付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「婦好戦記1」 佳穂一二三

2020-02-25 | 戦国転生・歴史改変
 古代中国、『文字』は神託に使われるものであり、王室の秘密であった。
 14歳の乙女サクは密かに『文字』を学んでいたことが発覚し、死罪の代わりに罪人として軍隊へと送られる。その軍は、王妃でありながら、武器を取り、戦いに明け暮れた婦好将軍の部隊。そこで彼女は敵の矛先を血肉でなまらせるためだけに最前線に立たされる巫女たちの姿を見た……。

 ほぼ10ヶ月遅れで再始動したヒストリアノベルズの『信長の庶子』『打倒ローマのやり直し』に続く第三弾。はるか三千年の昔、中国に実在した神秘の王朝・殷の後期、商の時代を舞台に女性ばかりの軍を率いて暴れ回る王妃・婦好と彼女に付き従う最弱軍師の歴史戦記。
 ヒストリアノベルズはいわゆる流行のなろう系小説のジャンルから一歩離れ、あまり書籍化されていない歴史フィクション系に挑戦しているレーベル。イラストもしっかりした仕事の出来る人を連れてきていて、本作りも文句なく、面白い話を選んで出してきているので、頑張って欲しいです。

【婦好戦記―最強の女将軍と最弱の巫女軍師―1】【佳穂一二三】【マキムラシュンスケ】【ヒストリアノベルズ】【古代中国歴史ファンタジー】【亀甲占い】【漢字】
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「戦国小町苦労譚12」 夾竹桃

2020-02-06 | 戦国転生・歴史改変
 人質として尾張に滞在している上杉景勝は、既に図書館の主として認知されるようになっていた。
 彼は快適な尾張の暮らしをいずれは越後にまで広げたいと考えていた。だが、それは簡単にいくことではないことは分かっている。この国が豊かで平穏なのは静子の存在があってこそ。単に農業だけ真似してもうまくいくはずもなく、インフラ整備する技術者の育成から流通の根幹になる街道整備まで総合的に同時進行で進めないといけないのだ。
 そして、それができるのは、今のところ静子だけであった……。

 時は1576年。静子がこの時代にやってきて10年超。信長の腹心として富国強兵を成し遂げる一方、恋愛も結婚もすっぽかして子育て始めていますが、そろそろ古き友人たちとの別れの時期も近づいてきています。本願寺との和睦も見えてきて、文字通りのターニングポイントとなる巻。
 その頃、「足満おじさん」は静子のための裏仕事、汚れ仕事に邁進していますが、彼視点での異世界転生・人生やり直しものとして読むこともできます。つまり「将軍様、リトライ!」。

【戦国小町苦労譚】【十二、 哀惜の刻】【夾竹桃】【平沢下戸】【アーススター】【戦国ライトノベル】【狙撃兵】【MG研修】【マンゴスチン】【ゴム銃】【カレー行者】【ツンデレ】【情報誌】【ろうけつ染め】
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「陶都物語 (三)」 まふまふ

2020-01-29 | 戦国転生・歴史改変
「…まこと人の子か」
 草太のプレゼンを受けた阿倍伊勢守は、そう言って少年の顔を凝視した。

 やっと満足のいく作品が天領窯から生み出され始めた。しかし、まだまだ歩留まりが悪いし、美濃焼を支配する西浦屋との対立も解決していない。
 まだ数を叩けない高級白磁<ボーンチャイナ>「根本新製」の付加価値を上げていくには美濃や名古屋あたりで終わってはいられないと、草太は販路を広げるために海路で江戸へと向かうのだが、その途中の下田の港に商機を見つけた……。

 後に伊勢守の懐刀、隠し子疑惑、小天狗と評される陶林颯太が表舞台に立ったところにて幕。1巻の序章とこの3巻の終章で物語としての体裁は整い、ボーンチャイナも誕生し、まずは全3巻で面白くまとまって終わったものの、序破急でいえばやっと序が終わったところ。ここから幕府と諸外国相手にかっぱぎ回る、いわゆる無双タイムが始まるだけに惜しい。ここからですよ? ここからが本番ですよ! 確かに1巻打ち切りとされていたことを思えば、ここまでよくぞたどり着いたと思わないでもありませんが……うん、ウェブ版をまた読み直してこよう。
 暴れ馬みたいなご令嬢はあいかわらずですねー。

