付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「ナツコ~沖縄密貿易の女王」 奥野修司

2014-10-19 | 伝記・ノンフィクション
「あんたの目の前にあるのはなんだ? ただの海じゃないよ。海の向こうには黄金があるさ。さあ、黄金の海を渡りなさい」
 密貿易もこう語るとすごくカッコ良く聞こえます。
 もともと台湾と八重山は隣町感覚だったので、国同士が決めた国境線という意識はあまりなかったようですね。

 敗戦直後の沖縄は荒廃していた。
 もともと食糧自給率の低かった沖縄本島は焦土と化し、それに対して占領軍は群島間の交易すら禁じる管理貿易をおよそ5年間にわたって継続したのだ。
 礼儀正しく権威に従うとされていた沖縄の人々の間に、密貿易が広がるのは当然の流れだった。最初は旧日本軍の備蓄物資を、やがては駐留米軍の補給物資を隠匿し横流しし、台湾や本土へと彼らは船を出した。
 そんな自由商人の中に「ナツコ」と呼ばれる女性がいた。わずか数年だった沖縄密貿易の黄金時代を駆け抜けた女傑の生涯。

 50年以上前に死んだ1人の女性の一生を追うことが、そのまま沖縄や台湾の政治情勢あるいは極東地域の緊張状態の変遷を追うことになるのです。また、戦後50年以上も経ち、証人たちが次々と鬼籍に入ってしまったり、事が密貿易ということで50年経っても嘘をついたりしらばっくれる人も多く、著者の追跡の苦労が忍ばれます……というか、あとがき以後の刊行してから「実は」「本当は」と露見するネタの方が本番なのかもしれません。(2007/10/21 2014/10/19改稿)

【ナツコ~沖縄密貿易の女王】【奥野修司】【文春文庫】【密貿易】【ペニシリン】【海賊】【ウチナー世】【発電所】【二・二八事件】【ドル取引】【長崎バザー】【砂糖貿易】
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「NO」 監督:パブロ・ラライン

2014-09-08 | 伝記・ノンフィクション
 1973年のピノチェト将軍率いる軍事クーデターから16年。チリの経済は繁栄していたが、その一方で繁栄から取り残された貧困層も多く、また独裁政権に反対する何万という人々が拘束され、行方不明者も数知れない。
 そんな中、国際社会の圧力によってピノチェト政権の是非を問う国民投票が行われることとなった。
 しかし、軍政独裁政権から仕掛けてきた国民投票に公正さが保障されるのだろうか。選挙に臨む野党の間にも最初から勝利を諦めたような雰囲気が漂っていた。ただ選挙期間の深夜に、1日15分のコマーシャル枠であっても自分たちの主張がテレビ放映されればそれだけでも価値があると。
 けれども反体制側のキャンペーン・ビデオ製作を引き受けることになった広告マン、レネ・サアベドラだけは諦めていなかった。やるからには成果を出してみせると……。

 実話をベースに、ピノチェト独裁政権末期の選挙戦を、広告代理店で活躍していた実在の広告マンの視点から描いたチリ映画。名古屋では栄の名演小劇場だけで公開されてます。
 もちろん選挙戦なので、本来なら独裁政権下でもひっそりと支持者を増やしてきた野党政治家の視点とか、17ほどもあった反対政党の足並みをそろえる努力であるとか、いろいろ視点はあるでしょうけれど、この作品はあくまで自身は辣腕の広告マンとしてそれなりに裕福な暮らしをしていた男からの視点に絞り、放映時間は無制限で圧倒的な資金力のピノチェト陣営に対し、いかに1日15分の深夜枠で立ち向かっていくかという話になっています。ドキュメンタリー映画っぽく、わざと古い機材で荒い映像にしているのも特色。

「チリよ、喜びはもうすぐやって来る」
 正しいけれど陰鬱な政治主張よりも、未来志向こそが現代人が求めているものだとレネは明るいイメージを最前線に押し出した。もちろんこれまで命がけで地下活動をしてきた活動家たちは、このキャッチフレーズにドン引きだけれど「今の視聴者が求めているのはこれだ」という主張になしくずしにGOサイン。

