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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

よしきた、ジーヴス

2022-07-13 18:50:38 | 読んだ本

P・G・ウッドハウス/森村たまき訳 2005年 国書刊行会
これは『それゆけ、ジーヴス』といっしょに5月に買った古本。
ジーヴスものって短篇だとばかり思っていたら、これは長篇でした。
原題「Right Ho,Jeeves」は1934年の刊行だという。
いつものとおり「僕」という語り手はバーティーこと、バートラム・ウ-スター、ジーヴスのご主人様。
その他主要登場人物のひとりが、ガッシーことオーガスタス・フィンク・ノトル、バーティーの友人。
ガッシーは田舎にひきこもってイモリを飼ってさえいれば満足だったのに、ひょんなことでマデライン・バセットという女性に惚れてしまったんで、バーティーのとこに相談にくる。
もっとも、困ったときには僕がついてるぞと請け負うバーティーに向かってガッシーは、
>「ありがとう、友だち。それとジーヴスもだ。無論こっちのほうが重要なんだけど」(p.27)
なんて正直に言う、バーティーの友達はいつもみんなこの調子で、ジーヴスは偉大な頭脳の持ち主でバーティーはとるに足らない人物扱いするので、バーティーはいらつく。
しかし、バーティーのほうだって、ジーヴスがガッシーについて報告してきたときに、
>かような記憶の錯乱は、フィンク=ノトル様のような、本質的にいわゆる夢想家タイプに属する方には珍しいことではございません」
>「いわゆるまぬけタイプだな」
>「はい、ご主人様」(p.53)
とかってハッキリ言ったりしてんで、どっちもどっちではある。
それはさておき、今回の事件勃発前には、バーティーの金ボタンのついたメスジャケットって服について、例によってジーヴスが「不適切でございます」とかダメだししたんで、二人のあいだには冷ややかな空気が流れちゃってる。
そういうわけで、カンヌぢゃ最新モードのこの服を認めないジーヴスのことを、ご主人様は彼は不調だと決めつけて、友人の困りごとは自分で解決してやるって意気込む、できっこないのに。
さて、もうひとりの主要登場人物でバーティーの友人なのは、タッピーことヒルデブランド・グロソップ、彼はバーティーの従姉妹のアンジェラと婚約してたんだが、些細な口論から決裂して婚約を解消した。
その事態を聞いて、バーティーはアンジェラの母であるダリア叔母さんのブリンクレイ・コートって屋敷に出かけていく、ガッシーの件といっしょに、こっちの二人の仲も自分が直してやるつもりで。
でも、そんな意気上がるバーティーに対して、ダリア叔母さんは、
>あんたじゃないわ、もちろん。ジーヴスの方よ。(略)この状況は明らかにジーブスを求めてるわ。(p.80)
とか、
>全部彼に任せるつもりよ。ジーヴスみたいな人はいないものね(同)
とか、さらには、
>お願いだからでしゃばらないでちょうだい。あんたは事態をもっと悪くするだけなんだから(p.83)
とバーティーはだめ、頼れるのはジーヴスだけって表明する。
なお、ダリア叔母さんは、自分が理事をつとめる学校で近く夏の表彰式が行われるんで、バーティーにその表彰式をやれって命令する、大勢の生徒を前に何かスピーチして成績優秀者に表彰状みたいのを渡す大役。
そんなのまっぴらごめんなバーティーは、代役にガッシーを推薦してブリンクレイ・コートに客人として送り込む、そこにマデライン嬢が滞在してるんで、作戦は一石二鳥にみえたんだが、後日この表彰式は大変なことになってしまう。
ほかにもダリア叔母さんは、自らが主宰してる雑誌の発行につかうはずの資金を、カンヌ滞在中にカジノで全部スッてしまったんで、夫のトム叔父さんから改めて資金援助を引き出さなくてはならないとか、いろいろ問題を抱えてる。
そういうのを一切合財、ジーヴスぢゃなしに、自分で解決してやろうとバーティーがいろいろ策を練ったものだから、すべては悪い目しか出ない。
そんな甥に向かってダリア叔母さんが言う、
>「アッティラ」やっと彼女は言った。「そういう名前だったわ。フン族の王アッティラ」
>「へっ?」
>「あんたが思い出させてくれたのは誰だったかって考えてたの。破壊と荒廃を振りまいてまわって、そいつが来るまでは幸福で平和だった家をぶち壊して歩くの。アッティラって男よ。驚きだわ」再び僕に見とれながら彼女は言った。「あんたを見たってね、誰だってただの普通の気のいいバカだと思うじゃない――多分、キ印だけど、害はないって。だけどね、本当はあんたは黒死病よりもたちの悪い疫病なのよ。(p.291-292)
って罵倒は最高である、アッティラって誰だか知らないが、なかなか印象に残る。
かくして収拾不能になったブリンクレイに集った不幸な人たちすべてのトラブルを、最後の最後にもちろんジーヴスが解決することになる、それはそれは見事な手並みである。
おもしろいけど、私はどっちかっていうと短篇集のほうが好きかもしれない、短いなかでピシッと技が決まるタイプの話に味の良さがあると思う。

コメント
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