【陶都物語 (三)~赤き炎の中に~】【まふまふ】【一乃】【上川畑博】【HJ NOVELS】【ホビージャパン】【幕末転生ストーリー】【陶器ビジネスで成り上がる・幕末サクセスストーリー】【カステラ】【プチャーチン】【銭の野犬】【ステマ】
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「信長の庶子(三)」 壬生一郎

2019-12-26 | 戦国転生・歴史改変
「目の色が変わったな。男は二度、そういう時がある。一度は、始めて女を抱いた時、もう一度は、人を殺した時だ」……という言葉を二度三度と聞かされる帯刀であった……。

 朝倉、浅井、延暦寺、本願寺による信長包囲網を打ち破ることはできなかった。なんとか和議に持ち込めはしたが、織田の一族にも討ち死にする者が出た。だが、織田信長は野望を隠し、臥薪嘗胆で逆襲の機会を覗い、庶子で長子、織田信正は家内の混乱を防ぐため村井重勝と名を改め、あらためて家臣として織田家を支えていくことを誓う。
 その頃、直子の存在をいぶかしむ声も聞こえ始めていた。
 文武で活躍する重勝こと帯刀は確かに麒麟児と呼ばれるほどの才覚を見せたが、それはあくまで試行錯誤の上での結果。しかし、直子は違う。彼女のやることなすことは、どういう理屈で思いついたか分からない。そう、最初から正解を知っていたかに思えるのだと秀吉や半兵衛は語るのだった……。

 未来の知識を持つチートな母親のもとを離れ、織田家の武将として活躍する帯刀あらため織田信正あらため村井重勝の一代記。今回の書き下ろしは、比叡山で出会った僧侶、随風の物語。
 戦国時代転生ものは少なくなく、信長絡みは弟だったり長子だったり八男だったりそこそこあるけれど、その中でも面白くきれいにまとまり、ウェブ連載がきちんと完結したものの1つ。物語の流れと正史の対比表あり、地図あり、戦場も人物も描けるイラストレイターと本作りは完璧で、ここ最近のお薦め。前世知識のままに主人公がチートな活躍をする話は時としてご都合主義で興ざめになるけれど、これは主人公がチートではなく、裏で介入してくる母親の影響で歴史が変わってきているあたりがポイントです。主人公は正解を知らずに時を早めているのだ。

【信長の庶子(三)】【織田家の逆襲】【壬生一郎】【土田健太】【ヒストリアノベルズ】【宙出版】【戦国IFエンタメ】【月歩】【志賀の陣】【比叡山焼き討ち】【長島攻め】【ピザ】【チーズ】【パン】【マグロ】【男性用ブラ】【小説家になろう】
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「復興名家の仮名目録2」 シムCM

2019-12-17 | 戦国転生・歴史改変
「いいですか。策というものは、状況の変化のたびに手を打つのではありません。変化に対応できる手を打つべきなのです」
 井伊家はそのうち今川家の敵に回るだろうし、そうしたら今度は井伊家ごと松平家まで飲み込むと、こともなげに井伊家の娘である直姫に言う十英。

 黒衣の宰相と呼ばれた師匠と同じく、僧侶でありながら外交官として今川氏真を補佐する十英承豊だったが、当面の仮想敵は甲斐の武田信玄。東の北条とほどよい関係を維持しながら、井伊家を転がして徳川を良いように動かし、織田信長に目を付けられつつも西側の動きを封じた。
 どのように事態が進展しても、如何様にも対応できるようにしておくのが策というもの。幾重にも張り巡らせた十英の知略は、武田の軍勢に通用するのか……。

 1巻と表紙のレイアウトがほとんど同じだったので、間違えて同じ本を買ってしまったかと思ったよ!
 前作『加賀100万石に仕えることになった』と同様、戦国時代に転生した現代人が寺の僧侶として無難に生きていくつもりが有名武将に文官として見いだされてしまう……という話なのだけれど、兵站担当の内政官として味方を転がしていく加賀100万石に対して、こちらは外交官なので周辺諸国を主に転がしていきますので、「全ては私の思うがまま……」と性格の悪さに磨きがかかっています。そういう意味で共感しにくい主人公なんだよね。