 見終えた感想は「なしくずし」。
 こういう印象を受けてしまうのは、主人公が反体制派の主義主張を信じて参加するのではなく、仕事として受けたにすぎないというスタイルを崩さないからなんだろうな。
 確かに、仕事にはベストを尽くしているし、政府関係者の脅迫や嫌がらせを受けても屈しない。体制派の社長から深入りするなと牽制されようが幹部に取り立てようと懐柔されようが、始めてしまったら手は引かないし手も抜かない。
 けれど、あくまで仕事として受けたから。選挙結果を見届けると、騒ぎ浮かれる人々の間を子供を抱きかかえて家路につく主人公の冷静さが異様に見えます。彼にとっては、反ピノチェトのNOキャンペーンもコカコーラのCMも等価なんでしょう。そして、だからこそ選挙の前も後も同じように仕事を続けられるんでしょうね。
 それはアルフレド・カストロ演じる広告代理店社長も同じかな。
 あいつら、結局、金をもらって仕事しているだけなんですよ!

【NO】【パブロ・ラライン】【ガエル・ガルシア・ベルナル】【アルフレド・カストロ】【ルイス・ニェッコ】【アントニア・セヘルス】【名演小劇場】【コーラ】
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「河北新報のいちばん長い日」 河北新報社

2014-06-17 | 伝記・ノンフィクション
 東日本大震災で自らも被災しながらも、休むことなく新聞を発行し続けた河北新報社の記録が文庫版になったので購入。
 眼下で助けを求める人を見ながら報道することが使命とただ空撮を続けるも、結局その人たちに救援が届いたのは1週間後だったと知らされて報道の価値に疑問を生じる者、社命で原発事故直後の福島から待避したことを悔やみ続ける者など、情報を求める読者の感謝を受けながらも苦悩する新聞人たちの記録です。

「犠牲『万単位に』」
 3/14付の1面トップではあえて「死者」という言葉を避けた。
 それが良かったかどうかは別として、常に被災者でもある読者がどう受け止めるかを考え続けた。

 熱しやすく冷めやすい全国紙や在京キー局に対して、あくまで地元の立場で読者目線に立ち、センセーショナルに煽らず、本当に今必要な情報を届けようとした姿勢が伝わります。全体の構成としてはやや雑多な、計算されていないという印象がありますが、それが臨場感となり取り繕わない記録らしさが出ている気がしました。
 記事を作る人がいて、編集する人、印刷する人、運ぶ人、配る人がいての新聞だということが、まっすぐに伝わってきます。

【河北新報のいちばん長い日】【震災下の地元紙】【河北新報社】【文春文庫】【ロジスティクス】【炊き出し】【スパム弁当】
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「夢いまだ成らず」 尾崎秀樹

2014-02-26 | 伝記・ノンフィクション
 山中峯太郎という人物についてはよく知らず、かろうじて本郷義昭という、和製ジェームス・ボンド中佐みたいなスーパーヒーローが活躍する冒険小説を書いた人……くらいの前知識だったのだけれど、その日東の剣俠児こと本郷義昭が登場するのは、全592頁の本の564頁になってからです。この人、自著の主人公以上に波瀾万丈なんです。

『少年読者は自分の夢を仮託できる主人公に強くひかれる。いや強くひかれる主人公だから自己の夢を託し得るというべきかもしれない』
 それでも、山中峯太郎はあえて少年を主人公に選ばず、それでいて少年読者の喝采を獲得したと著者は指摘する。

