付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「冒険商人シャルダン」 羽田正

2012-10-19 | 伝記・ノンフィクション
 「冒険商人」という言葉の響きだとすごく格好良くて、メジャーどころではドラゴンクエストの『トルネコの大冒険』とか、マイナーなところでは中里融司の『冒険商人アムラフィ』とかあるわけですが、実態としては当然のことながらマルコ・ポーロの路線なんですね。
 現代で言うなら国際的ビジネスマンとか交易商とか商社マンなんだけれど、17世紀といえばパリからペルシアというと行くだけでも大冒険……という意味での冒険商人であって、決してシンドバットのように宝石の谷に迷い込んだりとか、怪物と戦ってということはありません。はい。

 ジャン・シャルダンはペルシアの王宮に入り込むことに成功し、宝石商いで大成功したが、新教徒であるシャルダンは新教への迫害が続くパリを脱出してロンドンに移住。爵位を得て東インド会社の株を持つことにも成功する。だが、期待の長男は才覚の片鱗を見せないまま放蕩にふけり、インドに残してきた弟夫婦とは取引のいざこざから疎遠になり……。

 商売については親子・兄弟でもケチといわれても仕方がないくらい細かく正確な一方で、フランスから逃れてきた新教徒の支援にはどかーんと寄付する豪快さを併せ持つ人物像が面白い。パトロンになってもらう分には良かったかもしれないけれど、部下とか取引先としたらきつかったろうなあ。
 肖像画が、額縁のおかげで自然史博物館に収蔵されているというのもポイント。

【冒険商人シャルダン】【羽田正】【アジア交易】【イギリス東インド会社】【ペルシア】【旅行記作家】
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「ディズニー伝説」 ボブ・トーマス

2012-10-15 | 伝記・ノンフィクション
「一言で説明しろ。それ以上口にするな」
 複雑になった話が巧くいくわけがないと、ロイ・ディズニーは物事を常に単純化することを好んだ。

 これはディズニー映画のノベライズでもないし、作品紹介やファンブックでもないし、ディズニーランドのホスピタリティに言及したものでもありません。
 ディズニーといえば天才肌のアニメーターであったウォルト・ディズニー。それ以外の人物が書籍やテレビ番組等で言及されることはほとんどありません。けれど、ロイ・ディズニーがいなければ、おそらくディズニー作品の大半は生まれていないし、ディズニーランドやらディズニーシーなんてものも存在しなかったはず。
 これは、天才にして芸術家であった弟ウォルトが、採算などろくに考えずに広げた夢想の大風呂敷を畳んで回った兄ロイの話。芸術なんか理解できないけれど、弟がやりたいことを実現できるよう、ひたすらマネージメントに奔走し、労働組合と戦い、銀行や大企業との交渉や金策に臨み、スタジオの土地や器材の確保に飛び回り、その一方で弟が身体を壊さないよう裏で仕事のオファー(MGMのミュージカル映画『錨を上げて』)を蹴っ飛ばしたり、ロイの管理部門とウォルトの制作部門で対立して弁護士を立てて喧嘩したりしています。
 ディズニーの伝説と言うより、「恋愛にルールはないといいますが、仕事ではモラルを無視するわけにはいきません」と主張したロイの物語。

 このロイの伝記ともいうべき本を読んでいると、ディズニーの著作権・商標権へのえげつないばかりの厳格さとかマーチャンダイジングの徹底ぶりに納得がいきます。
 そのアニメ製作の黎明期から、映画会社に足下を見られ、制作費は値切られる上に支払われない、キャラクターの権利を持っていかれる、パクリ作品が後追いしてくる、やっと軌道に乗ったかと思えば重役がダミー会社を作って商品化権を持っていこうとする、労働組合ができてスタジオが止まったかと思えば戦争が始まってスタジオが軍需工場として接収。戦争協力で作った広報・教育映画はことごとく赤字、何百と制作した部隊章デザインはすべて持ち出し。戦中戦後に製作した『ピノキオ』等は大赤字。そんなときに大人も子供も安心して遊べる遊園地を造るぞと天才弟がまたもや言い出して、資金繰りに右往左往……。
 そりゃあ、キャラクターの権利は絶対に手放さないという企業体質が遺伝子レベルで身についてしまっても仕方がありません。
 舞台を日本に移して翻案し、NHKの朝ドラの題材にしても良いような話です。なんというか、この兄の弟好きっぷりには照れてしまいますわ。あれだけウォルトに振り回されながら、彼の死後も「これはウォルトの望んだことかどうか」だけが行動原理で、ついには借金を残さずにディズニー・ワールドを建設してしまったのですから。
 手塚治虫にも、こんな兄か姉がいれば良かったのにね。

