼らからのプレゼント、太陽から850億キロの距離に置かれた恒星船の座標だった。その宇宙船に乗り込めば、謎に包まれた異星人ヘキシーズの母星に到達し、進歩した彼らのテクノロジーを人類のものにすることも夢ではなくなる。しかし、ヘキシーズ遠征隊の主導権を巡って地球とスペースホーム社の激しい対立が水面下で激化繰り広げられていた。
 一方、メッセージの発見と解読に大きな貢献をした考古学者クリアス・ホワイトディンプルは遠征隊への参加を希望していたが……。

 太陽系を舞台にトレジャー・ハンターものをハードSF的な考証で描いた傑作、『サターン・デッドヒート』の続篇。こちらも設定をしっかり作り込んであるという意味ではハードSFだけれども、物語としては冒険小説・探検旅行記に近い。
 ホワイティとジュニアの友情物語であり、前半は人類内部の対立をいかにホワイトディンプル教授が乗りこえて遠征隊を編成していくかというプロジェクト構築の物語。後半はヘキシーたちとの接触で彼らが隠しているものにいかに気づき解決していくかというあたりが見所になりますが、「ファースト・コンタクト」というより「カルチャー・ギャップ」を楽しむ話かもしれません。
 主人公である中年男のホワイトディンプル教授ことホワイティは考古学者。なにかと自分を卑下しがちだけれど何か緊急事態が起こったときの判断力は正確かつ迅速。何か思い立ったときの行動力も一心不乱にしてパワフル。運転免許を取得すると決めたら原動機付自転車をすっ飛ばして大型特殊をとろうとするタイプです。インディー・ジョーンズが大学の授業と発掘現場でイメージがぜんぜん違うようなものですね。
 これに対して小鬼のようだと表現される青年ジュニアは学問においては不得意分野がなく、どの分野でも一流とみなされる天才。賭け事でも負け知らず。けれども気分屋でユーモアたっぷりのひねくれもので、天才の代償として老化が急速に進む小さな肉体に押し込められています。
 この2人がコンビを組んだらどこまでもいけるし、どんな敵にも負けやしないと思わせてくれるのです。旅の果てがヘキシーの星であろうとリリパット国であろうとハリ湖だろうが月光洞だろうが、ちゃんと切り抜けて隊員全員を連れ帰ってくれるという気がします。
 忙しくても、手に取ったらつい最後まで読み直してしまう1冊です。

【ヘキシーの星のライオン】【サターン・デッドヒート2】【グラント・キャリン】【ファースト・コンタクト】【ジョーク】【六進数】【冗談劇】【陶磁器】【飾り時計】【システム・エンジニア】
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「惑星キャリバン探査隊」 スティーヴン・ポプケス

2009-09-25 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 いきなりの交通事故であった。
 緑豊かな惑星キャリバンで、宇宙船<シェナンドー>の探査隊が運転するバギーが現住生物の1体をひき殺してしまったのである。しかも、それはいるはずのなかった知的生命体だった。
 この宇宙において地球人類は有力な勢力ではない。知的生命体の住む惑星に侵入し、危害を加えたことが明らかになれば4人の乗員全員が殺人犯及びその従犯として厳罰が処せられることは明白だった……。

 ただちに惑星を離れるきまりを無視し、必死になって植物というか森林そのものと一体化したライフ・サイクルを持つ異星人キャリビーとのファースト・コンタクトを続けるのだけれど、それは自分たちの弁護材料を集めるためなのでした。できれば外交を樹立して、相手側の許しを得てから報告しないと……という話だけ聞くと、なにか短編向きのアイデアですね。
 登場人物の数は少ないのだけれど、やたら過去の回想は入るし、みんな幻覚を見るし、宇宙船のAIは口を挟んでくるしで、ページ数もかなり膨れてしまいました。そんなに読みやすくもなく。面白いけれど、何度も愛読とはいきませんでした。

【惑星キャリバン探査隊】【スティーヴン・ポプケス】【ファースト・コンタクト】【ヒロヒト】
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「スター・トレック2~カーンの逆襲」 ヴォンダ・マッキンタイア

