付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「世にも奇妙なマラソン大会」 高野秀行

2014-06-20 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「レースで辛いときはお産を思い出して我慢するの。でも、お産は最後に赤ちゃんがゲットできるけど、マラソンは筋肉痛だけ」
 サハラ・マラソンに参加したマヌエラの言葉。

 なんとなくインターネットを検索して回っていたらサハラ砂漠でマラソン大会が開催されることを知り、ふいに思い立って主催者にメールしてみたらなし崩しに参加することになってしまう。
 しかもランニング初心者なのにフルマラソン、開催地は西サハラの難民キャンプ。参加者は世界各地から集まった1000名、その中にアジア人はただ1人だった……。

 本の雑誌社から出ていたやつの文庫化です。半分はサハラ砂漠でのフルマラソンの話で、残りはブルガリアで奇妙なおじさんの家に泊めてもらうことになった話とか、インド政府のブラックリストに載ってしまったのでなんとかインドに入国すべく名前を変えようとする顛末とか、ムンバイで出会った謎のペルシア商人と国際語について語り合ったりとか、拾遺集みたいなエピソード集。
 アヘン栽培で有名なゴールデン・トライアングルの村に住み込んでみたり、幻の怪獣を探してアフリカの奥地へ行ってみたりと、ノンフィクション・ライターとか冒険家というより、ワンマン川口浩探検隊みたいな高野秀行の体験談やら回想やらの詰め合わせですが、いつもノリと勢いだけで世の中を渡っているような気がします。これが独身なら自由気ままで良いでしょうが、結婚しているようなので家族が気の毒で仕方がありません。

【世にも奇妙なマラソン大会】【高野秀行】【集英社文庫】【超絶ノンフィクション作品集】【沖縄の巨人】【it】【人体実験】【石原莞爾】【自由バスク】
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「遙か凍土のカナン(2)」 芝村裕吏

2014-03-19 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「子供時代は貴重なのです。急いで捨てるのはもったいない」
 新田良造の言葉。「もったいない」はドイツ語にもフランス語にも英語にも中国語にも対応する言葉がないそうな。

 次の寄港地シンガポールでもオレーナが襲撃され、アラタは陸路に切り替えることにする。
 知り合った大英帝国の騎馬警察官グレン・ピエール・ホワイトフィールドの助けを(有料で)借り、インドを経由してなんとかスタンへと向かうのだが……。

 果たして凍土に楽土は建設できるのか……という、日露戦争で活躍した元騎兵将校がロシアから来たお姫さまをウクライナまで送り届けに大陸へ渡る冒険活劇の2冊目。たった2人(と1頭と1匹)から始まった旅ですが、意に反して少しずつ所帯が大きくなっていきます。そしてあいかわらず変態レベルの朴念仁。
 細々と書き込んではいないけれどしっかり伝わってくる異国の風土、まだ友情とまでいくかどうかはわからないけれど熱い騎兵同士の心意気、あるいはいざ戦闘となればわずかな躊躇もしないで敵を殲滅していく壊れっぷり、そして犬の姫様との天丼ネタが鉄板のちょっとせつなくも笑える会話のやりとりと今回も満足して読了。

【遙か凍土のカナン(2)】【芝村裕吏】【しずまよしのり】【星海社】【凍土の英雄譚】【騎兵の死】【馬喰】【大英帝国】【膝詰談判】【海嘯】【アレクサンダー大王】【ユダヤ人】【馬】【ぶっきらぼうに】



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「新戦艦高千穂」 平田晋策

2014-02-18 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 北極探検へと向かう帆走汽船「北斗丸」の船上には、給仕として乗り込んだ少年・小川寛の姿があった。
 北極には、まだ人類が足を踏み入れたことのない秘密境があるという。それを探し求めていた、寛少年の大祖父である小川保大尉の乗り込んだ巡洋艦「畝傍」も、祖父である小川重行大佐の「多聞丸」も、北氷洋で姿を消していた。北海の秘密を解き明かすことは小川一族の悲願でもあったのだ。
 しかし、日本より先に秘密境を手に入れようと、A国やB国は戦艦を中心にした大艦隊を送り込もうとしていた。
 危うし! 日本の探検隊!
 神業というべき日本の造船技術が生み出した、新戦艦「高千穂」は果たして間に合うのだろうか!?