【ディズニー伝説】【天才(ウォルト)と賢兄(ロイ)の企業創造物語】【ボブ・トーマス】【日経BP社】【夢と魔法の王国を築いた影の男の物語】【内国歳入庁】【自治体】【株主総会】【ハワード・ヒューズ】【多角経営】【資金封鎖】【著作権侵害】【パターン爆撃】
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「3・11の素敵な話」 やまだひさし

2012-05-01 | 伝記・ノンフィクション
 ラジオ番組のパーソナリティーである著者が、東日本大震災からの1年間で見てきたこと、聞いてきたことを記録していくことで、自分たちにやれることを問い、その想いを共有していこうとまとめたもの。
 刊行と同時に嫁さんが購入。

「できることからでいい。無理は続かないから、それに楽しく続けていかなくっちゃ」
 T.M.Revolution 西川貴教の言葉。

 被災したFM岩手の釜石支局に応援に行き、瓦礫の山と化した街に唖然としつつも街の声を送り届け、重苦しいニュースばかりではいけないと絵本の朗読を続け、台湾へは義援金の御礼に飛び、できるだけのことをやろうとした試行錯誤の1年間。
 たとえ誰かに怒られようと、空回りしようと、相手に必要なのは何なのか考えながら、1つずつ積み上げていくのはたいへんなことです。

【永遠に語り継ぎたい】【3・11の素敵な話】【やまだひさし】【ぱる出版】【TOKYO FM】【シナプス】【ツイッター】【ラジアンリミテッドF】【台湾の義援金】【ヒャダイン】【東京タワー人力ライトアップ作戦】【復興支援CDプロジェクト】【音楽しりとり】【よみきかせ】
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「ダンナ様はFBI」 田中ミエ

2012-02-24 | 伝記・ノンフィクション
 「人は見た目じゃない」と考えて生きてきたけれど、結婚して夫から徹底的に仕込まれたことからすると、どうやら「人は見た目」らしい。
 コピーライターで、最近はインタビューの仕事もしている著者が結婚したのはアメリカ人で、FBIの捜査官だった……。

 自分みたいな人間には、いかにも少女マンガなイラストよりも取っつきにくい表紙ですが、本屋で半分くらい立ち読みして面白かったので購入。
 FBIで麻薬捜査などを担当していた捜査官が、日本で見初めた女性と結婚し一緒にくらしていく中で、FBI流の危機管理のテクニックやプロファイリングを日常生活やビジネスシーンに応用するよう妻を仕込んでいく話。
 なのでビジネスのノウハウ本としても読めるし、ストーリー的には『ダーリンは外国人』とか『インド夫婦茶碗』より、『パイナップル・アーミー』の方が近いかも。まだアスクルも無かった時代に住所氏名の分かるものやデータの入ったCDを捨てるときにはシュレッダーにかけろとか、新居の鍵はプロの錠前師に付け替えてもらえとか、ドアの内側にはメジャーを縦に張りつけるとか……。

「自分に投資しなければ、子供にも投資できない。投資は自分に7割、子供に3割だ。自分への投資は必ず子供にも反映するよ」

 2008年に単行本化されたものだけれど、2012年に文庫になるにあたって最後の1節が書き加えられ、この話は幕となります。

【ダンナ様はFBI】【田中ミエ】【幻冬舎文庫】【国際結婚】【ビジネス・セミナー】【危機管理】【ファイアウォール】【松本サリン事件】【アルカトラス】【笑顔】【ヒール】【5センチ】
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「ビヨンド・エジソン」 最相葉月