 幼年学校から近衛聯隊に士官候補生として配属され、そこから陸軍士官学校というエリートコースを進むはずだった峯太郎。しかし、家計の足しにしようと書いた小説が売れたことから進路がブレ始め、キリスト教に迷ったり禅に走ったりしつつもなんとか陸軍歩兵少尉として任官。さらに陸軍大学校へと進んで軍人としてのエリートコースを邁進します。
 ところが、そこで清からの留学生と親しくなり、やがて勃発するは辛亥革命。これにはせ参じて助力したいと思ったものの、軍にいては何もできないと、朝日新聞社の通信員として大陸へ。そこで、かつての友人等と共に反乱に身を投じるのだが……という、自身が冒険小説の主人公みたいな展開ですが、ここでまだ序盤です。
 孫文とのあーだこーだとか、林彪の身代わりを演じてどーのとかの末に軍から完全に切り捨てられ、食べるために作家となったけれど、少年向けの冒険小説のみではなく、婦人雑誌の家庭小説からユーモア小説、はたまた心霊小説で大ヒットを飛ばしたところで評伝は終わるのですが、ここから死没までまだ30年あるのです……。

【評伝 山中峯太郎】【夢いまだ成らず】【尾崎秀樹】【中公文庫】【敵中横断三百里】【林彪】【226事件】【東条英機】【孫文】
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「南総里見八犬伝/伊能忠敬/東海道中膝栗毛 …他」 少年少女世界の名作47

2013-11-26 | 伝記・ノンフィクション
 小学校の図書館や教室をのぞいてみたり、本屋の児童書コーナーを眺めている限りでは、大判の文学全集というのは最近はかなり比率が小さくなっているようなのだけれど、私が子供の頃は図書館の定番だったし、友だちの家に遊びに行っても本棚にあったような作品ばかり。その小学館ワイドカラー版の47巻です。

 『東海道中膝栗毛』はまさに定番。今では「弥次さん喜多さん」といっても死語で通じないような気がして、子供に確認するのも怖いです。「学園道中記」のことじゃないよ?(これでも十分に古い) 江戸からお伊勢参りに旅立った男2人連れが、最終的には京・大坂まで脚を伸ばす、江戸時代を舞台にしたコミカル・トラベルストーリーで、旅行ガイド・宣伝パンフとしての役目も果たしたようです。

 『伊能忠敬』は日本の地図作成の魁である伊能忠敬の略伝。読み返してみたら、みなもと太郎の『風雲児たち』の方が詳しくて面白かったというのは、みなもと太郎が偉大なんだしょうね。最上徳内や間宮林蔵がほとんど名前だけなので、小学6年だった末っ子の社会科授業に、『伊能忠敬と日本図』(復元図)と『風雲児たち』を持たせてやったのは正解かな。

 『日本芝居物語』は近松門左衛門などの人情ものが2編。挿絵代わりに舞台の写真を使っているのが特徴で、子供の頃は馴染みにくくて浮いた感じがしたものですが、再読しても感想は同じ。むしろ写真の古さに違和感が増しているような気がします。

 『ジョン万次郎漂流記』も『風雲児たち』の方が詳しくて面白かったなあ……。比べたらいかんけど、柳柊二が挿絵を描く漂流記って鬼気迫るものがありますので、渡米体験記より漂流記としてのインパクトの方が大きいです。

 『西鶴名作集』は『西鶴諸国はなし』と『本朝桜陰比事』からの抜粋。大奥裁きみたいな話が主ですね。定番ではあるだけに、ここで元ネタをしっかり確認しておきたいものです。

 そして『南総里見八犬伝』は大好きな話なんだけれど、原作はあまりに長くて、探してみたこともあるけれど、ダイジェスト版しか見たことありません。でも当時は、ちょうどNHKで人形アニメ「新八犬伝」を放映していた頃。作品毎に付いている読書ガイドでも「おうちのかたへ」として「テレビばかり見ていないでと怒ってばかりいないで、これを機会に原作の方を勧めてみたら?」と水を向けてます。
 『新八犬伝』、面白かったなあ。約束を違えた殿様のせいで姫に怨霊が祟り、犬と婚姻することになったのだけれど、その死後、所持していた数珠の仁義礼智忠信孝悌の8文字が浮き上がる珠が飛び散り、やがて日本各地にその珠を手にした8人の男子が誕生。義の珠を持つ者は義に厚く、忠の珠を持つ者は忠誠を尽くし、時には敵味方で戦うこともあったけれど、やがて不思議な縁で結ばれた兄弟、八犬士として集結し、大きな戦いに臨む……というあらすじだけ同じで、デュマの『三銃士』と映画『三銃士~王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』くらいの違い。坂本九の語りが大好きだったのよ。