2009-09-01 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 劇場版スター・トレックの2作目。SF映画として完成させよう、大スクリーンで巨大な宇宙船を再現しようという気合いが空回りしてしまったような1作目から転じて、テレビシリーズの後日譚として制作されたのが『カーンの逆襲』。当時ロードショー公開でも2本立てがあたりまえだった名古屋地区では『フライング・ハイ2』と同時上映w。それをじっくりノベライズしたのが本書。

 砂漠の惑星を調査していたUSSリライアント艦長テレルと一等航海士チェコフは、そこで優生人間カーンの一党に捉えられてしまう。
 かつてUSSエンタープライズのカーク船長の奸計にはまって惑星セティアルファ5に追放されたカーンだったが、アルファ5は追放直後の環境変化で死の星と化してしまい、以来15年間カーンは復讐のチャンスを待ち続けていたのだ。
 仇敵であるカークが今は提督となり、訓練生たちと共にエンタープライズ号で訓練航海中と知ったカーンは……。

 カークたちの老いを感じさせるシーンがそこかしこにあり、旧レギュラーの引退と世代交代を暗示させるのですが、実際はそこからかなり頑張ってしまったのは『宇宙戦艦ヤマト』と同じ。幸いにもTNGのジャン=リュック・ピカードに主役を引き継いだのだけれど、さすがはカーク。

 「艦長」と「船長」の違いは指揮するのが「軍艦」かそうでないかの違いなので、ネモ船長はあくまで船長ということにこだわりますが、ジェームス・T・カークもテレビシリーズでは船長なのですね。エンタープライズ号が戦闘目的の軍艦ではなくパトロール船という設定なので。
 でも、これ以後は艦長になります。TNGではピカード艦長だし。原語ではどちらも「Captain」で同じ。

 士官候補生のサービック大尉を演じたカースティ・アリーが契約のもつれから次作ではロビン・カーティスと交替。いかにもバルカン美女のカースティからロミュラン的なロビンに変更されたのは残念無念。しかし、カースティ・アリーは太ったり痩せたりが激しいなあ……って、本の話ではありませんね。

【宇宙大作戦】【スター・トレック】【カーンの逆襲】【ヴォンダ・マッキンタイア】【斎藤伯好】【暗黒星雲】【宇宙葬】
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「NASA/トレック」 コンスタンス・ペンリー

2009-08-31 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「偉業を成しとげるために危険をおかすのを怖れてはならない。けれども、無知で無謀なギャンブルに人命を賭けたりしないよう最大の注意を払わねばならない」
 1927.8/31『アウトルック』に掲載されたミルドレッド・ドーランを偲ぶ言葉の一節。

 「/」という記号は日本のヤオイにおける「×」と同じようなものと考えれば良いんですよね?
 この本は現実世界における宇宙開発の担い手である「NASA」と架空世界において人々を宇宙冒険へと誘ってきた「スター・トレック」という似て非なるものをスラッシュすることで、アメリカ社会におけるサイエンスとセックスとポピュラー・カルチャーを浮き上がらせようというもの。ファンタジーとリアリティーは裏表なのです。

 ただ第1部「NASA神話の光と影」でイメージで誤魔化されがちなNASAの無為無策、予算獲得のためのその場しのぎ、旧態依然の女性特別視、トラブルの原因隠しなどを指摘する一方、第2部「もうひとつの『スタートレック』ではスタトレ同人誌界での傾向と対策というか、どういう組み合わせが容認され、どのようなストーリー展開が非難されるか等について語っているわけですが、今ひとつ全体の構成がしっくりと頭に入ってきません。というか、この本全体で何が言いたいか飲み込めないのは真剣に読んでいないせいなのかな。
 さっくりまとめてしまうと、どちらも宇宙テクノロジーの象徴であり、互いに影響し合っていることは事実。頭が硬直しきっているNASAは、この際、スタトレ同人誌の方も見習って、ホモエロな平等主義と反人種差別思想で徹底的に染め上げなさい……ってことなんでしょうか?
 プロローグも第1部、第2部、エピローグもそれぞれの論としては面白いです。ただ、論文の構成として考えるのであれば、もうちょい一体化した方が読みやすくなる気がします。