2012-02-20 | 伝記・ノンフィクション
「そもそも会議やミーティング自体が、誰かが作ってきたアイデアの善し悪しを判定する場だと考えられていて、アイデアの交換をして発展させていく場としてはとらえられていないように思うのです」
 日本やアジアの国民性の欠点を指摘する、情報科学者・中小路久美代の言葉。

 感染症の治療薬開発者から小惑星探査機「はやぶさ」のサンプラー担当まで、さまざまな分野で実績を上げている科学者たちにインタビューしていったもの。その道筋は平坦ではありません。博士号を取得しても定職に就くのが難しいのが今の世の中、女性研究者のキャリアが評価されにくいのも今の世の中。男だったら宴会要員としてでも居場所を見つけられるかも知れないけれど、女性の場合は本当にトップクラスでないと居場所がない。
 印象的だったのは、コンピュータに人間の言葉を認識させようとしている音声工学者の研究が、自閉症の学習障碍に結びついていく顛末。いろいろと長年の経験に思い当たるふしがあり、この一節だけでも読んだ価値があったと感謝。
 さて、どの科学者たちも紆余曲折の末に現在があるわけですが、勢い余って米軍の予備士官訓練隊のプログラムにまで参加してしまったのは、誰でしょう?

【ビヨンド・エジソン】【12人の博士が見つめる未来】【最相葉月】【ポプラ文庫】【地震学者は東日本大震災をどう受け止めたのか】【空気の化石】【首長竜】【プラズマ】【アルツハイマー】【黄砂】【オーバードクター】【ディスレクシア】【Mission first, People always】
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「笑う、避難所」 頓所直人

2012-02-05 | 伝記・ノンフィクション
 東日本大震災で生き残った人々が身を寄せる無数の避難所。その中でも公の支援が届かない、届きにくい自主避難所の1つである石巻・明友館は、その独特な活動と存在感で異彩を放っていた。
 小さな避難所がいかに多くの物資や人を集め、自分たちだけではなく周囲の同じような避難所を助け、助け合いのネットワークを広げていったかを当事者たちの証言と長期密着取材で綴った1冊。

「ある意味、明友館は不平等をやっていたかもしれない。けど、その不平等が、有事の際には平等だったりするんです」
 マハラジャ六本木・オーナー 大原俊弘の言葉。

 自治体や自衛隊、あるいは大きなボランティア団体では「みんな平等」の思想が支援を滞らせていました。物資を必要とする人がそこにいて、物資がそこにあったとしても、全員分がそろうまでは渡せない。
 でも、明友館のやり方は違う。物資は集められるだけ集める。そして渡せるだけ渡す。数が足りなければ、小さい子供や老人から渡す。元気な大人は残りが集まるまで我慢するし、余れば周囲の足りない避難所や避難者を探してお裾分けする。

 明友館の唯一のルールは「ウンコをしたら、水を流す」それだけ。
 “日常”の姿は人それぞれだけれど、これが、人間が人間らしく生活していく第一歩。それ以上のルールは必要ない。
 ただ、これも人がいてこそ。
 ちゃんと役割を果たせる人間が集まっていて、仕事を分担できていたからこそ機能した奇跡。それは頭にいれて読まないといけないと思いました。

【笑う、避難所】【石巻・明友館 136人の記録】【頓所直人】【名越啓介】【集英社親書ノンフィクション】【整理整頓】【人脈】【ハーレー乗り】【さだまさし】
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「ケンカ、友情、サツ婆ちゃん」 西村淳

2011-10-19 | 伝記・ノンフィクション
 南極料理人として知られる著者の半生を、祖母との思い出を中心に語った1冊。
 幼稚園で登園禁止処分を食らったり、雪のかまくらをブービートラップに仕立てたり、高校の演劇部で女子部員から総スカンを食らって分裂騒ぎを起こしたりと紆余曲折にして波瀾万丈の人生。
 ただ、高校卒業後の流れはかなり駆け足で、いつの間にか就職して、いつの間にか結婚していて、いつの間にか南極にいて……というテンポなので、高校卒業か結婚あたりですっぱり区切りをつけた方が良かったかも。