『東海道中膝栗毛』原作:十返舎一九/絵:太田じろう
『伊能忠敬』文:西沢正太郎/絵:依光隆
『日本芝居物語』文:おのちゅうこう/絵:東重雄
『ジョン万次郎漂流記』文:近藤健/絵:柳柊二
『西鶴名作集』原作:井原西鶴/絵:斎藤博之
『南総里見八犬伝』原作:滝沢馬琴/絵:伊勢田邦貴

【ワイドカラー版少年少女世界の名作47】【日本編3】【小学館】
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「謎の独立国家ソマリランド」 高野秀行

2013-10-16 | 伝記・ノンフィクション
 日本人がソマリアと聞いて思い出すのは海賊くらい。ソマリア沖は航海する貨物船が頻繁に襲撃されるので、普段は自衛隊の海外派遣反対!といっている団体の船舶でも自衛艦の護衛がないと通過したくないという話です。でも、逆に言うと普通の日本人が知っているソマリアの情報ってそれくらいです。
 そんなソマリアを訪問し、あれこれ見て聞いて体験して回った記録がこの本です。

「こんな酷い内戦になるとわかっていれば、バーレ政権を倒したりしなかったのに」
 過激なイスラム思想をおさえ、識字率を向上させ、道路や学校や病院をたくさんつくり、氏族中心主義を廃して男女平等を推し進め……。

 インド洋とアデン湾に面する東アフリカのソマリアは1991年の内戦により分断され、無政府状態が続いていた。
 しかし、崩壊国家の一角に、武装解除に成功して平和が10数年続いている場所があるという。その名はソマリランド。国際的には承認されることはないものの、さまざまな勢力が乱立してリアル「北斗の拳」状態の南部や横行する海賊の拠点である北東部のプントランドとは異なり、国際社会の協力のないまま、独自に各氏族の長老が集まり、3度の話し合いを経て武装解除に成功して全土を平定……って本当に可能なのか?
 戦乱のソマリアにあって民主的な政党政治がおこなわれている楽園が存在しうるのか……?

 「ミャンマーの柳生一族」にて余所者にはなかなか理解しにくいミャンマーの勢力図を日本の江戸時代になぞらえて読み解いてしまった著者なので、今回はさまざまな氏族(clan)が跋扈するソマリアを平氏・源氏で読み解いていきます。
 言ってしまえば源平の争いで分裂した後、今度は源氏の内部で頼朝と義経の内部抗争が勃発し、そこに世界の警察を自負していたアメリカが介入して失敗して『ブラックホーク・ダウン』に至って話をこじらせてしまい、アメリカ憎しで氏族を枠組みを超えてイスラム原理主義が台頭。紆余曲折あってそこから過激派アル・シャバーブが分離……。
 こうした状況を把握するだけでも、現地に入ってハッパのパーティーを回っては断片的な情報や人々の生の声を集めていくしかありません。

 ソマリランドがまとまることに成功した理由は、まず長老や氏族という仕組みを旧宗主国であるイギリスが統治に利用していたため、南部とは異なり、良い意味でも悪い意味でも古い制度が残っていて、それが活きてきたことなんだとか。
 ソマリランドで多数派を占める氏族はもともと遊牧民気質で、利害に敏感で、さらには気が荒くて争いごとが多い気風だったために、逆に争いごとを収めるための掟「ヘール」がしっかり根づいていて、原因が何だったとかどちらが正しいかなどは棚上げして精算できてしまったこと。

「殺人の血糊は分娩の羊水で洗い流す」
 ソマリの格言。

 こうした話以外にも、ソマリア最高峰に挑んだエピソードとか、調査隊もろくに入っていない太古の墳墓を観に行った話とか(現地の老人に言わせれば日本から流れてきた卑弥呼が眠っているそうな)、このあたりでの国家の粗製濫造には海外在住者の力が大きいとか、海賊稼業を始めるには初期投資がどれくらい必要かとか、あれこれ横道にそれながら、貧しい楽園ソマリランドだけではなく、難民キャンプや海賊との人質交渉の仲介で潤っているプントランド、暫定政権は存在するものの内戦が続く南部ソマリアなど各地を見て回っています。
 2012年の状況までフォローして、読み応えたっぷりの1冊。

