金子達仁 2017年 幻冬舎
ここんとこ複数読んでる“あのころの”格闘技に関する本、一応これで一区切りっつーか、買ったの年明けだけど、読んだの最近。
著者名は『泣き虫』のことでおぼえてたんで、タイトルからしても、高田が中心の本かなって予想はついたが。
高田と、PRIDEを主催したKRSを立ち上げた榊原氏との出会いから、ヒクソン戦までがメイン。
榊原氏は当時、東海テレビの系列の東海テレビ事業というとこの若手社員にすぎなかったんだけど、名古屋で高田と朝まで飲んでたとこで、ヒクソンかタイソンとやって引退したいって高田の言葉を聞いてしまう。
イベントをいろいろ手がけてたけど、自身は格闘技の大物プロデューサーってわけでもなかった若者が、その前にK-1を名古屋に呼んだりって実績もあったりして、本気になって動いた末には、とうとうPRIDE・1を実現させることになるんだが、いま考えるとすごい。
んー、でも、高田に関してはこれまでいろいろ読んだこともあったから、前に読んだ『プロレスが死んだ日。』同様に、ヒクソンのことのほうが面白いと思わされた、改めて今んなってあのときのことを物語にされると。
著者はヒクソンに対して2日間延7時間のインタビューを敢行、ヒクソンは20年経ったけど、榊原に初めて会ったときのことをよくおぼえていたという、いいねえ、そういうの。
あと、ヒクソンはVTJで日本で試合したことがあるんだけど、そのときの周囲の反応から、
>日本の観客が他の国の観客と違っていることを知った。(p.160)
ってことらしいんだが、そういうのもよかったとこだ。VTJに行くのを一族のプロデューサー的なホリオンが反対して、以来関係が決裂、ヒクソンは肉親でもビジネスに関しては信用しないんで、いろんな交渉・契約事には慎重というかシビアになったとか。
ヒクソンの話のなかでは、観衆の前でのデビュー戦となったズールとの試合(これは伝説的だよね、1980年、ヒクソン20歳のとき)について語ってるとこも興味深い。
結果としては2ラウンドでヒクソンが勝つんだが、実は1ラウンド終了時点でヒクソンは「もうやりたくない」と弱音を吐いてたんだそうで。
>「なぜわたしはズールに勝てないと思ったのか。自分の疲れだけにフォーカスしてしまい、相手が見えていなかったからだった。自分が作り上げた恐怖で、自分をダメにしそうになっていたんだ。この試合は、いまでも人生で一番大切なことを教えてくれた試合だったと思ってる」(p.214)
という言葉は重い。だから、その後は精神面のコントロールを重視して、心の鍛錬も極めてくようになった。
対する高田は、スケジュールの調整過程で一度ヒクソン戦はあきらめたりとかってこともあったし、何を練習しても不安だらけで、やりたくない気持ちでリングに上がってしまったんだから、その差は歴然。
ヒクソンは高田に勝った瞬間、セコンド陣などが大喜びしてるのに、笑って喜んだりはしなかったという。
>(略)勝ったのはもちろん嬉しかったけど、歓喜するほどではなかった。なぜならば、明日もまた試合があるかもしれない。ここで歓喜することで生まれるスキが、明日のパフォーマンスに影響するかもしれない。そのせいで命を落とすかもしれない。(p.243-244)
ってのは20年後になって語ったことだから創られてるかもしれないけど、それにしたってカッコいい。残心ってやつですか。
あと、この本のもうひとりの重要人物っつーか、おもしろい存在は、安生。
道場破りに行って返り討ちにあったのは周知のことだが、そのときマスコミ・ファン向けのあおりとして「ヒットマン」と称して出向いてったんだが、これが間違いの始まりで。
平和な日本と違って、ブラジルでは路上で命にかかわる暴力沙汰も起こりうるから、そんなこと名乗ってったら本気で殺意があるんぢゃないかってぐらいの過剰反応を引き起こしていた、ヒクソンも最初からヤル気になっていたと。
そこでヒクソンにボコボコにされてしまったのは、もう済んだことだからいいんだけど、本書のストーリーのなかでは、安生の魂はその日に死んでしまったと、すべてが終わってしまったと。
で、高田・ヒクソン戦のあと、高田が会場を引き上げるときに、詰めかけた報道陣に聞かれる前に、安生は高田に歩み寄って、
>高田さん、終わりって言わないでください。これが始まりだって言ってください。(p.251)
と言ったと。安生にしか言えない、安生以外だったら高田には届かないような言葉。
ここんとこがクライマックスだね、だって、そのアドバイスを受けなかったら、終わったって高田が言っちゃって、その後のPRIDEシリーズは無かったかもしれないんだから。
さっすが、名プロデューサー、比類なき名参謀の安生の面目躍如ってとこか。
ちなみに、どうでもいいってばいいんだけど、本書の扉の次のページんとこに、キャプテンハーロックのキャラの画があって、最初見たとき意味がわかんなかったんだが、本文中にあるように、このヤッタラン副長というのが安生にそっくりだってことらしい。そういや「Thanks for AJ......」って画の下に書いてあった。