 老人との思い出を語るというと、「がばいばあちゃん」とか「のんのんばあ」とか、とにかく著者へ与えた影響が伺えるものですが、この話もそう。戦後、世の中が大きく変わっていき、家庭にもオムライスなどの洋食が入ってくる中で、とんちんかんな言動もあったりするサツ婆ちゃんですが、醤油と砂糖とひじきで焼きめしを作ってしまうとか、作り方も材料もよくわからない料理を自分の経験とありあわせの材料からでっちあげてしまうあたり、後の南極料理人の原点のような気がします。

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「断髪のモダンガール」 森まゆみ

2010-12-29 | 伝記・ノンフィクション
「宗教は自分だけが正しい、他人もその中に入れて勢力を拡大しようとする。これはエゴイズムです」
 アナーキストな新聞記者、望月百合子の言葉。

 大正時代、断髪洋装の女たちはモダンガールと呼ばれ、女性の社会進出の象徴でもあった……。

 黒々と伸ばした髪を切り、旧来の女性像と決別した女たち42人の人物伝。
 とはいえ、尊敬すべき人物として後世に影響を与えた者もいれば、男にたかっては吸い尽くすだけの者もおり、教育者もいればレズビアンもいるという、実に多彩な女性たちの生きた記録。

【断髪のモダンガール】【42人の大正快女伝】【森まゆみ】【望月百合子】【ささきふさ】【武林文子】【野溝七生子】
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「手塚先生、締め切り過ぎてます!」 福元一義

2010-12-05 | 伝記・ノンフィクション
 竹宮惠子の『マンガの脚本概論』によると、最近は大学まで来てマンガを学ぼうという者ですら、マンガの神様と呼ばれた手塚治虫の話が通じないのだとか。手塚治虫以前にも優れたマンガ家はいただろうし、手塚治虫以後にも優れたマンガ家はいると思うのだけれど、少なくとも日本のマンガを考える上では無視できない大きな存在です。

 その手塚治虫の作品論とか技術ではなく、人となりというか実像について語っているのがこの『手塚先生、締め切り過ぎてます!』。元編集者であり元チーフアシスタントであった人物が明かす巨匠の疾走(ときどき失踪)創作人生です。
 先人の残したテクニックを学んで踏み台にするのは創作の前提なのだけれど、不眠不休で働く体力と集中力はマネしたくてもできないし、〆切り前に抜け出して映画を見に行ったり行方不明になるのは見習ってもらっては困るし。でも、他人事として読んでいる分には面白いのです。

【手塚先生、締め切り過ぎてます!】【福元一義】【倒産】【24時間テレビ】【横山光輝】【虫プロ】【ブラックジャック】
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「ケンケンと愉快な仲間たち」 高桑慎一郎

2010-08-04 | 伝記・ノンフィクション
「アニメーションやコメディー物は、可能な限り日本的にしていかなくては絶対に面白くならない」
 昔、そう言い張った人が居た。
 その人がこの本の著者である高桑氏。演出担当としてハンナ・バーベラ制作のアニメ作品を日本で放映するため、日本独自のオープニングを作り、キャラクターは声から台詞まで個性を強調して分かりやすい差を付け、とにかく落語のノリでどんどん日本語の台詞を書いていったという人。
 そのお陰で、本家アメリカではたいして人気のない『ワッキー・レース』が日本では『チキチキマシン猛レース』としてヒットし、そのメインキャラクターであるナビゲーター犬の「マトリー」は「ケンケン」として根強い人気を獲得しました。
 そんな1960~70年代にかけての日本版作成にまつわるあれこれを、日本語版テーマソングの歌詞や関連グッズ一覧、放映リストなどを交えながら語った1冊です。範囲は高桑氏がかかわったハンナ・バーペラ作品のみ(『幽霊城のドボチョン一家』など、それ以外の作品はちょっとだけ言及有り)。
 日本のアニメや特撮番組が海外で放映される際に、勝手なタイトルがつけられたり、名前が変えられたり、はたまた複数作品をひとまとめにして再構成されたり、ドラマパートを差し替えられたりすることがあり、それについて不満を持つ人もいるようですが……日本はずーーーーっとそれをやっていたんですね。
 しかし、今でも印象に残っているのは、「ハイハイサーご主人様」「パパラパー」「ラリホー」「チキチキ」「ドボチョン」「ムッシュメラメラ」といった擬音や幼児語を交えた造語の数々。ああ、やっぱり英語じゃ誰もそんなことを言ってないんですね……。
 