 昭和初期の少年少女向け小説を、かなづかいを現代風に直し、今風のイラストをつけたらまだまだいけるんでない?……というコンセプトのパール文庫。他にも海野十三の『海底大陸』やら菊池寛訳の『小公子』とかが並んでいます。
 この『新戦艦高千穂』も男勝りのパイロットでありながら可憐な少女でもある勝山一枝をヒロインに、航空戦艦の大活躍と極地探検という魅力的なプロットです。でも、日本良い国強い国、世界に冠たる神の國♪……みたいな調子で、白人は傲慢で乱暴者、それを正して世界に平和をもたらすのは日本の使命!……という話がヒットしたらそれはそれで怖いですね。それに今となっては、「誰も行ったことの無い秘密境の存在をどうしてみんな確信してるのだろう?」とかツッコミどころも少なくなく、この際、超訳でも良かったんじゃないかと思わないでもありません。

『喧嘩をしても、なぐられるとすぐに鼻血を出して悲鳴をあげるような者は、とても勝てやしない。どんなになぐられても、それをこらえて相手をなぐりかえす者が、最後の勝利者である』
 戦艦は防御力だと言いつつ、アウトレンジから敵をたたきつぶす新戦艦。やっぱり火力じゃん。

 肝心の極地探検はというと「北極秘密境を見つけるまでの苦しみと冒険は、到底諸君には知ってもらうことは出来ないだろう」とあっさり省略。秘境探検小説というよりは、仮想戦記といったほうが近いかな。

【新戦艦高千穂】【平田晋策】【市川実希】【パール文庫】【少年向け海洋軍事国家主義小説】【平賀造船中将】【植芝武道】
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「遙か凍土のカナン(1)」 芝村裕吏

2013-12-11 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 この世の全ては、一人の可愛い女がいれば大抵どうでも良くなる。

 明治38年1月。日本とロシアは奉天で激戦を繰り広げていた。日露戦争最大の陸戦、奉天会戦である。
 騎兵隊の新田中尉は愛馬の出番も無いまま、黒溝台の塹壕で中隊の指揮を執り、数で遙かに優勢なロシア軍の猛攻をくい止めていた。増援も弾薬も不足しがちであったが、それが当時の日本という国の限界だった。
 会戦は終始ロシア軍優勢のままではあったが、ロシアの国内状態に助けられる形で勝利することとなり、やがて戦争も日本の勝利で終わった。
 ところが終戦後、ロシア皇帝から日本の将官に対して勲章が授与されることとなり、それだけでも日本人としては考えにくい話であったのに、なぜか、一介の騎兵将校にすぎない新田に対しても勲章が与えられるという……。

 コサックの公女オレーナに協力し、極東にコサック国家を建設するため大陸に渡ることとなった日本人の冒険譚……という触れ込みで読み始めたら、初っぱなから始まった奉天会戦が全然終わりません。日露戦争最大の激戦に、手に汗握りながらだいたい半分くらいまで一気に読み進め、そこから急転直下のお姫さま登場、そしてまたまた伊藤さんちの登場で息つく間もなく読了。

「幸せになってください。そのための手伝いならば、喜んでやります。誰かと戦うのなら自分が戦いましょう。守れと言うなら守ります。国を盛り立てろというのであれば、かならずや。でも、それは貴方のためです。他に望むものは、ありません。何もありませんでした。欲しい物がそんなにない人生だったのです」
 帝国陸軍騎兵大尉である新田良造は、若きオレーナ・オリャフロージュスカ・アポーストルに対してそう告げた。「幸せになってください。それを以て我が報酬とします」。

 この話がどういう話で、登場人物がいかなるメンタリティの持ち主か知らしめる一言です。
 芝村作品の主人公はいつも思考が明晰で、つねに目標がきちんと設定されていて、それを達成するために必要なこと、切り捨てるものを自分の中で仕分けたら、あとは一直線。どんなに途方もない目標であっても、最初の一歩を踏み出したら後は一歩ずつ前進するのみ。それがどんな波瀾万丈な道程になろうと振り返らない……というあたりが読んでいて気持ち良いのですが、ここではさらに迷いの無さが明瞭となります。
 軍を辞するのはその直前に腹を決めていたとはいうものの、少女の求めに応えて日本を捨てて大陸に渡り、ロシア帝国の版図でウクライナ・コサック再興のために戦って欲しいと言われて即決で快諾しちゃいますし、目の前に立ちふさがった相手を敵と判断するや反射的に切り伏せる迷いの無さは現代人では難しかろうと思います。へたにやったら単なるバカになっちゃいます。
 まさに英雄譚であり、「バカ」が褒め言葉なんだという作品です。

