
洋服屋の息子として育ちながら料理人の道を選び、やがて宮内庁に大膳厨司として勤務することとなった著者が、料理の世界に入るまでの思い出、入ってからの苦労を取り混ぜながら、昭和天皇の食事をめぐるあれこれを語った記録。
御所の料理番をした人の本は他にも何冊かありますが、伝わってくることは特別な料理は食べていない、特別な材料も使っていない。公的行事の会食が多いので、プライベートはむしろおでんとかトーストとか普通の食事であることの方が多い。ただ、料理人たちのこだわりが凄すぎるということです。
一流ホテルで通用しているのとは、また一つ上の要求水準があるんですね。野菜を切るときは熱が均等に伝わるよう、幅だけでなく厚さも均等になるように切る。芋の皮を丸くむくときは、まっすぐ転がるようにむく。ご飯のお米も1粒1粒を確認する。調理の段階の1つ1つへのこだわりが半端じゃありません。
そんな中、印象的だったのは「サラダは添え物じゃない、立派な料理なんだ」という中島料理長の言葉。昔読んだ御厨さとみの『裂けた旅券』に、やはり「フランス人は美食家のほこりにかけて、野菜を切っただけのものを料理とは呼ばない」というようなことが書いてありましたっけ。
【昭和天皇のお食事】【昭和天皇 日々の食】【渡辺誠】【文春文庫】【サンドイッチ】【盛りそば】【食卓外交】【プリンスホテル】【大林宣彦】【転校生】