「ソマリの伝統の核心は血じゃない。契約なんだ」
 和平交渉のすべてに立ち会った長老、長老院のアブドゥラヒ・デーレ。

 でも、ろくな産業も無く、拉致が文化で、周囲は武装勢力が跳梁跋扈している国の方が、日本より政治のシステムがまともっぽそうというのは残念でした。やはり一党独裁というのは良くないけれど、小党派乱立も政党政治として機能するわけないよね?

【謎の独立国家ソマリランド】【そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア】【高野秀行】【本の雑誌社】【世界をゆるがす衝撃のルポルタージュ】【バズーカはレンタル】【アル・シャバーブ】【謎のピラミッド テーディモ】【卑弥呼の墓】【カート宴会】【ディアスポラ】【ケーブルテレビ】
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「わが盲想」 モハメド・オマル・アブディン

2013-08-08 | 伝記・ノンフィクション
(この人たちは民主主義と言論の自由の大切さがぜんぜんわかってないな)
 日本の学生は政治の話をしたがらない。スーダンでは命がけであっても政府の腐敗や政治のあるべき姿について語り合う。そしてアブディンの友人の多くは戻ってこない。

 盲目の青年アブディンは、弁護士志望だったものの先に希望が見出せず、たまたま聞き込んだ日本の盲学校への留学話に応募して運良く採用。
 日本文化をよく知らないどころか、日本語もしゃべれない青年は、鍼灸の専門用語や点字に困惑し、途方に暮れながら受入先を探していくのだが、いつの間にか日本食を愛し、オヤジギャグを使いこなすようになっていた……。

 タイトルからして、やや危険なダジャレネタ。
 文字通り五里霧中の渡日の顛末から、数度の電話のやりとりで嫁さんを見つけて結婚した経緯、そして東日本大震災から現在までを、盲目のスーダン人がパソコンの音声読み上げソフトを駆使して自ら綴った回想録です。
 目が不自由な方にもいろいろ段階はありますが、この人は途中から完全に見えなくなったそうです。でも、苦労はしても苦にした様子はなく、(ときどき堕落しかけながらも)活き活きと生活しています。それに良い嫁さんをつかまえたなあと思います。
 スーダンと視覚障害と、2つの意味での異文化体験でした。

【わが盲想】【モハメド・オマル・アブディン】【ポプラ社】【異文化体験手記】
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「ウルトラクイズ伝説」 福留功男

2013-07-26 | 伝記・ノンフィクション
 今となっては「みんな、ニューヨークへ行きたいかーっ!」「罰ゲームは怖くないかーっ!!」のセリフも通用しなくなり、「ウルトラクイズ」そのものの解説が必要です。
 今はテレビのクイズ番組というとタレントやアイドルが回答者になるものがほとんどですが、当時は視聴者参加がほとんどすべて。そんな中で日本テレビの開局25周年記念番組としてスタートしたのが『アメリカ横断ウルトラクイズ』です。
 これは年1回ペースで放送され、1992年の第16回、1998年のネッツトヨタスペシャルで終焉。その派生で高校生クイズなどになごりが今も残っているけれど、グランドキャニオンでクイズ問題を空からバラまいて「取ってこーいっ!」とか、ニューヨークの大通りを封鎖してマラソンしながらクイズとか、やはり本家のムチャぶりにはかなわない。
 「知力、体力、時の運」を合言葉に日本各地から何万人と集まった挑戦者たちが、一次予選の野球場から空港の待合室、航空機内と次から次に出されるクイズでふるい落とされながら、決戦地の自由の女神像までを旅するドキュメンタリー調の番組。