 訳者はあまり『スター・トレック』を知らないのかしらねとあとがきの引用箇所を見て思いました。少なくとも日本版オープニングには思い入れはない模様。

【NASA/トレック】【女が宇宙を書きかえる】【コンスタンス・ペンリー】【NASAおたく】【スター・トレックやおい】【IDIC】【集団トラウマ】【スラッシャー】【シルエット・ディザイア】【チャレンジャー事故】
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「猫柳ヨウレの冒険~宇宙航路」 光瀬龍

2009-08-18 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「女をいじめるやせ男
 はかりにかけたら一貫匁
 お風呂に入れたら浮いちゃった」


 猫柳ヨウレは連合宇宙船技術専修学校の女学生。学術論文のテーマに『火星人の道』に現われたという幽霊を選んだことから胡散臭さ大爆発の男たちを隊員に選抜。火星、木星、海王星と幽霊探しの旅に出発するのだが……。

 いきあたりばったりのヨウレ、機会が有ればヨウレを犯して売り飛ばしてしまおうというトラコにハザウェイ、騎兵槍といった探検隊の面々に、探検の途中で仲間に引き込んでしまった宇宙生物たち……といったあらすじと設定から今風のスペオペ的な話を期待すると肩すかし。はめをはずしているようで、読後感はオーソドックスな日本のSF小説です。
 もうちょっとはじけてもいいのになあ。

【猫柳ヨウレの冒険】【宇宙航路】【光瀬龍】【萩尾望都】【東キャナル市】【催眠術】【触手】【宇宙動物園】
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「遙かなる星3~我等の星 彼等の空」 佐藤大輔

2009-07-04 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「道義心はつねに人生を豊かにしてくれる」
「面倒は若い連中にまかせる。これが気楽に生きる秘訣だ」

 北崎重工会長となった原田克也に語った黒木の言葉。

 1989年になっても世界はぐちゃぐちゃなままだった。西欧の大半は無人地帯となり、中国大陸も北米も諸勢力に分裂しての争いが続いている。
 それでも、それだからこそ、日本の宇宙開発への取り組みは進んでいた。
 その原動力は科学への探求心でもなければ政治的プロパガンダでもなく、ただ次の全面戦争に生き残るためのシェルターとして新天地を求めるための作業であり、一度動き出したプロジェクトは大規模な公共事業としてもはや止まるところを知らなかった。そして息子を失った屋代幸男はNASDAの新宇宙港JSP-03が建設されつつあるトラック諸島にいた……。

 自由主義陣営の盟主ともいうべき地位についても日本は日本。新聞は右寄りっぽくなっていたものの、教員は赤っぽいし、国際貢献で北米へ陸上自衛隊を派遣しても使用する火力におかしな制限をつけてしまって大損害。現場を知らない人間が、安全なところから言いそうなことです。
 さて、話的には宇宙への道筋が付き、物語の中心となっていた北崎や黒木たちも老い、あるいは鬼籍に入り、ちょうど切りよく3巻完結と思いこんでもいいのですが、世代交代で登場してきた若い新顔たちがまだまだこれから!……という感じにさせてしまいます。
 「平凡な女性」職員であることから(本人の知らぬ間にモルモットとして)JSP-03の要員に抜擢された穂積綾乃、平和作文コンクールに入賞して沖縄基地JSP-02に招待された高校生・島村和人、和人のガイドとして現れた榊原管制長の娘・琴音。そして綾乃の上司であり、ARMS担当責任者の児玉三佐。この4人もまだまだ活躍しそうだし、琴音と和人などはほとんど顔見せの出番なだけに続きを楽しみにしていたのに……もう干支が一回りしちゃったよ……。
 さて、余談。
 宇宙飛行士をめざす少女の物語『ふたつのスピカ』をNHKがアニメに続いて実写ドラマ化。好きな人がいるんだろうなあ。良い話だと思うけれど、「日本初の有人ロケットが市街地に墜落して多くの死傷者をだした」という前提条件でもう素直に愉しめません。
 日本で打ち上げて市街に落ちるって、どういうことしてるの? 地球の自転エネルギーを打ち上げに利用するので、できるだけ赤道近くから東に向かって打ち上げるのが一般的。市街地に落ちるって、どこからどっちに向かって打ち上げたの? 西に向かって打ち上げる国はイスラエルくらいだよ? せっかくJAXAが協力してるんだから、なんとかもっともらしく辻褄合わせてほしいものです。

