E・S・ガードナー/福島正実訳 1957年 ハヤカワ・ポケットミステリ版
ちょっとした空いた時間でサラサラと読むのにいい、ペリイ・メイスンシリーズ。
原題「THE CASE OF THE ANGRY MOURNER」は1951年の作品。
よくあるパターンの、冒頭にメイスン事務所を奇妙な依頼人が訪ねてくるとか、調査をしてるうちにメイスンが死体を見つけちゃうとかいう展開ではない、ちょっと変わった構成。
最初は、ふつうの三人称の推理小説っぽく始まり、21歳の娘をもつ母が、帰ってこない娘を心配して夜中に外出すると、殺人事件を見つけてしまうって始まりかたをする。
それで次の章では、被害者の隣の地所の住人が、物音で目を覚まして、その現場を窓から望遠鏡で覗くって展開になる。
どこでどう弁護士が出てくるのかと思うと、そのベア・ヴァレイという町が別荘地みたいなとこで、たまたまメイスンが山小屋に静養にきてたってことになる。
で、最初の発見者である未亡人がその高名を頼って駆け込んでくるんだが、メイスンは早朝に見知らぬ客が騒いできたというのに、殺人事件と聞くと、「弁護士の表情がやわらいだ」とか「メイスンは愛想よく夫人を促した」とかって上機嫌の態度をとる、不謹慎な感じだけど、要するに休暇は退屈でしかたなかっただけなんで、トラブルこそやっぱこの人のビジネスなんである。
事件は、実業家で遊び人の男が、スキーで足ケガしてたんだけど、自分の邸で撃たれてたってことなんだが、依頼人である夫人は自分の娘がやってしまったにちがいないと思い込んでる。
それで、殺人現場の、娘にヤバそうな証拠の隠滅を図ってから通報するとか余計なことをして、しかもそのことを弁護士には黙ってたから、当然あとで窮地におちいって、メイスンからは、馬鹿以外の何物でもないとかキツく言われることになる。
とかなんとかいろいろあるんだけど、本作のテーマはまえがきで著者も書いてるとおり、
>情況証拠というのは、最良の証拠なんだ、だが同時に、非常に誤解され易いものだ。(p.76-77)
とメイスンが劇中でも語るとおりのこととなっている。
あと、どうでもいいけど、裁判のときメイスンが証人に向かって「悲鳴を立てたまえ!」って指さして叫ぶっていう、私があいまいな記憶にもっていた印象的な場面は、本書の予審において行われたものだったっていうのが確認できて、ちょっとスッキリ。