「お人好しってのはな、誰に向かっても大抵お人好しなのさ。それに俺が守りたい日本ってのはそういう心意気だと思ってね」
 イトウさんは新田大尉を利用するだけ利用するのは、国を守るためだと言い切った。

 租界の話を、今の面白い話で読みたいと思っているので、終盤、上海のくだりが急転直下で収拾がついたみたいで残念。工部局なんていう、字面からして土木関係の役所としか思えない組織が、いつの間にか警察の真似事みたいなことをするに至る経緯は、租界なんて隔離地区が勝手に大きくなって自治区みたいに発展していくのと平行していて興味が尽きないのだけれど、ここに関わりすぎてたら予定の3巻ではとうてい収まらないから仕方がないのですけれど。
 
【遙か凍土のカナン(1)】【芝村裕吏】【しずまよしのり】【星海社】【お風呂】【イトウさんち】【白馬のじゃじゃ馬】【上海工部局】【秋山好古】【大陸浪人】【黒鳩金将軍】【文字符牒】【蕎麦畑に飛び込む常連者】【若狭丸】【ぶっきらぼうに】
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「あやしい探検隊 済州島乱入」 椎名誠

2013-10-03 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
「男たちは放っておくとどのようにして腐敗瓦解し、ゾンビ化していくか」
 新婚の女性編集者に伝えておきたい大事なこと。

 総勢20名近いおよそ2週間、あやしい探検隊の面々が今度は韓国の済州島に遠征。島内各地のホテルや安宿を泊まり歩き、自炊したり食堂に飛び込んだり釣りをしたりカジノでぼったくられたりしながらバクダンで飲んだくれる日々の記録です。
 テントを張って砂浜で焚き火……というのはありませんけれど、いつものようにいい歳した男たちがワイワイ騒ぎ、みんな好き放題にワガママを言い合って、そんなドタバタ旅行記を書いて本になって、その支度金が旅行と宴会の費用の一部になるという、見事なまでに自己完結した循環プロセスがみられます。

【あやしい探検隊】【済州島乱入】【椎名誠】【角川書店】】【kob13】【韓流スター】【床屋】【鮑粥】【ニンニク】【バクダン】【キムチ】
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「白いパイロット」 手塚治虫

2013-05-16 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 たぶん、学習マンガとか絵本以外ではじめて読んだマンガ。もちろん昭和36年の少年サンデー連載なんてリアルタイムで読んでいるわけはない。従兄弟姉の家に遊びに行ったとき、押し入れにしまってあった鈴木出版版のハードカバーを読んだのだ。今思えば申し訳ないことだ。小さいこどもがいじったらいけない。

 ミグルシャ王国の地下工場から囚人の一団が軍の秘密兵器を奪って逃走した。
 秘密兵器ハリケーン号は破壊光線を振りまき、空を飛んで海を進む万能戦闘機だ。王宮も破壊されて王妃は死に、世界中がその接近に備えて警戒態勢を整えたのだが……。

 『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」とか山田風太郎の「甲賀忍法帖」あたりの特殊能力を持ったもの同士が対決していく話の万能戦闘機版で、世界征服を企む地下要塞から自由を求めて9人の仲間たちと脱出した主人公が空中戦を繰り広げる冒険活劇。ハリケーン号というのは要するにマイティジャックのマイティ号とかゴレンジャーのバリブルーンみたいな空飛ぶ万能戦艦の先駆け……なんだけれど、さすがというかやはり手塚治虫。いきなりミュージカルから始まり、ミッキーマウスもどきがあふれ、双子が王子と奴隷として引き裂かれて敵味方で殺し合い、男装の美少女がいて、個性豊かな仲間たちが特技を活かしながら死んで行き、まさかの主人公死亡エンド。そして最後に「人気が落ちたから打ち切られた」と手塚治虫のあとがき付き。