【ケンケンと愉快な仲間たち】【高桑慎一郎】【ムッシュムラムラ】【フォーリーブス】【スーパースリー】【大魔王シャザーン】【落語】【エノケン】【ネーミング】
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「妖怪と歩く」 足立倫行

2010-06-24 | 伝記・ノンフィクション
「とにかく、人の何倍も幸せになりたいと思っているから、うしろを振り返るより前進あるのみなんです」
 戦争のこと、片腕となったことを訊ねられても感情的な答えが返ることはまずない。

 『ゲゲゲの鬼太郎』などの怪奇まんがでお馴染みの水木しげるは、自叙伝的作品も数多く出している。今さら他人があれこれ書くことなどないようだけれど、そこをあえて本人が語ってきたことを他人の目から見たらどうなるだろうかと追求した結果がこの1冊の本です。手塚治虫との確執、家族、腕を失ったときのこと、アシスタントだったつげ義春や池上遼一、あるいは同じ下宿で寝起きしていた講談師・田辺一鶴のこと、そして近年の妖怪ブームや水木しげるロードのこと……。
 著者が旅行に同伴したり他の人から聞いたりした水木しげる像が彼の作品のキャラクターで誰に似ているかというと、どうやらネズミ男のようです。精力的で、つかみどころがなく、興味の範囲が狭く、助平で金儲けに熱心、そのくせ文化人的なイベントに呼ばれれば喜々として出かけるようなところ。言葉だけ聞くといかにも困ったやつなんだけれど、放っておけない親しみやすさがあるのですね。

【妖怪と歩く】【ドキュメント・水木しげる】【足立倫行】【ゲーテ】【ホピの予言】【アニメ・アメリカ1993】【つげ義春】【ズンゲン】【田辺一鶴】【駆逐艦雪風】【水木ロード】【のんのんばあ】
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「ミイラにダンスを踊らせて」 トマス・ホーヴィング

2010-05-30 | 伝記・ノンフィクション
 名古屋駅前にジェイアール名古屋タカシマヤができたとき、そこに入った三省堂書店は名古屋地区最大と言われていました。こういう大規模書店は完成した当初はとにかく取次に勧められるまま適当に本を並べているだけのような気がして(京都とか他の大規模書店で懲りた)しばらく足を運ばなかったのですが、ふと立ち寄って美術書コーナーでびっくり。美麗な大型本をさしおいて平棚を占拠していたのは波津彬子の『雨柳堂夢咄』と細野不二彦の『ギャラリーフェイク』だったのです……。
 その『ギャラリーフェイク』の主人公フジタがキュレーター(学芸員)を務めていたのがメトロポリタン美術館(メット)。そして、そのメットの館長だったホーヴィングが堅苦しくて陰鬱かつ停滞していたメットを再生し、追い出されるまでの身も蓋もない美術館運営の内幕を赤裸々に描いたのが本書。

『メットの館長は、優れた鑑識力と審美眼の持ち主で、十分に経験を積んだ学識者で、粘り強い外交官で、寄付を募ることに長け、経営能力があり、かつ調停や懐柔をこなせても、それだけでは足りない』
 美術品は集めるのにも維持するのにも金がかかる。そして予算と倉庫のスペースは有限。館長は海賊だったりギャングだったりアナーキストだったりもしなくてはならないのです。