【復興名家の仮名目録(ルールブック)2】【戦国転生異聞】【シムCM】【巌本英利】【MFブックス】【戦国転生歴史ファンタジー】【地獄に落ちろ】【直姫】
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「淡海乃海 水面が揺れる時 六」 イスラーフィール

2019-10-05 | 戦国転生・歴史改変
「女は天性の忍びだな、男は簡単に騙される」
 それも悪くないと黒野影昌

 上杉景虎、病に倒れる。その報せに、基綱は越後へと赴く。
 戦も政ももはや一線を退くしかない景虎だったが、後継者となるべき長尾喜平次はいまだ支持基盤は脆く、朽木の支援なくしては成り立たない有様だった。
 そこで基綱は景虎の申し出を受け、まだ数えで7歳でしかない娘の竹姫を喜平次の嫁として送り出すことに決めた。だが、その竹姫の輿入れ行列には3万人を動員しろと基綱は命じる。竹のためなら、朽木はそれだけの兵を動かす覚悟があるのだと知らしめるのだ……。

 単なる親バカではなく、政であり軍略なのです。できることならば、まだ嫁になんか出したくないわなあ。
 そして、右近太夫将監は出番が少ないながら異彩を放ってます。この兄弟は、北畠家を失ってからの方が活き活きとしていますね。
 人物紹介や相関図だけではなく、今回はコミック版1話もお試し収録です。

【淡海乃海 水面が揺れる時 六】【三英傑に嫌われた不運な男、朽木基綱の逆襲】【イスラーフィール】【碧風羽】【TOブックス】【本格大河ドラマ】【戦国サバイバル小説】
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「戦国小町苦労譚11」 夾竹桃

2019-08-04 | 戦国転生・歴史改変
 織田・徳川と武田・北条連合軍との戦端が再び開かれる。その東国討伐の旗頭となるのは織田信忠、かつての奇妙丸である。
 しかし、この戦に後詰めとして送り出された静子には、信忠に敗北させるという密命が与えられていた。すなわち、信長の庇護がある間に敗北を学ばせ、驕ることなく経験を積ませると同時に、有事の際に本性を現す『獅子身中の虫』を炙り出すことである。
 自分の未熟さを痛感させる程度に手ひどく、だが致命的にはならない程度にという困難かつ誰にも頼れない任務であった……。

 時は1575年。だいたい1冊で1年くらいのペースですね。戦国時代に静子が飛ばされてから、もう10年。女子高生テクノクラートどころか、もうアラサーですよ。そりゃあ、恋人もいないのに、もう2人の子持ちでもおかしくも何ともなく、逆にいないといろいろ周囲が不穏になるお年頃です。

【戦国小町苦労譚】【十一、黎明、安土時代の幕開け】【夾竹桃】【平沢下戸】【アーススター】【戦国ライトノベル】【ガトーショコラ】【写真撮影】【相撲大会】【安土移転】
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「陶都物語 (二)」 まふまふ 

2019-05-27 | 戦国転生・歴史改変
「ポニーテールの魅力は時代を選ばない」

 ついに白磁、ボーンチャイナが完成した。しかし、この製造とさらなる開発を続けるためには、販路の確保と原料となる牛骨の安定供給が必至だった。
 草太は、これを金の卵とすべく商都・名古屋へ向い、海千山千の大商人を相手の駆け引きに挑んだ……。

 商人無双のかっぱぎタイムの始まり。
 最低2冊は出すはずが1巻打ち切りになった、見た目は子供・中身はおっさんの幕末転生系ビジネス小説の2巻がついに刊行。自分の周囲では待ちに待ってた、待たれていた幻の2巻なので、このまま3巻、4巻と続いて欲しいと願ってます。