【白いパイロット】【手塚治虫】【手塚治虫漫画全集】【講談社】【鈴木出版】【シャムのふたご】【テレパシー】【ミッキーマウス】【モスラ】【ヒゲオヤジ】【鉄仮面】【F-87-F】【魔神ガロン】【空中元素固定装置】
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「ラビオリ・ウエスタン」 森橋ビンゴ

2013-02-09 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 今では西部劇そのものがほとんど見られなくなってしまったので、19世紀アメリカの西部開拓時代をテーマにした作品を西部劇=ウェスタンといい、その中でも史実を無視して暴力描写を売り物にしたイタリア製西部劇をマカロニ・ウェスタンと呼んで……と、タイトルの解説から必要なんじゃないかなと思うくらい。中身はぜんぜん西部の話ではないわけですが。

 “ボク”こと普通の女子高生ハセガワハナヲは、ある日突然両親が自殺して“天涯孤独”になってしまう。
 そんな彼女がどこか壊れた女殺し屋の“ラビオリ”と運命の出会いをしたことから、自分も殺し屋になってしまうのだが……。

 とぼけた口調で女子高生が語る、愛と絆と復讐の物語。
 勢いがあると言えばあるけれど、読みにくいは読みにくいのです。

【ラビオリ・ウエスタン】【森橋ビンゴ】【芥川明】【ファミ通文庫】【涙と笑いのスラップスティックアクション】
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「ロビン・フッドの冒険/さばくの王者ロレンス/水のトム …他」 少年少女世界の名作4

2013-01-09 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 小学館の少年少女世界の名作の4巻ということですが、配本は第44回。かなり後の方になります。
 巻頭も表紙イラストも、貧しい煙突掃除の少年が川に落ちて水の精になるという『水の子トム』ですが、表題の筆頭は『ロビン・フッドの冒険』。痛快無比な展開ともの悲しい結末は英雄譚にふさわしい構成です。やはり物語は仲間が集まってくるまでが楽しいもんです。
 ロビン・フッドの物語はいろいろな作家が書いていますが、ここではあくまで伝承を原作とした書き下ろしです。花村えい子の少女マンガ100%なイラストには頭を抱えますが、確かに少女マンガ的な話なのかも知れません。
 国際政治は汚い、綺麗事じゃ世の中は渡っていけないことを教えてくれたのは『さばくの王者ロレンス』。普通に『アラビアのロレンス』といえば良かったのに、映画と同じじゃいけなかったんでしょうか。
 『スコットランド民話』からは海へび退治とわがままな領主話の2編。
 そしてガイ・ブースビーの『魔法医師ニコラ』。イラストの金森達は「SFマガジン」の表紙イラストなどで有名な大御所。こういう構成の本を子供の頃に読んで育てば、ロビンフッドやアラビアのロレンスと同じくらい魔法医師ニコラはメジャーな存在と思いこんでも仕方がありません。仕方がないですよね?

『水の子トム』原作:キングズリー/絵:駒宮録郎
『さばくの王者ロレンス』文:近藤健/絵:小原拓也
『スコットランド民話』訳:松村武雄/絵:山崎英介
『ロビン・フッドの冒険』原作:イギリス民話/絵:花村えい子
『魔法医師ニコラ』原作:ブースビー/絵:金森達

 今読んでもラインナップが素晴らしく、イラストも極上、文章もぜんぜん古くさくないというということで、あらためて集め直そうと思っていますが、通販で探せば安くても送料込みで1000円程度、へたしたら1冊3000円という値が付いていて、60巻近く揃えることを思うと目眩がしてきます。

【ワイドカラー版少年少女世界の名作4】【イギリス編2】
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「わしらは怪しい雑魚釣り隊 マグロなんかが釣れちゃった篇」 椎名誠

2012-12-08 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
『よく考えてみるとこれは釣り雑誌なのであった』

 釣り雑誌「つり丸」連載エッセーをまとめた3冊目。あいかわらず、釣り以外のバカ話にそれまくり、釣りをほとんどしない人間でも愉しく読めるというのは、成功しているのかいないのか。
 今回は北海道遠征の自給自足の貧困旅とか、雑魚釣り隊にあるまじき“マグロなんかが釣れちゃった”話とか、釣れたり釣れなかったりの紆余曲折。