 スタートしたのは1ドル360円の1977年。ビジネスや新婚旅行以外で海外に行ったことのある者は少ない時代です。そんな時代に、何十人というクイズ参加者やスタッフを引き連れ、日本と違って定刻通りに動くとは限らない航空機などを乗り継ぎしつつ、いつクイズが行われるかわからない夜討ち朝駆けの1ヶ月の旅。その企画時から最終回までの軌跡を、そのほとんどで司会者兼クイズ出題者であった福留功男が綴ったもの。
 参加者の安全確保から機材の移動までリスクがむちゃくちゃ高く、コストも膨大となり、こうやってその裏側を読ませてもらうと「よく10何回も事故もなく続いたなあ」と感心します。
 番組最大の特色はアメリカ本土上陸してからの脱落者に科せられる過酷な罰ゲームと、優勝者に贈られるどうしようもない賞品。でも、「本当にやっているの?」という質問が多発したほどの罰ゲームは本当にやっていて、砂漠に放り出されて空港まで徒歩移動を強いられたり、川に流されたりとあれこれあったけれど、時には話を通していない国境警備隊やドライバーに遭遇して危険なこともあったようです。一方、未組立の飛行機とかエンジンのないクラシックカーなど、豪華だけれど役に立たない賞品は法律で定められた限度額ぎりぎりで、いかにインパクトのあるものを用意できるかという工夫の産物だったとか。
 こういう壮大なバカ企画を日本がやれた時代、アメリカが受け入れてくれた時代があったのだなあと懐かしがるための1冊。

【ウルトラクイズ伝説】【福留功男】【日本テレビ】【すべての挑戦者とファンに捧げるウルトラクイズ年代記】【アメリカ横断ウルトラクイズ】【日付変更線】【罰ゲーム】【早押しハット】
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「ドキュメント《スター・ウォーズ》」 ゲリー・ジェンキンズ

2013-07-05 | 伝記・ノンフィクション
「シニシズムから何かを学ぶことはできても、それを基盤として創造することはできない」
 ジョージ・ルーカスの言葉。

 子供の頃に映画館で夢中になって観た「フラッシュ・ゴードン」のようなSF活劇を作りたいと思い続けていたジョージ・ルーカスは、やがて映画監督として頭角を現し、日本映画「隠し砦の三悪人」に着想を得たSFアクション映画の製作に取りかかる。
 だが、シナリオは二転三転し、予算は膨らみ、時代遅れのSF映画に大金を注ぎこむことなど愚かなことだという周囲の批判、続発する事故と、ジョージ・ルーカスはすっかり疲れきった状態で公開日を迎えたのだが……。

 1977年5月25日に封切られた映画『スター・ウォーズ』の誕生と興亡のドラマは、作品の内容以上にドラマチックだと、監督であるジョージ・ルーカスの生い立ちを家庭環境から語り、やがて映画青年となっていく姿から、「スター・ウォーズ」の製作に突入し、成功し、そして集まった仲間たちと意見や行く道が異なって別れていく姿を追ったドキュメンタリー。結論から言うと「なんでヒットしたか誰にもわからない」。

「誰も、何もわからないのだ」
 ハリウッドの脚本家ウィリアム・ゴールドマン。

 確かに事前にSF大会などでPRを繰り返し、公開前から前例のないノベライズやコミック化、積極的に玩具の商品化を推し進めていたけれど、どれも決定打とは断言できず、次々に討ち死にしていった類似作品とどこが違うのか、はっきりしたことは誰にもいえなかったのです。

 なんにせよ、スター・ウォーズ以後、SF映画の技術は飛躍的に発展したし、映画館が総入れ替え制になったのもスター・ウォーズがきっかけなのですが、成功によって巨大化したルーカス・フィルム自身が、かつてあれほど嫌った大手映画会社と同じように変質していくことになります。まさに興亡。 
 訳者でもある、野田昌宏の特別エッセイ付き。

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「裕仁皇太子 ヨーロッパ外遊記」 波多野勝

2013-03-17 | 伝記・ノンフィクション
「日本では親英というと馬鹿みたいに親英になってしまうし、親独というと馬鹿みたいに親独になってしまうが、国際問題はよほど冷静に大局から見て考えないといけない」
 ニュルンベルグにてヒトラーと会見した後の、秩父宮の感想。