【遙かなる星】【我等の星 彼等の空】【佐藤大輔】【鶴田謙二】【ゼロテスター】【超時空要塞マクロス】【新世紀エヴァンゲリオン】【金比羅】【硬式宇宙服ARMS】【宇宙英雄ユーリ・ガガーリン】【機動警察パトレイバー】
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「遙かなる星2~この悪しき世界」 佐藤大輔

2009-07-01 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「必ず勝つ。敗北などしない。絶対に認めない。わたしが認める敗北は、自分の寿命にかぎりがあること、それだけだ」
 男が病室の妻へ誓った言葉。

 1970年になっても世界の主要各国は10年前の第三次世界大戦の災禍からいまだ復興してはいなかった。幸運にも日本の都市を射程に収めていた潜水艦が開戦前に沈んだことから(沖縄以外は)ほぼ無傷で乗り越えた日本にしても、世界経済と治安の悪化とは無縁ではいられない。とはいえ、日本はいまや自由主義社会一の兵器輸出国となっており、先制攻撃をしたことで大国の地位を保つだけの力を残すことができたソ連と対峙している。
 その頃、北崎重工から宇宙開発公団へと移籍していた黒木正一は、宇宙計画調整部長として経済性の高い対軌道輸送機の開発を推進していた……。

 実業家である北崎望、技術者である黒木正一、軍人としてドイツに派遣された原田克也、ロケット好きな少年だった屋代幸男の4人を軸に、太平洋戦争期からの日本の宇宙開発を描く『遙かなる星』の第2巻です。彼らがどういう想いで宙を見上げていたかの物語。

「自分の職場についている看板をおもいだせ。俺たちは宇宙を冒険したいわけじゃない。好きなように使いたいのだ」
 宇宙は冒険するところではない。日常の延長線上に位置すべき場所に過ぎないのだという黒木正一の言葉。宇宙空間で納豆ご飯を。

 北崎は第三次世界大戦の惨禍の中から日本の航空宇宙産業を掌握し、黒木は宇宙計画の基幹に居座り、航空自衛隊の空佐となっていた原田克也は新たなプロジェクトのために北崎重工へと引き抜かれます。面識もない他の3人が着々と星への道を歩み続けている中、小さな商社の営業マンでしかなかった屋代幸男にも転機が訪れます。息子の昌幸が宇宙機の副操縦士に選抜されたのです……。
 キューバ危機の顛末以外はほぼ史実通りだった前巻に対し、いよいよ異なる歴史が流れ始めます。とはいえ、その歴史は前途洋々たるものではなく、混乱しきった世界の中でいかに日本が生き残っていくかが問われ続けるものです。日本は棚ぼた式にかつてのアメリカに似た立場となりますが、同じようにやろうとすればたちまち国家が崩壊することも目に見えているわけです。そのあたり、見えているだけ立派、立派。タイやブラジルが頑張っていますね。

【遙かなる星】【この悪しき世界】【佐藤大輔】【鶴田謙二】【ヴァルキリー】【ブレジネフ】【アンドロポフ】【セルゲイ・コロリョフ】【クルト・タンク】【地球外脱出】【マイティジャック】【ユーリ・ガガーリン】【ゴルバチョフ】
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「遙かなる星1~パックス・アメリカーナ」 佐藤大輔

2009-06-29 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
「考えてもみろ。人間は何のために生まれたんだ? この、たかだか半径6500キロのゴミのような惑星でくたばるためか? 違う。絶対に違う。少なくとも、俺はそれを認めない。人間は、この空の上にある世界を引っ掻き回して遊ぶために生まれたんだ」
 金を稼いでしっかり税金を納め俺のやりたいことをやらせろと学生に説く黒木正一の言葉。

