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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

21 Lessons

2022-02-13 19:03:21 | 読んだ本

ユヴァル・ノア・ハラリ/柴田裕之訳 二〇二一年 河出文庫版
サブタイトルは、「21世紀の人類のための21の思考」。
ユヴァル・ノア・ハラリについて私は『サピエンス全史』しか読んでなくて、その次のやつ読まなくちゃなとか思ってはいたんだけど、去年の12月だったか、そのまた次の本書が文庫になってんの見つけて、それならとサクッと買った。
単行本が2019年刊行だったというのでずいぶん早い文庫化だと思うが、そういうのはありがたい。
現在の世界の問題にどう立ち向かうかってなかで、おそらく著者の最大の関心事はAI人工知能が発達して利用されてったら、人間どうなっちゃうのってとこらしい。
産業革命のあと労働者階級の搾取が起きたとかってよりも、今後はAIがぜんぶ仕事引き受けたら「無用者階級」が増えちゃうってことのほうが問題大きいんぢゃないかと。
自身の著書の宣伝文をつくるときでも、担当者は人を対象としてなくて、グーグルのアルゴリズムに注目される言葉を選択するようにしてる、なんて経験も明かしてますが。
古代では、土地が重要な資産で、土地を支配するために争った、近代では、機械と工場が重要で、そういう生産手段を支配するために争った、と歴史をひもとき、
>もし、一握りのエリート層の手に富と権力が集中するのを防ぎたいのなら、データの所有権を統制することが肝心だ。(略)二一世紀のもっとも重要な資産はデータで、土地と機械はともにすっかり影が薄くなり、政治はデータの流れを支配するための戦いと化すだろう。(p.138-139)
と説明してくれる、データをもってるのが貴族、データもってないのは庶民、と階級が分かれるってか、ふーむ。
私にとっては政治の話が興味あって、自由主義と民主主義はいいんだけど問題点もいろいろあるんだよって指摘をしてくれてるのがとても刺激的。
イギリスのEU離脱の国民投票について、「どう感じますか」と人々に問うたのであって「どう考えますか」ぢゃないという。
>国民投票や選挙は、人間の合理性にまつわるものではなく、つねに感情にまつわるものだ。もし民主主義が合理的な意思決定に尽きるのなら、すべての人に同じ投票権を与える理由は断じてない。(p.90)
とかって、それ言っちゃいますか、って感じだが真理だ。
人間の意志決定って、合理的な分析なんかぢゃなく、情動と経験則でくだされる、って公共選択とかの数理モデルの講義で意見したら退場を命ぜられちゃうかもしれないが。
べつのとこで、
>合理性だけではなく個人性というのも神話だ。人間はめったに単独では考えない。私たちは集団で考える。(p.350)
ってフレーズもあるんだけど、これも素敵だ、なかなか言えることぢゃない。
でも、現実の目の前の政治についてのアドバイスもあって、
>次の選挙が巡ってきて、政治家が自分に票を入れるように請い求めたら、彼らに次の四つの質問をしてほしい。
>もし当選したら、核戦争の危険を減らすためにどんな行動を取るか?
>気候変動の危険を減らすためにどんな行動を取るか?
>AIや生物工学のような破壊的技術を規制するためにどんな行動を取るか?
>そして最後に、二〇四〇年の世界をどう見ているか? あなたの考えている最悪の筋書きはどんなものか? 最善の筋書きは、どのように思い描いているか?(p.213)
ってことで、この疑問に答えない政治家には投票しちゃダメだという、だいじょうぶかな我が国は、「差し控えさせていただきます」一点張りで逃げそうなひとがいる気がする。
政治だけぢゃなくて、古来から神話とか宗教とか想像上の秩序があってこそ人は社会を作ってこられたってあたりのことは前に読んだ本にもあったと思うけど、
>優れた物語は、私に役割を与えなければならないし、私の視野の外まで延びていかなければならないものの、真実である必要はない。物語は純粋な虚構でありながら、それでも私にアイデンティティを提供し、自分の人生には意味があると感じさせることができる。(p.447-448)
みたいに物語が崩れたら大変って指摘してくれるところが、けっこう印象に残った。
コンテンツは以下のとおり。
I テクノロジー面の難題
 1 幻滅――先送りにされた「歴史の終わり」
 2 雇用――あなたが大人になったときには、仕事がないかもしれない
 3 自由――ビッグデータがあなたを見守っている
 4 平等――データを制する者が未来を制する
II 政治面の難題
 5 コミュニティ――人間には身体がある
 6 文明――世界にはたった一つの文明しかない
 7 ナショナリズム――グローバルな問題はグローバルな答えを必要とする
 8 宗教――今や神は国家に仕える
 9 移民――文化にも良し悪しがあるかもしれない
III 絶望と希望
 10 テロ――パニックを起こすな
 11 戦争――人間の愚かさをけっして過小評価してはならない
 12 謙虚さ――あなたは世界の中心ではない
 13 神――神の名をみだりに唱えてはならない
 14 世俗主義――自らの陰の面を認めよ
IV 真実
 15 無知――あなたは自分で思っているほど多くを知らない
 16 正義――私たちの正義感は時代後れかもしれない
 17 ポスト・トゥルース――いつまでも消えないフェイクニュースもある
 18 SF――未来は映画で目にするものとは違う
V レジリエンス
 19 教育――変化だけが唯一不変
 20 意味――人生は物語ではない
 21 瞑想――ひたすら観察せよ

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