【陶都物語 (二)~赤き炎の中に~】【まふまふ】【一乃】【上川畑博】【HJ NOVELS】【ホビージャパン】【転生サクセスストーリー】【鬼っ子東奔西走編】【京都編】【天領窯】【白磁】【無宿人】【無宿】【隠密同心】【星巌】【梅田雲浜】【小栗忠順】【素寒貧に用はないし】
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「復興名家の仮名目録1」 シムCM

2019-05-26 | 戦国転生・歴史改変
「覚えるのは基本だ。覚えているからこそ、それについて考え、学べる。まずは覚えなさい」
 承豊は藤三郎にそう語った。まずは座学の書をすべて覚えよと。

 どうやら戦国時代に平凡な農民として転生してしまったみたいなのだが、人を嬉々として殺し回るウォーモンガーでもなければ、その技量もない。現代日本人の記憶を引き継いでしまったからには、足軽徴兵を逃れる選択肢は寺社仏閣にこもるくらいしかない。
どことも知らない寺にやられることに成功し、彼はそこで小坊主の豊念として修行することとなった。それから幾歳月か。
 豊念は十英承豊と名を与えられ、そして22歳になった年のこと。共に学び飛車丸と呼び捨てていた友人の家が大変らしいと聞くことになった。父親が戦で討ち取られ、重臣もほとんど戻ってこなかったらしく、御家存亡の危機らしい。さすが戦国時代である。
「やりたいことを言えよ。今ある仕事も終わったし、手伝ってやるからさ」
 そう言ってから承豊は初めて友人の正式な名前を聞くことになる。幼名は龍王丸、今は今川氏真と名乗っているらしい……。

 そっかー。桶狭間の戦いが終わったかあ。師匠は黒衣の宰相、太原雪斎だったらしい。

 武将と僧侶の友情の物語であり、子を持たなかった男たちが弟子を育てる記録であり、寺に引きこもっていたカースト底辺の坊主のはずが周囲からは「雪斎の愛弟子」と認められ、やがて「笑ったまま相手を斬り捨てる御仁」「王将や金将ではなく指し手」と怖れられていく物語。
 石鹸や猫車の発明とか殖産チートに頼ることなく、ユーモアを交えながらも戦国時代の過酷な外交と内政を語る歴史ファンタジー。イラストの承豊とか信長とか、凄く極悪そうに描かれていて最高です。

【復興名家の仮名目録(ルールブック)1】【戦国転生異聞】【シムCM】【巌本英利】【MFブックス】【戦国転生歴史ファンタジー】【地獄に落ちろ】【駿府は物の怪の住処か?】
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「信長の庶子(二)」 壬生一郎

2019-05-11 | 戦国転生・歴史改変
「禍福は糾える縄の如しと言うが、善悪もまた、それに近いものであるかもしれぬ」
 人を綺麗に善悪で分けることは能わぬと語る松永弾正。

 村井帯刀は母との賭に負けた。
 その代価として命じられたのは、奥村永福と前田慶次郎の諸国漫遊に同道せよ、畿内が荒れる前に東大寺金堂、摂津大坂城、本能寺を見てこいと言うものだ。
 それに何の意味があるのかと訝しむ帯刀だったが、3人の珍道中は思わぬ人物との邂逅に至る……。

 至って真面目な戦国武将達の駆け引きを背景に描かれる若武者の冒険譚。合間合間に、その正体不明の母が持ち込む胡散臭い文化の数々が挿入され、これが巧いことバランスがとれた面白さを生んでます。これが主人公が転生者で、鼠車だ月歩だとか始めてしまうと本編の国盗りの合戦までおふざけっぽく思えそうになりますが、それは狐と呼ばれた女が裏でやってることだから仕方がないとアクセントになるのですね。イケメンだのツンデレだの面妖な言葉を皆が口にし始めても、直子様が言い始めたなら仕方がない……みたいな空気になってます。
 でも、熱田神宮で即売会は無理じゃないでしょうか?