 佐藤大輔といえば質の高い架空戦記のシリーズを抱え、周囲にも根強いファンの多い仮想戦記作家です。その特徴は細かなIFを積み重ねて築き上げるリアルで壮大な嘘と魅力的な登場人物たち、血湧き肉躍る戦い……。
 ただ、完結しない。
 『皇国の守護者』も『レッドサン・ブラッククロス』も『地球連邦の興亡』も『侵攻作戦パシフィック・ストーム』も『逆転信長軍記』こと『覇王信長伝』こと『信長征海伝』も、そしてこの『遙かなる星』もシリーズ途中で止まったまま。シリーズもので完結したのは『征途』だけでしょうか。
 しかし『遙かなる星』は大きな戦争の途中でもなく、最終的な結末は既にプロローグなどで断片的に提示されているので、「これで完結なんだよ!」と言ってしまえば言い切れるところが心の拠り所ですね。

 太平洋戦争に敗戦した日本は独立を果たし、自衛隊を発足させるなど着々と復興しつつあったが、航空産業においては軍需産業解体により停滞が続いていた。しかし、そんな中でも着実に世界の航空産業に食い込んでいく新興の北崎重工には、宇宙ロケットに異常な執着を見せる技術者がいた。
 だが、その頃、アメリカとソ連はソ連がキューバに持ち込んだ反応弾をめぐって一触即発の危機に陥っていた……。

 北崎望という1人の老人の葬儀から始まる、宇宙を目ざした日本の物語。

「たとえ銀色ではなく、異星人を撃滅する光線兵器をそなえていなくても、ロケットはロケットなのだ」
 原田父の言葉。

 宇宙開発をテーマにしたシミュレーション小説に分類されますが、この作品最大のIFは「1人のスピーチライターの体調不良」でした。確かに清濁合わせ持って日本航空業界を牽引する北崎重工の誕生とか、宇宙ロケットにこだわる技術者・黒木正一であるとか、キーとなる架空の存在も色々とありますが、基本的には枝葉の問題にすぎません。本人が登場することもなく、実在の人物ながら名前だけちらりと出てきただけの1人の男の不在によって歴史が変わっていくところが、この作品の妙味です。

【遙かなる星】【パックス・アメリカーナ】【佐藤大輔】【鶴田謙二】【J・F・ケネディ】【フルシチョフ】【ヴェルナー・フォン・ブラウン】【セルゲイ・コロリョフ】【セオドア・C・ソレンセン】【空中発射式宇宙ロケット】
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「宇宙大作戦~地球上陸命令」 ジェイムズ・ブリッシュ

2009-06-28 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 「自分はテレビ番組『宇宙大作戦(スタートレックTOS)』の制作には関与していないし、ジーン・ロッデンベリーと個人的な友人ではないし、シナリオや写真を譲ってやることもできないし、『宇宙大作戦』のシナリオや小説を書いて送ってこられても受け取れない」というジェイムズ・ブリッシュの宣言から始まるノヴェライズ短編集。古今東西、ファンの図々しさってのは変わらないんですね。

 『トリブル騒動』(テレビ版サブタイトル「新種クアドトリティケール」)
 『最後の決闘』(テレビ版サブタイトル「危機一髪!OK牧場の決闘」)
 『最終破壊兵器』(テレビ版サブタイトル「宇宙の巨大怪獣」)
 『地球上陸命令』(テレビ版サブタイトル「宇宙からの使者 Mr.セブン」)
 『鏡像世界』(テレビ版サブタイトル「イオン嵐の恐怖」)
 『金曜日の子供』(テレビ版サブタイトル「宿敵クリンゴンの出現」)
 『狂気の季節』(テレビ版サブタイトル「バルカン星人の秘密」)