【わしらは怪しい雑魚釣り隊】【マグロなんかが釣れちゃった篇】【椎名誠】【新潮文庫】【つり丸】【サメの恩返し】【鯛釣り】【漂着ゴミ】【海浜棒球始末記】【キャベツの丸かじり鍋】【スミイカ】【火吹き男】【アナゴ】【100人キャンプ】【水源地】
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「ぼくの南極生活500日」 武田剛

2011-11-19 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 南極観測隊に朝日新聞から派遣された中山記者の『こちら南極 ただいまマイナス60度』という本を以前に読みましたが、こちらは同じ第45次南極観測隊にカメラマンとして参加した人の本。
 視点が変わると同じものでもまったく別のもののように切り出されて提示される。それが面白い。南極観測でも、朝比奈菊雄が『南極新聞』にまとめた初期の観測隊と今の観測隊では違うところも同じところもあります。
 今と昔の比較だけではなく、同じ時期に同じ場所にいた人であっても、料理人として、記者として、カメラマンとして、男性として、女性として、それぞれの語る体験談はまったく違います。特に第45次南極観測隊はそれが簡単に比較できるのが貴重。
 この武田カメラマンの視点は環境問題であり、「護るべき美しい自然」として南極を描いていきます。
 何か気になったテーマがあったら片っ端からローラー作戦で集めて読んでいくというのは、面白いのです。

【ぼくの南極生活500日】【ある新聞カメラマンの南極体験記】【武田剛】【第45次南極観測隊】【地球のたからもの】
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「激走!5000キロ」 監督:チャック・ベイル

2011-09-23 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 昔、けっこう映画好きなツレがいて、学校への行き帰りで最近見た面白い映画の話などを熱く語ってくれた。その中でもっとも印象深かったのが『激走!5000キロ(ガムボールラリー)』。
 映画『キャノンボール』に代表される公道無法レースのはしりです。順番に言えば、1933年に実際にアメリカ大陸を54時間あまりで横断したバイクレーサーがいて、彼のあだ名である「キャノンボール」が公道を使って道路交通法無視のレースをすることの代名詞となり、1976年にはそれをテーマにした『ガムボールラリー』がヒットし、それに『爆走!キャノンボール』が続き、『キャノンボール』が登場。しかし、本家アメリカでは取り締まりが厳しくなってできなくなり(あたりまえだ)、それが欧州で1999年に公道ラリーとして復活したのが「ガムボール3000」。
 『爆走!キャノンボール』も『キャノンボール』も、どちらもレースやトトカルチョの高額の賞金をめぐって裏切りや罠が張り巡らされる話なのですが、『ガムボールラリー』はお金が全く動かない話。優勝者に与えられるものは、“いちばん早いヤツ”という栄誉とトロフィー代わりのガムボールマシン(コインを入れると丸いガムが転がり出てくるやつ)だけ。純粋なスピード狂のコメディになっているところが好きです。
 勝っても負けてもガムボールだけ。

 ソクター社の社長バノンは退屈だった。重役会議の間も上の空。
 たまらなくなって、やおら電話を取り上げると、ただひとこと「ガムボール!」。
 それがニューヨークからロサンゼルスまでのアメリカ大陸5000キロを横断するカーレースの開催を告げる合図だった。
 連絡は瞬く間に口コミで伝わり、全国から素人レーサーがフェラーリ、カマロ、コブラといった名車を引っさげ、秘密のスタート地点に続々と集結。
 しかし、その情報は警察も察知しており、定年間際のロスコー警部率いる警察隊が手ぐすねを引いて待ち受けていた……。