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「信長の庶子(一)」 壬生一郎

2019-04-29 | 戦国転生・歴史改変
「喜びなさい帯刀。私達優しい姉が、可愛い甥っ子の為に竹簡を用意して差し上げたわ」
「見なさい帯刀。あれなるは四百字詰め竹簡三千束。合計で百二十万字分よ」

 市と犬は帯刀に薄い本の原稿を書けと迫った。つまらない物語なんて読みたくないと。

 時は戦国。織田信長の長子帯刀は家督を継ぐ資格のない庶子ながら、時には藤吉郎に知恵を授け、時には仮名文字を定めて文書の統一性を確保してと、その聡明さで今子建の異名で讃えられていた。それはお家騒動の火種と成りかねない有能さではあったが、彼の時代を先取りするかの知恵はすべて母から教えられたこと。母直子は貧しい家の出自ながら、いつの間にか文字を覚え、書を集めては読みふけり、摩訶不思議な知識と言動から「狐」と呼ばれていた。
 直子はその知識は唐だか南蛮だかの書物を訳し書き写したものから得たのだと言い張るが、その書物は既に無いといい、書名も不明で、帯刀には実在すら疑わしい話であった……。

 織田家の家督などどうでもいい。自分がやりたいことを自分がやりたい通りにやっていたい。父親や腹違いの弟が領主という立場が最も気軽かつ自分勝手に動けるのだという主人公の戦国絵巻。
 戦国転生ものがそれなりの数がある「小説家になろう」の中でも、きちんと完結した面白い話で、構成も個性的。それが宙出版という、女性向けコミック専門の出版社から歴史IFメインのレーベルが創刊1作目で刊行ということで不安もあったのだけれど、完成品を見てみれば歴史小説として完璧な仕上がり。きちんと考証家をつけ、複雑な関係の登場人物たちには関係図を載せ、必要に応じて地図を表記し、巻末には正史と小説の展開を対比させた年表があり、この手の本に必要なものがきちんと揃っています。お手本のような造りです。
 ただ、気になったのは、この物語はある種のミスリーディングで話をひっくり返すのが山場の1つであったのだけれど、書籍化でちょっと前倒ししすぎ。ウェブ版なら、もはや終盤も終盤の「実は……」を頭に持ってきてどうする?

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「淡海乃海 水面が揺れる時 五」 イスラーフィール

2019-04-28 | 戦国転生・歴史改変
「この世の中、銭が全てじゃない、だが銭で片付く問題も有るのだ。ならば積極的に銭を用いるべきだろう」
 朽木基綱は足利将軍家は現実から目を背けていると考えている。

 1571年。征夷大将軍を巡る戦いは朽木家の勝利に終わったが、それでも足利義昭は征夷大将軍にはなれない。既に将軍に任じられた足利義助がいるから将軍宣下が成されないのだ。そして、帝は一度任じた将軍職を軽々しく解任したりはしない。まして、足利義昭ごときのために。
 その一方、義昭は朽木基綱を憎んでいた。何かと自分を助け、政治力や財力で彼を後援してくれていたのに恩を感じることもなく、思い通りにならない故に、自分より帝の信が厚いからこそ……。

 将軍家の陪臣であり、皆から誰よりも忠義に厚いと思われていても、そんな勝手な周囲の思い込みに大膳大夫となった基綱は縛られない。戦国の世を生き抜くために、もはや足を止めることは許されないのだ。そのためには足利家など道具の一つに過ぎず、相手もそれが理解できているからこそ憎むのだ。
 最初は朽木の生存戦略として始まった戦いは、天下取りという長期プロジェクトへと移行しています。止まったは朽木が破滅するとき、それくらい周囲への影響力は大きくなりすぎました。

【淡海乃海 水面が揺れる時 五】【三英傑に嫌われた不運な男、朽木基綱の逆襲】【容易ならぬ敵】【絆】【イスラーフィール】【碧風羽】【TOブックス】【本格大河ドラマ】【戦国サバイバル小説】
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「陶都物語」 まふまふ 

2019-04-17 | 戦国転生・歴史改変
 多治見の製陶会社社長、加藤正太郞は心筋梗塞で急死した。原価割れの注文ばかりの斜陽業界での無念の死であった。
 その正太郞は、気がつけば幼子として転生していた。
 時は幕末、黒船来航の噂も流れるご時世。多治見盆地の貧しい農家の倅であった……。