 ノヴェライズの邦訳タイトルの方が英語版タイトルの直訳ですね。テレビ版のタイトルはこうやって見ると大げさで安っぽい気がします。「鉄の夢」などで知られるノーマン・スピンラッド脚本の『最終破壊兵器』、「人間以上」のシオドア・スタージョンが脚本の『狂気の季節』も収録。ヒューゴー賞の候補になっただか受賞しただかの作品が3本入っているけれど、自分としても好きなタイトルが多い本です。
 スラップスティック的な楽しさが小説からはいまいち伝わらない『トリブル騒動』、異星人によって「OK牧場の決闘」の世界に放り込まれて決闘を強いられるという疑似タイムトラベルものの『最後の決闘』、本当に1969年にタイムトラベルして地球文明が核戦争を回避できた原因を調査せよという命令を受けるがそこに外宇宙からの使者が混線してという『地球上陸命令』、転送事故で平行世界の自分たちと入れ替わってしまう『鏡像世界』等々。
 金森達のイラストも好きだけれど、ノヴェライズなのでユニフォームは原作準拠にしてください。

 英語サイトで調べたら、1968年のヒューゴー賞の映像部門に「バルカン星人の秘密」「イオン嵐の恐怖」「宇宙の巨大怪獣」「新種クアドトリティケール」がノミネートされてますね。でも受賞したのは「The City on the Edge of Forever」(宇宙大作戦 第28話「危険な過去への旅」)……って、すべて独占ですか。

【宇宙大作戦】【地球上陸命令】【ジェイムズ・ブリッシュ】【集団的無意識】【バーサーカー】【タイムトラベル】【猫】【平行世界】【発情期】
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「壮麗なスペース・トリップ」 シンシナティ・ポップス・オーケストラ

2009-06-15 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 カンゼル指揮のSF音楽集の第2弾。
 冒頭のドン・ドーシー作曲のアルバム序曲が邪魔。これがなければ、いきなり「ツァラストラはかく語りき」から始まる良いアルバムになったのに……。
 続いて劇場版『スター・トレック』のメインテーマ、そしてSFドラマ『巡回動物園』の曲……? 日本語版解説によれば『巡回動物園』はジーン・ロッデンベリーが脚本を書いたTVシリーズで「スター・トレック」の原型となった……えっと、英語タイトルは……「The Menagerie」……それは「原型となったSFシリーズ」ではなく、後に「タロス星の幻怪人」として再編集版が放映された第1パイロット・フィルムですね。そう思って聴くと、確かにTOSのテーマ曲のアレンジが聞き取れます。
 さらに『宇宙空母ギャラクティカ』のメインテーマ。こちらは後にオリジナル・サントラを手に入れましたが、こっちの方が勇壮ですね。カンゼルの方が好き。後は『スーパーマン』の愛のテーマ、『スターウォーズ』エピソード4のラストシーンからエンド・タイトルまでの音楽、『エイリアン』のエンド・タイトル、そして再び「ツァラストラはかく語りき」と「美しき青きドナウ」で『2001年宇宙の旅』でおしまい。

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「壮麗なスペース・トリップII」 シンシナティ・ポップス・オーケストラ

2009-06-14 | 宇宙探検・宇宙開発・土木
 カンゼル指揮のSF音楽集の第3弾。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『スタートレックII カーンの逆襲』『スタートレックIV 故郷への長い道』『コクーン』『スペース・バンパイア』『ライトスタッフ』『スペースキャンプ』などのメイン・タイトルやエンド・クレジットの曲が収録されています。『スターウォーズ』からは唯一「イウォーク族の行進」が選ばれているあたりがツボ。
 『スタートレック』関係は他にも例のザトウクジラの歌やらクリンゴン艦隊のテーマやらレナード・ニモイのナレーションも入って、全体の1/3はこっちの曲ですね。

 このCDを買ったのは、学生時代に大学のすぐ近くのレコード店。外壁に大きく西島版ラムちゃんのイラストが描いてある店でしたね。昔は楽器やロック音楽なども多かったのに、いつの間にかアニメ・映画関係と演歌のテープだけになっていました……。
 このアルバムはまだまだサントラを手に入れるのが難しかった時期に、マニアックな選曲をオリジナルスコアに近い大規模な編成で実現してくれるという、とってもありがたいものでした。
 実際、曲によってはオリジナルよりかっこいいしね。

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