E・S・ガードナー/宇野利泰訳 昭和60年5版 ハヤカワ・ポケットミステリ版
また古いペリイ・メイスンシリーズのつづきを読んだ、なんかブログネタがなくなりそうになると出してくる気もするけど。
原題「THE CASE OF THE STEPDAUGHTER'S SECRET」は1963年の作品、日本語タイトルには「ままむすめ」ってルビがある。
メイスンの依頼人は有力実業家のバンクロフト氏、めずらしいことで、たいがいは若い美女が依頼人なんだけど。
その事業の大きさは、メイスンの秘書デラによれば「支配下にある会社の数は、犬にたかっているノミよりも多いくらい」だという、税金関係だけで弁護士7人使ってるそんな金持ちが刑事事件弁護士に何の用があるのか。
依頼人の話では、彼には隠している過去があり、若いころには自動車泥棒で刑務所入りしたこともあるという。
7年前に結婚した夫人の連れ子の娘は23歳になって、現在名家の子息と婚約中、お約束の若い美人はここにいたわけだ。
娘の様子がおかしいので、留守中に部屋をさがしてみたら、家族の不名誉が明らかにされたくなかったら1500ドル用意しろ、って脅迫状を見つけた。
これは自分の若いころの経歴を知ったものが、自分よりも家族のほうが強請りやすいと狙って送ってきたんぢゃないかと、娘は要求に応じてしまうだろうと。
あくまで自分の過去を家族にも打ち明けるのはいやだし、警察沙汰にして世間に知られるのもいやだしって依頼人に、メイスン弁護士は恐喝者と取引するには四つ方法があると答える。
第一に素直に金を払う、これはきりがない、第二は警察へ届ける、そして相手を罠にかけて捕まえてもらう、第三は恐喝者のほうを勝手なこと言えない立場に追い込む、第四は恐喝者を殺してしまう、これは推薦できませんって一応ちゃんと言うけど。
警察に届けるのがダメってことで、このメイスンに任せるというのなら、第三の方法をとりますよ、多少の危険があっても戦う、ってことで依頼者の了解をとる。
脅迫状のなかみが、紙幣1500ドルと銀貨10個をコーヒー罐に入れて密封して用意しろとあったのと、依頼人が湖畔に別荘を持ってそこに滞在してる状況から、これは金の入った罐を湖面に浮かべさせてそれを回収する作戦だと見抜く。
継娘が金を湖に投げ入れるところを監視しといて、ボート釣りか何かに見せかけた仲間の探偵がそいつを先に拾っちゃう、それで警察に届けちゃえば、犯人は困るだろう、って計画を立てる。
メイスンの見込みどおり、犯人に電話で指示された継娘は湖に罐を投げ入れ、探偵と一緒に水上スキー遊びのふりをした女性がすぐにその場へ行って回収に成功する。
罐を開けると脅迫状と1500ドルが入ってたんで、メイスンは脅迫状の文句を3000ドルに書き換えて、自分の財布から1500ドルを足して計3000ドルにしてしまい、タレント志望の若い美女に、水上スキーやってたらこんなものを拾ったと届けさせろと指示する。
新聞にでかでかと報道されたんで、依頼人は名前は出てないけど湖畔に別荘もってるから詮索されるって怒るんだけど、弁護士から、要求額が最初と変わってるって報道をみて、脅迫者たち内部で仲間割れが起きるだろう、犯人を追い込むのだと説明されると納得して、今後も任せるという。
そのあとにメイスンの事務所には、いよいよかの継娘ロージーナが乗り込んでくる、父が私あての脅迫状を見たこともわかってるし、ここに相談しに来たことも知ってるけど、この件は私が対処するんだから余計なことはしないでちょうだい、とカンカン。
そのまたあとにメイスンの事務所には、ロージーナの母であるバンクロフト夫人がくる、娘の婚約者には素行のよろしくなかった弟がいて、空軍に入って死んだと思われていたが実は名前を変えて生きていて、最近また何か強盗事件に関わっているらしい、この不名誉を伏せておきたかったら1000ドル出せって私は脅迫された、夫がここに相談しに来たことも知ってるけど、余計な大騒ぎを起こしてくれたがために事態が複雑になっちゃった、そういうことを知っといてよ、とこれまた不機嫌。
それを聞いてメイスン弁護士は、依頼人がゆすりのネタを誤解していたことに気づくんだが、翌朝になって依頼人がやってきて、夫人が昨夜脅迫者を殺してしまったという。
所有するヨットのなかで脅迫犯人と出くわして、船が大きく揺れた拍子に、護身用に持っていたピストルの引き金をひいて撃ってしまった、こわくなって船上から海に飛び込んで家まで帰ってきたと。
すぐ警察へ届け出れば正当防衛を主張できたのにとメイスンに言われても、錯乱した状態で警察に行かせたくなかったとか深みにはまるような判断をしてしまった依頼人に、いつものとおりメイスンは、自分には真実をすべて言え、警察や新聞には何にも言うなってアドバイスをする。
誰のどんな質問にも答えないのは心証を悪くするんぢゃないかって心配する依頼人に、「それが正しいことはまちがいない。しかし、論理だけでは、けんかに勝てませんよ」とメイスンは言ってきかせる。
かくしてバンクロフト夫人を被告にした予備審問が始まるんだけど、保安官たち捜査陣がヨットのあったと思われる場所の水中を捜索しなかった手落ちを指摘して、メイスンは逆転をねらう。
しかし、しかるべき時がくるまで被告は何も言いませんって態度を貫いてきといて、明朝まで審理を延期してくれれば、このあと被告は記者会見をします、ってのはシリーズ内でも珍しい荒技だと思う。