「まだこの体は5歳でしかないけれど、動き出さなきゃきっと出遅れる。時間は決して止まってなんかくれない」

 斜陽産業としての製陶業しか知らなかった主人公が、開国前夜の美濃に転生し、一足早い技術を生み出し自ら流行を作り出していこうとする幕末転生系ビジネス小説。
 何かすごいアイデアを出しても他人に取り上げられてそれっきりになりそうな貧しい農家の5歳児が、いかに発言力を手に入れ、社会制度の網をかいくぐりながら、どこまで手を広げていくかが見所。今回は製陶業のとっかかりから安政の大地震を乗り切るまで。この先は、技術的な課題よりも既得権益に守られた流通網や商圏にどう食い込んでいくかがメインとなっていきます。ホビージャパンとしては厚めの装丁で、「誕生編」までをすっぽり収録。続刊に期待しています……っていうか、早く書籍で「かっぱぎタイム」を見たいよね。(2017/05/27)

 期待したほど売れなかったと1巻打ち切りが決まり、ウェブの更新も停まって、作者はファンタジーものに傾注し始めてションボリし、「こんなに面白い話を、ちゃんとした本にして、それでも売れないのは営業が悪い」と怒っていたのだけれど、書店から来月に続刊決まりましたとのお知らせが。
 良かった-。続きが読める!
 そして、今回は多治見の窯元とのコラボで読者プレゼントありますとか、ちょっと気合い入ってるよね。この意欲的な試みが売上につながりますように!(2019/04/17)

【陶都物語~赤き炎の中に】【まふまふ】【碧風羽】【上川畑博】【ホビージャパン】【天領窯】【災害復興】
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「戦国小町苦労譚10」 夾竹桃

2019-01-27 | 戦国転生・歴史改変
「子供が遠慮なんてするもんじゃないよ。あそこの大人を見てごらん? 美味しい物をお腹一杯食べられるってのは幸せなんだよ。どんどん食べて、大きくおなり」
 時代的には静子は既に行き遅れの年齢になっているけれど、気持ちは既に母親になっている気がします。

 1573年師走。信玄をはじめ主将の多くを失った武田勢は勢力を大幅に減退させ後退。当面の問題は、加賀一向宗攻めのみとなったが、織田家の家臣団内部の勢力争いもあって足踏みしがち。
 そんな中、静子は真田衆も部下として受け入れつつ、ボーナスや年越しの準備で大忙しだったのだが……。

 自分のアイデアが戦争の道具になっちゃった、自分の手で人を殺してしまった……などと悩むこともない元・女子高生の立身出世譚。あまり現代感覚でウジウジされてもげんなりしますが、ここまでさばさば割り切れていると「元の日本って、どんな日本だった?」と怖くなりますよね。確かに平行世界の日本っぽい言及もありますけど。
 いろんな意味で、静子が母親になってしまう10冊目。

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「淡海乃海 水面が揺れる時 四」 イスラーフィール

2019-01-02 | 戦国転生・歴史改変
「俺はただ働きは嫌いだ」
 朽木基綱は労働には対価が必要だと言う。

 1570年。大膳大夫と呼ばれるようになった朽木基綱は、近江から北陸へも勢力を拡大して伊勢も攻略に成功。しかし、いまだ伊勢長島の一向一揆は健在で、三河の一向一揆と連係して織田-徳川連合軍を苦しめている。
 しかし、それは一方でチャンスでもある。
 基綱は一向一揆制圧を理由に、それに協力する伊勢国内の対抗勢力を潰し、朽木の統治権を確立しようとする。そして、そのための力が、海賊大名となった九鬼に与えた南蛮船であった……。

 ひたすら壺を磨きながら策を練る主人公。変な属性が付きました。
 北畠兄弟は良いキャラが立ったよね。三男はいかにもな咬ませキャラだけど。

【淡海乃海 水面が揺れる時 四】【三英傑に嫌われた不運な男、朽木基綱の逆襲】【容易ならぬ敵】【絆】【イスラーフィール】【碧風羽】【TOブックス】【本格大河ドラマ】【戦国サバイバル小説】【将軍宣下】【上洛戦】
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