ここんとこ複数読んでる“あのころの”格闘技に関する本、一応これで一区切りっつーか、買ったの年明けだけど、読んだの最近。
著者名は『泣き虫』のことでおぼえてたんで、タイトルからしても、高田が中心の本かなって予想はついたが。
高田と、PRIDEを主催したKRSを立ち上げた榊原氏との出会いから、ヒクソン戦までがメイン。
榊原氏は当時、東海テレビの系列の東海テレビ事業というとこの若手社員にすぎなかったんだけど、名古屋で高田と朝まで飲んでたとこで、ヒクソンかタイソンとやって引退したいって高田の言葉を聞いてしまう。
イベントをいろいろ手がけてたけど、自身は格闘技の大物プロデューサーってわけでもなかった若者が、その前にK-1を名古屋に呼んだりって実績もあったりして、本気になって動いた末には、とうとうPRIDE・1を実現させることになるんだが、いま考えるとすごい。
んー、でも、高田に関してはこれまでいろいろ読んだこともあったから、前に読んだ『プロレスが死んだ日。』同様に、ヒクソンのことのほうが面白いと思わされた、改めて今んなってあのときのことを物語にされると。
著者はヒクソンに対して2日間延7時間のインタビューを敢行、ヒクソンは20年経ったけど、榊原に初めて会ったときのことをよくおぼえていたという、いいねえ、そういうの。
あと、ヒクソンはVTJで日本で試合したことがあるんだけど、そのときの周囲の反応から、
>日本の観客が他の国の観客と違っていることを知った。(p.160)
ってことらしいんだが、そういうのもよかったとこだ。VTJに行くのを一族のプロデューサー的なホリオンが反対して、以来関係が決裂、ヒクソンは肉親でもビジネスに関しては信用しないんで、いろんな交渉・契約事には慎重というかシビアになったとか。
ヒクソンの話のなかでは、観衆の前でのデビュー戦となったズールとの試合(これは伝説的だよね、1980年、ヒクソン20歳のとき)について語ってるとこも興味深い。
結果としては2ラウンドでヒクソンが勝つんだが、実は1ラウンド終了時点でヒクソンは「もうやりたくない」と弱音を吐いてたんだそうで。
>「なぜわたしはズールに勝てないと思ったのか。自分の疲れだけにフォーカスしてしまい、相手が見えていなかったからだった。自分が作り上げた恐怖で、自分をダメにしそうになっていたんだ。この試合は、いまでも人生で一番大切なことを教えてくれた試合だったと思ってる」(p.214)
という言葉は重い。だから、その後は精神面のコントロールを重視して、心の鍛錬も極めてくようになった。
対する高田は、スケジュールの調整過程で一度ヒクソン戦はあきらめたりとかってこともあったし、何を練習しても不安だらけで、やりたくない気持ちでリングに上がってしまったんだから、その差は歴然。
ヒクソンは高田に勝った瞬間、セコンド陣などが大喜びしてるのに、笑って喜んだりはしなかったという。
>(略)勝ったのはもちろん嬉しかったけど、歓喜するほどではなかった。なぜならば、明日もまた試合があるかもしれない。ここで歓喜することで生まれるスキが、明日のパフォーマンスに影響するかもしれない。そのせいで命を落とすかもしれない。(p.243-244)
ってのは20年後になって語ったことだから創られてるかもしれないけど、それにしたってカッコいい。残心ってやつですか。
あと、この本のもうひとりの重要人物っつーか、おもしろい存在は、安生。
道場破りに行って返り討ちにあったのは周知のことだが、そのときマスコミ・ファン向けのあおりとして「ヒットマン」と称して出向いてったんだが、これが間違いの始まりで。
平和な日本と違って、ブラジルでは路上で命にかかわる暴力沙汰も起こりうるから、そんなこと名乗ってったら本気で殺意があるんぢゃないかってぐらいの過剰反応を引き起こしていた、ヒクソンも最初からヤル気になっていたと。
そこでヒクソンにボコボコにされてしまったのは、もう済んだことだからいいんだけど、本書のストーリーのなかでは、安生の魂はその日に死んでしまったと、すべてが終わってしまったと。
で、高田・ヒクソン戦のあと、高田が会場を引き上げるときに、詰めかけた報道陣に聞かれる前に、安生は高田に歩み寄って、
>高田さん、終わりって言わないでください。これが始まりだって言ってください。(p.251)
と言ったと。安生にしか言えない、安生以外だったら高田には届かないような言葉。
ここんとこがクライマックスだね、だって、そのアドバイスを受けなかったら、終わったって高田が言っちゃって、その後のPRIDEシリーズは無かったかもしれないんだから。
さっすが、名プロデューサー、比類なき名参謀の安生の面目躍如ってとこか。
ちなみに、どうでもいいってばいいんだけど、本書の扉の次のページんとこに、キャプテンハーロックのキャラの画があって、最初見たとき意味がわかんなかったんだが、本文中にあるように、このヤッタラン副長というのが安生にそっくりだってことらしい。そういや「Thanks for AJ......」って画の下に書いてあった。