 大正10年。当時皇太子であった昭和天皇は、6ヶ月に及ぶヨーロッパ外遊に出発した。それは、カゴの鳥であった皇太子が単に自由というものを知り、個人的な見聞を広めたというだけのものではなく、明治維新の功労者である元老たちが自分たちの引退前に現実的な帝王学を学ばせておきたいという政治的な思惑があってのことだった。
 しかし、さまざまな思惑から渡航先はなかなか決まらず、出発直前までスケジュールが二転三転し、最後まで予断を許さない旅程だった……。

 船旅の中で西欧風のテーブルマナーを促成で叩き込まれ、ゴルフでも柔道でもカードゲームでも皇太子だからと手抜きはされず、まだ戦死者の回収も終わっていないソンム、ヴェルダンの戦跡を見学し……という洋行の顛末を中心に、明治大正の政治情勢から、日英皇太子によるゴルフ対決、太平洋戦争後の訪米までを総括した1冊。海軍資料や関係者の日記や書簡、電報文等から再構築しています。

【裕仁皇太子 ヨーロッパ外遊記】【波多野勝】【草思社文庫】【昭和天皇の行動の原点】【可愛い子には旅をさせよ】【薩長】【排日移民法】【日英同盟】【ロイド・ジョージ】【ベーコンエッグ】【関東大震災】【日米親善野球】【スミソニアン自然博物館】
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「いざ志願! おひとりさま自衛隊」 岡田真理

2013-03-05 | 伝記・ノンフィクション
 あの『おひとりさま自衛隊』が文庫になったんだねえ……と手に取ったら、文庫版は2章追加ということで、2冊目購入……。

「国旗国歌に敬意を払うというのは、国と国民全体に敬意を払うことですし、逆もまた然りで」

 追加されていたのは、その後の反響や自衛隊グッズを綴った「予備自衛官6年目」と、東日本大震災で招集がかけられたあたりの事情とその後の変化について語った「3・11」。自分たちも苦しい、自分の勤め先も厳しい状況で招集がかかる予備自衛官の方々もたいへんで、「万が一」が起きてしまったからこそ、次の「万が一」のために制度を整えておく必要がありますね。 

【いざ志願!おひとりさま自衛隊】【岡田真理】【文春文庫】【ヤッターガエル】【災害派遣】【迷彩柄ご祝儀袋】【武士は食わねど高楊枝】【特殊作戦群】【SDFヌードル】
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「木で軍艦をつくった男」 近藤司

2013-01-10 | 伝記・ノンフィクション
 映画『トラ・トラ・トラ』で美術チーフを務め、戦艦長門と空母赤城を再現した近藤司へのインタビューを中心に、写真や図面・絵コンテ、編纂者の覚え書きで構成された回想録。電子書籍版として刊行されているもののオンデマンド版を購入。紙の手触りがないと落ち着かんのよ。
 近藤がなし崩しに美術担当として宝塚映画に採用された経緯から、『姿三四郎』や『007は二度死ぬ』などを経由して黒澤明に抜擢された話とか、戦艦のセットがでかいものだから製作時は250m先から望遠鏡で見ながら指示していたなどあれこれ。
 空母着艦のシーンが自衛隊のパイロットでは巧く撮れないので特攻隊の生き残りを捜してきて低空飛行で飛ばしたとかいう話を興味深く読む一方、編者が補足する「端から見れば泡沫なゴミの山」が、当事者にとってはどれだけ大事なものなのか、それに価値を見いだす人が他にどれだけいてゴミとして処分されてしまうことに忸怩たる思いを抱くのか、そちらの方に共感してしまいました。
 「断捨離」も正しいと思うけれど、「もったいない」の精神も大事だと思うんだ。世の中、そういう人の思いが積み重なった結果なんだもの。