【ミイラにダンスを踊らせて】【メトロポリタン美術館の内幕】【トマス・ホーヴィング】【理事会】
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「テレビ番外地~東京12チャンネルの奇跡」 石光勝

2010-01-15 | 伝記・ノンフィクション
「視聴率をとれ。だが、くだらん番組は作るな」
 東京12チャンネルの社長となる中川順の言葉。
 制作サイドとしては、せめてどっちかにしてくれと泣いたらしい。

 予算もなく、人もなく、視聴率は取れず、番組を放映できない時間帯さえあった東京12チャンネル(現・テレビ東京)の創設期から編制や制作に関わってきた著者が回顧する、小さなテレビ局の奮闘記。こういう黎明期のごちゃごちゃした雰囲気の話は好きなのです。きれいごとでは生きていけない、なりふり構わない世界です。
 新興の何もない局だけに、タモリをコメンテイターにして『モンティ・パイソン』を放送しちゃうし、映画でヒットした永井豪原作の『ハレンチ学園』をテレビ化できちゃう。大河ドラマだってエイヤッと12時間連続で放送するという暴挙も企画が通ってしまって、しっかり視聴率を稼いだりする。大きな局だと保守的でなくても怖くてできないことも、なんだかんだと意見をぶつけ合ったあげく通ってしまうのが面白いところ。
 ただ、金もないし視聴率も取れないので、人気が出たタレントは他局へ移っていってしまうし、番組だってヒットすれば幾らでも真似される。きちんと報道できなかったこともあるし、失敗だって少なくない。そんなあれこれを語っている本です。
 いちばん面白かったのは、永遠に交わりそうにない平行線のイスラエルとアラブに絡む外交レベルのクレームを、日本的な「まあまあ」「そこはおいといて」の精神で乗り切ろうとしたくだりでしょうか。それから、松本清張と視聴率調査の話。

【テレビ番外地】【東京12チャンネルの奇跡】【石光勝】【ローラーゲーム】【日本経済新聞】【八百長談義】【ニュース速報】【12時間ドラマ】【三猿】【ラーメン】
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「英国機密ファイルの昭和天皇」 徳本栄一郎

2009-11-17 | 伝記・ノンフィクション
 2007年刊行の本の文庫化。資料の羅列と分析ではなく、著者の主観で再構成しているので、どこからどこまでが資料に基づくものなのか分かりにくいけれど、英国外交の典型だと概要を理解できたので良しとしましょう。

 腐っても大英帝国。世界各国から王室や上流階級の師弟を留学の形で受け入れているわけですが、別にボランティアとか高等教育の普及などということを考えていたわけではなく、それによって自らと価値観を共有する人間を世界各国の指導者層に送り込みたいだけという話でした。それはアジアの新興国家である日本についても同じであり、皇太子をはじめ皇族や財界の師弟を積極的に受け入れ、コネクションを築いていたのです。
 そうした流れの中で、天皇ヒロヒトと白州次郎らについて英国がどんな情報を収集し活用していたかを、日英同盟の破棄から戦後日本の足がかりを巡ってGHQと繰り広げた駆け引きまで収録し、ドキュメンタリータッチで再構成しています。
 チャーチルも老獪だなあ。そして日本の外交が子供騙しになるのは今も昔も変わりなく……。

【英国機密ファイルの昭和天皇】【徳本栄一郎】【帝国維持】【英国機密文書】【天皇退位計画】【カトリック改宗説】【皇室資産】【ダブル・ストラテジー】【ロバート・クレーギー】
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「エルメスの道」 竹宮惠子

2009-09-20 | 伝記・ノンフィクション
「遅く言っても早く言っても結果は同じ。だったら早く言う方がトクだわ」
 クリスティーヌ・エルメスの言葉。

【エルメスの道】【竹宮惠子】【社史】【馬具】【パリ万博】【ルノー】【鞄】【ファスナー】【ケリーバッグ】【ディスプレー】【スカーフ】
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