 DVD発売を待ちかねている洋画の筆頭。LDがよほど売れなかったのかねえ。あと、これで『モンテカルロラリー』が加われば言うことはないのだけれど。
 コメディタッチの公道レース物というとジャッキー・チェンが日本人役で登場した『キャノンボール』が有名だけれど、あのシリーズは良くも悪くもオールスターなお正月映画なものだから、みんなが平等に出番があってストーリーは平坦という隠し芸大会的に見えちゃうのですよ。嫌いではないけれど、(シナトラ登場みたいな)楽屋落ちがあり、クライマックスでキャスト総登場の乱闘シーンがあり、そこからみんなでドタバタとスタートしたりするのでレース映画としては物足りない。役者がスゴすぎで、主役は車じゃなくて役者だものね。
 こちらは、会議の真っ最中にレースの開始を告げちゃう車道楽の会社社長とか、負けがこんでるものだから助っ人にF1レーサーを呼んでくる金持ちとか、たまには真っ当に走りたいというスタントレーサーと曲芸したい助手のコンビとか、隠居老人コンビとか、ニセモノじゃないニセ警官コンビとか、色っぽい有閑マダムコンビとか、趣味にこれくらいの金と時間を費やすバカって絶対にいるよね!というレベルが絶妙。貧乏な下働きの青年が高級車の陸送仕事を引き受け、気になる彼女をデートに誘ってそのままロサンゼルスを目指すというのもバカっぽくて好き。
 そして、州境を超えて追いかけてくるロスコー警部には、ルパン三世の銭形警部並の執念があって、警部とレーサーたちとの知恵比べもストーリーを盛り上げるポイント。というか、あのラストを見たら、ぜったい「ロスコー!グッジョブ」だろ? やはりライバルが魅力的な作品は面白いよ。みんなの立ち直りもステキすぎ。
 名車の競演という視点でも、洒落たレース物としても、文句なしの映画でした。

【激走!5000キロ】【ガムボールラリー】【チャック・ベイル】【マイケル・サラザン】【ティム・マッキンタイア】【ブラックライダー】【放水路】【出産】
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「メモリークエスト」 高野秀行

2011-08-10 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 このロフティングのドリトル先生シリーズをモチーフにした表紙はなんだ!?というのが手に取った第一の理由。で、高野秀行の著作はけっこう買っているので、そのままレジへ。
 中身を確認したのは家に帰って布団の上で。

 他人はもちろん、自分にとってもたいして大きな意味のない小さな記憶。旅先で出会った人を思い出して「あいつ、どうしてるかな?」と思ってみたり、「あれは何だったんだろう?」とあらためて考えてみたり。
 普通だったらそのまま忘れ去られてしまう、そんな記憶の断片を募集して、本人の代わりに確認して来ましょう!……というのが本書。

 もともと行き当たりばったりの傾向がある上に、依頼の内容が「名前もわからないタイの奥地の村で出会った天才少年はどうしているのか」とか「セーシェル諸島のリゾートでエロ本コレクションを披露したじいさんは何者か」くらいはともかく、「コンゴ虐殺の生き証人となって追われていた運転手の安否」とか「ユーゴ内戦で音信不通になったセルビアからの留学生は元気か」なんて、そりゃあかなりの無理難題。
 それをクリアしたりできなかったりしつつ、タイやミャンマーからサラエボまで訊ねて回った著者の探索記録。
 探偵ナイトスクープのワールドワイド版みたいな気がします。いつだって波瀾万丈。

「政治より経済より重要なのは,かみさんの意向だよな」

【メモリークエスト】【高野秀行】【福住修】【ドラえもんの国】【セクハラ警官】
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「007は二度死ぬ」 ユナイト映画

2011-03-28 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 米ソの宇宙船が相次いで消息を絶った。互いの国の仕業と疑心暗鬼になる米ソの緊張は高まり、世界大戦に突入目前。
 だがイギリス諜報部MI6は、それが日本から打ち上げられた妨害ロケットによるものと察知し、一度は死んだと見せかけたコードネーム007、ジェームズ・ボンドを日本へと送り込んだのだが、そこに待ち受けていたのは宿敵スペクターの首領・ブロフェルドと不思議の国ニッポンであった……。

 今でも新作が登場して派手なアクションを見せてくれる007シリーズですが、これは1967年公開の作品。
 当時は007シリーズといえば大人のためのカッコイイ娯楽映画の代表作。ところが今になってみると、笑いどころ、ツッコミどころ満載のお笑い映画。これをDVDで初めて観たというCくんは「オースティン・パワーズとぜんぜん変わってませんねえ」とひとこと。時の流れって怖いなー。

 なぜか、わざわざ両国国技館で試合前の横綱からエージェントの連絡手段である桟敷のチケットを渡されるボンド。今なお人力車の走る東京の街並はいくら1960年代とはいえあんまりだよw
 さらにおもむろに登場する日本の諜報機関のボス、タイガー田中こと丹波哲郎は東京の地下鉄に専用列車を走らせ、日本人に変装させるといってジェームズ・ボンドは博多華丸みたいになってしまう。姫路城は実は日本の特殊コマンド部隊であるニンジャの養成機関で、ニンジャの修行といってシュリケン投げはともかく居合い切りやカラテとかしているし、最後の最後までツッコミどころ満載で期待を裏切りません……。
 ある意味、間違ったニンジャのイメージが世界に拡散した主要因。まあ、「金粉を全身に塗ると皮膚呼吸できなくなって死ぬ」というウソ知識を広めたシリーズでもあるので、その影響力の大きさを感じ取りましょう。