【木で軍艦をつくった男】【近藤司】【萩野正昭】【VOYAGER】【黒澤明】【電柱】【二〇世紀フォックス】【T-6】【小早川家の秋】
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「新宿遊牧民」 椎名誠

2012-11-25 | 伝記・ノンフィクション
 椎名誠の私小説シリーズの1冊で、『哀愁の町に霧が降るのだ』や『わしらは怪しい探検隊』などのあれこれを総括した劇場版的な語りで、誰が主役やら主題が何かはっきりしないまま、本の雑誌を立ち上げた頃から新宿にパオを作って宴会するあたりまで。
 敦煌やパタゴニアへ旅行することになった顛末など他で語られている個々のエピソードは軽めに押さえられ、その分、そうしたことを機会に知り合った人々について書かれるのがメインとなっています。編集者や居酒屋店主、漁師に写真家など酒飲み友だち、旅仲間たちの人生について語るのがテーマのようです。そうした、それまで別々の人生を、別々の土地で過ごしてきた者たちが、次第に集っていくさまは梁山泊に漢たちが集う光景を見るようでもあります。バカでなりゆき任せだけれど格好良い。
 
【新宿遊牧民】【椎名誠】【講談社文庫】【輝けるバカたちの実話物語】【ホネフィルム】【本の雑誌社】【海浜棒球始末記】【あやしい探検隊】【本の雑誌血風録】
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「フォードの野望を砕いた軍産体制」 NHK取材班

2012-11-17 | 伝記・ノンフィクション
「法律で自動車が出来るなら、お目にかかりたいものだ」
 日本フォード支配人、ベンジャミン・コップの言葉。

 NHK製作のドキュメンタリーを書籍化したものの1冊。
 アメリカについでヨーロッパ・中南米の市場を制覇したフォードがアジア進出を目論み、日本を次のターゲットにしたはずだが……と調べていた調査班は、実際に横浜に工場が建設されていたことを知り、当時を知る人にインタビューしたり資料をあさりながら、フォードの進出と撤退の経緯をまとめあげる。

 ……で、こうして日本は「軍用自動車は国産で」という陸軍省の後押しで、強硬路線でフォード社のアジア進出を頓挫させたものの、「すぐに追いつくさ」と高をくくっていた自動車国産化政策が頓挫し、最終的にはそのまま太平洋戦争に突入したあげくフォードシステムによる大量生産に押し流されて敗戦……。
 敵の野望を砕いた気になって喜んでいるうちに、モータリゼーションのみならず産業の近代化そのものに乗り遅れた愚かさ。
 職工が通常の3倍近い高給とか社食でもステーキとかいう姿に何も感じなかったのかね。
 もちろん、ホーソン工場とかテイラー実験とか大学で学んだ身では、フォードシステムが完全とはいいませんけど、それにしたって生産力の差がどうしてそこまで広がったか考えるとうんざりします。

【フォードの野望を砕いた軍産体制】【日本の選択】【NHK取材班】【モダンタイムス】【自動車製造事業法】
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「新島八重」 久野潤

2012-10-21 | 伝記・ノンフィクション
 幕末に会津藩の砲術指南の家に生まれ、銃火器の扱いに秀でて育ち、米の一俵や二俵は抱えて走るような強力を持ち、合理的すぎる母親に育てられた女傑の生涯。
 でも、帯のあおり文句や表紙イラストを真に受けるとがっかり。
 まあ、評伝的なものなんだろうけれど、新島八重という女性についてより、彼女が生きた時代や地域について割かれる紙幅の方が多く、「八重が会津戦争のときに何をしていたか」より、「会津藩の人間がどうして常に国家の最前線ともいえる土地へ送り込まれ続けたか」とか「新撰組が誕生した背景」などの方が詳しいのですね。そりゃあ、人を語るのにその背景に触れないわけにはいかないけれど、タイトルからして主客転倒という感じがしなくもない。
 八重自信について語られ始めるのは、主に戦後の新島襄との結婚後からであり、赤十字活動、茶の湯への傾倒といったあたりから。虚実取り混ぜた活躍を見たければ、来年の大河ドラマを視ろということか……。

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