【007は二度死ぬ】【ショーン・コネリー】【丹波哲郎】【ドナルド・プレザンス】【浜美枝】【若林映子】【海女】【天井から毒】
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「ワイルド7」 望月三起也

2011-02-25 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 私らの世代あたりまでは説明不要のアクション・コミックの金字塔。ひとことでいえば「悪党を(逮捕ではなく)退治する警察の話」。
 初めて読んだのは小学校の1年生くらいの頃。家の改築工事で来ていた職人さんたちが、この第1部総集編を読み捨てていったのを読んだのでした。

 毒をもって毒を制す、悪党をもって悪党を制す。調書捏造とか自白強要が明るみに出ている今のご時世からみれば、とんでもない話ではありますが、裁判で通用する証拠がないために明らかな極悪人をのさばらせておくくらいなら、いっそ消してしまえと言い出したのが、末は警視総監かと将来を嘱望されていた若きエリート草波勝。
 そんな危ないことを言い出して、出世街道から消えてしまった草波が、いつの間にかヤクザやらテロリストやらから手駒に出来そうな悪党を集めてしまい、こっそりワイルド7などという超法規的警察機関を作り出してしまったのでした。
 どいつもこいつも一騎当千の悪党ながら、そのメンバーの階級は(これより上の階級は警視監と警視総監だけという)警視長。全員が白バイ警官ながら、そのバイクはバックもできるし、ロケットランチャーは装備しているし……という言語道断の組織だった……。

 草波司令がいちばんの悪党というのは衆目の一致するところ。採用テストで候補者を殺しまくるし、部下を平気で使い捨てるし、本シリーズ最終回に至っては真夏に雪が降って終わりというひどいエンディング。
 さすが草波
 おれたちにできないことを平然とやってのけるッ
 そこにシビれる!あこがれるゥ!
……って、ところでしょうか。

【ワイルド7】【望月三起也】【少年キング】
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「ターザンと女戦士」 エドガー・ライス・バロウズ

2010-12-10 | 冒険小説・旅行記・秘境探検
 以前は「ターザン」という話は、「狼少年ケン」や「少年ケニア」と同じようなもんだと思ってました。実も蓋もなく言ってしまえば、半裸の男がジャングルで野獣や密猟者と戦う話です。
 ところが、そもそも「少年ケニア」がそういう話ではありませんでした。確かに少年がジャングルを彷徨って猛獣に襲われたりしてますけど、ボスキャラは原爆工場のナチスドイツでした。自分の産まれる前の作品なので、イメージ先行の刷り込みです。もしかしたら「何がステロタイプなのか」という理解そのものが間違っていたのかも知れません。
 ターザンの場合もそれと同じで、確かにステロタイプのイメージである野獣との戦いなんかもあるのだけれど、やはり火星シリーズやペルシダーを書いたバロウズの作品なんだなあと思い知らされるのです。

 今回も、英国貴族グレイストーク卿は“ターザン”としてアフリカの密林を駆けめぐっていますが、それは英国政府の密命でアフリカで政治工作をしているらしい敵性国家の情報を集めるため。そして、そこで出会うのは、白人男性を拉致しては子種とする“白くなりたい”黒人の国。その国の戦士は白人女性と見間違うばかりの女戦士ばかりで、部族を治めているのは巨大な宝石の魔力で人々を操る醜悪な魔術師……。
 ファンタジーですね。そうか。ターザン・ブックスは魔法は有りか。
 今回のヒロイン、女戦士にしてカジ族の女王ゴンファーラがちょっと立ち位置があやふやなのが難点。もうちょっと戦士としての強さとか女王としての高慢さが出ていると、一転してデレたときのギャップに萌えるのに。

【ターザンと女戦士】【エドガー・ライス・バロウズ】【武部本一郎】【カジ族】【ズシ族】【交配】【象牙都市】【大戦前夜】
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